「お兄ちゃんは戦わなくても強くなれるもんね」
「戦わないと熟練度が稼げませんよ?」
「効率的な考えだと、私達がもう少し強くなってから引き上げるのが良いかもしれないよ、硝子さん」
「確かにそうですけど……」
「魔物の動きも癖があるみたいだし、研究してからでも良いと思う。私の勘だとLv5から7くらい上げれば相当楽になるはず」
紡基準で言われてもとは思うけど、スピリットで言うとどれくらいエネルギーを貯めなきゃいけないんだろうか?
「後分かった事なんだけど、20階以降だと階段を降りる毎に帰還のランタンの燃料が減って行って、最終的に帰る羽目になるみたい」
「そんな要素まであるのか……」
一気に潜って攻略とかをさせない要素かな?
特定の階層に留まって魔物を倒して稼ぐと言うのは出来そうではある。
その辺りのシステム面の研究も必要そうだな。
「しぇりるのマシンナリーの技術向上で新しい武具の可能性もある。ダンジョンで良い物を集めて装備を一新するのはどうだ? 装備が集まってから挑むのも良いかもしれない」
「まあ、お兄ちゃんは釣りでもしながら待ってればいいと思うよ。その代わり、回復アイテムの調達とかお願いするね」
「OK。栽培とかその辺りも併用しておこう」
そんな訳でソロ用ダンジョンへ硝子と紡がそれぞれ入って行った。
結果的に言えば、内容は良く似ていて20階まで出てくる魔物は同じで、若干戦いやすかったそうだ。
ただ、手に入る物のランクが若干低い。
ダンジョン内ではこの島独自の素材らしいミラカ鉱石というのが手に入る。
パーティーで入るとミラカ結晶という純度の高い物もドロップする。
ソロだとミラカ鉱石だけ。
他に一応、ペックルや基盤も発見出来る。
そうして硝子と紡にはダンジョンの探索を進めてもらい、状況次第でパーティーで潜る事になった。
俺はその間、回復アイテムの調達と釣りをしていたっけ。
しぇりるの技能が上がるのを期待してさ。
割と攻略が面倒だから、他にも人を呼べないのかとサンタ帽子ペックルが来るのを待っていたけど、アイツ反応しない。
条件はなんだ?
で、しぇりるに大量の基盤が届けられ、ここ数日ずーっとしぇりるは基盤を弄っていた。
工房や島の倉庫からいろんな素材を持ってきては作成をしていた訳だが……電球が部屋の中でぶら下がっていた時は驚いたな。
家々にしぇりるが電球を設置して点灯させていた。
島が若干明るくなった……とは違うか。
前々から明かりはあったし、システム的な明かりだったけどさ。
それなりに技術が向上してきたっぽい。
「新しい武器類の材料をしぇりるくんが作ってくれたよ。これだ」
ロミナとしぇりるが見せたのはマシンナリーで作られた素材かな?
試作型モーター。
どうやらこれと既存の素材と共に加工するとマシンっぽい物が作れるそうだ。
「簡単な物だとドリルが出来そうだね。刃先とする部分を尖らせて根元にモーターを取りつけて叩くと完成する」
そう言ってロミナが試作型・鉄のドリルという物を作ってくれた。
開拓者の七つ道具にあるドリルよりも出力が出る様だ。
取っ手を持って力を込めるとギュイイイイン! と、七つ道具のドリルよりも力強く回っている。
中々に優秀な代物みたいだ。
池のぬし釣り
「上手く使えばバイクとかの乗り物が作れるかもしれないね」
「そう。けど、プロトタイプ」
まだ微妙なラインって所かな?
それなりに使える範囲に見えるけど。
「スチームパンク!」
「ロマンだねー」
二人にしか分からない話題を言っている。
いや、意味はわかるけどさ。
スチームパンクっぽい武器や道具って事なんだろう。
「まだ試作型以上の物は作れないけど、何かリクエストはあるかい?」
「じゃあ釣りのリールを改造して電動リールは作れるか?」
「おう……」
「何でも釣りに繋げるんですね」
何故か硝子も俺を見て呆れている。
「絆くんらしいじゃないか。試してみるよ。何、糸をドリルの要領で巻き取る物ならどうにか作れるかもしれない」
そんな訳で電動リールの作成をロミナとしぇりるにお願いした。
結果、出来たのは試作型モーターリール。
電動リール程優秀じゃないけど、高速で糸を巻き取る事が出来るリールが完成した。
これが出来るまでの間に俺達はダンジョンに潜って試作型ドリルで掘削に出た。
結果、鉱石類を大量に入手できた。
手に入った鉱石を納品するとロミナが解体刀を作ってくれた。
ミラカブレッドナイフ。
パン切り包丁? 波上の刃先が鈍く光っている。
「ジェリーの身を切り辛いと言っていただろう? だから柔らかい物を切る様にと細工をしたんだけど、どうかな?」
なるほど……確かにパンは柔らかいモノか。
そもそもスライムを解体する道具ってなんだ?
