魚によって逃げられるまでの時間が決まっているんだと思う。
釣れた魚はニシン14匹、イワシ6匹、アジ3匹、キラーフィッシュ1匹、ボーンフィッシュ2匹と後半の奴はどうみてもモンスターだ。
ボーンフィッシュに至っては骨しか付いていない。
初めて釣った時、ちょっとビビった。
というか、こんな骨しか無い奴が海に住んでいると思うとちょっと不気味だ。
「さて、ニシン一匹を残して全部解体するか」
試しておきたい事がある。
解体して売った方がセリンを多く手に入れられるのか否か。
どちらにしても解体スキルを取得する為にやっておかないと行けないのは事実だが、金が沢山あって損する事はあるまい。
俺はその場で慎重に戦利品達に初心者解体用ナイフを向けた。
†
「腹減ったな……」
あれから釣り→解体→売却→餌購入→釣りの無限ループに突入して数時間。
結論だけ言えば解体した方が総合的に高値で売れる。
餌も一つグレードアップしてミミズになった。
何よりも釣った魚の数が100を超えたので条件だけならフィッシングマスタリーをⅡにできる。まあエネルギー生産力をランクアップさせてからなのでしばらく先の話だろうが。
そんなこんなで早くも魚釣りに熱中していたらお腹が空いて来た。
セカンドライフプロジェクトというだけあって、空腹度が存在するのだろう。
現実でいうハっと気が付いたら空腹感を抱いた深夜二時の様な、あんな感覚だ。
「……何か食べるか」
幸い、比較的金銭は潤っている。料理屋の値段が如何程なのかは知らないが、最初の街で高額請求されたりはしないだろう。
釣竿をアイテム欄に戻し、陣取っていた橋から街の中央へと向かう。
魚はまだ分解していないが、後で良いだろう。今は飯が食いたい。
「お」
進路方向の先、俺達プレイヤーが最初に現れた広場が見える。
人並みは最初と比べれば少なく、精々雑踏の数は10か、20か。
その中でアイテムの交渉をしていると思わしき人間と晶人がいた。
ゲームが始まってまだ一日も経たないというのに商売が成り立つのだろうか。俺はさり気なく会話が聞こえる距離まで近付く。
「銅5個で375セリンだ」
「ありがとう。店売りは高くて助かるよ」
どちらも初期装備なので判断に悩むが売っている方が商人、買っている方が鍛冶師、そんな雰囲気がある。
「あ、そこのお嬢さん」
交渉を終えた二人を横目に通り過ぎようとした瞬間、商人の方がこっちにやってきた。
なんだろうと思い。俺は後ろを振り返る。
女の子なんていないじゃないか。
「いや、君だよ」
「俺?」
「そうそう君。オレっ子なんだね」
そういえば俺は女キャラクターだった。
最初は違和感が凄かった声もいつの間にか普通になってきたのですっかり忘れていた。
「いや、ちょっと事情があって女キャラ使っているだけだ」
「なるほどね」
商人はかっこいい系の美形男子だ。
身長は俺より高い。現実の俺なら目算でどれ位か分かるが、ゲーム内となると俺の身長が分からないので相手の身長は不明。ともあれ見上げて目に入ったのは髪だ。色は鈍い金色、なんとなく実在しそうな色をしている。
「で、何か用か?」
「いや、潮の香りがしたから、魚貝系のアイテムを持ってないかなと思って」
「匂い、するかな?」
自分の匂いを嗅いでみる、が良く分からない。
一度海に落ちているので、匂い位するかもしれない。
「するみたいだね。僕は草原の方に一度行ったけど、あっちは草の香りがしたよ」
「へぇ……」
潮の匂いだけだと思っていた。
結構手が込んでいるな。さすが高い金使われているだけある。
「それで、魚か貝を持ってないかい? 知り合いに料理スキルを上げたい子がいるから店売りよりは高く買い取るよ」
「ふむ……」
右手を口元に当てて考え込む。
解体していないので魚は50匹位アイテム欄に納められている。
まあほとんどがニシン、イワシ、アジなのだが。
しかし解体スキルがまだ出ていないので多少安くても解体してから売りたい。
「すまない。使用用途があってな。今回はやめておくよ」
「そっか。僕はアルト、チャットの時は『アルトレーゼ』で送ってよ。今はそんなに買い取れないけど、アイテムなら何でも買い取るからさ」
