――現在あなたの電源が入っていないか電波が使われていません。
俺の電源って何!? というか携帯電話かよ。
……システムアナウンスに文句を言っていてもしょうがない。
訳もわからないまま、俺はフレンド登録されている全員に連絡を入れる。
無論、硝子達だけでなくロミナや他知人もだ。
その全てがこの訳のわからないシステムアナウンスが流れる。
状況から連絡できない何かが起こっている、と考えるのが妥当か。
幽霊船から落ちたのは俺だけじゃない。
もしかしたら俺と同じく浜辺に流れ着いた奴がいるかもしれないな。
俺は周囲を見回すも見える範囲には誰もいない。
カーソルメニューにある地図を表示させてみる。
現在地は比較的大きな島の南側にある浜辺だ。
マップ名称は……カルミラ島。
この名前には聞き覚えがあるぞ。
確かソウルイーターを倒した報酬で手に入った島だ。
確信はできないがハーベンブルグ伯爵が守ろうとしていた島である可能性も高い。
単純にリミテッドディメンションウェーブの報酬とも取れるが。
ともかく皆を探そう。
俺は当ても無く浜辺を歩き始めた。
結果だけを述べるなら浜辺に誰かが流れ着いた痕跡は見つからなかった。
定期的にチャットを送っているが相変わらず壊れたみたいに変なアナウンスが流れるのみで状況は好転しない。
本格的に認めなければ行けない状況になってきたかもしれないな。
おそらく俺は……漂流した。
島内部を探索していないのでまだ結論は避けるがカルミラ島は無人島だ。
俺だけなのは何かしらのイベントによる可能性が考えられる。
例えば幽霊船であの本や人魂イベントをこなしたのは俺だけだ。
仮にそういった条件に当て嵌まったのが理由としてこの無人島で何を求められるのか。
この手のゲームに無駄なフラグや条件はあまり無い。
そう考えると俺一人でカルミラ島に漂流した理由があるはずだ。
……なんかこういうゲームあったよな。
小学生の主人公が船から落ちたら無人島でそこでサバイバルをしながら生還を模索する。
漂流モノのお約束だが、まさか俺が実践する事になろうとは……。
幸い、その手の主人公とは違って俺は装備に恵まれている。
例えばアイテムだ。
食料に関してはイカが無駄にあるのでしばらくは持つだろう。
何より料理スキルに必要な機材を所持している。
海があるので釣りで稼ぐというのも良いかもしれない。
重要なのはどれだけの期間をここで過ごす事になるか、だ。
お!
アイテム欄を眺めていたら帰路ノ写本があった。ついつい状況に流されてしまったがこれはゲーム、帰還アイテムを使えば良いんじゃないか。
俺は帰路ノ写本を使った。
…………。
波の音。カモメの鳴き声。白い砂浜。
跳躍エフィクトの後、最初に流れ着いたカルミラ島の浜辺だった。
きょ、強制セーブポイント……。
「だ、出せええぇぇー!」
海に向かって叫んだ。
カモメの声が返ってきただけだった……。
……しばらくここで生活する事になりそうだな。
そうなると硝子達と合流した後を考えないといけない。
あいつ等の性格からいって多少エネルギーに問題があっても合流さえすればどうにかなると思う。だけどエネルギーに差が付き過ぎるのも個人的に厳しい物がある。
最悪アイテム欄に入っている木の船で脱出も考える必要がありそうだな。
ともかく今は島を調べる所から始めよう。
合流した時に多少役立てれば御の字だしな。
そう決めて島内部へ歩き出す。
右手にはケルベロススローター。
エネルギーブレイドは持っていなかった。硝子に渡したままだったからな。
まあエネルギーブレイドなんてボス戦位でしか使わないだろうが。
カルミラ島はパッと見た感じ、南国という形相を示している。
高い経費使って作られているのか虫の声とか、南国風の鳥とかが飛んでいて、気を許すとゲームである事を忘れそうだから逆に凄い。
それにしても島か……魚、何が釣れるんだろう。
って、こんな状況で何を考えているんだ。俺って奴は。
今は現状を把握する事。
幽霊船でもそうだが、一人になるのは久々だな。
特に第一都市と同じ太陽光がある場所だと最初の頃を思い出す。
あの頃はあの頃で楽しかったな。
いや、パーティーで冒険するのも凄く楽しいけどさ。
そんな考え事をしていると寂れた農村の様な場所が見えてきた。
……農村というか廃墟か?