ゲーム製作者も困ったからパン切り包丁にしたのかもしれない。
まだロミナ達の技術が足りないからスライム切りとか適した物を発見出来ない可能性もある。
「持ち帰ったジェリーのコアは燃料や錬金術系等、用途がかなり広いね。上手く使えば命中補正等の付与も出来そうだ」
ロミナがとても楽しげに素材をいじり回していた。
ミラカ鉱石製の防具も作ってくれて、硝子達も装備を一新している。
鉄製はもう時代遅れかな?
ミスリルとかはまだ先みたいだけど。
その後、しぇりるが地下20階のスイッチの下を修理した所……。
「出来た」
しぇりるが親指を立ててやり遂げた顔で答える。
「出来たみたいだな」
「結構ギリギリだった。極めるには遠い」
「そうか」
「それで何がこの先にあるのかなー」
紡がスイッチを押す。
すると……チーンと言う音がして扉が開いた。
中は個室で、何も無い。
六人位の人数が入るのに丁度良い広さだ。
「……」
確認する様に中を見る。
入口の扉の隣にボタンが何個もある。
地上・20階・――。
と、不自然にボタンのある位置が無数に存在している。
ただ、押しても反応しない。
なんか良い予感と嫌な予感がするぞ。
「エレベーター?」
「……みたいだな」
そう、デパートとかで設置されているエレベーターだ。
「ダンジョン攻略のショートカットって事だね」
「なるほど……確かに一々20階まで行くのは面倒だったし」
丁寧だとも言えるけど……その条件が修理をしないと行けないというのはどうなんだろう?
こう、ユーザビリティ的な意味で。
……しぇりるに任せずペックル辺りにさせたらもう少し早く終わったのだろうか?
いや、きっとしぇりるが技能を向上させるよりも時間が掛った可能性は高い。
ペックルはあくまで補佐的なシステムだ。
やらなくても出来るが、やった方が早いのはこれまでの事で証明されているしな。
「じゃあ次行ってみよう!」
そんな訳で俺達はサクサクと40階に到着。
今度は到着すると同時にエレベーターのロックが解除された。
ああ、もちろん道中でペックルや設計図は発見した。
レンガの家とか三階建ての家とかの作成が出来るようになっている。
こっちはペックルしか使えないけど。
「大分疲れてきたし、今日はこれくらいで帰らない?」
「そうですね」
体感で7時間くらい潜って居たら休みたくなるか。
それでも外とは時間の流れが違うので、時間が勿体ない様な気がしてしまう。
こんな感じで日々攻略に追われている。
魔物の強さがなだらかになってきたと硝子と紡が言っていた。
やはり詰みを防止する為の強さ調整だったのかもしれない。
それでも紡曰く、大陸の方よりも効率が良いらしい。
「テントとかキャンプ用品を持って安全地帯で休みながら進む?」
「日数の節約にはなりますけど……」
「根詰めてLv上げも楽しいよね」
「まあ否定はしない。延々とレベル上げするのもオンラインゲームの醍醐味と言えば醍醐味だからな」
かと言って、いい加減ダンジョン探索だけの日々は飽きてくる。
元々スローライフが俺のソウルスタイル!
