ですから、あの魚の印が付いている建物に巨大な紫色のペンギンが
指を向けた方向を眺める。
そこにはペックルの食料が保存されている施設、食料庫がある。
硝子の話通り魚のマークをしており、あそこに魚を入れておくとオートでペックル達がやる気を回復させる施設なのだが。
施設が襲われているペン
サンタ帽子そんな冷静に言われてもな
ペックルのリーダー的存在、サンタ帽子ペックルが淡々と言った。
個人的にはもう少し慌てて報告してほしかった。
しかしカルマーペングーは森から一歩も出てこなかったはずなんだが。
すると珍絶景でも眺める様な硝子に視線がいく。
島に存在するプレイヤーの人数が増えたから?
ゲームではよくある事だが、参加人数が増えると難易度も上昇するという事があるんだが、もしかしたら今回のカルマーペングーはそれに該当するかもしれない。
と、ともかく今は硝子先生がいるからな。あのデブ、絶対食ってやる
先生? なんですか、その悪意の篭った表現は
俺の中で硝子は先生なんだよ
今度追求しますからね
と、ともかくアレを倒してくれないか? 俺一人じゃ厳しくてな
わかりました。絆さんといると、変わった事ばかり起こりますね
そう言って楽しげに微笑んだ硝子。
別に好き好んであんなのと遭遇している訳ではないんだが。
ともあれ俺達は食料庫まで走り、襲撃しているカルマーペングーに戦いを挑んだ。
ここまでの道で扇子を帯から抜いていた硝子は道中スキルをチャージしていた。
和服と扇子が幽霊船の頃より高価な物に変わっており、俺がいない間、色々あった事がうかがえる。先程俺を探す間、経験値が入ったと話していたので強くなったのだろう。
俺の方はカルミラ島で開拓をしていただけなので、何か置いて行かれた様な気がする。
よし、俺も負けていられないな
漂流して伝える事が叶わなかったが、硝子に強くなる方法を教えてもらう予定だった。
俺だってただ島で漂流生活をしていた訳じゃない。立派に生きていたんだ。
エネルギー/138630。
マナ/49070。
スキル/エネルギー生産力ⅩⅣ。
マナ生産力ⅩⅠ。
フィッシングマスタリーⅩ。
解体マスタリーⅦ。
破壊マスタリーⅢ。
ファームマスタリーⅠ。
クッキングマスタリーⅣ。
俺の生活生産系だ。わかっていたけどな。
ともかく俺は硝子から返してもらったエネルギーブレイドとケルベロススローターを握る。やはり俺の臨戦態勢と言えばこの装備だ。
いや、俺はこのままで良いのか?
本当にこの戦い方で硝子に今までがんばったと胸を張って瞳を交わす事ができるのか?
エネルギーブレイドの様な、ゴリ押しで満足して良いのか?
違うだろう。
俺が目指すのはもっと強く、突飛に敵を倒す事だろう。
なんか違う気もするが、俺にはもっと違う戦い方があるはずだ。
そこでアイテム欄に入っている開拓者の七つ道具が目に入った。
こ、これだ!
輪舞三ノ型・霞!
カルマーペングーに霧の様な演出の四段打撃攻撃を硝子が命中させると同時に俺は突撃する。
鋭いモーター音を鳴らしながらカルマーペングーの脇腹をドリルで貫く。
なに、レベル4だ。多少はダメージだって期待できるはず。
それにドリルはまだ事実上未実装装備だぞ。俺の使う装備の中では威力がある。
おお、カルマーピングーが少しひるんだ。
その隙に硝子が二つの扇子を使って、左右上下から攻撃を仕掛ける。以前よりも強くなった硝子の攻撃で後ろずさったカルマーペングーに再度ドリルを当てる。
やや卑怯な気もするが、今までの俺は常に卑怯だった気もするのでコレで良いと思う。
ともあれ、さすがは破壊武器に属する装備だ。
カルマーペングーのフリッパーに螺旋が巻き込まれて羽が抜け落ちる。
ダメージとしては期待して良いのではなかろうか。
簡単に表現するなら、波平おじさんの最後の希望にドリルを巻き込む様な物だ。
そんな感じの嫌がらせでは無く、鋭い攻撃を繰り返すと意外にもあっさりカルマーペングーは大きな断末魔を上げて倒れた。
攻撃は重いのですが、思いのほか行けましたね
そうだな。攻撃を受けなかったのは硝子のおかげだ
なんだかんで俺は横からドリルで攻撃していただけだからな。
硝子はカルマーペングーの攻撃はスレスレの所で避けていた。
俺は避けられないが、一発一発の攻撃が重い代わりにスピードが硝子よりは遅かった。
そういう意味でこの勝利は必然と言える。
さてデブ鳥、解体の時間だ。開拓の邪魔をしたケジメを取ってもらう
鳥系モンスターっぽいので、シルバーガラスキでカルマーペングーを解体する。
鶏肉、羽根、羽、クチバシ、羽毛などが取れた。
そして解体が大体済んだ頃。
ん? なんだ?
