と、考えた所でゲームのタイトルにもなっているディメンションウェーブというイベントの事をすっかり忘れていた事を思い出す。

参加するかどうかは決めかねているが、二人はきっと参加するのだろう。

せめて何か援護位したいな。

「お?」

随分と考えに没頭していたのか時間になり、アナウンスと共に液体が注がれてくる。

液体は緑色……では無く、ポットの中にあるライトの色だった。

何かの演出だろうか。どうやら無色の液体みたいだ。

見る見る内に液体が満タンになり、思わず止めていた呼吸が空気の欲しさから本能的に呼吸をする。

驚いた。本当に息が出来る。今まで話半分で半ば疑っていたのだが。

――データを参照しています0%…………100%。

――参照完了。脳波一定プログラムの負荷テストを始めます。

視界に、というか脳に直接映像が流れ込んできた。

現実以上に綺麗な光景が浮かぶ。

ファンタジーの街並みに沢山の人が動き回っている映像だ。

音もしっかり拾っており、近くに見える商人の様な男性が接客をする声まで聞こえて来て、更には雑踏から足音が沢山耳に入ってくる。

普通のVRゲーム機を使ったら一度位ラグが発生するレベルなのだが、驚いた事に乱れ一つ無く、更には解像度も非常に良い。

さすがは専用機材といった所か。

――テストを終了します。全ての手順が終了後、ゲームを起動します。

それにしても耳を介さず脳に直接言葉が送られて来るのはあまり慣れない。

SFの世界にでも入り込んだ様な錯覚を覚えるが現代の科学力は思ったよりも高い。

興奮とでも呼ぶのが適切なのだろうが、妙に落ち着かずキョロキョロと周りを見回していると突然ブツンと視界が途切れた。

「今のは、ちょっと嫌な感覚だな」

ゲームに限らずダイヴ系機械全般に言える事だが、突然視界が消えるのは、テレビの電源を切ったみたいに感じて苦手だ。

まるで今まで暮らしていた場所が現実では無かったみたいな、そんな感覚だ。

――It is blessing to your life!

直訳で『貴方の人生に祝福を』か?

英語はそこまで得意でないので分からん。

そんな事を考えていると俺の意識は少しずつ薄れていった。

読んでいただきありがとうございます。

リハビリ用に書いていた私小説の量が多少出来たので投稿。

ご都合展開などがありますが、良ければよろしくおねがいします。

メインで書いている方の投稿が滞っている理由は、

活動報告に書いておきます。

解体ナイフとボロい竿

――第一都市ルロロナ。

「ん……?」

意識を失っていたのはほんの数秒か。

いや、リアルの時間で換算すると1コンマも眠っていないのだろう。

ゲーム会社の説明を信じるならば、この瞬間からリアルはゲームと全く違う時間を流れている事になる。

説明通り、ゲーム終了まで俺達はこの世界で生きていく事になるって事か。

周囲を見渡すと現実以上の光景が浮かぶ。

白い石畳、遠く見える西洋の城……よく見ると石畳が若干薄汚れている。例えるなら現実感とでも呼べば良いのか。確かにそこに存在している、そんな汚れだ。

辺りからはログインした奴等が俺と同じ様な反応をして、更には声に出して、雑踏街の様な喧騒が起こっている。

VRMMOをプレイした事はあるが、ここまでレベルが高いのは初めてだ。

先程まで考えなかったが、直接サーバーに接続出来るのも理由の一つなのでは無いだろうか。

「さて、感動も程々にゲームでも始め……ん?」

妙に高い声が響いた。

キャラクタークリエイトでは声のタイプまで自由に細かく調整できるのだが、システムをふんだんに使いました、みたいな女声だ。

確か俺は渋くて厳つい野郎の声を作成したはずだ。

間違ってもこんなロリボイスじゃない。

何かの設定ミスだろうか?

……嫌な悪寒がする。

俺は現実と同じ様に動く身体を眺める。

「どう見ても女の子です。ありがとうございました」

思わず呟いていた。

というのも……長い漆黒の髪、幼い身体、小さなお手々、小さなお足、貧相なお胸。

衣服は初期装備なのか簡素な白地のワンピース。

ご丁寧にスカートを着ている感覚が再現されていて、股下がスースーする。

――『絆†エクシード』さんに複数チャットが届きました。参加しますか?

