一応は元素変換を使ってマグロやタイからエネルギーを増やしてはいるのだが、やはり時給換算にして、どんなに多く見積もっても1000が限界。

もっと漁生活をしていたいが、俺は更なるステップアップの為、陸での戦いを決意したのだった。

どうでも良い補足だが、マグロとタイのアイテムがかなり良い値で売れた。

グラススピリット

――ラファニア草原。

二週間遅い気もするが、俺は第一都市ルロロナの門をくぐった。

そこには蛇の様に長い道と草原が広がっている。

レベル上げを始めるには遅過ぎるのだろう。人の影は無い。

ともあれ俺は一番攻撃力の高い勇魚ノ太刀を背負って歩き出す。

しばらく歩いていると前方にコモンウルフという犬型モンスターを発見した。

俺は背負っている太刀の柄を力いっぱい握ってジャンプ切りをかます。

ズバンッ!

爽快感のある音と共にコモンウルフが真っ二つになって消えた。

「は?」

それにしても一撃で倒してしまうとは、この武器はどれだけ威力があるんだ。

しょうがないので太刀を仕舞って、鉄ノ牛刀を取り出す。

鉄ノ牛刀は刃渡りの大きい包丁といった作りで、威力は高そうだ。

太刀と比べても軽いので索敵も快適になった。

「もう一匹あそこにいるな」

最初のフィールドだけあって、モンスターから攻撃は仕掛けてこない。いわゆる練習用モンスターといった所だな。

「ふん!」

牛刀をコモンウルフに振るう。

さすがに一撃とはならず、コモンウルフのHPバーが四分の三も削れる。しかし喜びも束の間コモンウルフが好戦的な声を上げながら飛び掛ってきた。

「うわっ!」

まだ戦闘に慣れていないというのもあるが、俺は今までVRゲームをまともにプレイした事が無い。子犬とほとんど変わらない大きさだが飛び掛ってきて少し腰が引けた。

「くっ!」

5のダメージが入り、エネルギーが5減少する。確かにこれはエネルギーを稼ぎ辛い。スピリットが弱い種族だと言われるのも納得が行く。

これ以上エネルギーが減らされるのはごめんだ。

もう一度、今度は突き刺す様にコモンウルフに突進した。

すると見事命中し、コモンウルフは地面に倒れ伏せた。

「ふぅ……武器が優秀で助かったな」

初心者用ではこうは行くまい。

更に俺はエネルギーが少なからず多めに持っている。

そういう面も含めて簡単に倒せたに違いない。

「さて……試してみるか」

先程の真っ二つになったコモンウルフと違い、こちらは死体が残っている。

俺は鉄ノ牛刀をコモンウルフに向ける。

魚と違い犬を捌くのは気が引けたが、一応このゲームは全年齢で作られている。過剰な表現は起こらず荒い毛皮、獣の骨、コモンウルフの肉になった。

やはりそうだ。しっかりと解体すればちゃんとアイテムが手に入る。

おそらくこれは解体武器限定の効果だろうが、どうして誰も気が付かないんだ。

普通に誰か気付いてもおかしくないと思うんだが。

まあ良い。しばらくは解体スキル上げも兼ねてモンスター狩りをしていよう。

武器の性能が良いのもあるが、自分の適正狩り場がどの辺りなのかを探りながらフィールドを進んでいると槍を持った緑色の小人……ゴブリンアサルトと戦っている少女が見えた。

遠目だが俺より身長が高い。

まあ俺は誰かさんの所為でロリキャラだ。俺よりチビは少ないだろう。

……思考を戻す。

姉さんより幼く、紡よりは大人に見える。高校生位だろうか。

クラスメイトの女子があの位の大きさなので多分合っているだろう。

リアルでどんな人物かは知らないが。

格好は藍色の和服だ。

金色の模様が描かれており、風情のある容姿をしている。

武器は扇子。

全武器を試したと話す奏姉さん曰く、突きと打撃の攻守一体武器だそうだ。

しかし攻撃する訳でもなく、ゴブリンアサルトと間を取りながら焦った顔をしている。扇子が白色の光を発しているのでスキルが発動しているのは分かるが、進んで攻撃を仕掛けている様には見えない。

