するとしぇりるの視線が下がって俺を見詰めた。
「ん」
……何だ、そのセリフは。
挨拶か何かなのかもしれないが、どうも掴み所がない。
「さっき連絡した絆だ。言われた通り仲間を連れてきた」
「そう」
「初めまして、函庭硝子です」
「そう」
「自分は闇影でござる。何ならダークシャドウでも良いでござるよ」
二人としぇりるは各々に自己紹介を始めた。
しかし闇影さん。あんた、まだそのネタ使うのか。
「……わかった。闇子って呼ぶ」
「くっ!」
咄嗟に口元を押さえる。
「な、何故その名称を知っているでござるか!?」
「……別に?」
このネタに持っていく発想は俺だけじゃなかった。
どうでもいいが、少ししぇりるに共感を抱いてしまった。
ともあれ商談だ。
あまりにも突飛な値段を請求されれば船所じゃないからな。
「それで、船作りの商談にどうして二人が必要だったんだ?」
「どうして船が必要なのか、知りたかったから」
「……? 船の必要性と人数は関係ないのではないですか?」
「そうでもない。一人で船は動かせないから」
確かに小船程度ならどうにか戦えるが、大きな船となるとそれも難しそうだ。
「聞きたい。どうして大きな船が必要なの?」
「嘘を吐く理由がないな。単純に経験値がおいしそうだと思ったからだ」
「……そう」
しぇりるの無表情の中に若干気を落とした様な雰囲気を感じた。
パーティーとしての本音はここまでだが、俺個人としてはまだある。
「後、俺は船を使って海に行った事があるんだが、気になった……というのも強い」
「気になる?」
「ああ。船を作れるなら一度は海に出た事があるだろう?」
「ん」
「妄想と言われればソレまでだけど、俺はあの水平線の先に何かあると考えている。なんというのか、風が呼んでいる様な、そんな気がするんだ」
「……そう。わたしと同じ。あなたなら話しても、いい」
どういう事だ? と顔で訴える。
置いていかれている二人も似た様な表情だ。
しかし我関せずといった態度でしぇりるは口を開く。
若干だが無表情の中に決意の様なモノが見える気がするのは気のせいだろうか。
「自己調査になるけど、今海に注意を向けている人は少ない。皆、第二第三が目的で、無視されてる」
「そうなのでござるか?」
「言われてみれば、一週間位海にいたけど俺以外が船を使ってる所を見た事が無いな」
その影響もあってタイやマグロは高く売れた。
仮にしぇりるの話が事実なら沖の魚が高く売れたのにも納得が行く。
何よりも俺は空き缶商法で金があったが4万セリンといえば結構な額だ。解体スキルを持っていない釣りスキル持ちが稼ぐには少々酷だろう。
そして金を持っているであろう前線組は今、第三都市発見に尽力している。
自然と第一にある海なんて無視されていく、という事か。
「そもそもこのゲームは一人でできる限界がある。最初は泳いで沖にいったけど、途中から進めなくなってる。多分、個人の限界がある」
「まあ、MMOだしな」
なんでも一人でできるなら他人が必要ないコンシューマーで十分だろう。
何よりも普通のネットゲームと違って、セカンドライフを謳っているこのゲームは一人で行動するのもありだとは思うが、やはり他人との交流にも重要な要素を割かれていると考えて何等不思議はない。それに攻略掲示板がないので、自分達で行動を起こさないと始まらない、というのもある。
「……だから海へ行こうと考える、強くてお金のある人、探してた」
「残念ながら、俺はそんなに強くない」
「そう」
「だが、硝子は元前線組だ。プレイヤースキルは相当だぞ」
「私、ですか?」
「おう、間違いなくこの中じゃ一番強い」
「そ、そうでもありませんよ。上には上がいます」
ほんのりと頬を染めて照れた表情を浮かべる硝子。下手に自分は強いという奴よりは何倍も強い。少なくとも俺はそう思っている。
ゲームでは昔から自称普通程信頼できない奴はいない。
良い意味でも、悪い意味でもな。
……対戦ゲームで痛い程経験している。
「わたしは海の向こうに行って見たい。皆気付いてないけど、何かある、はず」
しぇりるは俺と同じ考えの奴だったのか。
