「海賊って人と捕鯨船長って人がいたわ」
他プレイヤーから見たしぇりるの内情予想か。
「……」
なんとなくしぇりるが照れる様に俯いているような気がする。
「実際はどうなのかしら? 絆わかる?」
「海女」
「……そう」
あ、この発音は間違いじゃ無いけど正解じゃないって感じだ。
「絆殿、しぇりる殿は探検家でござるよ。エクスプローラーでござる。船造りも新大陸を目指してでござる」
闇影の言葉にしぇりるは頷く。
そういやしぇりるは新大陸を目指して船造りしてたもんな。
漁師関連で海女と覚えてしまっていた。
「色々と私たちの噂があるのですね」
「ちなみに俺は?」
「萌えるネカマ、絆ちゃんって」
「あー! あー! 聞こえなーい!」
くっそ、奏姉さんの耳にも聞こえてんのかよ。
俺に萌えるとか、これも全て姉さんと紡の所為だろ!
「ま、絆の場合は釣りマスターとか良く言われてたわよ。当然のことながらね」
「前回の波での事が印象的だからでござるな」
「ええ。風の噂で地底湖でおかしいくらい長期滞在する神経をしてるから釣りを誘われても行かないのが身のためだとも噂されて、私に聞いてきた人がいたわよ」
「ど、どう答えたわけ?」
硝子や闇影の目が冷たい気がする。
「そりゃあ、あの子はコレと決めたらとんでもない根気を持ってるからやるでしょって答えといたわよ? 一月は地底湖生活しても不思議じゃないわってね」
「あ、実際は半分ですね」
硝子、ここでホッとするように言ってるけど姉さんには逆効果だから!
「様子見で十五日って所でしょ。波が終わったあとに地底湖で三十日釣りしてなさいって言ったらするでしょ、あなた」
「そ、そこまでやらないよ」
「嘘おっしゃい! あれだけのカニ籠を設置するあなたがしないはず無いわ」
「よく分かってるでござる」
「さすがは姉君という事だね」
闇影とロミナ! 納得しないでくれ!
「ま、釣りなんてあなたみたいな根気が無いと安易に出来る要素じゃないとは思ってるから感心してるわよ」
「ゲームを始めた当初とは全然違う結果になってるのは間違い無いよねー」
「そこそこ強くなったらお兄ちゃんを連れて底上げする手はずだったのに、お兄ちゃんが想像以上の速度で強くお金持ちになっちゃったもんね」
「ヌシニシンを釣って私たちを爆笑させた時が懐かしいわね」
う……随分と前の事を未だに覚えてるのかよ。
「空き缶商法を閃いたのがアンタって聞いたわよ。本当、上手くやったわよね」
「逆にお姉ちゃんを私たちが引き上げる事になっちゃったもんねー」
「うるさいわねー。アンタも絆の所に行くのが早すぎるわよ。もう少しゲーマーとしてのプライドが無いの?」
「勝ち馬に乗るのもゲーマーとして大事な事だよ、お姉ちゃん」
見栄を張らずに面白そうと俺達に合流した紡と、姉としての見栄と信じた方法を突き進んだ奏姉さんの違いか。
おまけの姉妹
「まったく……正直、このゲームは今までのゲームと違う所が多くて経験が役に立たないわよね」
「姉さんは型が決まってから頭角を現すタイプだから出遅れるのも当然かもね」
「効率主義なのよ、私は」
アルトも舌を巻いてたし、姉さんの得意な事は分かるけどさ。
「とは言っても、セオリーが役に立たないし、アップデート頼りに装備を妥協すれば良いって分かったからもう出遅れたりしないわよ。むしろ絆達こそ、アップデートに合わせて行かないと出遅れるわよ」
「俺はともかくみんなが環境に適応するって」
こう……俺はこうと決めた遊びをずっとするタイプな自覚はあるからなー。
「絆さんは私たちと一緒に遊びながらずっと釣りをしていますからね」
「そうでござるな。徹底してるのは間違い無いでござるよ。これからもそのスタイルで良いと思うでござるよ」
「絆くんは変わらないで居た方が良いと私も思うよ」
と、みんなが俺のありのままを受け入れてくれる。
ありがたい状況だ。
願わくば硝子以外も釣りを付き合ってくれたら良いのになー。
「本当、奥が深くて飽きさせないセオリーの通じないゲームよね。定期的にアプデもあるし、セカンドライフプロジェクトとは言ったものよ」
「お兄ちゃんのファンクラブギルドがあるくらいだもんね。本当、面白いよねー」
「面白く無い!」
俺のファンクラブとか訳の分からないギルドを作るのはどうかと思ってんだぞ。
釣りギルドだから黙認しているんだ。
「ファンがいるって大事よ絆」
「そういえばさお姉ちゃん、確かこのゲームに参加するってアイドルが言ってたよね」
「あ、聞いた事があるね」
ここでロミナが紡の話に同意した。
「アイドルに会うためにゲーム参加するんだ! と参加権の競争倍率が跳ね上がったと聞いたよ。私は運良く参加権を購入出来たけど」
「そう言ったアイドルオタクでゲーマーな人がお兄ちゃんに萌えを見いだしたのかもね」
嫌だな……アイツらの事情がそれだったら。
「実はアイドルが絆なんじゃないかって思ってる人居たりして」
「俺のリアルはアイドルじゃないぞ! ちゃんと男だからな! アイドルだけど男って言ってるわけじゃないぞー! それでも本当はアイドルなんだろ? って言ってきたら下ネタを連呼してやるからな!」
思いっきり下ネタを言ってやるぞ! コラァ!