気になるな……。

「どうして攻撃しないんだ?」

少女がこっちに気が付く、不用意に声を掛けた所為でゴブリンアサルトが少女に向かって持っていた槍を使って突撃する。

少女はその突きを扇子で間に挟んで華麗にいなす。

普通に強いじゃないか。

少なくとも、俺だったら突きを避けるのは難しい。

「乱舞一ノ型・連撃……」

少女がスキル名を呟くと光っていた扇子の甲の部分でバチンバチンと続けざまにゴブリンアサルトの額にメリ込む。やがて力を失い、地面に倒れ伏すゴブリンアサルト。

『ふぅ』と軽い溜息を吐いた女性。

「貴女。攻撃されたらどうするんですか!」

「すまん。何か不味かったか?」

「普通の種族なら問題ありませんが、私は……あら?」

「どうした?」

「貴女も魂人なのですか。これは失礼しました」

「はぁ」

少女は突然口調を柔らかくして親しげな声を掛けてきた。

「貴女なら分かると思いますけれど、魂人は攻撃を受けてしまうと経験値効率に直結するのです。ですから可能な限り攻撃を受けない様に戦っていました」

「そういう事か」

確かに以前戦ったキラーウイングは本来なら300エネルギー入るはずが550ダメージを受けたので計250も減った。ステータスが全てエネルギーになるとそういう不便さもある。

それにしても彼女。装備は良さそうなのになんでこんな所で戦っているんだ?

「気になりますか? 先日エネルギーが少なくなってしまいまして」

まじまじと見つめていた所為か考えている事がバレた。

「俺に教えても良いのか?」

「別に誰かに話した所で変わる事でもありませんから」

「ふ~ん……」

少女は初日から意気投合したパーティーで戦っていて前線組だったそうなのだが、先日ボスとの戦闘で盾になったそうだ。

スピリットはエネルギーがHPの役割を示すので他の種族よりも圧倒的にHPが多い。なので扇子という攻守一体武器だったのも理由だが前衛として戦ったのが原因でエネルギーを相当削られたらしい。

そして能力が弱体化したと見るや掌を返す様にパーティー離脱を要求してくるメンバーに嫌気が差して自分から抜けて、強くなる為に今ここにソロでいる、という話だ。

「見ず知らずの同胞のお方に愚痴を話してしまい、申し訳ありません。つい気が立っていまして」

話が終わると少女は謝罪の言葉を口にした。

本当にパーティーだった奴等にイライラしているのだろう。

「問題無い。しかしありそうだとは思っていたけど、まさか本当にそんな事があるんだな」

「彼等は外道です。一度とて道を同じくした己が恥ずかしいです」

「その口調はロールプレイか?」

「ロールプレイ?」

「知らないのか? 演技って事だ」

「いえ、普段からこの様に振舞っていますが、何か問題でも?」

「別に、それなら問題ない」

ネットゲームでは珍しいタイプの人だと思う。

無論、最も有力な線はそれすらも演技、なのだが。

「まあ、それならパーティーを組まないか? 同じスピリット同士、多少は理解できるだろう」

「良いのですか? 私はエネルギーが20000ですよ」

「俺も同じ位だ。むしろ丁度良かったかもな。効率の良い狩り場とかも知っているんだろ?」

「ええ、少なくとも第二都市周辺まででしたら」

「じゃあ良ければ一緒に組まないか?」

少女は左手を口元に当てて考える素振りを見せた後、柔らかな笑顔で。

「わかりました。共に参りましょう」

「俺は絆だ。よろしくな」

「私は函庭(はこにわ)硝子(しょうこ)と申します。これからよろしくおねがいします」

随分と綺麗なお辞儀をしたものだから、ついこっちも『こちらこそ』とお辞儀で返してしまった。

ところで『これからよろしくおねがいします』ってお見合いみたいだよな。

やっとヒロインキャラが登場……。

スピリットペア

「前線組にいたっていうのは本当みたいだな」

俺はポツリと呟いた。

戦闘になった際の硝子は先程とは打って変わって鬼人の如く迫力がある。

それもペアになった事による安全度から来る物だと本人談。

何より扇子の攻守一体攻撃の間を縫ってアイアンガラスキで切り掛かるのも楽で良い。

「疑っていらしたのですか?」

「半分な」

「酷いお方です」

「そうは言っても本人の証言だけで、実際に見てきた訳じゃないからな」

「では、今は信じてもらえますか?」

そこは素直に頷く。

扇子は敵の武器を間に挟み、耐久力の低い武器ならば横に力を込める事でポキっと折れる。刀剣類だとその確率が上がる所を見るに剣に対するアンチ武器かもしれない。

しかしそれを実現するには相手の武器を受け止める必要がある。そんな神技を迷い無く防御、武器破壊の流れに持って行く動作がまるで舞っているかの様に見える程、硝子の動きは洗練されていた。