カルマーペングーの死体がモゴモゴと動き出した。
え~っと
嫌な沈黙が支配するが、率直に起きた事実だけを口にするならこうだ。
カルマーペングーの体内から3匹のペックルが飛び出してきた。
なんとなく起こりそうだとは思っていたが、ペンギンの腹からペンギンが出てくる光景はちょっとどういえば言いか、シュールだ。
ペックルは頭に兜、インディアンハット、口にスカーフを付けた3匹。他のペックルと違い、兜は剣、インディアンハットは弓、スカーフは短剣を手に持っている。
なんだ、こいつ等。
ペックルはストレスが溜まると不良化しちゃうんだペン
振り返るとサンタ帽子のペックルが説明を始めている。
カルマーペングーはやっぱりペックルの派生だったのか?
というか、不良化って次元じゃないだろ。あれはどちらかと言えば進化だろう。
ペックルカウンターを見てほしいペン
言われて隣にいた硝子とペックルカウンターを見る。
すると今まで存在しなかったストレス』なる項目が追加されていた。
ペックルはストレスが100%になるとカルマーペングーになってしまうペン。これからは気を付けてほしいペン
何が気を付けろだ。そんな物があるなら最初から教えろ。
しかもこれまで昼夜問わず働かせていた影響か、全個体が90%を超えている。
サンタ帽子は特別仕様なのか0%だ。
尚、新たに加わった3匹は低い。暴れた後だからだろうか。
どうしたんですか?
他にも項目が増えている
ペックルの従事できる仕事の中にダンジョン』と採掘』が追加されている。
採掘はわかる。確かヘルメットを付けたペックルがいたのでそれが該当するはず。
ダンジョンは今目の前にいる兜、インディアンハット、スカーフだろう。
ともあれ、ストレスが等しく高いので全員を待機状態に変更した。
一応、ある程度の仕事は完了しているはずだからだ。
明日からはローテーションを組んで仕事をさせれば、やる気とストレスを管理できる。
一応食料庫をカルマーペングーから防衛できたので餌を食べてやる気を回復させた後、この3匹をダンジョンに従事させた。
すると3匹のペックルは山を登って中腹地点にやってきた。
カルマーペングーを倒す前は岩が塞がっていた場所に、丁度ペックルが一匹通れるか通れないか微妙な大きさの、小さな穴があった。
そこに3匹は順番に入っていくと3匹の項目に探索中』と表示された。
良く解らないが、ダンジョンを探索しているみたいだ。
と、ともかく一度家に行こうか。硝子
ともかく、俺はこんな感じで磯女ではなく硝子の活躍によって開拓が進んだ。
師弟関係
では絆さん。どこからでも良いので来てください
俺は現在硝子と対峙していた。
別に喧嘩している訳じゃない。以前心に決めていたプレイヤースキルを学ぶ為だ。
カルミラ島での生活は時間を作ろうと思えば思いの外作れるので、朝昼晩と一日三回手合いを取ってくれる事になっている。
何故一日三回にするのか尋ねた所、戦いに身体を慣らせるのは重要だが、身体だけで動くと後々悪い癖が付いてしまうらしい。
硝子曰く、頭と体が同時に動いて初めて型として成立するそうだ。
頭で考えて、体で実行する。
単純だが難しいこの動作を実現できて初めて硝子の様になれる、という話だ。
思ったんだが、硝子って何かの武術とか現実でやっているよな。絶対。
戦い方ってどんな方法でも良いんだよな?
