本来であれば盾スキル持ちが一人はいないと狩りとして成立しないが俺達の総エネルギー量が適正よりも高い事。扇子の攻守一体、武器破壊がダークネスリザードマンと相性が非常に良い事などを加味してソロでも十分に許容範囲である、という理由から『常闇ノ森』を選んだそうだ。
「聞いた限り解体武器とは相性が悪そうだが良いのか? 下手をすると寄生してしまうかもしれないぞ」
まあ既に半分寄生している様な気もしなくもないが。
今までは一応武器相性が良かったのでダメージの通りが良かったのも理由だがな。
「例の『アレ』もありますから。絆さんが役に立たないなんて事はございません」
「そうか、例のアレか」
無論、解体の事だ。
確かにあまり狩る人がいない狩り場のモンスターが落とす素材なら、金銭的に潤うのは計算しなくても分かる。ドロップ品によっては元素変換するという手もあるので、考え無しに誘った訳では無さそうだ。
「じゃあ引き続きよろしく頼む」
「こちらこそよろしくおねがいしますね」
そう言って人が沢山いる場所で硝子は大きくお辞儀をした。
闇から這いずる影
「クレーバー!」
俺がそう叫ぶと鉄ノ牛刀が赤色に光る。そして遠心力が発生してダークネスリザードマンへと勢いを付けて切り掛かった。
――ドサッ。
そんな音と共にダークネスリザードマンの右手と一緒にハーフ&ハーフソードが地面に突き刺さり、攻撃力を減退したダークネスリザードマンに追撃を掛ける。
するとダークネスリザードマンは咆哮を上げる間もなく倒れた。
「一匹倒した。硝子、そっちは大丈夫か?」
「問題ありません! 乱舞二ノ型・広咲!」
スキルを使う前から発光していた硝子の扇子が開き、花弁が舞うかの様なエフィクトと共に二匹のダークネスリザードマンを切り裂く。
片方は崩れ、もう片方はハーフ&ハーフソードを硝子に向ける。
刃を扇子で受け止め、バキンという音を発てて武器破壊を発生させる。
「充填……」
硝子が呟くと扇子が薄く白色に光り始める。
その間も硝子はダークネスリザードマンに扇子の突きを入れてダメージを与える。
加勢しなくても問題無いだろうが鉄ノ牛刀で横からダークネスリザードマンに切り掛かる。丁度硝子の打撃と重なり、ダークネスリザードマンは倒れた。
「絆さん、お怪我はありませんか?」
「ああ、問題ない。思いの他戦えている。さすがに二匹同時は無理だがな」
一度ダメージを受けているが一応無傷だ。
ダメージよりも獲得エネルギーが勝っているので無傷と例えて差し支えないだろう。
その間も硝子の扇子は発光を強めている。
これは扇子の効果だ。
扇子の攻撃スキルは溜めが必要なものが多い。
平均10秒から3分間溜めて硝子は使っている。蓄積時間が長ければ長い程発光も強まって、威力も増す。その間にモンスターの攻撃を防ぎ、通常攻撃を織り交ぜながら交戦するのが扇子の戦闘スタイルだ。
難点を挙げるなら攻撃も防御も中途半端という事か。
攻撃スキルは範囲系が多いのでダメージが低く、防御は盾には劣る。
「じゃあこいつ等を解体する。敵が湧いたら護衛を頼む」
「わかりました」
俺は倒れたダークネスリザードマンに鉄ノ牛刀をそのまま向け、鱗から順に剥がしていく、そして効果が切れている事に気が付き小声でスキル名を呟く。
「高速解体……」
すると解体速度が上昇する。更にスキル説明には記入されていないが、二つ隠し効果がある。一つは解体成功率にも補正が発生する。早く解体している割に取れる量が使用前後で差が無いのはその為だ。
もう一つは解体武器を使っている際に少量だが身体が軽くなる。
解体速度とやらが攻撃速度と同カウントという事なのだと判断している。
ともかく死体が三つもあるので急がなくては。
そんなに直に新たな敵がやってくる事は無いが急ぐに越した事はない。
――ギンッ!