脳内に直接音声が響く。

送り主は『紡†エクシード』知らない奴だ。

良く考えると俺の名前に似ている。俺をハメた犯人だな。

俺は複数チャットとやらに参加すると念ずるとチリーンというシステム音と共に二人の声が聞こえてきた。

「あ、お兄ちゃん?」

「やほ~」

二人の声が響く。

リアルと同じボイスを使っているのか、声に変化は無い。

「あ、お兄ちゃん? じゃないわ! 何でキャラの外見から名前まで変わってるんだよ! 後そっちに愚姉、後で覚えてろよ!」

姉の名前は『奏†エクシード』二人のセンスに文句を言ってやりたい。

三人共苗字同じ、しかも漢字+記号+カタカナって厨二病末期じゃないか?

「だってお姉ちゃん、妹がもう一人欲しかったんだも~ん」

「あたしも妹が欲しかったんだ!」

「はぁ……」

思わず溜息が出た。ゲームの中で溜息を吐く事になろうとは。

俺がどんな外見にするのか聞いてこないと思ったら、昨日の内にデータを書き換えられていたみたいだ。

「それにね?」

「ん?」

「ゲームの世界で何ヶ月、もしかしたら何年も暮らすんだから繋がりが欲しかったの……」

「姉さん……」

どうやら一応の理由はあるみたいだ。

いや、まあだからって俺を女にするか? 立派な不正アクセスに分類されるんじゃね?

というか俺、ゲーム終了までネカマプレイ強制かよ!

……最悪だ。

「それにね……」

「ああ」

「姉弟妹って書くより三姉妹の方が語呂、良いと思うの」

「…………」

これ笑うとこ?

普通に怒る所だよな。

「はぁ……分かった。もうそれで良いよ。性別が違った方が第二の人生って感じだしな」

女兄弟に一人だけ男だと、こういう理不尽は何度も経験している。

楽しいゲームで家族相手に怒るのはお互い面白く無い。ぐっと言葉を飲み込んだ。

「お兄ちゃん、これからどうする?」

「ん~一応釣りスキルを手に入れて、釣りでもしてようかと」

「マイナーなのやるんだね。絆お兄ちゃん」

「絆お兄ちゃん……」

……なんだろう、この例え様も無い程のしっくりこない感。

慣れなきゃいけないんだろうけどな。

「あたしは普通に狩りの予定だけど、奏お姉ちゃんは?」

「何を装備するのか決めてないからお店回ってみようかしら」

「じゃあ別行動って感じかな?」

「そうだね。後でまた電話……じゃなくてチャット送るね」

「おう」

――チャットが終了しました。通常会話に戻ります。

さて、当初の予定通り釣りでも始めるか。

確かスキルは習得制だったはず。

俺は意識してカーソルメニューの中からステータス、スキル、アイテムの画面を開く。

名前/絆†エクシード。

種族/魂人。

エネルギー/1000。

マナ/50。

セリン/500。

スキル/エネルギー生産力Ⅰ。

マナ生産力Ⅰ。

アイテム/初心者用武器ボックス、初心者用エネルギーポーション×10、魂人マニュアル。

俺はアイテム欄の魂人マニュアルを選択する。

すると文庫本サイズの本が手元に出現した。

ページを開くと日本語では無い文字が羅列している。

しかし何故か読む事が出来た。魂語と呼ぶらしい。

「えっと……」

――魂人は他種族と違いレベル、HP、MP、STR、AGI、INT、MIND、DEX、LUKが存在しない。

それ等全ての数値をエネルギーとし、エネルギーが多くなればなる程強くなる。

エネルギーが増えれば無限に敵からの攻撃を耐える事も可能となるがHPダメージもMP消費もエネルギーから計算するので気を付けなければならない。

なるほど。かなり変わった種族だ。

要するにエネルギーが多ければ攻撃、防御、HP、MPと全て可能だがレベルも兼ねているのでエネルギーを使い過ぎて死にそうになったら他のゲームでいうレベルダウンした様な感じになるって所か。

