せめてヤクザと言ってほしい……じゃなくて、俺は普通だよ。
なんだかんだ言いながらも、しぇりるは池に潜って銛を構える。
そういえばスキルはスキル名をしゃべって使うけど、水の中ではどう使うんだ?
今度聞いておこう。
お、戻ってきた。
「当てたけど、反応無し」
しぇりるは池から上がり水を滴らせながら言った。
銛なら水棲モンスターに有効だし、巨大イカ戦で効いたからいけると思ったんだがダメだった様だ。
そうなると正攻法で釣らないといけない訳か。
あれを釣るのは至難の業だが……がんばってみるか。
「まあ木材と鉱石でも見に行くか?」
「ん」
こうしてカルミラ漂流記にしぇりるが加わり、島は賑わっていった。
尚、しぇりるに遭遇したければ伐採、採掘、海、拠点のどれかに行けば会える。
別にギャルゲーではないので優先的にこれ等を選択する必要はない。
ともあれ元々海女だった所為もあり、翌日には生活に馴染んでいた。
ランダム召還
「誰か会いたい人はいるペン?」
しぇりるがカルミラ島に流れ着いて一週間も経たないのにサンタ帽子ペックルがお決まりのセリフを言った。
現在目に見えて欲している人材はいない。
紡でも良いが戦力に困っている訳では無いので悩み所だ。
情報という面でアルトが無難か。
闇影は、悪いが下手に呼ぶと大きな事件が起こりそうなので後に回す。
ちなみに三回目にして態々フレンド欄からコピーペーストしなくてもフレンド登録されている人物なら選択できる事が、ペックルの表示させたウィンドウで判明した。
だからフレンド欄から誰を選ぶか決められる。
取り敢えずは硝子としぇりるに聞いてみてから決めよう。
そう思って二人の所へ歩き出そうとしたのだが。
真後ろで……。
「「「「「ペーン!」」」」」
「うわ!」
突然ペックル探検隊の方々が飛び出してきた。
場所が悪かったな。
丁度ペックルダンジョンである小さな穴の前で呼び止められたんだった。
まったく……。
「わかったペン。会える事を祈っているペン」
「……は?」
サンタ帽子ペックルが突然、完了セリフを言いながら立ち去ろうとしている。
名前の入力画面も消えていて、まるで誰を呼ぶのか決めた後みたいな……。
「待て待て!」
「会える事を祈っているペン」
「反芻すんな!」
「ペックルはモンスターじゃないペン」
「どうしてそこでそのセリフ?」
呆然とする俺を余所にサンタ帽子ペックルは無常にも仕事に戻っていった。
だ、誰を呼んだ?
フレンド欄にいる奴だから、そこまで問題無いとは思うが、闇影でない事を祈るか。
「まあいっか!」
そんな風に甘く考えていたのが不味かった。
翌朝、俺は硝子としぇりるを連れて、特に危機感を抱かずに浜辺へ向かった。
その人物は例に漏れずうつ伏せで垂直に倒れている。
もはやスクリーンショットを撮るのは俺のライフスタイル。
とてもじゃないが、謝って許される様な相手で無くても撮影する。
「絆さん……」
「……」
「わかっている。わかってはいるんだ……」
これはある種の現実逃避だ。
近付いて一枚スクリーンショットを撮った所で伸びてくる手を避ける。
「む……ここはどこだ? 君は絆君ではないか。何故土下座をしているのだ?」
そう、今俺はその人物に向かって土下座をしている。
以前、大分前にフレンド登録をしていた、数少ない俺の仲間以外の人物。
不幸にもその人物を昨日引き当ててしまった。
そう、前線で武器を作っている製造職……ロミナだ。
「そもそも君は……いや、君達は行方不明だと聞いたのだが」
「本当すみません! 悪気はなかったんです! こいつ等が悪いんです!」
「ペックルはモンスターじゃないペン」
何故そこでその返答?