敵の攻撃を扇子で防ぐ金属音が響く。
硝子の方では既に戦闘が始まっている。
予測よりも敵が早く湧いた。急がなくては。
敵が三匹以下なら解体を続けると事前に決めてあるので俺は解体に集中する。
これが解体武器の仕事だとは理解しているが、焦りはある。
だが今は自分の仕事を全うするだけだ。
「終わったぞ。そっちは…………大丈夫だったみたいだな」
三匹の解体を終えた頃に丁度硝子が戦っていたダークネスリザードマンが倒れた所だった。俺は何か言われるまでもなく、そのまま解体作業を始める。
「エネルギーの調子はどうですか?」
「そっちこそ頻繁にスキルを使っている様だがどうなんだ?」
「私はエネルギー生産力がⅩですから、この程度の量ならば問題ありません」
俺よりも二段階ランクが高い計算だ。
さすがは元前線組。取得スキルも良いのが揃っているな。
その間も手を動かしアイテムを確実に手に入れていく。
「ふぅ……」
敵の波が止み、解体するモンスターもいなくなったので軽く深呼吸する。
周囲は深い闇の森だ。
硝子が持って来た提灯の灯りが唯一の光源で星の光一つない闇の世界。
そんな深い森の中で一本道の洞窟を陣取って狩りをしている、という状況だ。
これもかれこれ2時間近く続けているので大分慣れてきた。
「絆さん、疲労は大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
「無理は禁物ですからね? 私達は魂人なんですから、些細な失敗が命取りになります」
「これ位なら別のネットゲームで紡に付き合わせられた事に比べれば楽なもんだ」
「わかりました。では、もう一時間程続けて様子を見ましょう」
ダークネスリザードマンは硝子の話通りかなり美味しい。
撃破数も多いので獲得アイテムも膨大だ。それでいて人も見かけない。
硝子のおかげという部分が大部分を占めているが安定して狩れるのも良い所だろう。
無論、視界が悪いのが最大のネックだ。しかしこれなら夜目を取得するのも検討に入る位にはエネルギー効率が良い。
尚、既にエネルギー総量2万を超えた。このまま増えてくれれば良いんだがな。
「…………?」
「どうした? 何かあったか?」
不思議そうな表情をする硝子。
こんな顔を見るのは初めてなので気になって訊ねる。
「いえ、何かおかしな音がするので気になりまして」
音?
言われて俺は耳を澄ませてみる。
無論、その手のスキルを取得していないので音に変化はない。
が。
――ザ、ザ、ザ、ザ、ザ、ザ。
確かに何かが走る様な音が聞こえてくる。
「……そこです!」
硝子が何も無い場所に扇子を振るう。
そしてバチンという音と共に半透明な物体が黒煙と共に姿を現す。
「待ってくだされ! 自分は外敵ではござらん!」
言い訳と共に頭からすっぽりと黒装束を身に纏った忍者みたいな奴が現れた。
おそらくは潜伏だとかハイディングみたいなスキルに違いない。
にしても『ござらん』って俺が出会う奴はどうしてこうロールプレイヤーが多いんだ。
「そんな言い訳が通用する状況だとは思えません。言いなさい。何が目的で私達に接近したのかを!」
「誤解でござる! 自分はボスモンスターから逃げていただけでござる!」
「そんな言い訳が通用する状況だとは――」
硝子が前後のセリフと同じ事を言ったので以下略。
ともあれ妙に敵愾心を抱いている硝子を説得して黒装束の話を聞く態勢を整える。
「ともかく話位聞いてやろうぜ。な?」
「絆さんがそうおっしゃるなら……」
なんとなく普段と違う反応を示す硝子に好感を抱きながら黒装束に向き直る。
「それで? どうして隠れていたんだ?」
「違うでござる。隠れていた訳ではござらん。先程も口にした通りボスモンスターに追われていたのでござる。自分は闇属性装備の素材を集めていたでござるが、運悪く遭遇してしまったでござる。そして逃げていたでござるが、潜伏スキルを使うとボスでも反応が少し鈍るのでござる」
「ふむ。お前の話が真実だと仮定して、そのボスモンスターはどこにいるんだ?」
嫌な予感しかしないんだが一応訊ねる。
「この洞窟の目の前でござる」
「やっぱりか……」
最初の言い訳を聞いていた時から、その可能性については考えていた。
洞窟の先を恐る恐る眺めてみても闇が一帯を支配していて良く見えない。