今一分からないが、次行こう。

――マナは他種族ではスキルポイントや熟練度に属し、必要に応じたマナを消費する事でスキルを取得する事が可能となる。

スキルは使用する毎にエネルギーを消費する物と、常に消費する物の二種類存在する。

――スキル取得は他種族と同じく、該当する行動を取る事で項目が増える。

魂人の場合は出現したスキルにマナを使う事で初めて効果を得る事ができる。

取得したスキルはエネルギーを消費する事で維持が可能。また必要が無くなったスキルの場合、成長に必要なマナの半分を取り戻す事でスキルランクをダウンさせる事が可能。

尚、総エネルギー量が計算式でスキルによって0を越えた場合、+になるまでランダムでスキルをランクダウンさせる。

どうやら魂人はエネルギー管理が重要な種族って事か。

まあ、なるようになるだろう。

俺はマニュアルをパタンと閉じるとアイテム欄に放り込んだ。

次に初心者用武器ボックスを選んだ。

箱の中には沢山の武器が並んでいる。

どれも初心者用と名が付くだけあって外見は普通だ。

一つ、ハズレじゃなさそうな片手剣を持ってみる。

すると片手剣の簡単な説明文が出現した。が、俺は特に読まずに箱の中に戻す。

奏姉さんも決めてなかった様に公式サイトでも沢山武器紹介があったが、どれが良いのか分からず今日まで決めていなかった。

反応から察するに紡の方は決まっていたみたいだが。

「お?」

一瞬面白そうな武器が表示されていた。箱の中から取り出してみる。

武器/初心者用解体ナイフ。

説明/狩猟した生物の解体用に作られたナイフ。

――武器説明……生物や植物などを解体する為に作られた武器群。

モンスターを倒した際にアイテムをドロップする。

説明短いな。

片手剣は盾が装備できるとか、スキルの特徴とか書かれていたぞ。

これにしよう。面白そうだし。

俺は解体用ナイフを取り出すと決定を選択した。

解体用ナイフを装備っていうか手に持つと装備って事になるのか。

ステータス画面もエネルギーとマナが表示されるだけで、装備欄とかも無いから装備したら強くなったのかが今一分からない。

まあVRゲームにありがちな手に持ったり着たりすれば装備って事にはなるんだろう。

ともあれ、釣りをするには竿が必要だ。

竿が売っている場所はどこだろうか。

道具屋辺りが妥当だよな。

俺はカーソルメニューの中から地図を選択する。

今いる街……名称はルロロナと呼ぶ。

その中で袋のマークが浮かんだ場所を見つけ、その方向へ歩く。

思いの他近く、というか目的も無く歩きながら魂人マニュアルを読んでいたのだが、幸運にも道具屋の目の前に俺がいた。

道具屋は灰色の四角い建物だ。横に袋の看板がちょこんと立っている。

既に何人か人がおり、人間、犬耳尻尾が生えた亜人、耳の尖り肌が白い草人、胸に蒼い宝石が埋め込まれた晶人と様々だ。

……何故か魂人が居ないが、偶然だろう。

道具屋に入ると品物が沢山置かれている。

回復用のポーションに始まり、種、汚れた紙、銅、金槌、鍋、フライパン、すり鉢、クワ、つるはし、スコップ、竿。

竿があった。

しかし木の棒に糸が括りつけられた、少年マンガにでも出て来そうなボロい竿だ。

と言っても、ここで竿を買わなければ釣りができない。

さてさて竿の値段は?

――600セリン。

ステータス欄に載っていたセリンって金の事だったのか。

しかし100セリン足りないぞ。

何か売れる物は……。

先程手に入れたばかりの解体用ナイフ、初心者用エネルギーポーション、現在着ている服。

肌の感触から下着はあるみたいだし、服位無くても後から購入すれば……。

初心者用エネルギーポーションが一個20セリンで売れるみたいだ。

「これを買い取ってくれ」

『はい、初心者用エネルギーポーションですね。一つ20セリンで買い取らせていただきます』

アニメか何かで聞いた様な声が道具屋の店主から聞こえてくる。

何のアニメだったか……結構昔からいる男性声優だったはずだが……忘れた。

まあ良い。今は買い取ってもらう事が先決だ。

『初心者用エネルギーポーション5個で100セリンになります』

チャリーンという音が響きセリンが600になった。

そのまま竿を持って戻ってくる。

『ボロい竿ですね。600セリンになります』

おい……。

ゲーム上の仕様とはいえ、自分の店で売っている物をボロいって……。

店内で商品を眺めていた人間のお兄さんが一瞬『ブッ!』とか良い音出したぞ。

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