ほんの二週間前までこのゲームの初心者だったとは思えない。

「絆さんはこれまで何を?」

「最初の街でずっと釣りをしていた」

「釣りですか。イワシを頂きましたが美味しかったです」

目を閉じ両手を合わせて俺を拝んでくる。

いや、俺に手を合わせられてもな……。

ともあれ硝子とパーティーを組むと戦闘が安定した。

お互いスピリットなので攻撃を受けない様に戦う配慮も自然とできる。

「そういえば硝子は解体武器で知っている事ってあるか?」

「化け物さんが落とす道具に追加があると聞き及んでいますが」

「そうか」

さて、どうするかな。

俺の周囲にはフレイムコンドルの死体が転がっている。

解体すれば程々に良さそうな物を獲得できそうだが。

何よりも戦闘中にモンスターがやって来ても硝子なら倒しきれる。プレイヤースキルだけなら確実に硝子の方が上だ。安心して護衛を任す事もできる。

……遅かれ早かれ誰かが気付くだろう。ばらされたとしても問題ないか。

「くれぐれも秘密にして欲しいんだが、解体武器には世間で広まっていない隠し効果があるんだ」

「その様なものが……一体どういったものなんですか?」

「ああ、ちょっと見ていてくれ」

俺はアイアンガラスキでフレイムコンドルの右羽根を切り取る。

すると硝子は口を挟んできた。

「絆さん。例え化け物でも死者に鞭を打つ行為は感心しません」

「違う。良く見ていてくれ」

俺は簡単に解体していく。

すると炎の羽。燃える羽根、鳥類の骨、コンドルの肉。

四種類のアイテムに変化した。

「まあ! 絆さんは命を大事にするお方なのですね。函庭硝子、感心いたしました」

「……?」

まるで真逆の事を呟く硝子。

「命を奪うのは……はい。生きているのでしょうがない事ですが、その命を最後まで無駄にせず扱う事は素晴らしい事です」

「そういう意味か」

どこぞの和尚様みたいな事を言ってのける硝子。妙に威厳があって納得してしまった。失礼かもしれないが『お米はお百姓さんが一粒一粒心を込めて――』とか素で言い出しそうだと考えていた。

何気なく当然の様に頷いているが、こういうタイプってゲームとかするイメージじゃないよな。こう、お嬢様校とかで優雅に暮らしてそうというか。

まあ趣味は人それぞれなので文句は言わんが。

「こういう訳で本来の使用用途が伝わってないんだ」

「なるほど。これは予測ですが、解説に問題があるのではないでしょうか」

「というと?」

「はい。解体武器は解説で『武器説明……生物や植物などを解体する為に作られた武器群。モンスターを倒した際にアイテムをドロップする』と記入されていたので、説明不足だったのではないでしょうか」

確かに硝子の言葉通り、あの解説文はちょっと説明不足だ。

あの解説では倒したモンスターが落とす。みたいに通じてしまう。

おそらく攻撃箇所から判定があるのだろう。例えば今回倒したフレイムコンドルならば羽根を付け根から切り落とす、みたいな感じだ。

実際の戦闘中に実践するには想像よりも遥かに難しい。

あの鳥、結構早く羽ばたいているしな。

「事情は概ね把握しましたが、どうして秘密なんですか?」

「当然誰も知らないという事は、得になるからだ。現に今このアイテムを売れば高く売れるはずだろ?」

「ですが世間にこの事実を公表すれば人様の役に立てるのではないでしょうか」

「硝子、お前を使い捨てにした奴等にご丁寧に教えてやるのか?」

「……なるほど、教えたくありませんね」

「えらく納得が早いな」

「私は聖人君子ではありません。好意を寄せる方と寄せない方がおります」

ちょっと意外だった。

まあ俺も嫌いな奴に進んで親切にしようとは思わない。

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