ロミナは胸に赤い宝石を付けている、しぇりると同じ晶人だ。
アルトと同じく非戦闘スキルである、製造系に属するプレイヤーで、俺のケルベロススローターや勇魚ノ太刀などを作った人でもある。
「ふむ……謝罪は聞き入れるとして、事情を説明してくれないか? 話はそれからだ」
俺は大まかにこれまでの経緯と、昨日の事を話す。
要するにリミテッドディメンションウェーブからカルミラ島開拓の事だ。
「ふははっ! 前々から思っていたが君は面白いな。それで誤って私を呼んでしまった訳か。くふふっ……本当に面白い」
「えっと~……」
「そうだな。こちらも事情を話そう。実を言えば闇影君から断片的な話は聞いていた」
「と言いますと?」
ロミナの話によると闇影はしぇりると行動を共にしていたらしい。
そのしぇりるが消えて、闇影はどうにも幽霊の仕業とか言い出したそうだ。
アルトは何を思ったのか商売仲間であるロミナに闇影を押し付け、元々面倒見の良いロミナは闇影を匿っていた。
そんな矢先、ロミナは間違ってカルミラ島に流れ着いた、という経緯だ。
「本当すみません!」
「ふむ。わざとではないのだろう? ならば責めはしないさ」
「いや、でもここから出られないし」
「問題無い。実を言えば武器作成に飽きてきた所だった。人気鍛冶だの言われているがやる事は一日中鍛冶スキルを使うだけだからね。というか、最近私をNPCか何かと勘違いしている輩が増えてね。何回か『あれ? 商売スキルが発動しない』とか言った日には打ん殴ってやろうかと思ったよ。それでそろそろ一回休みを入れようと思っていたんだ。闇影君との生活もその延長線だった。だから丁度良い。この島にはその……ペックルだったか、がいるのだろう? 彼等の施設で良さそうな物を使わせてもらおう」
「そ、それなら優遇できる」
「では、興味が湧く物を探してみるとしよう。それと以前の口調で良い」
こうしてロミナがカルミラ島開拓史に加わった訳だが……。
なんというのか……さすがは前線で製造職をしていただけはあるって感じだ。
まずロミナが興味を抱いたのは工房という施設だ。
元々はペックルが道具を作る施設なのだが、使おうと思えば人でも使える。
優遇すると言ったので工房のレベルを優先的に上げるとロミナはカルミラ島で手に入るアイテムで道具を作り始めた。
アイテムが足りなくなれば採取や採掘なども始め、楽しそうにしている。
「開拓者の七つ道具とやらだけでは不便だろう? 道具製造も取る事にした」
などと各方面にスキルを取得し……気が付いた頃には工房がなんでも屋になっていた。
俺も釣竿を作ってもらった。
気後れする俺に対する一言はこれだ。
「この島は最高だな。私だけ別のゲームをやっている気分だ。素材もかなり良い。次防具製造を取ろうと思うのだが、絆君はどんな装備が良い?」
いや……まあ、そうなんだけどさ。
ともあれ最初こそ無関係な人物を呼んでしまった罪悪感から気後れしていた俺だったが、ロミナの人となりもあって、すぐに関係は良好になっていった。
元々俺も生活系スキル、まあ釣りだけだが、とプレイスタイルが若干近かったので話も合うのも理由か。
しぇりるの船に対する考えにも関心を示していたし、硝子の武器についても言及していた。まあ良く言えばリーダー気質のある人物がロミナだ。
「絆君。前から気になっていたのだが、ペックルの探検に戦闘系以外を同伴させるのはどうだろうか」
「あー……持ってくる物が変わったりとか?」
「可能性の話としてだがね」
「実験してみるか!」
「うむ。私はペックルの個体に詳しく無いから、絆君に任せよう」
こんな感じでカルミラ島のシステムに貪欲なのも良かった。
ある意味、他三人よりも遥かに良い人材を呼んだと言える。
まあ……本人が楽しそうだから良いけど、もしも喧嘩になっていたら問題あるよな。
これからはくれぐれも気をつけるとしよう。
ともあれ、頼りになる仲間がまた一人増えた。
……前線から頼りになる鍛冶師を消した事実は耳を塞ぐ。
インスタントダンジョン
お久しぶりです。
前回までのあらすじ。
開拓をする事になった絆。
間違ってフレンドのロミナを召喚してしまった。
ロミナの助言でダンジョン探索に行かせるペックルを選ぶ事にした。
――夢を見た。
夢の中の俺は勇者になっていて、仲間達と共に大冒険をしている。
そして釣りをしたり釣りをしたり釣りをしたりしていた。
……今と対して変わらないな。
やがて仲間達と別れ、迷宮で釣りを始め、サバイバルをしている様な……本当、今と変わらない。
それから月日は流れ、俺は夢の中で仲間達と共に『敵』と戦っていた。
相当追い込まれている様で、所謂苦戦しているという奴だ。
ただ、夢の中の俺は運動神経が良い。
実際はこんな事は出来ないだろうな。
ん? 仲間達が倒れかけたその時……刀を携えた狸耳の女の子が――
「ハッ……夢か」
周囲をキョロキョロと眺めるとカルミラ島にある、俺の家のベッドだった。
変な夢を見たな。
というか、ゲームの中で夢って見るんだなぁ。
これって夢の中で夢を見る様なものなんじゃないのか?
