「近所付き合い感覚で言えば正しいでしょうね」
「領主の場合は競い合うライバルという視点もあるので余り安易に挨拶をすると舐められるという考えもあるでござるな」
硝子は肯定、闇影は否定って意見のようだ。
この辺りは個人で判断が分かれるのかもしれない。
顔文字さんは元々トップギルドのマスターだった訳でコミュ能力は高い。
だからこそ挨拶が基本って考えなんだろう。
思えばプラド草原に呼ばれた人員は人間性が出来ているというか精神年齢高かったもんなー。
一番の年下は俺か顔文字さんって所だろうし……ただ、顔文字さんとクレイさんの話からすると社会人っぽいから顔文字さんも年上とみていい。
ギャグネームを付ける際のテンションは雰囲気的に飲酒して決めた風だったし。
「む……島主、わらわに何か思う所があるのかのう?」
「なんで?」
「いや、島主が考えている雰囲気を察知したのじゃ」
「あ、わかります? こういう時の絆さんって変な行動に出ることがあるので心構えを身に付けてしまいますよね」
硝子、同意しないでくれない?
「逆に凄い事を言うのが分かりやすいので良いでござる」
闇影も同意しない。
「絆にそんな癖あったかしら?」
「あったっけ?」
「奏さん達も同様にありますね。何か悪乗りする際に、短いですがありますよ」
「芸人のノリの時なのじゃ」
いや、俺たち芸人姉妹じゃないんだけど?
ってツッコんだら自爆しそうなので黙って置こう。
「芸人じゃないわよ」
「そうそう! ネタにツッコんでるだけだもん」
「紡は黙ってなさい。絆は空気を読んで黙るのは認めるようなものよ!」
はあ……こんなところでも自爆する姉さんたちに黙とうだ。
認めるもくそも言わなければいいのだ。
沈黙は金、黙っているだけで相手はこちらを理解するのが難しくなる。
闇影ではないが真の忍びは沈黙こそが印象を持たれないものなはず。
釣りをしてるだけで萌えられる俺は一体何者なんだろうか。
俺自身が分からない。
「とりあえず顔文字さんの提案でここの領主に挨拶に行くって事で良いのかな?」
「うむ。タイミングが合えばわらわたちの行きたい所を教えてくれるはずなのじゃ」
「硝子たちも一度ここにきてるらしいけどね」
「ある程度ですけどね。確かに挨拶は必要でしょうか」
「拙者黙ってるでござる」
闇影、別にお前に交渉は任せないだろう。
人見知りするってのは確かなんだよなー……改めて思うと。
などと思いつつノースフェラトの城へと向かう。
カルミラやプラドの城は同盟関係なので簡単に入れるけれど、ノースフェラトは完全に知らない関係なので領主ギルドの許可が無いと入ることはできない。
一応来客用の受付の広間までは入れるけど奥は入れないのだ。
「たのもーなのじゃー!」
顔文字さんが臆せずに受け付けの広間まで来て大声で呼びかけを行う。
「……」
しばらく返事が来るのを待っていたけれど特にこれといった反応は無い。
「人員は出払っているって所かのう?」
「まあ、うちのギルドも顔文字さんの所も似たようなもんだからなー」
城には夜に寝泊りする所で基本は出かけていることが多い。
来客は……うちの場合は今はロミナが担当してたっけ。具体的にはロミナかアルト経由で取引してたり情報交換してる。
顔文字さんの所だとクレイさん達にって事になる。
そう考えると俺たちの来訪ってやり方が間違ってるのか。
「ギルド間でのあいさつは商人経由でした方が早いかも?」
「ふむ……」
「ようこそいらっしゃいましたッチュ。プラドの領主様ッチュ」
あ、受付にいるリスーカがなんか反応してる。
「ノースフェラトのギルド、『昆虫王者インセクトン』へようこそッチュ」
……これはどう反応したら良いんだろう。
すげーギルド名って言えばいいのかな?
「あははは! 凄いギルド名」
「センスが突き抜けてるわ。絆とノジャ子並みの癖の強いギルドマスターみたいね」
「ギルドマスターが犯人なのか。それともメンバーが原因なのかわからないけどちょっと……」
お近づきになるにはネーミングセンスが果てしない。
パチモンっぽい名前なのは元より昆虫って……。
「虫が好きな方という事でしょうかね」
「かもしれない」
「絆さんとはセンスが別ですね。絆さんの場合はカルミラ島フィッシング協会が案でしたので」
「プラド農業組合はまともじゃろ?」
顔文字さんもここで何故自爆へと走るのだろう?