「分かった。覚えておく。しかし、こんな早くから買い取りなんてできるのか?」
「まあね。前線で戦っている人から安く買って、欲しがっている人に店売りより安めに売るんだ。で、前線の人にはポーションを街より少し高く売る。そんな感じで一応もう8000セリンは持ってるよ」
「凄いな。本当に商人みたいだ」
各言う俺は2700セリンだ。今持っている魚を売り、餌の代金を引けば4500は行くはずだ。それでも転売だけで8000セリンは商売人として凄いんじゃなかろうか。
「ははは。何かご入用ならアルトレーゼ商会へ入店を! なんてね」
「なら、何か良い竿を売ってくれ。手に入ったらで良いんだが」
「竿か、道具系だね。材料があれば作れるけど、知り合いにいるから紹介しようか?」
「いいのか?」
「もちろん! 材料が無ければ僕から買ってくれるって約束ならね」
中々に商売上手だ。
まるで本物の商人でも見ている様で面白い。ある種のロールプレイという奴だろう。
「じゃあ頼む」
「毎度ありがとうございます」
中々に堂に入った言葉使いだ。聞いていて清々しい。
案外リアルでは接客業とかやっていたりしてな。
「それは何かの演技か?」
「そうさ。好きなマンガのキャラがこんな感じなんだよ」
「なるほどな」
思いっきり外れている。
なんて考えているとアルトが良い顔と手振りと共に口を開く。
「じゃあ連絡するからちょっと待っててね」
「ああ、ならついでに教えて欲しい事がある」
不思議そうな顔でアルトが首を傾げる。
話をしていてすっかり忘れていたが、待つという言葉を聞いて思い出してしまった。
「レストランってどこにあるんだ?」
電球式釣り考案
ディメンションウェーブに来て初めての飯はアジとニシンだった。
例の料理スキルを覚えた子の所で直接魚を渡して焼き魚にしてもらった。
自分が釣った物というのも大きいが美味しかったので、ニシンを10匹ただで譲った。
ちなみに紹介料ついでにアルトにもニシン三匹渡したら喜んでいた。
もはやニシンが友好の大使だ。
「それにしてもアルトは友好関係が広いな。β経験者か?」
確かβテストの募集をしていたのを見た覚えがある。
「いいや、βの経験は無いよ。というかβテスターは意図的に省かれるらしいよ」
「そうなのか?」
アルトの話によると、なんでもβはゲームバランスの調整とイベントがしっかり起こるのかを確かめる為の物であって、基本的には製品版と同じく最初から最後までやるらしい。
そして会社の意向なのか、ゲーム内容を知っているプレイヤーを一緒に放り込むのはセカンドライフプロジェクトの趣向に合っていない。なのでプレイヤー全員が初心者の状態でゲームが開始されるという作りらしい。
「なるほどな」
「情報漏洩はあったらしいけどね」
「それは俺も聞いたな。内容は知らんが」
なんでもβテスターの誰かが匿名掲示板でゲーム内容の一部を暴露したという話だ。セカンドライフプロジェクトの契約書には禁止されている事項なので訴えられていた。という内容をネットで見たが、リアルタイムで見ていた訳では無いので具体的にどんな情報が漏洩したかは知らない。
「それでどんな情報が漏洩したんだ?」
「ゲーム内では結構有名だよ? スピリットが弱過ぎるって話さ。確か覚えようと思えばスキルを際限なく取れるけど、ステータスが全種族最低だったかな?」
「……さいですか」
「そう言えば君は何の種族だい? 見た事無いけど」
俺は気不味そうに自分を眺める。
偶に薄っすらと半透明になる。それがスピリットの特徴だ。
「そのスピリットだ。珍しいタイプだから強い方の種族じゃないのは分かっていた」
「そうなんだ。どう? スピリット」
「う~ん。ずっと釣りをしていただけだから分からないけれど、今の所特に困ったとかは無いな」
ステータスがエネルギーで統一されているので些細なミスが致命的な弱体化を招くと考えるに弱いというのも納得は行くが。
だが、街で釣りとか生産職をメインにするなら相性が良いと思うんだが。
エネルギー&マナ生産力って何もしなくても経験値が入ってくる様な物だろ?