『絆ちゃんが波が起こるフィールド内でリアルアイドルじゃない宣言してるでござる』
『ぶひひ、わかっているでござる。それでも我らは応援してるでござる』
『絆ちゃんの下ネタ連呼、ご褒美でござる』
『是非言ってほしいでござる。ピー音で興奮出来るでござるよ』
『二次元を作っているのはおっさん……コレ、常識』
『美少女は二次元。つまりおっさんは美少女』
『ネカマ最高でござる。おまけの姉妹は良い仕事をしたでござる』
気色悪い俺への萌えを見いだした連中がフィールドチャットで返してきやがった!
しかも尋常じゃない偏見が混じっている。
「誰がおまけよ! 誰が! 私はコレでも学校で美少女姉妹って言われてるのよ!」
奏姉さんがここで噛みついて行った。
まあ本当の話ではあるんだけど、ゲームの中でそんな事言われても信憑性皆無だよな。
『精錬貧乏のブレイブペックルが何か言ってるでござるよ』
『気にするな。アレはポンコツだ』
『そうでござるな』
「気にしなさいよコラァ!」
まったく……真性の連中は恐れを知らない。
姉さんが根に持って今後、ずっと俺が弄られる事になるかもしれなくなったんだぞ。
「拙者……語尾を変えるべきでござるか?」
「あんまり気にするな」
アレと同類と思われたくないのかも知れないが、闇影は女キャラだし大丈夫だろう。
「話は戻るけど幾らゲームでアイドルが参加するからと言って、本人の見分け付くのか? このゲーム、ボイスチェンジャーが完璧だから変えたら分からないだろ?」
「そうなのよねー探してる人って今でも居るのかしら?」
怒るのを切り上げて姉さんが答える。
『探してるでござるが分からないでござるよ。ぐふふ』
『この中でリアルがアイドルの人! 誰か手を上げてあの歌を歌ってくださーい!』
『うほほー!』
フィールドチャットがノリノリになってきたな。
「こんな状況で名乗るアイドルがいたら凄いな……」
とりあえずパーティーチャットを開いてっと。
「で、リアルアイドルって俺達の面子にいる? あ、姉さんと紡は一応本当にリアル美少女扱いではあるぞ」
少なくとも学校では良く言われてた。
俺はその間の地味な長男って扱いだ。
姉や妹萌えに目覚めなかった理由でもある。
アルトをして俺の姉や妹じゃね……って感じだ。
「私は違います。アイドルではないです」
「拙者も違うでござる」
「ノー……」
で、ロミナに尋ねる。
「生憎違うよ」
「これでアルトだったら冗談も良いところだよな」
「今居ないのが悔しいが、アレでアイドルだったら私はそのアイドルがテレビで写っていたらスイッチを切る」
死の商人がアイドルでは無い事を祈るばかりか。
とはいえ、アイドル業界ってキナ臭い話が多いし、あれ位ギラギラしている方が向いている様な気もするんだよな。
まあ少なくとも俺達の中に隠れてゲームに参加したアイドルはいないようだ。
そもそも居たからなんだって話ではあるが。
「さ、波が始まったら無駄口叩いてる暇なんてなくなるわよ。みんな思い思いに戦うのがここのポリシーなんでしょうから、私が合わせて戦いやすくすれば良いだけよ」
と、奏姉さんがやる気を見せたと同時だっただろうか。
今までと同じく黒い次元の亀裂が鈍く発光し始め、イベント開始の合図をする。
『お? 始まった始まったー! おーい! 魔物が出てるぞー!』
フィールドチャットで報告の声が上がる。
『さーて、今回のディメンションウェーブは陸地での戦い。魔王軍侵攻イベントに参加した奴らも不満に思う所があっただろうから、今回はみんな本気で行こうぜ!』
