破壊した部位はアイテムにならない。普通に割れている鱗を使用はできないよな。
「なんと……」
闇影が驚きの声をあげる。
ボスモンスターだからか解体で手に入る量が巨大ニシンと同じ位多かった。
きっと巨大ニシンは釣りに分類されるボスなのだろう。
「これは一体どういう事なのでござる? アイテムが増える? 解体武器はドロップ品が増えるのでなかったのでござるか?」
「あれは武器解説の説明不足です。真実の力は解体武器を化け物に使う事で道具が手に入るのです」
「自分、今日程驚いたのはこの世界で初めてでござる!」
余程驚いているのか、あるいは演技過剰なのか、闇影は興奮気味な言葉を吐く。
まあ世間に公表されたとしても、これ等のボス解体アイテムを早めに売ったなら十分稼げるさ。
「では、自分はこの事実を秘匿すれば良いのでござるな?」
「は?」
「見た所、絆殿も函庭殿もそれを秘匿しているご様子。命を救ってもらったという恩を返す為、自分墓場まで持っていく所存でござる」
「ま、まあそうしてくれるなら嬉しいが……」
そういえばこいつは俺達を殺しかけたんだった。本人は反省しているみたいだがな。
実際隠してくれるというのなら問題ない。
「それで物は相談なのでござるが」
「なんだ?」
「自分をパーティーに加えてはもらえぬでござるか?」
「……理由は?」
「自分、これまで一人でやってきたのでござる」
「そうなんですか?」
不思議そうに話を聞いている硝子。
そりゃ、あんな特殊なスキル構成だったらパーティーに入れないだろうよ。
思わず突っ込みたい衝動をグッと堪えながら話を聞く。
「己で口にするのは憚られるでござるが、自分、コミュニケーション障害なのでござる」
「…………?」
……なんだって?
残念ながら、とてもそうは見えない。
少々ロールプレイがきついので嫌いな人は嫌いだと思う。だが、そういうプレイが好きな人も沢山いる。少なくとも俺が出会ったアルトやロミナなどは問題なかった。
「今まで幾度とパーティーに入ろうかと考えたでござるが、結局話しかけられなかったのでござる」
「それは……大変でしたね」
なんか硝子が丸め込まれ始めている。
言ってはアレだが、その頭では現実で詐欺に遭いそうだぞ。
「質問良いか?」
「どうぞでござる」
「コミュ障害な割に俺達と普通に話しているが、そこはどうなんだ?」
「忍者言葉を話す事でどうにか話せているのでござる」
どんな理屈だ。
もう少し上手い言い訳をしてくれ。
「内心では今ですらビクビクなのでござる」
「まあ! 絆さん、彼女と共に参りましょう。私達は魂人同士なのですから!」
なんだろうな。この感覚。
あれだ。詐欺に遭った友人に高額な壷を売られている気分だ。
ま、まあパーティーを組むのはこの際良いが……ん?
「今なんて言った?」
「私達は魂人同士なのですから!」
「その前だ」
「彼女と共にしましょう、ですか?」
「そうだ、それだ。彼女?」
全身黒装束で、忍者みたいな格好をしている。なので今一外見が分からない。
口元も黒い布地で覆われているので声も判断し辛いし、どうなんだ?
「人前で素顔を出すのは恥ずかしいでござるが、共に戦うかもしれぬ身。自分の顔を見て欲しいでござる」
そういって頭まですっぽりと覆っていた布地を取ると……。
――銀髪美少女がそこにいた。
パーティー結成
「これから自分の事はダークシャドウと呼ぶでござる」
常闇ノ森から第二都市に帰還して第一声、闇影がそんな事を言い出した。
「はぁ?」
思わず、俺はそう返していた。
こいつは一体何を言っているんだ?
