でさ、もう水晶湖生活も13日目か。相変わらずヌシが引っかからないなぁ。
まあ本命はウサウニー達を確実に活動させるための野菜の調達だから目的は十分かな?
カブは十分確保出来たし人参とかジャガイモもさ。
まー……今後の食事の確保を考えると枝豆と大豆辺りは楽な作物だね。
で、こんな長く付き合ってくれる二人には驚きだよ。
あの硝子だって15日の釣り生活には付き合ってくれなかったのになー。
今回のダンジョン生活で二人の事を大分分かったし楽しく過ごせたと思う。
交換日記も楽しかったし、この場を借りてお礼を言っておこうかな。ありがとう。
俺は二人が本当は引きこもりでニートの子供部屋おじさんのネカマだったとしても嬉しいよ。
「誰が子供部屋おじさんじゃ! 最後のは余計じゃろ!」
14日目、顔文字さんが米の収穫を終え、交換日記を開いて読み始めた所で叫んだ。
肺魚
「ちょっとどうしたのノジャちゃん!?」
てりすも驚いたのか顔文字さんに尋ねる。
「どうしたもこうしたもないのじゃ!」
顔文字さんが日記をてりすに渡して読ませる。
するとてりすも眉を寄せた。
「絆ちゃんひどーい。てりす、リアルがどんなのか話したじゃなーい」
「そこはこう、あくまで自己申告だし」
「らるくの話とかどうするのよ。てりすの彼氏よ」
「口裏を合せている可能性は捨てきれないでしょ。逆にらるくが女かもしれない感じで」
するとてりすが口に手を当てて吹いた。
「ぷっ! らるくがリアル女とかないない! 絆ちゃんも面白い考察するじゃないのー」
「何処までも徹底しておる……そもそもなんで子供部屋おじさんなどとわらわ達を思っておるのじゃ?」
顔文字さんが日記を指さして抗議するので事情を説明しなければならないようだ。
「そりゃあネトゲあるある的な感じでさ。可愛い女の子アバターで第二の人生楽しみたい的な発想?」
「……お主もしや出会う人全てをそんな風に接しておるのではあるまいな?」
え? うーん……まあ、姉さんと紡以外は割とその可能性を視野に入れて接しているとは思う。
おそらく違うだろうなってのは硝子と闇影辺りかな?
というか、みんなで楽しくゲームをするのは良いんだけど、出会いを求めている訳じゃないんだよ。
「その表情は確定じゃな。お主、自身の格好からみんなそうじゃと思うのは大間違いじゃぞ」
「いや、俺のこの姿は姉さんと妹の所為だし……本当は屈強な男アバター予定だったんだよ」
「それにしたってわらわ達を子供部屋おじさんと仮定して接するのはどうなんじゃ?」
「まあこの場にいる全員が実は子供部屋おじさんだったりする可能性もあるが……」
そういう展開も割とリアルにありそうだよな。
俺は子供部屋おじさんではないが、まあ二人に証明する手段はないしさ。
「なんじゃその地獄の様な絵面は……」
確かに。
傍から見たら結構笑えるが事実だったら地獄だ。
う~ん、中々面白い展開になったなぁ。
内心ちょっと笑っていたら手元が狂ってフィーバールアーが収穫後の田んぼの水路へと落ちてしまった。
「なんていうのかしらね……絆ちゃんって、こう……ずっと黙々と釣りをしつつ畑に関する助言をする所とか、今回の強化合宿も含めて思うけど、仙人みたいよね」
「じゃな……中身男という割には随分と枯れておる。初めて見るタイプじゃ」
「ノジャちゃんもあんまり騒ぐと子供部屋おじさんになっちゃうけど実際どうなの?」
「わ、わらわはリアルを話す訳にはいかんのじゃ。けど子供部屋でもおじさんでもないのじゃ」
色々と込み合ってるな。大変そうだ。
ヒョイっと引き上げようとした所でガクーン! っと今までで一番強い引きを確認した。
「お!」
ぐいっと竿を上げるとメチャクチャしなった。
この手応えは間違い無くヌシだ!
幾ら釣ろうと水晶湖に釣り竿を垂らしていてもヌシがいる場所に入らなければ意味が無いって事か!?
こんな水田跡に潜んでるなんて思うはずもない!
