やがて倉庫とは別の、食料庫なる施設が生まれ、ここにペックルの魚を事前に登録して置くとオートでやる気を回復させ始めた。
そして伐採、開拓に割かれたペックル達が敷地を広げて行く。
この頃になるとペックルの数は50匹を超えていた。
能力はまちまちだが、熟練度も上がってきて仕事も速くなりつつある。
そうした安定した供給が完成した頃、サンタ帽子のペックルが言った。
森に巨大な怪物が居て開拓が進まないペン
ディメンションウェーブ第二波-終結-
サンタ帽子ペックルの言葉を聴いて、やって来たのは開拓途中の森。
既に他のペックルは避難して森は静かだ。
そうして何がいるのかを偵察がてら確認すると凶悪な顔をした大きなペンギン。
色は紫。フリッパーの部分が翼になっており、木の上に止まっている。
あの大きさで良く飛べるなとか、木は折れないのか、とは言わない。
この世界はゲームだからな、そういう超常現象も起こる。
とりあえずあいつを倒すか
久々にケルベロススローターを右手に持って構える。
見た所イベントモンスターっぽいし、そんなに強くはないだろう。
クククッ我が楽園を荒らす者には天罰を与えてやる。
そう息巻いた訳だが。
あんなのに勝てっこねぇ!
五分後、俺はモンスターカルマーペングーから命からがら逃げ出していた。
なんだ、あいつ。たった一発で2000もダメージ受けた。
単純なダメージだけならケルベロスにも匹敵しているじゃないか。
そもそも良く考えたら、この島はもう少し後になって来る場所だったな。
ドリルの存在からして、その可能性は十分あったが今まではモンスターがこの島にいなかったので忘れていた。
ぶっちゃけ俺一人であんな奴は倒せない。残念だが俺には無理だ。
硝子が居ればな
俺の中で最強は硝子だ。
今まで隣で何度も強敵と戦ってきて、ほとんど無傷という実績がある。
しかし、いない者を頼ってもしょうがない。
今はまだ無理でもエネルギーを貯めて後々ゴリ押しで倒せば良い。
取り敢えず、しばらくは伐採と建設を繰り返して施設を充実させよう。
断じて負け惜しみではない。
ともかく、森からは出てこない様だしカルマーペングーは放置だ。
覚えていろよ。いつか絶対腹を割いて素材にして食ってやる。
仕方が無いので今まで開拓に回していたペックルを別作業に回す。
とは言っても最近は命令を出しているだけで、特に何かをする訳ではない。
しかし餌の消費に問題がある。
50匹以上いるからな。一応はペックル自身にも漁業を任せているが、さすがに50匹分の食料を確保するには至っていない。
そういう訳で俺はここ最近釣り生活を営んでいる。
偶にペックルが釣れるからな。
釣りそれは俺のソウルライフ
もはや、言い訳のセリフになっている気もするが、良いんだ。
代わりに肉や木の実、野菜、卵、牛や羊などのミルクなどは俺が没収している。
こいつ等、魚貝類しか食べないし。
尚、ペックルの消費量が多過ぎてイカは随分前に底を尽いた。
この生活を潤滑に回すにはどうしても俺が釣りをしなくてはならない。
ははっ! 最高だ。
こんな生活もあって釣竿のレベルは7になっていた。
俺がカルミラ島に来てから釣り場にしているのは岩礁だ。
竿を海に垂らして、引きが来るまでのんびりと待つ。
ちなみに釣れる魚は。
メバル、カサゴ、アイナメ、クエ。
これ等の魚が釣れる。
どれも現実ではあまり食べた事が無いのだが、白身の魚が多い。
食べたら味が良かったので、毎朝ペックル用以外にも残す程だ。
クエに至っては見た目の割に凄く美味しかった。
現実では知らないが、この味が本物なら帰ったら食べてみても良い。
ぶっちゃけクエだけはペックルにあげたくない位味が良い。
正直、個人的にマグロより美味いと思う。
あんまり名前を聞いた事が無い魚だけど、今度調べてみよう。
あ~クエ、釣れないかな~
クエの事を考えていたら食べたくなってきた。
刺身にするか、鍋にするか。
この二つが一番美味しかったので基本二択にしている。
ペックル畑やペックル牧場から取れた食材を合わせると尚良い。
問題をあげるとすればクエは難易度が高く、フィッシングマスタリーを重点的に上げている俺ですら逃がす事がある。
例えが難しいがぬしでも釣るみたいに難易度が高い。
ぬしとは違って引っ張る力は重くないが、タイミングが厳しい。
だから、最初の内は十匹に一匹しか釣れない程だった。
海は風が強い日も多いのだが、突然強風がやってきた。
そこまで酷い物ではないが、ちょっと懐かしい。
ディメンションウェーブを初めて体験した時なんか酷かったからな。
そういえば硝子達は今頃何をしているんだろうか。
あれから随分経つが一向に来る気配がない。
カルミラ島での生活は一日一日忙しいので忘れていたが、気になるな。
ふと視線を海から空に変えると東の空が赤い。以前、皆と一緒に戦ったディメンションウェーブと同じくワインレッドに染まっている。
そういえば生活に追われていて忘れていたが、そろそろゲームが始まって二ヶ月目だ。
あれはもしや、ディメンションウェーブ第二波じゃないか?