いや、誰だってあの大海原を一度でも経験していれば、そう思うはずだ。
この先に何かあるって。
「小船だと途中で海流が強くなって進めない。材料さえあれば船は作れるけど、モンスターも多いし強いから死んじゃう。ソロだと……限界。力を貸して欲しい」
個人的には協力したい。いや、協力する。
例え二人が反対しても協力しよう。
10万セリンは持っているので船を作成する分の足しにはなるだろう。
問題はあのモンスターを倒せる戦力だが、俺は半生産職なので難しい。そうなると最初に戻って二人の協力が必要になる。
嫌なスパイラルだ。いわゆる負の連鎖って奴だろう。
「絆さん!」
「な、なんだ?」
硝子がぐいっと俺の両手を掴んで見詰めてきた。
これはどういう意味でしょうかね。
「協力しましょう!」
「……いいのか?」
「何を言うんですか。人様の役に立つ……とても素晴らしい事です」
函庭硝子。人情に厚い女である。
まあ半分冗談にしても硝子が協力的で良かった。
「闇子さん、もちろん協力しますよね?」
「然様でござる」
しかし、こいつ等妙に融通が利くよな。
硝子に至っては元前線組なのだから、もう少し効率に走ると思っていた。
「まあそういう感じだからさ。俺達はどうすれば良い?」
しぇりるに向き直り、意見を問う。
正直、船を作れるのはしぇりるしかいないのだから、しぇりるに聞かなきゃ始まらない。
「いいの?」
「ああ、見ての通り三人ともスピリットだからな。はぐれ者が多いんだ」
「わかった。必要なのは――」
俺達三人に加えしぇりるも含めると最低四人が乗れる船が必要だ。
海流を越えるとなると当然大きな船は必須だろう。
――必要な材料は。
トレントの木、500個。
丈夫な布、200個。
鉄、20個。
風斬石10個。
結構必要だな。
俺の全財産を出費しても足りるかどうか。
「しぇりるは何個か持っているのか?」
「その内風斬石10個、布100個、木200個は持ってる」
「半分位か……相場しだいでは揃えられるかもな」
「……本当にお金持ち」
空き缶商法とマグロ商法によるあぶく銭だがな。
ともあれ相場を聞くのに最も適した人物が一人いる。
「待っていろ。少し顔が広い奴がいるから、そいつに安く仕入れられないか聞いてみる」
アルトなら空き缶商法の件もあるし、少し位融通してくれるだろう。
何より、あいつは自分が得になる事は頷く。こんな絶好の金稼ぎ、滅多にない。
「では、私と闇影さんは比較的に入手が簡単なトレントを倒して来ます」
「承知でござる」
トレントがどの程度のモンスターかは知らないが、二人の反応からそこまで強くないのだろう。集めてくれるのは助かる。
「……わたしも手伝う」
「それじゃあ、パーティー入っとくか。そっちの方が便利だろう?」
「いいの? わたし、レベル6」
レベルと言われても良くわからない。
それにネットゲームはレベルとか関係なく好きな奴と一緒に組むもんだ。
少なくとも俺は効率より、そっちの方が楽しいと思う。
「レベルとか関係ないだろう。協力した方が何倍も早い。だよな?」
「もちろんです!」
「自分はドレインができるのなら、何等意見はござらぬ」
「……ありがと」
――しぇりるさんをパーティーに招待しました。
……そう
「……フルハープン」
銛の攻撃スキルがトレントに命中し、禍々しい顔を浮かべたままトレントは倒れた。
しぇりるの武器は銛。
いわゆる海でスピアフィッシング的な戦闘に適した武器だ。一応槍に分類される武器らしいが、銛の様な形状の武器を使っていたら派生したらしい。
そしてしぇりるのレベルは俺達とパーティーを組んでから4上がり、10になっていた。
「トレントの木は……一応500個そろったか」
「粗悪品を含めていますから、もう少し必要ですけどね」
俺やしぇりるを始めパーティー全員の考えが一致して、船に使う材料は可能な限り良い物にしようという事になった。なので俺達は材料が少々高額になっても高品質の品を選んでいる。
「一応布の方はアルト……知り合いに頼んでおいたけど、数が数だからな」
丈夫な布は裁縫スキルのアイテムだ。だから100個となると手間も費用も嵩む。
