ぽつりと、それでありながら何か強めの口調でしぇりるが言った。
「……」
「……」
合わせるようにそっと、硝子達全員が顔を逸らした。
……何があった?
闇影はともかくあの紡までもが同じ動きだったぞ。
「闇? どうしたの?」
「どうしたんだい?」
闇影の両親が娘の様子がおかしい事に気付いて語りかける。
「しぇりる殿のやり遂げる意志は絆殿に匹敵するのを知った出来事でござるな」
うーむ……この流れ、ぼろ負けしたしぇりるの因縁の相手だったのは想像に難しく無い。
おそらくスイッチの入ったしぇりるによって火の四天王クリムレッドは串刺しかハチの巣にされたのだろう。
「お? 火って事はアイツか、是非ともあいつの醜態を見てやりてえぜ」
らるくが悪巧みする子供みたいな笑みを浮かべている。
「水、土、火となると残りの四天王はまだって事ね。じゃあてりすの仕返しは先って事になるわねー」
「と言う事は四天王イベントでらるくは火でてりすは風の四天王と戦ったのか」
「ええ、風のクーフィリカって名前だったかしら」
へー……これで再戦ボスは全部揃うと。
魔王との戦いはそれが終わってからなのかな?
「父上達は戦ったでござる?」
「クレイさんが参戦してたら勝ってそうだけどな」
少なくともダインブルグサンドワーム戦を思い出すと顔文字さんを凌駕しかねない指揮能力を所持してるだろう。
この人に任せて置けば大体安定して勝てるって位には能力高いぞ。
闇影の親って改めて考えるとスペック高いな。
「生憎とノジャさん達のギルドの人と拗れ始めた時期でもあってね。後方で物資支給をしていたよ。前に出るのを嫌がられてね」
「なんで?」
「ノジャくんの後任に指揮を私がするのを嫌がられてね……」
「あいつね……本当、見栄しか頭にない奴だったとしか言いようが無いわ」
あ、姉さんが愚痴モードに入ってしまった。
ノジャさんの後任でリーダーをしていたプレイヤーって相当碌でなしだったんだろうなぁ。
ギルド内の立場を維持する為にクレイさんにまで塩対応してたのか。
ミリーさんも同じく待機組って事だったんだろうなぁ。
ロミナと同じく不参加というか物資支給で貢献してたんだな。
第四都市ノースフェラト
「正直さ……そこまで四天王が狩られてると新鮮味無いな。ロミナが買い取りとかしてる物資とかで四天王装備とか揃えてもらえそうだし」
「そうだね。急務で挑まないといけないかどうかは怪しい所ではあるね。もちろん全ての四天王を倒す事で何らかのフラグがありそうではあるけど」
うーん……そりゃあ四天王を一人一人倒して行くのも面白くはあるけど既に他のプレイヤーがやり遂げている点で魅力が薄い。
「ぶっちゃけ後回しにしてダンジョンのマグマに釣り竿を垂らしたいな。四天王は何時でも挑めるし」
「絆さんらしいですね」
「確かに絆殿が居れば正面からでも問題無く勝てる気がするでござる」
「そう……」
「それこそ面白ギミックでコメディチックに倒される四天王を見て笑いましょうって感じだねお兄ちゃん」
なんか四天王達が哀れに感じてきた。
「俺は火のクリムレッドをボコしに行きたいぜ? やられっぱなしってのも悔しいしよ」
「そこは行きたい奴でパーティー組んで行けば良いんじゃ無い? なんだかんだ人は居るし攻略はどっちかというと顔文字さん向けだよ」
その辺りの正当な攻略は俺より顔文字さんの方が向いてる。
「わらわも農業で未知の作物の発見をしたい所なんじゃが……」
「ノジャくんじゃないと見つからない四天王作物とかもあるかも知れないね」
「なるほど、畑にダインブルグ素材を植えて見るのも面白そうなのじゃ。クリムレッドかの……ちょっと興味が湧いてきたのじゃ」
あーなんかそういうのありそうではあるね。
勿体ないと思うかも知れないけど素材買い取りが出来る位には俺達は金を持っているのだ。