って元気な声が木霊する。
そういや……最初の波と三度目の波で指揮をしていた人のチャットが見えないな。
「さーて……今回の敵はどんなのが出て来るのやら」
出現する敵の姿を確認しようとばかりにフィールドで出現する魔物の姿を見る。
次元ノナーガ……下半身がヘビの人型魔物。
更に次元ノガルーダ……鳥人間みたいな魔物。
更に次元ノジン……ランプの魔人みたいな魔物が姿を現し、その背後に大型魔物として次元ノアイラーヴァタという三つ首のゾウみたいな魔物が現われた。
「なんか人型っぽい魔物が多いラインナップだな」
「だね。ゲームとかでたまに見る魔物だよね」
「そうだな」
「一応統一感があるラインナップね」
姉と妹と一緒に出て来た魔物たちのラインナップへの感想を述べる。
インド神話とかで見る魔物が大半だ。
「お手並み拝見ですね」
「今回も好成績を収めるでござるよー!」
「……いく!」
っとみんなやる気を見せている。
んで、マップを確認っと。
A
B
C
D
E
1 2 3 4 5 6
『報告ーAの2に黒い塔を発見ー大分馴れて来たなー』
『えーっと……今急いでマップの奥を確認中ーたぶん、Bの5か6辺りにそれっぽい影がある』
『Dの3辺りにニョキニョキ生えて来てんなー』
と、戦場チャットで報告が上がってくる。
俺たちの所在地はEの5辺り。ちょっと山岳地帯っぽい場所で地名は……メシャス山脈地帯だったか。
若干勾配があるマップで崖上に上がるのにちょっと回り道とか求められる厄介な場所だ。
ただ騎乗ペットに乗る事で機動性は確保出来るので、ある程度問題は解決できるか。
『んじゃみんな! やっていくぞコラァ!』
『おー!』
『イー!』
『イー!』
『イー!』
『毎回いるけど戦闘員やめろ! 負けたいのかお前等!』
相変わらず自由な戦場チャットをしてるな。
「じゃあ俺達もやって行くとして、どうしたもんかな」
「まずは出てくる魔物がどの程度か、前衛の私と硝子さん、紡で様子を見るわよ! 目的地は一番近いDの3ね」
奏姉さんがここで拳を振り上げて宣言する。
バラバラに行動するのは後回しって感じか。
ちなみに当然のことながら俺はペックルを何匹も連れている。
船に乗っている訳じゃないのでペックル達の頭装備は個性豊かだ。
お兄さん
「わかりました。手始めに行きましょう」
「やってみよー!」
っと姉さんを先頭に硝子と紡が近くの魔物の群れ目掛けて突撃する。
「……私は別に準備する」
しぇりるはここで何やらやりたい事があるらしくガチャガチャと屈んで何かをし始めた。
「絆と闇影ちゃんも準備なさい」
「はいはい」
「やるでござるな。パーティーでの連携の見せ所でござる!」
俺は冷凍包丁を取り出してブラッドフラワーのチャージを行い、闇影が魔法の準備を始める。
「ほらほら! ヘイトコール!」
ふわっとなんか風の竜巻みたいなエフェクトが奏姉さんが指さした魔物の群れを中心に発生する。
すると魔物たちがこちらに顔を向けて駆けだしてきた。
魔物を引き寄せるスキルなんだろうな。
「打ち合わせ通りに行くわよ! シールドディフェンス!」
姉さんが盾を構えて掛け声を発すると姉さんに透明な盾のエフェクトが発生、次元ノナーガと次元ノガルーダが姉さんに向かって各々武器で切りかかってくる。
ガツン! って音と共に姉さんは魔物の攻撃を受け止めていた。
流れるように次元ノジンも炎の魔法を放って来て姉さんに着弾する。
大丈夫か? っと思ったけど姉さんはピンピンしているようだ。