なんだかんだでディメンションウェーブ第一波は楽しかった。
多少エネルギーを失うという問題もあったがエネルギーブレイドを手に入れるなど報酬も大きかったし、第二波も参加を決めていたのだが。
参加できない?
そんなバカな。
いや、ゲーム会社的には現在俺がここにいる事の方が問題なのかもしれない。
カルマーペングーの強さから適正じゃないのは間違いない。
自業自得とはいえ、不参加とは。
出せええええぇぇぇぇ! 俺は参加するんだー!
俺は海に向かって吠えた。
イベント中なら出られるかも、と淡い期待をしたが木の船でも相変わらずだった。
そうして諦めて砂浜で波の方を眺めながら体育座りをしているとサンタ帽子のペックルがやって来て言った。
大分開拓も進んできているペン
誰か会いたい人はいるペン?
そうだな硝子に会いたいな
その人の名前は硝子』で良いんだペン?
なんかペックルが不自然なセリフを吐いている。
何故サポートキャラクターが硝子の名前を聞きたがる。
教えてみるか。
函庭硝子って名前だ
詳しい文字を教えてほしいペン
そういうとペックルはシステムウィンドウを表示させて文字の入力画面を出した。
俺は一時の期待を込めて函庭硝子』と入力する。
わかったペン。会える事を祈っているペン
サンタ帽子のペックルはそう言うと踵を返して仕事に戻って行った。
良く分からないが、どちらにしても俺はディメンシュンウェーブ第二波に参加できそうにない。
結局、その日はペックル用の餌と俺用のクエを釣っていると陽が沈んで行った。
磯女が来る日
浜辺に何か流れ着いているペン
翌朝の早朝、ペックルが俺を起こして言った。
いや、まあフラグがあれだけあったので気付いてはいたが、まだ眠い。
最近はほとんどの業務をペックルに任せて釣り生活していたので少々自堕落な生活をしていた。特に昨日はディメンションウェーブに参加できないという事で釣りしまくったしな。
そうこう思考しながら俺が最初に流れ着いた浜辺にやってきた。
そこには垂直にうつ伏せで倒れている人の姿があった。
やべぇ、なんだこの倒れ方
ご丁寧に手が起立状態で完全に垂直だ。エンピツみたい。
なんか面白いからスクリーンショットを撮っておこう。
俺は両手でカメラのポーズを取るとその人物を撮影して何枚か撮った。
もっと近付けないかな?
近付いてアップの写真を撮る。
というか、このポーズじゃ砂とか海水で窒息するんじゃないか?
ゲームだから大丈夫なのかもしれないけど。
よし、もう一枚。
しかし近付いた瞬間、足をつかまれた。
ひぃっ! 磯女!?
誰が磯女ですか! って絆さん?
俺の足をつかんで磯女と化した硝子が戸惑いの言葉を漏らした。
つまり、昨日のペックルは仲間を呼び寄せる為のフラグか。
絆さん! 今まで一体何をしていたんですか! 心配したんですからね
そう呟きながら俺の小さな身体を抱きしめる硝子。
今まで硝子達が何をしていたのか俺に解らない様に、硝子達もまた、俺が何をしていたのか知り得なかった、という事なのだろう。
それにしても漂流してから随分と硝子の声を聞いていなかったが、妙に落ち着くな。
なんでだろう。いや、まあ硝子は頼りになるし、信頼できる奴なのは事実だが。
何をしていたと言われると微妙に答えに臆するが、率直に開拓をしていた
開拓、ですか?