「自分、夜目を取得しているので見えるのでござる」
「なるほど。じゃあボスがいるとして、これからどうするか、だ」
都市帰還アイテム『帰路ノ写本』はダンジョン判定の施されている常闇ノ森では使用できない。そしてここは一本道の洞窟内。逃げ道は一つしかない。
その逃げ道はボスモンスターが占拠している。
「貴方、なんて事をしてくれたのですか! 私達は簡単には死ねないんですよ!」
珍しく硝子が慌てている。
そう、俺達スピリットは死ねない。
死ねばエネルギーが0になり、大きく弱体化してしまう。
言うなれば全レベルダウン。
落ち着いて考えているが、内心では相当焦っている。
下手をすれば今日の分所かこれまでのエネルギーを全て失ってしまう。
何か良い手段は無いか。
「それは自分も一緒でござる! 自分は死ねないのでござる!」
「待て。俺達は分かるが何故お前まで死ねない。他の種族ならちょっとしたデスペナルティがあるだけでそこまでマイナスにはならないだろう」
「自分、スピリットでござる故」
「…………」
俺は手を額に当てて仰いだ。
少ないと噂のスピリットがどうしてよりにもよって、こんな過疎ダンジョンに三人も集まっているのか。どれだけ奇跡的な確率だって話だ。
「俺達もだ」
「なんと、同郷の者でござるか!?」
「同胞の方に出会えたのは嬉しい限りですが、できる事でしたら別の場で出会いたかったです」
「同感だな」
言葉通り可能ならばこの黒装束とは別の機会に出会いたかったよ。
どうでもいいが、三人そろって『同』って言葉使い過ぎじゃないか?
「しかし今は辛酸を飲み込んで耐えましょう。今私達に必要な事は責任の押し付け合いではありません。この危機をどう乗り越えるかです」
「そうだな。硝子の言う通りだ」
何か策を講じるにしても簡単な手段がボスに通じるとは思えない。
曲りなりにもボスだ。硝子はまだしも俺は解体武器という致命的な武器を使っている。
正面からの戦闘で勝利できると考えるのは明らかに無謀だ。
まして目の前の黒装束を期待するのも無茶な話だ。
何故なら、こいつはボスから逃げてきたのだから。
「この罪、死を持って償うでござる!」
「それがダメだから考えているんだろう?」
「幼子殿……」
……おい。幼子ってなんだよ。
少なくとも小学生程度だろう? キャラクター的にさ。
「絆だ。幼子はやめてくれ」
「これはご丁寧に。自分、闇影と申すでござる」
「……忍者か?」
「忍者って実在したんですね」
「いや、これゲームだからな?」
「そ、そうでした……」
ともあれ俺達は簡単な自己紹介を済ませる。
黒装束の名は闇影。
かなりステレオタイプの忍者をロールプレイしていると思われる。
オレっ子ネカマ、和風敬語少女、ござる忍者。
……なんて痛い連中なんだ。俺達は。
「ボスはまだ洞窟前にいるのか?」
「移動する気配すらござらん」
「確認だが、モンスター名を言えるか?」
俺は視線だけを硝子に向けると直に硝子はこちらの視線に気付いた。硝子は相手の目をガン見で話をするからな、こう言う時は便利だ。
付き合いは短いが意思を伝える事だって無理ではないはず。
問題は、視線を送っているのに不思議そうに『?』マークを浮かべている事だろうか。
こりゃダメだ。
まあ俺達は今日出会ったばかりだからな。目と目で通じ合うなんて普通に無理だよ。
ちなみに何を伝えたいかはボスモンスターの名前は合っているか、だ。
闇影が嘘を付いているとまでは言わないがスピリットである俺達をMPKしようとしている、なんて最悪な可能性だって0じゃない。
「リザードマンダークナイトでござる」
「訊ねるまでも無いと思うが、三人で勝てるか?」
「不可能でしょうね」
「無理でござろうな」
三人で勝てるならボスとは言わないよな……。
何よりネットゲームのボスは異常に強いと大昔から決まっている。それこそ何十人と揃って初めてまともに相手できる。それがネットゲームのボスって存在だ。
しかし、そうなると数える程しか手段がなくなってくる。
残念ながらどれも期待は出来ない賭けレベルの手段だが。
「なんでも良い。この場を潜り抜けられる手段、思い付かないか?」
「逃げるというのはどうでござろうか」
「お前はそれで命からがらここに逃げてきたんだろ? 目の前を通過して逃げ切れるか?」
「無理でござるな」