それを100個売ってくれというと時間をくれるかな、と言われた。
断らないのが商人たるアルトの凄い所か。
「鉄の方は気を付けて選ばないとな。現状、粗悪品の方が圧倒的に多い」
「何か知っているのでござるか?」
空き缶が原材料だからな。
あんなの序盤だけで鉄鉱石が見付かったらゴミ以外の何物でもない。
「べ、別に。ともかく俺達で集められる材料は大体揃ったか?」
「……うん」
しぇりるが頷く。
あれから丸々一日が経過している。
トレントの方は硝子を始め、俺ですら余裕に倒せた。お世辞にもあまりランクの高いモンスターとは言えない。ともあれ合計500個ともなると戦闘数は多くなる。
何よりも現状、トレントの木を素材に使う製造スキルは少ないので、露店でもあまり並んでいない。これはアルトからの情報だ。
尚、しぇりるは今までの二週間、時間に余裕を見つければコツコツとトレント狩りをしていたらしい。相性の良い武器でもなければ、レベルも足りていないので一匹倒すのも時間が掛かっていたそうだが。
「ともかく後何個か木を手に入れたら一度第一に帰ろうぜ」
「そう」
「思ってたんだが、その『そう』っていうのは口癖か?」
「そう」
「……わざとか?」
「別に」
「いいけどさ」
「そう」
こんな感じだ。言葉足らずというか、話ベタというか、闇影とは別の意味でコミュニケーション障害の気質がある。
一応話してみれば普通というか、趣旨は理解できるけど、その努力が必要というか。
まあプレイヤーのほとんどが第三都市を見つけようと躍起になっている時に海を目指そうなんて、考えている奴等だから少し他より変なのはしょうがないか。
いや……俺も類友だが。
「……なに?」
おっと、しぇりるを眺めていたのがバレた。
俺は誤魔化す様に言い訳を口にする。
「なんでもない」
「そう」
「ともかく、後少しだな」
「うん。絆、ありがと」
「俺だけの協力じゃないだろう? 皆のおかげだ。もちろんしぇりるもな」
「……そう」
なんだ? そのしらけた、みたいな『そう』は。
なんだかんだで、ああいうセリフは結構恥ずかしいんだぞ。
硝子と闇影は何か春の陽光の如くニコニコこっちを見ているし、確実に俺をからかう環境が生まれつつある。そこだけは早急に改善したい。
ともかく、それからアイテムが全て揃ったのは二日後の事だった。
鉄は態々ロミナから程度の良い物を購入し、丈夫な布はアルト以外からも第一第二を駆け回って高品質の奴を捜し歩いた。
そうした甲斐もあって全部の材料が揃った訳だが、俺の貯金はほとんどなくなっていた。
名前/絆†エクシード。
種族/魂人。
エネルギー/26430。
マナ/4300。
セリン/16040。
スキル/エネルギー生産力Ⅷ。
マナ生産力Ⅴ。
フィッシングマスタリーⅣ。
解体マスタリーⅢ。
クレーバーⅠ。
高速解体Ⅰ。
夜目Ⅰ。
元素変換Ⅰ。
未取得スキル/エネルギー生産力Ⅸ、マナ生産力Ⅵ、フィッシングマスタリーⅤ、クレーバーⅡ、舵マスタリーⅠ、船上戦闘Ⅰ、都市歩行術Ⅰ。
若干未取得スキルが増えている気もするが、日々行動の賜物だろう。
現状取得する気はないけどな。
ともかく、俺が第一と第二を走っていた間、三人には狩りをしていてもらった。
しぇりるのレベル上げもそうだが、海のモンスターは結構強い。
硝子や闇影の様な戦闘スキル型と製造スキル型とはいえ海のモンスターに相性が良いしぇりるのレベルが上がるのは後々の事を考えても必須と言えたからだ。
それに解体武器の俺がいなければ、例のアレの条件が無くなる。
三人は珍しい構成の珍パーティーって風にしか見えない。
「……絆。それから皆も、これにサインして」
スキル構成に想いを馳せているとしぇりるが集まった材料を前に一枚の紙切れアイテムを俺達三人に向けてきた。
なんとなく詐欺の匂いを感じなくも無いが、現実とは違う。
「なんだ、これ?」
「複数所有権ですね」
「なんでござるか? それは」
さすがは元前線組と言った所か、硝子は詳しく知っていた。
複数所有権。
所謂高価な一つの道具に設定できる権利書の事、らしい。