バシャバシャとヌシが田んぼの跡で抵抗を見せる。
「なんじゃ?」
「大物が引っかかった。この手応えはヌシだと思う」
「ほう……上手く釣り上げられそうかの」
「それはまだわかんない」
「きゃー! 白熱したバトルかしら? 白鯨を釣ったって話だったわよね絆ちゃん。生絆ちゃんのヌシ釣りよー!」
てりすがキャピキャピって騒いでる。そっちに意識を向けすぎると負けそうなんで後回しにしよう。
ギリギリとリールを巻きつつヌシらしき奴が行きたい方向とは逆に竿を振って戦う。
泥の中を泳ぐヌシらしき奴の引きの強さは驚きだ。
こんな場所に潜んでるヌシってのは一体どんな奴なんだと疑問は湧いてくる。
ヌシらしく、針と糸に攻撃をしているのが分かるし妙にヌルッとする奇妙な感覚で動き回っている。
だが俺の今の装備を侮るなよ。
俺が今装備しているのは蒼海の狩猟具にセットした武奈伎骨の釣り竿だぞ。
引きの強さ的にカルミラ島のシーラカンス・ラティメリアと似た相手だと判断出来る。
ならば俺に負ける道理はない!
モーターリールと電気ショックを発動させて引き上げる。
ブシャッと抵抗とばかりに泥から跳ねて姿を見せるが泥を纏ってパッと判断出来ない。
「なんじゃろうな?」
「泥臭そうねー」
「釣ったらボス戦闘とかあるのかのう?」
「釣って戦闘に――なったのは河童とかだけど、違うと――思う」
地味に抵抗するぞこのヌシ。ええい! 大人しくしろ!
直接攻撃する程じゃないけど抵抗しやがる。
「河童って……何処で釣ったんじゃ……又聞きで河童装備を聞いたが」
「サラッと当たり前のように絆ちゃん言うわね。てりす、そっちの方が気になるわ」
よーし、一気に畳みかけるぞ!
「フィッシュー!」
ぐもも……と、泥から引き寄せて出すと……そこから顔を出したのはヌシ肺魚プロトプテルス・エチオピクスと名前が記されて居た。
大きさが2.5メートルもあるヌシだった。
他の肺魚が50センチ前後だったので大きすぎ、というか別種だなコイツ。
「でっか! 暴れてた魚影よりもでっか!」
「魔物と見ても良いくらいの大きさじゃな」
「よーし、釣ることができたぞー」
これで俺の目的の一つは完遂したようなもんだ。
まさか田んぼの方に潜んでいたとはな。
しかし……幾ら肺魚と言っても泥の中だけに生息している訳でもあるまい。
「泥の中にとか……どんな配置をしたんだと疑問に思うが……もしや農業を設定されたプラド砂漠補正という事か?」
正しいか分からないけど畑や水田に釣り竿を垂らすと釣れるものなんかも出て来るのかもしれないという可能性が出てきたぞ。
水田は……釣れる可能性はあるからなー……水場だし。
何にしても水晶湖の水田に隠れてたって事だからこんなに時間が掛かったんだな。
「肺魚って確か夏眠する魚でしょー乾期でも平気って奴ー」
「その辺りの再現って事なのか? でも水晶湖の設定温度は春なんだが……」
「この魚ーなんかよく見るとラブリーな顔してるーキモカワって感じねー」
キャッとてりすがヌシの顔を指さして言ってるけどサイズが大きくて不気味って感じだぞ。
「中々のファイトじゃったな」
「んー……カルミラ島で釣ったシーラカンスと同じくらいだったかな」
実際、そこまでの強さじゃない。
釣り具が相当強力だったから糸が切れる危険とか無く、かなりごり押し気味に釣り上げられた。
顔文字さんの仲間が絶望したダンジョンの魔物の強さと同じ感じと言うのかな? 据え置きというか毛が生えた程度って奴は間違い無いだろう。
この場所に隔離されたまま新しい狩場に行けないのは確かにちょっと辛いかもしれない。
俺もまだ見ぬ魚を沢山釣りたいからなー。
「さすがに鍵とかは付いてないか」
「確か島主の時はブレイブペックルの部屋に入れる鍵が付いておったんじゃったか」
「顔文字さんは地面掘ったら出てきたんでしょ?」
楽に手に入ってちょっと羨ましい。
この辺りの難易度が軽いのか、運の判定か何かがあるのかはわからん。
「そうじゃな」
魚拓をしっかりととってーっと。
「らるくに見せてあげたいけどどうしようかしら?」
「さすがに持ち運ぶのは骨が折れるし、この開拓地から出て島の水族館に行けばヌシは登録されて見れるから後で良いんじゃ無いかな」
「そっかー後でてりすがらるくに教えてあげないとね」
「水族館。デートじゃな!」
おーらるくとてりすはリアルカップルらしいからそこはデートって事になるのか。
ヒューヒュー。
「えー……てりすデートするなら水族館より博物館が良いわー鉱石とか原石とか置いてある所が良いー魚見てもどう調理するかしか考えないもん」
わー、てりすに水族館はロマンがないのかー。
俺は水族館に行くとどう釣るか考えるのになー。
何にしてもプラド砂漠のヌシは俺が最初に釣ったぜ!