崩れかけた納屋。生い茂った草花。人気の無い雰囲気。
何十年も前に人が住んでいた様な痕跡、みたいな場所だ。
「なんだ……あれ……?」
村の中心に不自然な位浮いた物体が見えた。
宝石が装飾された大きな箱でどう見ても場違いな形相を示している。
個人的にミミックなどの、トラップモンスターが頭を過ぎる。
空けるべきか、無視するべきか。
仮にモンスターだった場合、一人で勝てるだろうか。
こういう時に一人だと困る。
仲間が居ればなんだかんだで開けると思う。
しかし一人だと無理は利かないし、不安にもなる。
うん、開けよう。
宝箱に近付いて異常が無いか確認した後、開いてみる。
もちろん開いた瞬間飛び退く。
矢や毒ガスは宝箱のお約束トラップだからな。
……何も起こらない。
開きっぱなしになっている宝箱に覗き込んで見るとアイテムが入っていた。
小さな箱だ。
宝箱の中に小箱とかマトリョーシカの派生か。
さすがに小箱の中に箱はなかったので安心だ。
アイテム名は開拓者の七つ道具。
……凄く嫌な予感がするんだが。
こう、俺が一人でここにいる事がシステム的な影響を受けている様な、そんな気分だ。
うわっ、捨てようと思ったらアイテム欄に勝手に収納された。
呪いの道具かよ。
――いや、まあ好きなシチュエーションだけどさ……。
今の俺には仲間がいるからのんびり開拓生活をしている余裕はない。
ちなみに、これがパーティー結成前だったら喜んでいた所だ。
そもそも……一人?
なんでパーティーメンバーが除外されているんだ。
開拓イベントにしたってパーティー全員とか、プレイヤー全員参加じゃないのかよ。
……思う所はあるが、我慢しよう。
取り敢えず俺は開拓者の七つ道具とやらを使ってみる。
すると変幻自在アイテムの様で、変化できる項目が現れた。
クワ。
カマ。
オノ。
ハンマー。
ドリル。
ロープ。
釣竿。
「ドリル!」
一つだけ浮いている!
なんだこれ。ツルハシじゃダメだったのか?
「ドリル!」
やばい、凄い興奮してきた。
こんな姿は硝子には見せられないな。
まあ……紡にはリアルで毎日見られている気もするけどさ。
何を隠そう。俺は王国生活ゲームで姉さんと紡がゲーム内時間5年で飽きた所を1000年超えしている男だ。
無意味に家系図が進み、最初に作ったキャラクターの血筋すら見えなくなる位やりこんだが、異常者の様に扱われたのはどうでも良い事か。ともあれ同様の理由で開拓物語を無限時空に入ってから200年突破も達成した事がある。
……少し興奮し過ぎだ。
「ドリル!」
手始めにドリルを持ってみる。
先端が螺旋状になっているハンドドリルだ。
取っ手を引くと想像通りギュイイインというモーター音を立てて回転した。
「ドリル!」
やっぱり男はドリルだよな。
今時スーパーロボットでもドリルを使っている機体なんか見ないけどさ。
と、ともかく今直ぐドリルを試してみよう。
俺は硝子達の事など忘れ、一時の快楽に身を任せてドリル片手に走り出した。
……俺が正気を取り戻したのは十分も経ってからだったのはどうでも良い補足か。
開拓開始
「決めた……」
俺がこの島、カルミラ島に漂流してからしばしの時が流れた。
最初こそ俺は開拓者の七つ道具なる救済アイテムを無視して……ドリルはちょこっとはしゃいだが――無視して、島からの脱出を模索した。
まず舵スキルを取得して木の船で南の砂浜から海へ出たのだが……北側に出た。
昔のRPGにありがちな南を越えたら北、みたいな状況だ。
船が小さいから戻されたのか、単純にこの島がそういう仕組みなのかは解らない。
それから色々と模索した訳だが結局、島からの脱出には至っていない。
ともかく俺は現在、カルミラ島に閉じ込められている。
だが、俺には心強い仲間がいる。
硝子達が俺を見付けてくれる可能性に賭けた訳だが……ついに一週間が経過した。
もちろん信じていない訳ではない。
硝子との付き合いは一月程だが、誰かを裏切る様なタイプじゃない。
今頃俺を探していると思うが、この島がそう簡単に見つかるとは思えない。
