逃走作戦は否決。

次に挙手したのは硝子だ。

俺の目を硝子の瞳が透き通る様に見詰めてくる。

「どんな案だ?」

「誰かが囮になるというのはどうでしょう」

「無難な案だが、誰がなる」

「言いだしっぺの私がなりましょう」

随分と威勢は良いがその案は俺的に否決だ。

硝子は以前にもボス戦でエネルギーを大量に失っている。個人的意見になってしまうが、スピリット仲間として同じ事を繰り返させたくない。

「反対だ」

「自分も反対でござる!」

意外にも闇影の方が強く反対意見をプッシュしてきた。

こいつもスピリットらしいから意見が合うのかもしれない。

「どうしてですか? 状況的にそれが一番でしょう」

「函庭殿の意見を採用するのであれば自分がその任を受け持つでござる」

「悪く思われるかもしれませんが絆さんや闇影さんでは防御面の問題で難しいかと思います。その点私なら扇子の防御スキルがありますから、運が良ければ逃走も可能です」

「しかし、事の原因は自分。見ず知らずの同郷の者を犠牲にする訳には――」

売り言葉に買い言葉とは正にこの事か。

硝子と闇影はお互い自分が犠牲になると言い合っている。

「どっちも反対だ。お前等何、自己犠牲精神発揮してやがる! 重要なのは全員でここから脱出する事だろう?」

二人は俯いて地面を見詰める。

これがマンガか何かに登場するデスゲームなら感動的瞬間だろうが、死人が出ないこの世界で自己犠牲の問答をしても意味がない。当然半MPK状態にしてしまった闇影にも問題はあるが、わざとではないのだから追求する問題じゃない。

全員が全員不遇種族であるスピリットを使っているのだから、気持ちは誰よりも分かるはず。そんな俺達が誰かを同族を犠牲に助かりたいだなんで考えるのも嫌だ。

今は一つでも助かる手段を考えるのが先決だろう。

「そういえば聞いてなかったな。闇影はどんなスキル構成なんだ?」

「自分は夜目Ⅰ、潜伏Ⅰ、ドレインⅦでござる」

「ドレイン?」

「闇魔法の項目にある、HPやMPを敵から奪って自分の物にするスキルです」

「へぇ、そんなのがあるのか」

「然様でござる。スピリットで使えばエネルギーをモンスターから吸収できるのでござる」

中々に便利じゃないか。

だが、Ⅶってどれだけ上げているんだよ。

「お前って実はエネルギー高い?」

「そうでもござらん。二万と少しでござる」

「あれ? 二万? 俺とほとんど変わらないじゃないか。なんでⅦなんて取れるんだ?」

「毎時間マイナス3000でござる」

……は?

闇影の言っている意味は単純に言えばエネルギー生産時給だ。

俺達スピリットは取得スキルでエネルギーにマイナスが生じる。

なので取得可能なスキルならばいくらでも取得できる。だからエネルギー収支をマイナスにしても良いのならマイナスの状態で取得する、なんて事も理論上では可能だ。

つまり闇影は一時間毎に3000のエネルギーが失われていく状態、という事だ。

「それで元が取れるのか?」

もしもマイナスを遥かに上回るエネルギーを得られるのならば、それはそれで立派な戦い方だ。いわゆるハイリスクハイリターンといった所か。

「一日1000位上回るでござる」

とんでもない程自信に満ちたドヤ顔だ。

「絆さん。この方……」

硝子が心配する程なので相当なのだろう。俺は別の方向を向いて誤魔化す。

まあこういうプレイヤーだって少なからずいるさ。むしろこういう尖った奴がいるからネットゲームは面白いとも言える。

ちなみに総エネルギーは俺が23000で、硝子が25000、闇影が20000だ。

基礎代謝で硝子が一番多い。こうなってくると硝子の言った案が一番安全な策だが、俺はその案だけは認めたくない。

「ともかくボスの実物を見ない事には始まらないな」

「自分には見えるでござるが」

「いや、百聞は一見にしかずって言うだろう。自分で見た方が早い。スキル取って見てみるよ」

俺はメニューカーソルからスキル欄を呼び出し未取得スキルの夜目を選択する。

夜目Ⅰ。

夜間行動スキル。

夜に発生するマイナス補正をプラス補正に変える。

毎時間200のエネルギーを消費する。

取得に必要なマナ200。

獲得条件、24時間以上夜に行動する。

ランクアップ条件、168時間以上夜に行動する。

夜目Ⅰを取得し、洞窟から外を眺める。

ランクⅠなのでまだ暗くはあるが、周囲に輪郭や木々の類も見える様になった。

……確かにいる。

巨大な図体をした黒い金属の鎧を身に纏ったリザードマンだ。手にはこれまた巨大なランスと盾を所持していて、間違っても三人で勝てるとは思えない。あれでは扇子の武器破壊でも難しいだろう。

