しかし、残念だったな。
シュンと……海岸にアルトが瞬間移動した。
「な、何! 逃げられない!? うわあああああああああああ!」
「ニゲニゲムダー!」
「エスケープキャンセルー!」
「トウボウニゲー! ニゲニゲー!」
逃亡を試みるアルトをロミナ達は器用に先回りして追いかけ、またも囲む。
「逃走不可のデスペナがありそうな場所に固定なんて……運営は何を考えているんだ!」
あ、運営に文句を呟いている。
気持ちはわかるが、そうじゃないだろ。
「ワルサワルサ!」
「カルマカルマ!」
「アクダンダクダン!」
「ま、まさかマナー違反をするプレイヤーを閉じ込める監獄だとでも言うのか! 僕は悪い事をしていない! 出来る事をしたまでだ!」
ああ、そう言う考えに行く訳ね。
つーか……運営がこれを見てたら厳重注意しそうだけどな。
もちろん俺達の方を、だが。
「ウホッホー!」
「ハッホッホー!」
「イヤッホー!」
で、三人掛かりでアルトを槍で突き始める。
ダメージは入らないけどかなり鬱陶しいし、動きが封じられて嫌だろうなぁ。
というかコレ、普通にハラスメント行為じゃないのか?
そのまま再度鍋の方へと誘導されて行く。
「く……だ、誰でも良い! 助けてー! もう金儲け第一主義で行くのはやめるから! 運営、許してー!」
アルトの叫びが木霊した。
割と拷問に弱いな、アルトって。
怖がりだし……運営の作った収容所とか思っていたのだろうか?
まあ、潮時かな?
「もう少し人を選んで商売するかー!」
「はい!」
「ならば一度だけ見逃してやろう! 感謝するのだぞー!」
「ありがとうございます! え!?」
ロミナがそこで仮面を外してしぇりるとと紡と手を叩き合う。
「いたずら完了!」
「復讐完了!」
「ミッションコンプリート!」
ホント楽しそうだな。
「ろ、ロミナくんじゃないか! 一体どうしてこんな所に!?」
俺と硝子は太鼓を叩くのをやめて葉っぱで作られた囲いから出る。
「よ、アルト! 随分と稼いでいた様じゃないか。お前いろんな方面から恨みを買い過ぎだろ」
「君までいるのか!? まさか」
ここにきて嵌められた事を理解したアルトの顔が真っ赤になる。
おー相当イラ付いているな。
それにしてもVRの技術はここまで感情を表現出来る様になっていたのか。
とは言え、やられるだけの事をしているのもまた事実だ。
「まったく……こんな真似をして、一体何のつもりなんだ!」
「アルトを驚かそうと提案したのはロミナ達だよ。俺じゃない」
少なくともアルトを呼ぶ発想は俺には無かった訳だしな。
普通に闇影を呼んでいたと思う。
「わからないはずはないだろう? 君だって前線組に絡まれて困った時もあるだろうに。金さえもらえば何でも売る事への嫌がらせさ」
「……はぁ。これもまた商売経験という訳だね。手広くやると恨みを買い、思わぬ嫌がらせを受けると……勉強というか、今後の参考にするとしよう。ゲーム以外でもありそうな事案だ」
おお、物分かりが早いな。
さすがは死の商人。
ディメンションウェーブをやったのも何かその辺りの理由が絡んでいるんだろうか。
「少々いたずらが過ぎる様な気もしますけどね」
「硝子くんまでいるとは……帰還アイテムは強制セーブだし、しっかりと理由を説明してもらえないかな?」
アルトは硝子を見た後、俺に視線を向ける。
「ああ、実はな――」
俺はアルトに島に来てからの出来事を説明した。
「なるほどね……謎の消息不明事件は君達が犯人だった訳か」
「あーそれって硝子さんやしぇりるさん、ロミナさんが行方知れずになったって話の奴でしょ」
「そうだよ。巷の噂という訳じゃないが、僕の経験談も織り交ぜて、余り道筋から逸れた真似をすると謎の行方知れずになると噂になっているんだよ。運営に強制ログアウトさせられたとか、本物の幽霊船でその騒動に関わった者を一人一人引き入れているんだとか……ゲームとは思えないなんて怪談と化しているよ」
「ディメンションウェーブの運営がそんな細かい事で騒ぐのか?」
運営の所為で俺はかなりの被害を受けているんだぞ。
何日ここにいると思っているんだ。
「さてね。後は闇影くんに付き纏う黒い噂に尾ひれが付いたのも理由だね。僕も関わりたくないと思ってしまったくらいだ」
「闇影? どう言う事だ?」
「ふむ、まずは絆くんの消息が掴めず連絡も出来ない状況。次に硝子くんが忽然と行方知れずになった……それからしぇりるくんだ。よーく考えてみてほしい」
リミテッドディメンションウェーブというミニイベントを達成したリーダーの姿が消え、次々とその時のメンバーの消息が掴めなくなる。
ホラー染みているな。
「しぇりるくんまでは良かったんだよ。また何かのイベントに巻き込まれているのかな? とね。だが……予測を裏切る自体が発生した」
「予測を裏切る自体?」
まあ、オレが行なった事から大体想像は付くが……。
「次がロミナくんだ。ほぼ無関係な人物が消えたんだ」
「あー……まあ」
それは事故な。
本人には許してもらえたから。
「噂を好む連中は揃って騒ぎ立てるし、ゲームだろうと恐怖を感じるさ」
「ネットゲームって昔からこの手の怪談あるもんね」
ああ、確かに。
現実のプレイヤーが死んでもログインしている~~とかだろ?