何よりクエスト報酬でそこそこダインブルグの素材はある。
実験に植えても問題は無い。
「俺の場合、四天王……アクヴォル辺りは釣り上げてみたいかな」
引っかかりそうで引っかからなかったんだよなー。
「絆殿がとんでもない事をぶっ放してるでござるよ」
「確かに釣れそうなボスですね」
「ファンクラブが居る程のボスだけどね。お兄ちゃんのライバル認識されてるよ」
「あー聞こえない」
なんで俺がアクヴォルと人気で勝負しなくちゃ行けないのだ。
「まあ……ファンクラブの人達がお兄ちゃんが開拓中、アクヴォル様は行くの大変だけど何時でも見る事が出来るから尊さはお兄ちゃんだとか言ってたけどね」
「本当そいつら何なの? 俺の何がそんなに萌えるの?」
本気で理解出来ないんだけど。
俺の何処に萌えを見出してるの? あんまり表には出ない釣りオンリーの釣り人を捕まえてさ。
「心当たりが全く無い。歌って踊ってる訳でも無いのに」
「想像が一人歩きして居るのではないかのう? 得てしてファンというのは本人が何かした訳でもないのにそう動くものじゃ。番組の収録で男性と話しただけで嫉妬して妙な予告を出して捕まるものも居るのじゃ」
隠れアイドルオタクの顔文字さんはその辺り詳しいなー。
「ゲームだから美男美女になりやすい所だと強烈な個性ってのは武器になるもんだぜ? 絆の嬢ちゃんはやるときはやるから人気あるのは分かるぜ」
「前にも似たような話をしたような気がする。な? 闇影」
ここは俺のファンクラブよりも各イベントで毎度上位入賞している且つクレイさん達の件の娘だったという事実から闇影をアイドルに担ぎ上げるのがいい気がしてきた。
「闇影ちゃんファンクラブに改名するように勧めよう」
「絆殿のファンクラブで良いでござるよ! カリスマプレイヤー絆ちゃんが今度はプラド草原を開拓したと言うのがタイムリーなニュースなのでござる!」
「いやいや、超々人気プレイヤー闇影ちゃん、アルトのライバルである大商人クレイさんの娘という情報に比べたら俺なんて小さい小さい。ちゃん付けが嫌なら闇影様ファンクラブでもいいぞ?」
「いやいや――」
っと俺と闇影でアイドル枠の譲り合いと言うなのなすりつけ合いを続ける。
「お二人とも嫌なんですね」
「気持ちは痛いほど分かるのじゃ」
顔文字さんが何故か俺と闇影の立場に関して強く理解を示している。
合わせるようにクレイさんとミリーさんが笑ってるような気がするけど……。
「絆の嬢ちゃん達は見てて面白えからファンの気持ちは分かるぜ」
それは分からないぞ俺は。
「硝子は何かお勧めの場所とか無い?」
「そうですねー……あ、ノースフェラトには絆さんにお勧めな点がありますね」
「なに?」
「鮭とブラックバスが釣れます」
ほほう。
「ここがノースフェラトかー」
そんな訳で俺はノースフェラトへとやってきた。
第四都市ノースフェラト、開拓済みではあるけれど道中は森に囲まれた山奥の都市……小さな町って感じの場所だ。
建物はログハウスで、なんて言うか……キャンプ場みたいな雰囲気があるかな?
こう、海外の映画にあるカントリーな田舎って感じの場所のようだ。
おお……湖まである。
住みやすさで言うと島のカルミラ島、草原のプラドとはまた別の良さがあって人気はありそう。
付いてきたメンバーは硝子、紡、姉さん、闇影、顔文字さん、らるくにてりすだ。
闇影の両親とロミナは商売関係での会議というか友人知人との情報交換をするとの話で別行動となった。しぇりるも何かあるそうでカルミラ島に戻ってしまった。
「ノースフェラトへようこそ! チュチュ!」
で、帽子を被ったリスの妖精……リスーカが都市のNPCとして配置されている。
「アレがリスーカかー……」
「そうそう」
「尻尾がくるっとしてて可愛いわねー」
「そうだな!」
てりすの評価にらるくが同意してる。
わかって言ってるのだろうか?