「じゃあさっそく解体と行きますかー」
と、解体して出てきたのは古代魚系の素材……やっぱりシーラカンス枠だなー。
少し型落ちで残念。
蕎麦
「さて……素材は手に入ったけど、ロミナに会うまでは倉庫入りかなー……」
「アクセサリーの材料に出来ないかしら?」
「クレイに頼んで薬などの材料になるかもしれんぞ」
「ああ、その辺りで良いか。古代魚素材って化石で代用できるし、必要なものがあったら使ってくれて良いよ」
「島主の装備はヌシ由来が多いと聞くがこのようにして装備を揃えておるのじゃな」
顔文字さんの質問に頷く。
俺の装備って大半が釣って手に入れた素材をロミナに加工して貰ったものだ。
「生憎、武器は難しいが防具の一部はブレイブウサウニーに頼めば作ってもらえるからそっちも確認すると良いかもしれん」
「へーブレイブウサウニーって防具作れるのか」
ブレイブペックルが細工と付与を使えたけどブレイブウサウニーも同様に技能持ちなんだな。
「奴は裁縫ができるぞ。だから服飾系は完備じゃな」
「じゃあ細工の時に一緒に居たらコンボ発生しやすくなるかもね」
確かに、技能的にてりすがやりたがってる細工関連に融通が利きそう。
ブレイブペックルと仲が良いらしいしコンボは発生しやすそうだ。
「難点を言えば作れる防具の種類が服限定でアクセサリーも一部といった所じゃが……しかもワンピース等一部の服ばかりしか作れん」
種類がそこそこ限られてるか、まあ利用しない手は無いかな?
「俺が着てるのはエンシェントドレスだけど何が作れるかね」
「後で確認じゃな」
「その場合、同種の装備だからなー……性能が似たり寄ったりなら誰か他の人に回すのが無難だなー」
誰に装備して貰うのが効率的かね。
「装備効果にフィッシングパワーが付いてるけど基礎性能は高めだったかな」
今だと少し型落ち感は否めないけど強力だ。
バランスアシストとか運動神経系へのサポートもあるし水泳もできる。
「服限定でしょ? となるとノジャちゃんかてりす、クレイさんとミリーさんかしら」
「戦闘で使うのなら被弾しそうな者が使うのが好ましいのう」
硝子が最近、釣竿を武器に使い始めたので選択肢として渡したいけど……仮に硝子が居ても着物を好んで着てるから難しいかな?
らるくと姉さんはー……一応、戦闘時は鎧装備か、姉さんは着ぐるみ着用が一番防御力上がるけどさ。
……ウサウニー着ぐるみとかもいずれはできるのだろうか?
「装備効果だけで見たら実用性は劣るけどな」
「そこは基礎性能で割り切るのも大事じゃぞ。装備に凝り固まるのは限度さえなければいいのじゃ」
お、どこぞの自称前線組とは異なり顔文字さんは結構大らかな認識のようだ。
効率だけが全てじゃない、すべてを楽しむスタンスは好感が持てる。
さすがは本物のトッププレイヤーだった人だ。
「そもそも島主の活躍を考えて装備に拘る次元じゃなかろうて」
「そうねー絆ちゃんの防具、基礎性能結構高いように見えるわよ。被弾を考えるとノジャちゃんかしらね。ヒーラーが倒れると困るでしょ」
「その辺りは相談してからで良いのじゃ」
って形で軽くヌシ素材の使い道を話した後の事。
「島主のわらわたちへの認識はこの際、気にしない事にするとして……明日はどうするかの。収穫も一区切りじゃ」
強化合宿によって作物を確保はある程度出来た。明日は残った作物を収穫するだけだがそれもすぐ終わる。
で、強化合宿の見積もりの最終日で時間が多少余裕がある段階だ。
「そのまま帰るでも良さそうだけど何かあるのかしら?」
「俺は別に帰っても良いと思うけど?」
「せっかくじゃし最下層のボスを倒して帰るのはどうかの? エレベーターで一瞬じゃ」