VRが出てからはそういう都市伝説も昔より増えた気はする。
「何かが起こっている。自然と犯人候補として絆くんと同行していたメンバーに注目が集まるのは自然だろう? 紡くん、闇影くんと僕にね。ついでを言えば次の被害者は紡くんだった」
結果、アルトは上手い事立ちまわって、注目は闇影に集まる。
酷い話だ。
「そう言えば闇ちゃんと一緒に狩りしてたな」
硝子と一緒に俺探しを手伝っていた闇影。
硝子が消えた後はしぇりるの所に厄介になり、しぇりるが消えた所でロミナが保護をしていたが……そのロミナまで消えた。
その後、紡と行動を共に……で、紡が消える。
いやぁ……うん、なんていうか、うん……。
「オンラインゲームでプレイヤー間で呼ばれるなんてまず無い、珍しい二つ名を彼女は得たよ。いや、そんな事あるんだね」
「ほう……死の商人という二つ名を持つ人物を俺は知っているけどな」
「ダメージキングの二つ名を持っていた君には言われたくないな」
「はは、二度目の波が起こった所で返上しただろ。死の商人程じゃないさ」
「薄ら寒い会話ですね」
俺とアルトの攻防に硝子を初めとした、周りの連中が目を細めている。
くそ、何故か俺の評価まで下がっているじゃないか。
ともかく、なんか会話をして誤魔化そう。
「あれだ、アルト。南国の島でハーレムだぞ? 最高に金持ちっぽくないか?」
アルトだけ男キャラクターなので事実上ハーレムの完成だ。
特に意識していた訳ではないが、結果的にそうなった。
「……」
俺の言葉を聞いて、アルトは周囲を眺める。
現地民の格好をしたロミナ、しぇりる、紡、そして俺と硝子。
「こんなハーレムは嫌だ」
地底湖
アルトはハーレムは嫌ときっぱりと言い切った。
うん、わかる。
なんか嫌だよな。
ハーレムするにしても色気の欠片もないしな。
グラフィックの関係でみんなそれなりに美形なはずなのに。
というか、直前まで自分を罠にハメていた奴等をそういう目線で見れたら、そいつは相当大物だと思う。
フラグだって折れるわ。
「そもそも僕は……いや、なんでもない」
なんだ? 何を言い掛けた?
まあいいか。
「ともかく、一人は堂々とネカマ宣言しているじゃないか!」
「うるせーな! 俺だって好きでこんな姿やっている訳じゃない!」
主にリアルな妹の所為なのだ。
リアルな姉も絡んでいるらしいが、現在追及出来る場所にいない。
そのリアルな妹は『でへへー……』って顔してやがるしよ。
次に問題を起こしたら橋から落とすぞ。
「で、闇影に付いた二つ名って?」
「死神さ。他に垢BAN監視者だ。彼女の前で悪さをすると強制ログアウトさせられるとまことしやかにささやかれていたよ」
「アイツが喜びそうな二つ名だな」
死神、闇影!