結局硝子の勧めで闇影はパーティーに加わる事になった。
その為なのだろう。かなりテンションが高い。
これもハイテンションがなせる技。典型的な中二病を発揮しているに違いない。
「わかりました、ダークシャドウさん」
俺は真顔でそう返した硝子へと視線を向ける。
なんていうか硝子って冗談とか通じなさそうだよな。
「わかったよ、ダークシャドウ。これから頼むぞ、ダークシャドウ」
「……」
「どうした、ダークシャドウ。何故黙っているんだ、ダークシャドウ。返事をしてくれ、ダークシャドウ。何か気に障ったのか、ダークシャドウ」
まくし立てる様に連呼すると闇影は慌てて訂正する。
「じょ、冗談でござるよ。普通に呼んでくだされ」
「そうか、じゃあこれからは闇子と呼ぶ事にするよ」
「では、私も闇子さんで」
「子はどこから出てきたのでござる!?」
そんなのお前が女キャラクターだったというギャップからだよ。とは言わない。
全身黒装束に靡く銀色の髪。
なんていうか、普通にかっこいいじゃないか。
しかも物理的な忍者ではなく、忍法を意識したジャパニメーション的忍者。
少々イロモノ感はあるが、俺は好きだぞ。
「そういや、さっきは言わなかったけど、パーティー組むにしても毎時間マイナス3000を補う程の狩りを期待するなよ? 俺は解体武器だし、硝子は扇子なんだから」
「問題ないでござる。既にドレインのランクは下げたでござる」
「おい、自分のアイデンティティ失ってるぞ」
「もちろん自分はこれからもドレイン一筋で行くでござる。しかし、主君である絆殿に仕える身としては絆殿の役に立てる身になるでござるよ」
「なんだって?」
なんか突然、主君だのなんだの言われたんだが。
ていうか、こいつがコミュニケーション障害なの、なんとなく分かるわ。
自分の中でしか分からない話を突然言い出す。
それを察する方としては少々厳しいが、一度パーティーを組むと言った以上、問題がなければ一緒にいる事になる。
「そういえば、俺達って臨時パーティーに近い感じだったはずだけど、この流れは固定パーティーで行くって事でOKなのか?」
「絆さんがよろしければ私、函庭硝子はこれからも共に参りたいと考えています。どうでしょうか? 私達三人は皆、魂人です。少々の問題でしたら他種族の方より、よろしいと思うのですが」
「自分は絆殿と函庭殿に救われた身、お二方の影となるのが使命と心得ているでござる」
二人して似た様な話を、小難しい言い方で捲くし立ててくる。
ていうか、なんで二人とも和風っぽいんだよ。
「なぁ。俺が空気読めないだけなのかもしれないが、お前等って知り合いだったりしないか? 最初から仕組まれていた様に見えるのは俺だけかな?」
ほんの一日でスピリットが二人もパーティーに加わった。
どちらも何故か個性的なロールプレイとスキル構成。
いや、俺がまるで違うとは言わないが、これからやっていくのに一抹の不安が残る。
もちろん『良い意味』での不安だが。
「絆さんの言葉通り、仕組まれていた様に魂人の私達が集まりましたものね。まるで運命に呼ばれる様でした」
いや、運命って……ちょっと恥ずかしいぞ。
まあパーティーメンバー全員がスピリットなのは少し優越感に似た嬉しさがあるけどさ。
「全体人口では少ないでござるが、絶滅危惧種という程でもござらんよ」
「へぇ」
「自分は今までドレインを繰り返す日々を送っていたでござる。故に各地を転々としていたでござるが狩り場で同郷の者を何度も目撃しているでござる」
「そうなんですか? 私の周りではあまりお見かけしなかったので、てっきりとても少ない種族なのかと考えていました」
全ての人がネットの裏情報に詳しいとは限らないしな。
その中からスピリットを選んでしまった奴等がいたとしても不思議はない。
中には弱い種族だからと選ぶ奴だっている。それにスピリットの、この幽霊的な半透明感をかっこいいと思う奴は少なからずいると思う。
無論、能力だけで物事を語る奴も世の中には沢山いるが。
しかし闇影の近くで偶に見かけて、前線組の硝子の所では見かけないと聞くだけで、なんとなくスピリットの世間的状況が分かるな。
ちなみに俺が昨日までいた第一都市の海沿いでは極々稀に見かける程度だ。
「まあスピリット同士気兼ねなく付き合えるから良しとして、これからどうする?」
「これからとは?」
