「隣の芝生は青く見える。スピリットの情報網でテンプレートが出来てないって事じゃ無い? もしくはデマが広がったとか」
「どこで広がったのかしらね?」
何度も脳裏に浮かんで来るドレイン忍者の影。
まあ……アイツは波の成績良すぎるもんな。きっと参考にされすぎてスピリットが色々と勘違いされてるんだろう。
硝子も有名プレイヤーなんだけどなー。
「種族変更とかいずれアップデートに出て来るのかなー」
「ありそうよね。問題はアバターを再度組み直しをしないといけないプレイヤーとかもいる問題だけど」
あー……その辺りの設定が障害になりそうな気がしなくもない。
「君達の活躍からスピリットになりたいってプレイヤーは一定数いるだろうね」
「難点は死んだ時のペナルティが大きい所だと思うんだけどな」
しばらくは狩りとかには出られないくらいに大幅に弱体化するのは避けられない。
「実績までは解除されないからケアは出来そうだと私は思うのだがね」
「そこは運営の仕込み具合によるんじゃないかしら」
「確かにね」
何処までユーザーの望む仕込みをして居るかによるとは思う。
テストプレイヤーが居たんだし、要望はあったはずだよなー……。
「さてと、雑談はこれくらいにして作業再開するわよー」
「姉さん頑張ってー」
「アンタは……はぁ、好きに釣りしてなさい」
「はーい」
俺はちゃんと働いたもん。
「ははは、魚も調合素材に使えるし色々と楽しんで行くのが良いと思うよ」
「姉さんも狩り以外に何か趣味を見つければ良いと思う」
戦闘、採取に料理って生活に結びつけ過ぎなんだよね。姉さんは。
「うるさいわね。紡程じゃないから良いでしょうが」
「そこは否定しない。まあ、姉さんも暴れ足りないならダンジョンに行ってくれば良いもんね」
「そうよ。物資調達くらいは出来るでしょ」
オアシスに居るヌシはなんだろうなー……カルミラ島の海側みたいにヌシが釣れない可能性は大いにあるんだけどさ。
なんて考えつつ釣り竿を垂らし続けている。
「フィッシュ!」
また釣り上げたので姉さん達にピラニアを見せる。
「良くやるわ」
「場所によって魚が変わるからかなり奥深いよ? 適当なゲームだってあるのにこんなにあるのは凄いって」
メインコンテンツじゃ無いって事で魚の種類が3~5種類しか無いゲームだってあるだろうに、このゲームでは無数に出て来る。
戦闘がメインのゲームではあるようだけどね。このさじ加減が実に難しい。
「釣りは昔、金持ちの道楽に数えられていたようだね。私の友人も釣りが趣味な人が居てね。絆さんとは仲良く出来そうだね。このゲームに誘えば良かったよ」
「今のゲームが終わっても第二回ディメンションウェーブに参加して貰えば話題は通じるんじゃ無いかしら?」
「うーん……」
なんかクレイさんが苦笑している。
「私の耳に入った話ではあるのだけど。セカンドライフプロジェクトのゲームはプレイする毎に自動の変動を入れて居るそうなんだ」
おや? そんな話があるのか?
「ネット内の噂で聞いた事があるわね。ゲーム内容の口外はしてはならないと念押しされていて……デマだのなんだの騒がれていたわ」
「そう。だから別のセカンドライフプロジェクトで通じた方法が次のセカンドライフプロジェクトで通じるとは限らない。スピリットが強い種族と言う設定が事実だったとして、次も通じるとは限らないそうだよ」
「ありえるわね。ベータテストの時は弱かったって事で」
「強いかどうかは分からないけどなるほどなー隣の芝生だと俺は思うよ」
何度も思うけど隣の芝生って奴でしか無いと思うんだけどな。
だってディメンションウェーブイベント毎の限界突破以外だと魔物を倒して限界突破実績を達成しないと引き上げ出来ない。
戦闘をしなくても経験値に該当するエネルギーが溜まる種族だけど、その上限の所為で強さへの制限は強めだ。
「ディメンションウェーブイベント中はタフってだけで弱体化もする訳だし」
「まあ……アンタはディメンションウェーブイベントで大活躍したって話を聞くけど、それも運や装備に助けられているって話よね」
「ダメージキングなんて妬みも一時期言われていたね」
う……クレイさんも覚えて居たか俺の忌まわしき過去の名称を。
「それだけ耐えてたって事でしょうに、よく耐えきって居たわよね。あんたこそブレイブペックルが相応しいわ」
「まだゲームが始まったばかりで敵の攻撃が弱かったのが大きいよ姉さん」
だからそのネタ枠は姉さんこそ相応しいよ。
「あの頃からアンタ達、妙に強いって言われてたわよ」
「ネタバレはされていたはずだけど?」
「まあね。海の魔物が既存の大陸狩り場より効率が良かったんでしょ。解体の仕組みもすぐに気付いた。ゲームの熟知が早かったのよね」
あの頃は何もかも手探りでみんな思い思いにプレイしていた。
だから楽しい時期でもある。