ああ、島から出られないんだ
俺はこれまでの経緯を長々と語る。
漂流して一週間、皆を待ち続けた事、島から出られない事、開拓者の七つ道具を使って開拓を始めた事、ペックルというサポートキャラクターと開拓をしていた事、開拓が進んで比較的に生活が安定してきた事、昨日ペックルが硝子の名前を聞いてきた事。
これ等の話を続け様に話す。二週間近くを事実上一人で生活していた為、口数が増えたが、硝子は真剣に聞いてくれた。
そうですか、そんな事が絆さん
がんばりましたね
ありがとう
がんばったか、がんばってないかと言われれば、自分でもがんばったと思っている。
ペックルがいたけど、やはりNPCだ。一人で過ごすのはやっぱり寂しかった。
寂しさをごまかす様に開拓に身を投じて忙しい日々に意識を遠ざけたのも事実だ。
開拓系のゲームが特別好きだったのが救いだが、それでも硝子と会えて嬉しい。
硝子達の方は今まで何をしていたんだ?
はい。私達はあれから第一都市で目覚めたのですが
幽霊船の戦いの後、硝子達は全員が無傷で第一都市ルロロナの砂浜に流れ着いたらしい。
よかった。実は硝子と闇影のエネルギーダメージが無いか心配していた。
最悪、現在の俺の様に全員がバラバラになっていた可能性も危惧していたが、幸いそういった事はなかったみたいだ。
それから硝子は皆と直に再会した訳だが、俺と連絡が取れない事に気付いた。
チャットを送っても。
現在相手の電源が切れているか、電波の届かない所にいます』
と、ご丁寧に俺が硝子達に送ったチャットと別ヴァージョンが表示されたらしい。
おかしなチャットの言葉もそうだが、不可解な状況に硝子は皆と俺の探索に乗り出してくれたそうなのだが、尽く消息は掴めず、無駄に時間を浪費していく。
硝子曰く場所が海だっただけに、アルトが何かのイベントに巻き込まれているんじゃないか、と真相に近い憶測を提示して、海などを探索したが結果は今を見ればわかる。
そんな感じで経験値と過ぎて行く時間だけが肥大していった頃ディメンションウェーブ第二波が発生した。
ちょっとした焦りが硝子の心を支配した頃、宿の自室に突如巨大な手の形をした海水が現れ必死の攻防も虚しく、気が付いたらここにいたという。
なるほど、俺も第二波は見えたけど、このタイミングで呼んで悪かったな
いえ、絆さんが無事ならそれだけで良いのです
だけど第二波で硝子がいないのは結構な損失だろう。一波的な意味で
問題ありません。最初から参加するつもりはなかったのですから
それはどういう
硝子は瞳を閉じて大事そうにアイテム欄から俺が貸したエネルギーブレイドの柄を握っていた。そうして俺にエネルギーブレイドを手渡すと話を再開する。
絆さんに、これを返したかったんです
硝子は相変わらずだな
はい! 私はそうそう変わりません
何にしても元気そうでなによりだ。
カルミラ島に来てから皆の事だけは心残りだった。
船上戦闘スキルを未取得に回した俺的にどうなのかは知らないが。
それで、どうしてディメンションウェーブに参加しないんだ?
もう絆さんは、私に言わせるんですか?
? まあ言いたくないなら、それで良いけど
取り敢えず硝子だけとはいえ合流を果たせたのだから良いとするか。
ともかく再会祝いだ。昨日手に入れたクエを朝食にして祝いの席を築こう。硝子を連れて俺が寝泊りをしている拠点へと急ぐ。途中硝子がペックルの集団を見て身構えた。
化け物!
扇子二つを腰帯から瞬間的に取り出し、距離を取る。
しゃべりました!
やべぇ、反応が俺と同じだ。
まあ普通にペックル(笑)とかモンスターにしか見えないよな。
そもそも頭の悪い語尾に数だけが取り得のペックルだからな。
えっと、こいつ等がさっき説明したサポートキャラだ
そ、そうなのですか。沢山いるので驚きました
良く考えれば俺は見慣れたがこの光景は異質だよな。
立場が同じなら硝子と同じ反応をしていた自信がある。
でも凄いですね。この島では建物に巨大なペンギンがいるんですね