魔物と戦って強くなる事が目的じゃない。
「連携しなくてもみんな戦えるようになってきたし、お兄ちゃん達は好きにしていたら良いんじゃないかな? 私はインスタントダンジョンを極めてみるよ! 後でみんなに自慢するんだ!」
おお、渡りに船だ。
そういう楽しみ方もあるよな。
難易度を上げると最終的に良い装備が手に入ったりさ。
「がんばれよ」
「私も紡さんと一緒にがんばります」
元々戦闘が得意な二人だ。
やる気はあるんだろう。
出来れば俺みたいな半端な型よりも、もっと戦闘向けの人達が数人居ればより効率よく回れるんだろうけど。
「そんな訳で硝子さん、行こう」
「ええ」
と言う訳で硝子と紡はペアでダンジョンの攻略をしていった。
なんか俺が数日休んだだけで目に見えてLvが上がって行っている。
話によるとダンジョン内の安全スペースで休憩を取り、再開、を結構しているそうだ。
ダンジョン内の時間と外の時間は別計算だから、やり込めばレベル上げ的には美味しいだろう。
時間感覚の違いって馬鹿に出来ないなぁ。
もちろん限界はあるみたいだけどな。
そうそう、しぇりるがエレベーターの修理を終えた所でダンジョンの入り口にエレベーターが出現していた。
良い狩り場なんだとは思う。
硝子と紡がダンジョンの攻略に集中している様に、俺も倒すべき敵をそろそろ仕留めなきゃいけないな。
ロミナに頼んでミラカ結晶で釣竿を作ってもらい、釣りの技能も向上させた。
そしてしぇりるが作ったモーターリールをセット。
浮も付けたし、針も素材にこだわった。
餌は島で採れる芋を練った物に、ダンジョンで見つけた光る苔を練り込んで水に入れると発光する様にしてある。
時刻は夜……あの淡く光るルアーを目印に、主を引き摺りだしてくれるわ!
「とう!」
俺はロッドを握り締めて池に向けてキャスティングした。
主よ。今度こそお前の姿を見てやろうじゃないか!
釣り上げるのに妙に技術や道具が必要なその姿をな!
リールをゆっくりを回しながら……仕掛ける。
この島に来て、光のルアーを無くしたあの時から俺は、フィッシングマスタリーの上昇に力を注いでいた。
全ては、この時の為に!
くいっと竿をしならせて、あの主への挑戦状を送る。
他の雑魚等、即座に釣りあげてくれる!
「ペーン!」
ええい! 最近は釣れなかった癖に釣れる様になったとはどういう事か!
邪魔だペックル! お前はお呼びじゃない。
わかるか? 最近バリエーションが増え過ぎて違いがわからないんだ。
まあいい。
硝子がダンジョンに潜っている今こそ、釣りに集中する時!
再度キャスティング!
チリリ……と、ゆっくりとリールを回して感覚を研ぎ澄ます。
光のルアーがゆらりと水面から動いて見えた。
……今だ!
竿を上げると、ビクンと大きくしなった。
前にヒットした時とは大きく異なる手ごたえ!
糸が切れる気配は無い。
が……なんだこの引きは! 化け物か!
巨大イカさえ釣り上げたこの俺が、引きの強さに負けて池に引きこまれそうだ。
「ぐぬぬ……ここで負ける訳にはいかない!」
俺の光のルアーを返してもらおう。
右へ逃げる主に合わせてロッドを左へ、左へ逃げる主に合わせて右!
岩や流木に引っかけようとしても無駄だ!
糸を切ろうとしてもこのロッドとリールに付属する糸の強度は馬鹿にならないぞ!
しかも今回はモーターリール!
ドリルと同じく俺のエネルギーを燃料に……高速で巻き取りをしてくれる。
さあ……根競べだ。
俺のエネルギーが尽きるか、お前のスタミナが尽きるか!
一騎打ちだ!
そうして俺は一人、夜の池で主と戦う!
「あー絆くん、良い夜だね。こんな夜は月でも見ながら夜景でも……」
ロミナがそんな勝負をしている最中の俺の所へやって来たらしい。
「ふぬぬぬ……絶対に負けないぞ!」
「……お楽しみ中の様だ。後日誘うとしよう。釣り人と言うのは最前線で戦う者達の様に熱い人種の様だ」
楽しげに格闘する俺を見て、足早にその場を去って寝たらしい。
「はぁああああああああああ!」
ギュイイイイインっと音を立てて、モーターリールが高速で糸を手繰る。
長時間の格闘の結果……。
「フィッシュー!」
思わず叫び声をあげて俺は……光のルアーを盗んだ泥棒主を釣り上げる事に成功した。
ザバァッと水しぶきを上げて、主の大きな巨体が水面から飛び出した。
俺は不敵な笑みを浮かべていたと自分でも確信する。
やっと……釣り上げたぞ!
さあ、どんな顔をしているか見てやろうじゃないか!
「うお!」
釣り上げた主の姿を見て、俺は声を漏らすと同時にツッコミを入れたくなってしまう。
「巨大イカよりも引きが強い理由が納得いかん!」