まあディメンションウェーブはゲーム内容的に戦闘職がメインっぽいが。
「そっか~。使い心地とか分かったら教えてよ。情報漏洩の所為でスピリットって少ないから知りたい人は結構いると思うんだよね」
「ああ、気が向いたらな」
「じゃあ僕はもう行くから。買い取って欲しい物があったらいつでも連絡よろしくね」
「おう」
手を振るアルトに手を振り替えして答えた。
一度礼をしてからアルトは踵を返して次の商売へとは歩いていった。
「ふぅ……」
俺は一度溜息を吐くとアイテム欄にある、アルトの知人に作ってもらった釣竿を眺める。
木の釣竿+2。
しなる枝、コモンワームの糸、銅の釣り針から作られた竿だ。
材料全ての入手先が違うらしいのでアルト様々といった所だな。
さて、+2になるのは単純な運だとアルトは言っていたが、多分違う。
おそらくは製作者のスキルレベルと実力、更に材料の品質だろう。
しなる枝、コモンワームの糸、銅の釣り針は見せてもらった在庫の中から程度の良さそうな物を選んで作ってもらった。なので多分合っている。
そして、合計なんと700セリン。
600セリンのボロ竿を買うよりも性能面を含めても得だと思う。
せっかく作った竿だからな。今度は持って行かれない様に気を付けよう。
おっとそろそろエネルギーとマナが増えた頃かな?
名前/絆†エクシード。
種族/魂人。
エネルギー/1320。
マナ/60。
セリン/2000。
スキル/エネルギー生産力Ⅱ。
マナ生産力Ⅱ。
エネルギー生産力Ⅱ→エネルギー生産力Ⅲ。
毎時間200エネルギーを生産する→毎時間400エネルギーを生産する。
ランクアップに必要なマナ50。
マナが足りているのでエネルギー生産力をⅢにランクアップさせた。
これで二時間後にはフィッシングマスタリーを取得できる。
「スキルも振ったし竿も出来た。腹も膨れたし、第二ラウンドと行くか……お!」
そこで頭に電球が浮かんだ。
若干表現が古い様な気がしなくもないが、ともかく閃いた。
――昼と夜で釣れる魚、違うんじゃないか?
空腹感といったシステムが存在するのだから当然睡魔とかもあるに違いない。
そうなると夜釣りをする場合、眠くなって行けない何て事もあり得る。
少し早いけど宿屋で仮眠でも取っておくか。
そうなると姉さんと紡に一報送っといた方が良いな。
カーソルメニューの中からチャットの欄を選ぶ。
考えてみれば二人ともフレンド登録してなかったな。
『紡†エクシード』と入力してチャットを送る。
しばらくプルルルルと電話のシステム音みたいな音が耳に鳴り響く。
以前紡が電話と間違えていたがこれは間違えたのも分かる気がする。
「絆お兄ちゃん? なにかあった?」
「ああ、今日はもう寝ようかと思ってさ。一応連絡しとこうと思ってな」
「え、もう寝ちゃうの? 早くないかな?」
「いや、昼と夜で釣れる魚に差があるか調べたくてさ」
「そうなんだ。分かったよ。奏お姉ちゃんにはわたしから伝えておくね」
「おう、助かる。そういえばそっちはどうだ?」
「ん~普通に戦闘中」
「おいおい……大丈夫なのか?」
「あはは、五匹に囲まれてるだけだよ~」
「集中しろ!」
ブツッ!
乱暴にチャットを終了させた。
そういえば以前にもFPSをやりながら姉さんと話をしていた事があった。
同じ戦場に俺も居たものだから、ちょっとイラっと来たのは秘密だ。
しかも普通にキル率が一番高かったという嫌な結末まで付いている。
そもそもよくよく考えて見ればディメンションウェーブの参加権を手に入れてきたのは紡だった。五匹位なら本当にどうとでもなるのかもしれない。
……釈然としないが、宿屋でも探そう。
カーソルメニューから地図を呼び出し、宿屋を探す。
最初の街だけあってそこ等中に『ZZZ』などのマークが浮かんでいる。
その内の五店舗程良さそうな店を探す。
まあゲームなのでそんなに差は無いだろうが、店によって値段が違う。
最終的に安くも高くも無い中間の宿屋を選んだ。
「――一泊150セリンです」
店のオーナーと思わしき女性、これまたどこかで聞いた女性声優の声だ。