現に一週間が経過している訳だしな。
のんびりと釣りを繰り返し、釣りスキルと料理スキルを上げまくった。
ついでに一日中イカと釣れた魚を元素変換していた。
そこで俺は硝子達の救出が一週間以上遅れたら決めていた事がある。
それは……。
名前/絆†エクシード。
種族/魂人。
エネルギー/78630。
マナ/22070。
セリン/68780。
スキル/エネルギー生産力ⅩⅡ。
マナ生産力Ⅸ。
フィッシングマスタリーⅨ。
ヘイト&ルアーⅡ。
一本釣りⅠ。
解体マスタリーⅤ。
クレーバーⅤ。
スライスイングⅡ。
高速解体Ⅳ。
クッキングマスタリーⅡ。
船上戦闘Ⅴ。
元素変換Ⅱ。
↓
名前/絆†エクシード。
種族/魂人。
エネルギー/78630。
マナ/27070。
セリン/68780。
スキル/エネルギー生産力ⅩⅡ。
マナ生産力Ⅸ。
フィッシングマスタリーⅨ。
ヘイト&ルアーⅡ。
一本釣りⅠ。
解体マスタリーⅤ。
クレーバーⅤ。
スライスイングⅡ。
高速解体Ⅳ。
クッキングマスタリーⅡ。
元素変換Ⅱ。
この様に島以外で必要無いスキルを未取得に変更してマナに変換する。
これによって取得できるスキルとエネルギー生産量が増えた。
……船上戦闘スキルだけな気もするが。
元々解体武器と釣りだったので開拓に近いスキルだったのが不幸中の幸いか。
ともあれ船上戦闘はⅤだったので削れば相応のエネルギーを他に回せる。
助けが来るまで生き延びる……もとい開拓生活を実践しようと決断した。
実は俺って人間は――こういうのが大好きなんだ!
皆には悪いがタイムリミットは過ぎた。
クククッ……この島を骨の髄までしゃぶり尽くしてくれるわ。
そう決断してまず俺が手を出したのはカマ。
紡が使っていた武器用の装備ではなく、釣竿と同じ生活系装備だ。
要するに生え過ぎて邪魔な雑草を撤去する。
性能は救済アイテムだけに良くも悪くもない、微妙なラインだが、アイテム欄にレベルの項目が存在する。
なんでも開拓者の七つ道具はこの島でしか使えないらしい。
つまりアイテムのランクはカルミラ島限定でレベル制に変化している。
こういうの燃えるよな。
よし皆、俺の開拓者の七つ道具がレベルMAXになるのが先か、皆が助けにくるのが先か勝負しよう。とかアホな事を脳内で語りつつカマで雑草を切断していく。
「別のゲームでも思ったけど、こんな処理の仕方じゃ雑草生えてきて当たり前だよな」
しかし手で引っ張っても効率が悪いし、一応は根の部分まで無くなっている。
ここ等辺はゲーム世界による不思議空間という事で我慢だ。
それにしても現実の墓参りとかで毎年掃除を手伝わされるが、ゲーム内の身体は疲労が無くて良いな。
カマをいくら振り回した所で疲れないのだから現実の何倍もの速度で切れる。
だが、あまり雑草ばかりに目を向けるのも下策だ。
一日は24時間しかない。
更に睡魔も襲ってくるので事実上無理をして18時間位しか開拓に時間を注ぎ込む事はできない。そうなってくると俺の取れる行動にも限界が出てくる。
さすがに食事の時間などもある訳だから18時間全部は使えない。
……この手の思考はすると何もできなくなるからな。
今は目に付いた範囲で開拓作業を繰り返し、効率的な方法を見つけたらそっちにシフトしていくという方針で固めよう。
次にクワだ。
雑草をカマで切り取った限られた土地のみ耕す事ができる極めて限定的な畑。
いや、他意はないが。
ともあれ疲労はないがマスタリースキルを所持していないので時間を掛けて耕す。
どこまで再現しているかは知らないが土の匂いがした。
カマの時は草の匂いがしたのでシステム自体は流用かもな。
「……種がない」
畑を耕し終わってから気付いた。
実にバカバカしい状況だ。気付けよ、俺……。
「お?」
開拓者の七つ道具にあるクワの項目から種を選択できた。
一種類しかないが……。
取り敢えずこれを植えておくか。
種を手頃な区間に分けて植えて、廃墟近くにあった井戸から拾ってきたバケツに入れた水を掛ける。
まあ後は毎日雑草をカマで処理しつつ実が生るのを待つか。