「センスはこっちが突き抜けてるわね」
「でも前に来た時はノースフェラト森林管理組合って名前だった気がするよ? 城の看板で見たよ」
紡の目撃証言か……それなら割と無難な名前な気がする。
忘れがちだけどギルド名って申請すれば変えれるんだよね。
「やはりネタネームで闇影ちゃんと愉快な仲間たちにすべきなのか?」
「しなくて良いでござる! 張り合う必要性を感じないでござるよ!」
「だがなー……次の波とかでここのギルドはライバルになるかもしれないし」
「名前で勝敗が決まったら苦労しないでござるよ!」
うーむ……まあ、この件は保留か。
「個性的な方々が居そうですね」
「逆に名前だけでも個性を出したいかもしれんぞ」
「まあ……顔文字さん程の個性は中々無いもんね」
忘れがちではあるが顔文字さんの名前が俺たちの中で一番突き抜けているのは事実だ。
「くううう……リネームアイテムの実装を待つのじゃ!」
あるあるだね。ゲームとかだと。
名前を再設定できるアイテムなどの話。
「ギルド名は簡単に変えれるのに何でプレイヤー名はいつまでも固定なのじゃー!」
という顔文字さんの魂の叫びがノースフェラトの受付の間に響き渡ったのだった。
バス釣り
「それでお客様、当ギルドに何の御用ッチュ? メッセージを送るっチュ?」
「ギルドマスターが分かればチャットを送る方が早いよね」
「問題は俺や顔文字さんと同じくフレンド以上じゃない相手からのチャットは拒否設定にしてるかもしれないって事かなー」
領地持ちってのはそれだけ妬みなどを受けやすい訳で、カルミラ島が解放された直後は訳の分からない罵倒が書かれたメールが時々送られて来たもんだ。
まあ、このゲームだと新規アカウントとか作れないので匿名でのメッセージは難しい訳だけどね。
それでも妙な妬みがこもった恨み節は来るわけで、そういった面倒な連中に絡まれないように設定してしまうもんだ。
そもそも解放時にデフォルトでメッセージをフレンドまでに指定される。
システムもその辺りは察知してるって事なんだろう。姉さんとはあの時までフレンド設定にしてなかったんだった。
試しに外したら送られてきたわけだし……確か『釣りキチ! 気色悪いんだよネカマ!』とか書かれてたなー。
「留守なようじゃし、島主は乗り気じゃないのなら、あとでわらわが連絡しておくのじゃ」
「あーい。どこかで会えると良いな」
「ギルド名だけで相当個性的な人みたいだし、割とすぐに会えるかもね」
会えてうれしい相手だと良いが……まあ、楽しみにしよう。
という訳でノースフェラトの城から出た広場で周囲を見渡す。
「ではみんなはどうするのじゃ? わらわは新たな作物が無いか市場を見てくるのじゃ」
「言うまでもない。川で鮭、湖でブラックバス釣りに挑戦するに決まってるだろ」
「予想通りの行動でござるな」
「そうですね。では私が川と湖に案内しますね」
硝子の案内で俺は釣りへと向かう事にする。
「私たちはどうしようかしら。この辺りの魔物で手ごろな相手でも探そうかしら? 紡と闇影ちゃん、行くかしら?」
「まーお兄ちゃんが釣ろうとしてる魚周りは硝子さんとお兄ちゃんのファンギルドが既に攻略済みだし、目を離しても良いかも?」
「そうやって油断してると絆殿が変なものを釣ってくるでござるよ」
そこまでじゃない! っとは言い切れないのが辛いな……河童とか予想外な代物が釣れたりするし。
「かといって地道な作業を見てるだけってのもねー何かイベントを見つけたら速攻で連絡しなさいって程度でやりたいことをしていくのが良いんじゃない?」
姉さんはこの辺りの判断力が高くて助かるね。
「それもそうでござるな。色々と手広く探して呪具スキルの媒介を探すでござる。こういった所で見つかる可能性もあるでござる」
「まあ、フラグっぽいものを見つけたら触れずに行けば変なイベントには遭遇しないだろう。ここでらるく辺りがチャットでフラグを立てない限りは」
って所でらるくからチャットが来た。とりあえず出てやろう。
『おーい。嬢ちゃんたちー』
……らるく、タイミングを狙ってるのだろうか?