それにしてもデカイな。

ボスモンスターに恥じない外見と容姿といえる。

「……あ!」

「どうしました?」

「もしかしたら、なんだが……」

俺は思いついた手段を二人に言って聞かせる。

「その様な手段が本当に可能なんですか?」

「多分できると思う。昔からゲームではありがちな手法だ」

「しかしターゲットはどうやって取るのでござる?」

「その辺にも心当たりがある」

このピンチ、もしかしたらチャンスに変えられるかもしれない。

裏技

俺は洞窟の入り口に立っていた。

手には釣竿。釣り針の部分に錘を付けている。

「じゃあ行くぞ?」

最終確認を取り、二人が無言で頷くのを確認した後、俺は釣竿を大きく振った。

フィッシングマスタリーⅣから来るコントロールから錘の付いた糸はリザードマンダークナイトにコツンと命中する。

単純ダメージで言えば1か2か。

少なくとも、まともな攻撃とは言えない。

しかしターゲットを取る分には十分な効果を発揮する。

「来るぞ! 全員、もしもに備えろ!」

リザードマンダークナイトは俺の攻撃を受けるや否や、疾風の様な速度で俺達の方向へ駆け抜けてくる。

普通に相手すれば出会った瞬間ズバっとやられる所だが……。

――ドーンッ!

大きな爆音と共にリザードマンダークナイトは洞窟の入り口にぶつかった。

そう、リザードマンダークナイトは洞窟の全高よりも大きい。

昔から多くのゲームでモンスターを設置モニュメントに引っ掛けるという手段が存在する。いわゆるありがちで簡単レベル上げ法なんかで使われる事が多い。オンラインゲームでは修正の対象だったりする、そんな手法だ。

しかし幸いにも、この手段は現状のディメンションウェーブで適応する。当然、失敗する可能性もあったが、三人で相談した結果試すだけは試そう、という事になった。

「後は全員で死ぬまで殴り続けるぞ!」

「わかりました!」

「了解でござる!」

後は単純作業だ。

自分達の所持している武器とスキルをフルに活用してハメた敵を攻撃し続けるだけ。

俺は勇魚ノ太刀を取り出し、洞窟に引っかかっているリザードマンダークナイトに切り掛かる。

ガンッ! という鈍い音が響き、生憎とダメージは少なそうだ。

遠目だったので分からなかったが鎧以外の箇所は鱗で覆われていて防御力は相当高い。

横に視線を向けると硝子が突きや打撃を繰り返している。

そして闇影は巻物の形をした魔法系スキル用武器の一つ、魔導書を口元に当てて魔法を詠唱している。数秒後、黒いエフィクトと共に緑色の粒子がリザードマンダークナイトから闇影に吸い込まれていった。