まあ、いいか。
「さて、今日もがんばるか」
そんな訳で、ロミナの意見を参考に行かせるペックルに戦闘向けじゃない奴を混ぜてみた。
とりあえずサンタ帽子のペックルを混ぜてみる。
何でも出来る奴だから卒なくこなすだろう。
「行ってくるペン!」
そう、戦闘向けのペックル達を引き連れて行くペックルに手を振る。
そういえば……指揮の熟練度はダンジョンに行かせると増える。
戦闘の指揮だったんだなー……後は開拓時に微妙に上がる。
俺の意図を察する意味もあるみたいだ。
その後、俺は日課にしている釣りをする。
硝子は狩猟に行ったっけ、ロミナは工房で鍛冶をしてる。
しぇりるも工房で船作りをしている。
ただ、しぇりるの話だと船で島から出るのは難しいっぽい。
増え続けるペックル達の食料を確保するために船での漁を計画中らしい。
投網漁かな?
そんなこんなで時間を潰しているとペックル達が帰って来た。
「「「ペーン!」」」
相変わらずのテンションだ。
もう驚かされない。
「報告だペン!」
見つけてきた物を確認する。
戦闘向けのペックル達の熟練度がそれなりにあるお陰か複数枚の設計図を持ってくる。
お? ペックルが作る家のバリエーションが増えている。
しかも何匹か新たにペックルを見つけてきた様だ。
噴水、柵も作成可能になった。
畜産に使う牛舎もあるぞ。
「おお」
形だけの柵だった牧場がやっとらしくなるって事かもしれない。
やっぱりロミナの言った通りになった。
行かせるペックルによって発見する物にバリエーションがあるようだ。
最近じゃあダンジョン探索で見つかる物がマンネリだった故に良い感じ。
そんな訳でローテーションを組んでペックル達を出撃させ続けた。
結果。
「新たにインスタンスダンジョンを発見したペン。付いてくるペン」
「はい?」
サンタ帽子ペックルの報告を聞いて首を傾げる。
硝子達を連れてペックルの案内に着いて行く。
するとペックル達が入って行く穴の隣に大きな扉が出来あがっていた。
「みんな入れる様になったペン。力を合わせて攻略して開拓をするペン」
「……これって私達もダンジョンに挑めって事でしょうか」
「たぶん。そうだろうね」
「そう」
まあ……ペックルが増えてきて、熟練度も上がってきた所為でやる事が大分減って来ているのは事実。
だからロミナやしぇりるは物作りに集中できた訳だし。
そもそもこの島で一定の人数が生活している。
中には硝子の様に戦闘向けなタイプが含まれる可能性もあるだろう。
ここが一定期間脱出不可、という制限がある以上、そういった連中向けの施設が準備されていたんだろうな。
ゲーム的な意味で。
「インスタンスダンジョンまで完備されてるとはね」
「どんなダンジョンなんでしたっけ?」
ロミナが若干呆れていると硝子が質問する。
「わかりやすく言うと、他の人とは競合しないダンジョンという所かな」
「そう……」
「最初に入るメンバーを決めて入ると出るまで同じ編成、ダンジョン内で人とは会わない。オンラインゲームでは割とありがちな仕様だ」
「な、なるほど」
「島にいるのは俺達だけなのに競合相手が前提って何か意味があるのか?」
存在の意味が疑問なんだが……。
もしかしたらこの島に大量に人が来る様になるのだろうか?
まあVRとはいえオンラインゲームなんだから、特定の個人だけがプレイ出来る設備、というのは不公平だ。
後々何かある可能性は高い。
「とはいえ、インスタンスダンジョンかー……」
ロミナが腕を組んで俺達の方を見る。
うん、わかる。
何を言いたいのかわかる。