絶対喜ぶだろ。
その意味は謎の行方不明を誘発するプレイヤーとしての名だったら嫌だとは思うけどさ。
幽霊船であんなに脅えていた訳だし。
運営が闇影を驚かそうとしている様にしか見えない。
運営の玩具って二つ名が付かなくて良かったな。
まあ大体俺の所為な気もするが。
「昨日、闇影くんが僕の店に押しかけてきてね。厄介事に巻き込まれるのは御免だと、どうにかして追い出そうと思ったけど、頼る相手がいないと泣きつかれてやむなく一晩泊めたらコレだよ」
うはー……闇影凄い事になってんな。
島で必要な人材を順番に呼んで行ったらこうなったとは……すまんな闇影。
次こそお前を呼んでやるからな。
ちょっと悪戯心が湧いて、もう少し怖がらせてやろうかな、などと思わなくもないが、さすがにそこまでするつもりはない。
しかし、なんだかんだで闇影を泊めてやったり、アルトも良い所があるじゃないか。
「で、君達が僕を呼んだという事は……非常に迷惑だけど、何かあるんだろう?」
「話が早くて助かるな。死の商人アルトくん」
職人と商人が若干睨みを利かせながら話を再開する。
闇影の件は理解したけど、アルトを呼んだ直後に人を呼べるはずは無い。
今はやる事をやって行くしかないか。
ロミナと俺はペックルの管理とショップの利用をアルトに説明した。
「なるほどね。開拓業務の委託って訳か……確かに僕向けの案件だ」
「やってくれるか?」
「やらなきゃ島から出られそうにないからね。確かに少々やり過ぎた気はしてきたし、前線組も伸び止まりの空気が出ていた。絆くんはビジネスチャンスを良く持ってきたし、密航の件もある。協力しようじゃないか」
という訳でアルトが開拓業務の手伝いをしてくれる事になった。
面倒なペックル関連を全て押し付けて、これからはやりたい事が出来る。
「とりあえず、このペックルというNPCキャラクター達の世話に関してだが……」
俺が渡したペックルカウンターにアルトは目を通す。
「ふむ……ローテーションを分けるのが良さそうだね」
「そのくらい俺もやっていたけど?」
「君の事だから大雑把だったんじゃないか?」
「いや? そう言う訳じゃ……」
「ペックル個人で上がるストレス値は個体毎にバラバラなのかい?」
「お兄ちゃん、根気はあるけど細かくやっていかないもんね」
紡が追撃をして来やがる。
うるさいな。
ローテーションくらいはわかってるけど、個体毎に纏めるのは面倒なんだよ。
ついでにこのゲームは攻略サイトが無いから自分で考えるしか無いのも理由だ。
「とりあえず僕が絆くんの代わりにペックル達の運用をしてみるよ」
「任せたぞ、アルト」
「……本来は絆くんがやらなきゃいけない事なんだって事をわかって欲しいな」
「俺はこれから釣りをしてペックル達の食糧問題の解決に乗り出すよ」
何か言われそうだが、食料が足りないのも事実。
勢いで押し切りたい。
「面倒を完全に押し付けている様に見えるんだけど?」
「そ、そんな事はない。食料も重要な仕事なんだ」
「……まあ、確かに食料に関して心もとないのは事実だね。正直、この状況で城の建築なんてするのは確かに無謀だよ。単純にペックルの経験値と生産力、食料が釣り合っていないし、誰かが確保した方が今後の為だ」
だよなー釣り必須だよなー。
アルトが溜息を漏らす。
「ダンジョンで得られる物資も魅力的なのは確かだ。出来る限り最下層を目指すのも間違いは無い。そういう訳でペックルの管理は僕に任せて、みんな各自作業をしていてくれ。僕は僕なりにペックル達を見ておくから」
そんな訳でアルトにペックルの管理を任せてみんな各々やりたい事を再開した。
俺は硝子と紡を連れ、ダンジョンに挑む……訳では無く、エレベーターを使ってさっそく地底湖へと向かう。
「ほんじゃ硝子と紡、攻略は任せたぞ。俺は俺でペックルの食料確保をして来る」
「ほい! 任せて!」
「いってらっしゃい。私達も出来る限りの物資を集めながら潜って行きます」
そんな訳で地底湖にさっそく到着。
「おおー」
見上げると洞窟の天井、鍾乳洞的な雰囲気のある場所で、綺麗な水がこんこんと湧き出している。
しかも水中が淡く光っていて、なんて言うんだろう? かなり幻想的だ。
いろんな色合いに水が光る。
一番大きな湖は水深も結構あるようだ。
泳ぎの技能があったら素潜りも出来るんだろうな。
「じゃあさっそくレッツフィッシング!」