「噂をすればなんとやらでござる」
『どうした? また変わったイベント見つけたのか?』
「いいや、噂をしてたらチャットが来たって感じ、なんかフラグっぽい情報はノーサンキュー」
ミリーさんが探していた遺跡を俺が思いっきり踏んづけたんだし、妙なフラグは勘弁してくれ。
『んだよ。釣れねえじゃねえか、じゃあ早速フラグを立てるぜ!』
やめろっての! 接待ネトゲじゃないから!
『とは言ってもねーここでの変わったクエストはどうも虫取りのクエストが多いのがメモリアルクエスト一覧で分かるところね』
てりすがチャットに入って来て補足してくれる。
虫取り……。
「ここの領主はどうも虫好きなようじゃ」
『あー……なるほど、絆の嬢ちゃんと似た感じでクエストを発見してるって事か』
「俺と同じってそんな釣りでクエストを見つけたりしてないぞ!」
『結果的に見つけたってのはありそうじゃねえか』
うぐ……否定できない。
俺みたいなやつがいるって事で片づけるしかないのか。
「絆さんが今行くところにそれらしいヒントはありますか?」
『ねえなー森の奥に行って帰ってきた者は~みたいな不穏なヒントはあるけど何処でも見るヒントだし』
ミカカゲの方でもあったなぁ。湿地帯の方で。
『まあ、見つかったら報告するから楽しみにしてくれよ。何かあったら教えてくれよな!』
って感じでらるく達はチャットを終える。
特にこれといった収穫は無いで良さそうかな?
「そんじゃ早速鮭を釣りに行くとしますか」
「いってらっしゃい」
って訳で俺は硝子と二人で釣りへと向かった。
「ええ、こちらですよ。湖から少し離れた所にあるフィールドの川です。魔物も出ますがミカカゲより弱いので絆さんなら楽に倒せるはずです」
ほう……と、ノースフェラトから出て森を道なりに進んで行く。
「ミカカゲの渓流に似た雰囲気の場所だなー」
森の雰囲気がどことなく似ているように感じる。
出てくる魔物は……蜂蜜熊という……なんかハチがブンブンと纏わりついたクマの魔物だ。
なんか甘い匂いがするのと倒すと蜂の巣を落とすっぽい。
解体すると熊の毛皮と蜜の染みついたクマ手という素材が手に入る。
……ハニーハンドって事なのかな?
なんてやっていると川……穏やかな渓流に出る。
ところどころにプレイヤーが居て釣りをしている。
あ……なんか川の中で蜂蜜熊が水面を見てる。
鮭を取ろうとしてる感じな雰囲気だ。
「そうですね。確かによく似てるように感じますね。紅葉もありますし」
「ミカカゲだとなんで鮭が釣れなかったんだろうなー」
「アップデート毎に釣れる魚が増えたりするのでもしかしたら釣れるようになるかもしれませんよ?」
「そうだね」
ダークサーモンとかまさにそれだもんね。
「ちなみに鮭ですが、銛でも捕れるそうですよ。慣れるとそこの蜂蜜熊みたいに飛び上がる直後に武器で弾いて捕れます」
「硝子はできそうだね」
「……」
あれ? なんか硝子がなぜか顔をそらしてる。
なんで?
俺が小首を傾げていると硝子は非常に言いづらそうに苦笑いをする。
「いえー……その、このゲームではなく……修行で食材確保に山でやらされまして」
硝子の実家に関しても色々と気になるところがあるよね。
どうも口調や運動神経からして古風な家って雰囲気があるけど鮭を修行で捕ったって話……普通は無いよね?
それともどこかでは一般的な事なんだろうか?
あんまり踏み込むのは硝子も嫌だろう。
「とにかく、外の世界に出られたんだ! 早速挑戦! 今回はフライフィッシング!」
手元の釣り具で眠らせ気味のフライフィッシング用のルアーでひゅんひゅんと動かしながら適度に水面に落とす。
硝子は少し離れた所で普通にルアーを使って釣りをしているようだ。
釣り糸を垂らしつつ周囲を確認。
「ここのヌシであるヌシサーモンはこの前釣れたばかりです」
「硝子が釣ったのかな?」