「う~ん、この後寝るか続けるかって意味で聞いたんだが、パーティーの今後でもいいな」
既に夜は晩い。
第二都市は個人間で持ち寄った明かりが灯され、夜景を映している。しかし一般的な就寝時間と言えば大多数が頷く0時を回っていた。
「私としては、どちらでもかまいませんよ。早寝早起きと言いますし明日がんばるのも良いと思います。後者の方は私個人では以前と同じ程度の強さには戻したいですね」
「自分は今まで夜間に行動していたので5時位まででござれば問題ないでござる。行動指針の方は特に要望はござらぬので絆殿にお任せするでござる」
そういう意見が一番困るんだよな。
というか、何故俺が決める事になっている。
他のネットゲームではギルドマスターとかやった事あるけど、それもギルドスキル目当ての弱小ギルドだしな。
まあ俺も目的とかある訳じゃないし、硝子の目標に重点を置きつつ行動する感じか。
「ちなみに硝子、前はエネルギーどんなもんだったんだ?」
「5万程でしょうか」
「す、凄いでござる!」
「これでも硝子は元々前線組だったらしいぜ」
「なるほど、函庭殿は我等が師でござったか」
「そ、そんな、師と呼ばれる程の実力ではありませんよ」
いや、プレイヤースキル的に十分だと思うぞ。
洞窟にハメていたとはいえ、時折飛んでくる、当ったら唯ではすまない攻撃をしっかりと受け流していたからな。あれはきっと普通に戦っても防いでいたはずだ。
そもそも潜伏スキルで隠れていた闇影を当然の様に見つけたとか。
こう言わせてもらいますよ。
硝子さんマジぱねぇっす。
いや、心の中でしか言わないが。
もちろんステータス的に勝利に持っていけたかは別だ。仲間としての贔屓も入っているが硝子のプレイヤースキルが高いのは今更口にするまでもない。
「じゃあ狩り場とか硝子は知っているだろうし、三人で行ける場所を選んで進むって感じでどうだ?」
「異論はございません。私の意見を汲み取っていただいでありがとうございます」
「自分も問題ないでござる。むしろ沢山の魂を早く吸収したいでござる」
「それじゃあ決まりだな」
ともあれ、ここに俺達三人のスピリットパーティーが結成した。
どうでも良い補足だが、この後俺秘蔵の最高級ニシン食材を使った飯を三人で食った。
効率が良くて、金が稼げて、人がいない場所
翌日。
パーティー結成式という事で最高級ニシンやクロマグロを振舞ったらテンションが上がり過ぎて全員愚痴大会となり、結局酒に酔った訳でもないのに見事に爆睡してしまった。
「で、これはどういう事だ?」
昨日の事を思い出す。
道行く料理人に最高級ニシンを渡し料理してもらった俺達は川原で硝子の提灯片手に料理を啄ばみつつ雑談をした。
スピリットだからなんだっていうんですか、に始まり、コミュ障害で悪いでござるか、自分は誰にも迷惑を掛けていないでござる、だとか、奏姉さんと紡に強制されたネカマプレイへの愚痴を吐きつつも親睦を深めた。
それは良い。そこまでは覚えている。
だが、これはなんだ?
「う……ん……」
「……自分……ほん……は……ござ……なん……言わ……い……」
俺の瞳に映し出されるは浴衣の硝子と下着以外素裸の闇影。
そしてもちろん俺も下着以外素裸だ。
「え? 昨日何があった?」
このゲームは全年齢だ。ゲームの仕様上酒類は未成年に制限されている。なので酔った勢いで過ちを犯すなんて事はないはずだ。無論、いやらしい事だってシステム上再現されていない。
最近噂の18禁ゲームではVR機材を使ってヒロインとのエロ再現、なんて話を聞いた事があるが、そういうゲームじゃないから、このゲーム。
「えっと今何時だ?」
窓から照らす陽光。少なくとも朝日ではない。
カーソルメニューを開くと時刻は13・24。
思いっきり真っ昼間です。
パーティーを組んだ翌日に寝坊とかどんだけ自堕落なんだ、俺達は。
「おい、起きろ! 硝子、闇影!」
そう大きな声で叫ぶと硝子の方が眠そうな眼で体を起こす。
格好を見る限り一人だけ寝巻きを付けている。おそらくは眠った俺達を運んでくれたのではないだろうか。
「おはようございましゅ。絆しゃん……」
「まだ半分眠ってるな……」
前々から思っていたが宿屋のベッドが性能高過ぎる。
少なくとも4、5時間は眠ってしまう。
多分ゲームのやり過ぎに対する不眠対策としての処置なんだろうけど。