はい。競技ではないのですから、勝ちさえすれば良いのです
少々暴論だがディメンションウェーブは別に戦い方にルールはない。
ジャンプしても良いし、飛び道具を使っても良い。
俺は取得していないが魔法なんて物もあるのだからルールもへったくれもないよな。
ともかく距離を取っている俺は釣竿を硝子に向ける。
俺の所持する、遠距離武器として機能する装備は釣竿だけだ。
その近付かれるまで釣竿を使うというのはスキル構成からしてありだと思う。
カーブを掛ける形で右側からルアーを投げる。
これによって硝子は糸とルアーという制限を受ける為左から避けるしかなくなる。
もちろんジャンプなどの可能性も考えるが、俺のコントロールはルアーの方向を途中から変えられる。つまり避けられても一度に限り、追撃を掛けられる。
絆さん。自分のいる位置は知っている事を前提に動いてください
ルアーの移動方向が硝子にバレており、ルアーの移動を逆にコントロールされた。
つまり硝子に当てるつもりがこっちに戻ってきた。
それを避けようとするも硝子がルアーと同じ速度で飛んでくる。
判断として釣竿を投げ捨てて開拓者の七つ道具をハンマーに変えて振りかぶる。
その調子です
振りかぶったハンマーをバックステップで避けた硝子が余裕そうに呟く。
勝てるとは思っていないが、せめて一度位は焦らせたい。
ハンマーを避けた硝子は直ぐに攻めてくるだろう。そうなると重いハンマーでは不利だ。
俺はハンマーを直ぐに小箱の状態に戻して、利き手である右手にケルベロススローターを持って構える。
次の瞬間、硝子が突撃して来た所に切り掛かる。
当然二つある扇子の片方で流されるだろう。これも予想済みだ。
左手に握っていた開拓者の七つ道具をドリルに変化させて貫く。
硝子はケルベルススローターとは別の扇子で流す様に受け止めるもガリガリという音が響いて、次の瞬間地面を引きずる様な音と共に硝子が俺の視界から消える。
少し腕を上げましたね。絆さん
左斜め後方から扇子が向けられていた。
要するに負けた。
相手を褒めながら自分が勝つって、微妙に嫌味だぞ
師匠というのは得てしてそういうものですよ
まあ弟子が師匠を簡単に抜くとかマンガだけだよな
そうですね。ですが絆さんは私が教えた通り、頭で考えて体で実行しています。体得できれば私位にはなれると思いますよ
半分はお世辞が入っているんだろうが、そうなると良いな。
ともあれ、現実では体力的に無理だと思うけど、身体の追い付くこの世界でなら考えた通りに動く事が少しずつだができる様になってきた。
そもそも硝子はいつもこんなに集中しながら戦っていたのかって感じだ。
この戦い方、会得できれば凄いとは思うんだが、精神的に疲れる。
まあ疲れない戦いなんて無いとは思うけど、一日三回なら可能だが、俺では常に維持はできそうにない。
絆さんに助言をすると、相手を良く見る事です
見てはいるんだ
はい。ですが見ると言いましても、相手の全てを見るのです
全て?
全てです。爪の先から髪の毛の一本、体内を流れる血液の流れまで見通せれば
見通せれば?
どうなるんでしょうね?
硝子が冗談を言うのは非常に珍しいのでビックリした。
もちろん悪ふざけで言った訳ではありませんよ。私はその領域まで踏み込んではいませんが達人になると、そういう方もいるそうです
どんな人間なのかは理解できないけど、硝子が言うのだから本当にそういう人がいるんだと思う。硝子は嘘とか言った事無いし。
まあ朝の訓練は終了したし、ペックルに指示でも出すか。
ストレスゲージが生まれてから休ませる必要が出てきたので、開拓が停滞気味だ。
しかし一日で蓄積するストレスの量から察するにカルマーペングーを倒すまではどんなに働かせても不良化はしなかったと思う。
おそらく、何かしらの条件を満たすまでロックが掛かっていたのだろう。
条件と言えば。
そういえば俺を探していたって言っていたけど、新大陸とか見付かったか?
いいえ。見付かりませんでした
そうか中々難しいな
いえ、そうではなく。どの方向に船を進めても、ある程度進むと必ず嵐に巻き込まれて、帰らずの海域に辿りつくのです
また迷ったのか?
それも違います。数時間程彷徨うと第一都市近辺の海域に戻ってしまいます
さすがに俺がいない間に対策を取らなかったのは考え難い。