これが闇魔法のドレインという奴だろう。

尚、俺と硝子は攻撃スキルを使用しない。

HPがどれ位あるのか分からないボスモンスター相手にエネルギーを消耗するスキルを、それもこんな状況で使うのは時間節約以外の効果を期待できないからだ。

「それにしても硬いな。普通に戦って本当に勝てるのか? こいつ」

「どこかのパーティーが倒したという話を聞いた事がありますよ」

手を止めずにともかく攻撃しながら会話をする。

「噂に聞いた程度でござるが、複数の盾役が抑えながら、遠距離から光魔法で攻撃するそうでござる」

「なるほど、外見通り物理防御が高いのか」

多分だが、俺達とリザードマンダークナイトの相性は最悪だ。

まず攻撃力の低い解体武器と扇子、そして相手と同じ闇属性の魔法、ドレイン。

こんな裏技でも使わなければ勝率0の敗北フラグMAXだ。

何せ俺の攻撃なんかカンとか嫌な音を発ててやがる。

これでも俺が持っている最強の武器なんだぞ。

ちなみにこの手の金属などを持つ物理防御系モンスターは斧や鈍器などがダメージを良く通すらしい。

「ともかく、敵に変な動きが無ければこのまま殴り続けるぞ」

「はい!」

「了解ござる!」

千里の道も一歩から、俺達は無限に続く一方的な攻撃を繰り返した。

――三十分経過。

「ま、まだ倒れない。どんだけHPあるんだ、こいつは……」

近付きすぎると攻撃が飛んでくるので、ギリギリの距離で攻撃を繰り返す。

特に硝子は扇子の射程が短いので偶に防御して受け流している。

しかもAIの関係か離脱しようとしてくる。

無論、その都度釣竿を使って攻撃範囲内に呼び戻しているが。

しかし、そういう面を含めてもAIの頭は良く無さそうだな。

「治癒能力でもあるのでしょうか?」

「否、自分達の攻撃力が低いだけでござろう」

まあそうなんだろうけどさ。自分で言うか普通。

既に無限とも言える量の攻撃を三人で繰り返していた。

その為、攻撃箇所の鎧は壊れ、鱗も割れている。

そこを重点的に攻撃する事でカンという音からズバという音に変わった。なので最初よりはダメージが入っていると思う。

だが、ボスとは言え一匹のモンスターに一時間も掛けるのは精神的に厳しい。

「我が魂の糧となるでござる。ドレイン!」

この三十分休みなしにドレインを使い続けた闇影はエネルギー量が硝子を越えた。

つまり2万7000程ある。

それだけリザードマンダークナイトはHPが高い。

「おおおお?」

闇影のドレインが発動して既に見慣れた緑色の吸収エフィクトが発生した直後、リザードマンダークナイトが普段と違う動きを見せた。

大きな、とても耳に響く咆哮と共に『ズーン……』という音と共に倒れる。

洞窟に何度もぶつかって地震を立てる事も無い。

「殺ったでござるか?」

「おまっ! それ死亡フラグだぞ」

「むむ、そうでござる。自分には里に残した妹が……まだ死にたくないでござるー!」

……やべぇ。

俺、こいつのこのノリ好きだわ。

「何をやっているんですか……もう」

硝子の冷たいジト目を受けながら倒したかを確認する。

この手のボスは死んだふりを使う事もある。注意を払って近付いた。

「死んだふりかもしれぬ故、気をつけるでござるよ」

「おう」

「いえ、それは無いのでは?」

「なんでだ?」

「曲がりにも騎士を名乗っているのですから、その様な卑劣な行いをするとは思えません」

ふむ、一理あるな。

死んだふりをするボスは大抵悪魔系や蛮族みたいのが多いと思う。

まあリザードマン自体が蛮族みたいな気もするが、一応こいつもナイトなのだろう。そこ等辺の礼節は守っているのかもしれない。

実際は礼節を守って正々堂々挑んできたリザードマンダークナイトを卑劣な手を使って罠に貶めたのは俺達なのだが、そこはあえて無視する。

「ドロップ品は……闇ノ破片と闇槍欠片でござる」

「高額で取引されている素材ですね」

金には困っていないが高値で売れるらしい。

まああって困る物でも無いし、いいか。

尚、闇影の話では両手槍の材料だそうだ。

闇属性付与が付くので槍スキル取得者は手に入れたい一品らしい。

「しかし、さすがは解体武器でござる。噂と同じくアイテムが出るのでござるな」

さて、ここからが本題なのだが、どうするか。

硝子の方は『どうしましょう?』という顔で見詰めてくる。

正直言えば解体したい。

というかこんなボスモンスターを解体する機会などそう無いだろう。おそらくだが、解体で手に入ったアイテムは武器防具として相当活用できるはずだ。

心の天秤に隠し続けるメリットと、ボスモンスターの解体アイテムを秤に掛ける。

「一緒にボスを倒した仲だし、教えるか……」

ボスドロップに勝る物なし。

「絆さんがよろしいのでしたら、それが最善かと」

「むむ? どういう意味でござるか?」

「まあ見ていろ。高速解体……」

俺はスキルを唱えると倒れている、大きなリザードマンダークナイトを勇魚ノ太刀で解体を始める。壊れている鎧や割れている鱗は無理だが、鱗、骨、肉、牙、瞳、皮、尻尾、血などが解体できる。

しかし、戦闘で破壊した箇所は解体できないんだな……。

あれか、某狩猟ゲームとは真逆の設定か?

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