「このノースフェラトから少し移動した川で鮭が釣れるそうです。湖ではブラックバスが釣れるとの話でしかも定期的に釣り大会が開催されるイベントもありますね」
「おー……カルミラ島じゃ釣り大会なんて無いのになー」
ノースフェラトにはそう言ったイベントもあるのか。
「絆さんが居なくなったすぐ後にスズキを対象にした大会をペックルが開催してましたよ?」
「え? そうなの? なんで俺が居なくなった後にそんなイベントが……」
「アップデートで追加された形なのかと。ただ開催には一定人数のエントリーが必要らしいです」
へー……そんなのがあるのか。
「プラドの方では開けるのかのう?」
「水場少ないし対象の魚が分からないな」
スポーツフィッシング向けの魚、居たっけ? プラドの方で。
さてさて、急遽ノースフェラトにやってきた俺達だけど何もプラドのダンジョンでの釣りを無視した訳では無い。
しっかりとマグマでの釣りを行い、ヌシ釣りに挑戦……したんだけどマグマの中から釣れた魚は魔物枠だった。
ラーヴァガンフィッシュと言うマグマを撃ち出す魔物で釣ると同時に少し浮かんで襲って来た。
まあ……倒せない程の敵じゃ無く装備が潤沢だった俺達からすると雑魚で苦も無く倒せた。
戦う事無く釣れたのも居てロミナに土産に持って行ったら固有武器の素材に使えそうって喜ばれた。
他にもクレイさん達もポーションに使える魚だって説明されたっけ。
ヌシはラーヴァガンフィッシュだった。ヒョイッとあっさり過ぎる感じに釣れてしまって確認しないと気づけなかったくらいだ。
釣るための準備が大変故に難易度が軽めに設定してあったのかも知れない。
拍子抜けで虚しかった……ただ、何か他にもいるような気がする。
まだプラド草原のダンジョンに潜って居るプレイヤーは少ないので早い内にもう一度トライして探してみようと思う。
「そんじゃクエスト探してくるぜ! 絆の嬢ちゃんも何か見つけたら連絡してくれよ」
「じゃあねー絆ちゃん、ノジャちゃんー」
ビシ! っとらるくが俺を指さしてから走って行ってしまった。
「らるく達は落ち着きが無いなー」
「隔離されていたのですからしょうがないですよ。絆さんはさっそく釣りに挑戦ですか?」
「そうしたい所だけどまずは地形の把握をしてからが良いかな」
いきなり水場で釣り糸を垂らしてもね。じっくりと釣りをしたい。
千里の道も一歩から。しかも硝子が釣り上げ済みであるヌシとなるとまだリポップしているかも怪しい。
既に攻略済みの釣り場でも鮭とブラックバスとなると興味も湧くと言うものだ。
ネタネーム
「道中見ておったがここの食料は木の実かのう?」
「らしいですよ」
「へー、リスーカの主食は木の実なのか」
想像通りではある気がする。
「島主よ。リスーカはウサウニーと食性が被ると思うのじゃがその辺りの分析はどうなのじゃ?」
「野菜と木の実は似てるけどちょっと毛色が違う所があるからなー。木の実って言い方してるけど果物って言い方の方が違いが分かるかも?」
「なるほどなのじゃ。野菜と果物の違いじゃな」
ウサウニーは野菜を食べてリスーカは木の実……ある程度互換は効きそうではある。
「ちなみに島主は果物の育て方も知っておるのかのう?」
「一応、俺のやっていたゲームと農家の人にそこそこ教えて貰えはしたかな」
「それは頼もしい限りじゃ。プラドでは何故か果樹は調達出来なかったから挑戦したい所じゃな」
プラドは草原になった影響か畑にも色々と変化が起こっていたっけ。
温度の変化が大分大きくなって地上でも植えることが出来る作物が増えた。
顔文字さんは果樹にも興味があるのか……農業が本当にやりたい事だったんだなー。
蛇足ではあるがウサウニーは木の実判定の作物は食べないのもあるのが分かった。
リスーカと被るのを避けているのかも知れない。
それと顔文字さんの調査でウサウニーは固体毎に好みの作物が違うと言う話だ。
ブレイブウサウニーはさつま芋が好物らしい。バータはリーダーである故に好物無しだとか。
人参系とキャベツとレタスが好きなウサウニーが多いそうだ。
ペックルもそう言った要素があるんじゃないかって話をしてた。
ただー……クリスもブレイブペックルも好物っぽい魚は見つからないんだよなー……。
調理したアイテムとかでも材料に該当の食材があれば食べてくれるらしいけどそっちにあるのかな?
ブレイブペックルはストレスが溜まりやすいから好物が分かれば運用がしやすそうだけどね。
「折角領地持ちのわらわ達が来たのじゃ。ここの領地持ちに挨拶するのが先決じゃろう」
「そういうもの?」