「私はあの頃は娘を探していた所だったね。妻も戦いなんてしたくなくて町で人捜しをしていたよ」
クレイさん達はその辺りで出遅れていたのね。
「案外、プレイヤーの動きは規則性があるって事だろうね。絆さん達のように別の可能性を模索するのはゲーマーほど難しい」
上手いこと流れに乗ったに過ぎないからな。俺は。
「話は戻るけど、同一ユーザーの同じゲーム参加は不可なはずだから試しようが無い」
「そこまで変動するなら再度参加しても良いと思うのだけどね」
姉さんがあり得そうな事を呟く。
「身分偽造してゲーム内にログインとかしてそうよね。見た事無いけどゲーム開始当初ベータテスターだぜ! ってほざいてる人は居たけどデマだったのかしら、たいして強くなかったから嘘だって事になったけど」
「そこは誤魔化しようが無い認証があってね。仮に審査を掻い潜っても出来ないから間違い無くデマだね」
「科学の力ってすげー!」
レッドテールキャットフィッシュ
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「どんな仕組みなのか気になるけど解析して入り込んで強者を気取るのもどうかって事よね」
「不正利用者というのは何処にでも現れる話であるのは否定しないよ。性質の悪いものだとゲームを破壊することを喜びにしている悪徳なプレイヤーも存在するからね」
ああ、FPSとかで不正プログラムを使って勝つとかの話ね。
開発者が一生懸命作ったゲームを壊すのが楽しいとかほざいたって話を聞いた事がある。
そういう馬鹿げた事を喜ぶって実に性格が悪いよな。
どんな人生を歩んだらそんな歪んだ発想になるのか逆に気になるレベルだ。
「場の空気を悪くさせ、場所を破壊してまで自分が凄いと言いたくなる者の気持ちは理解に苦しむね」
リアルセレブなクレイさんがそれを言っても良いのだろうか?
いや……金持ちだからこそ高潔な所があるのかな?
これが俗に言う金持ちへの偏見か。
「他にもどんどんプレイヤーが脱落するゲームで不正ツールを使って優勝しまくるとか聞いたなー」
「ああ、優勝を何度もすると手に入るアバターがあって、それを所持したアカウントの売買が目的だったと聞いたよ」
うわー……ゲームの闇が垣間見えるネタだ。
色々とヤバイな。
「お金で誤魔化してそんな代物を手に入れて虚しく無いのかしらね」
「そうだね。実に情けない話だと私も思うよ」
「Lv上げ代行してもらってゲームをクリアするのはどうなの、姉さん?」
俺によくさせてたよね。
「うるさいわね! わかってるわよ。限度を知れって事よ」
「むしろLv上げが必要なゲームは今じゃレトロな方だけど、奏くん達は古いゲームも楽しんでいるようだね」
クレイさんの態度が実に大人だなぁ……確かに今のゲームってLvはサクッと上がるの増えたよな。
ディメンションウェーブみたいなガッツリやるゲームの方が珍しいのは否定出来ない。
「何の話をしていたんだっけ? ああ……クレイさんの友人の話だけど、この子コレだって思った事はずっとやってるんだけど、ある日ピタッとやめたりするから長期的に見ると危ないわ」
「姉さん、別にやめる訳じゃなくてリソースを変えただけだよ?」
ずっとやっているのも良いとは思うけど、他にやりたい事が見つかったらそこに全力で行くのが大事なんじゃないかな?
今の俺はディメンションウェーブで釣りをすると言うのが目的な訳で。
「ただ、釣りって奥が深いからゲームが終わってもやってるとは思うよ。問題は未知の釣りは出来なくなって精々川か堤防での釣りになるくらいかな」
漁船にお金払って乗るのは俺のリアル財力では厳しい。
だってゲーム内じゃ島も所有する金持ちだけど現実はただの学生だよ?
「釣った魚をアイテム欄に一括で入れられる便利機能なんて現実には無いし、ままならないね」
「ゲーム独自の便利機能で煩わしさを軽減してるのは大きいなぁ」
楽しんで貰うために現実とは違うと言う要素が存在する訳で。
ただ、仕掛けの本格的な所は十分にあると思う。
近場で作業している姉さんとウサウニーに指示をしているクレイさんとの会話を切り上げようとした時――。
ガクン! っと強く竿がしなった。
「お?」
この手応えはヌシじゃないだろか?
先ほどから垂らしている竿のしなりの中で一番大きいぞ。
「何か大物が掛かったみたいだね」
「そうなの?」
「うん。とはいえ、ここってカルミラ島相当だから……」
ここはカルミラ島での池なのかはたまた海なのかの判断に悩んでいたけどヌシが掛かるという事は池判定っぽいな。
引きの強さはやはり俺がどうにか出来てしまう程度だな。
現状だとルアーとか盗られると再入手が厳しいので絶対に避けたい。
そう言った意味で格下に位置するヌシならありがたくもあるか……個人的にはもう少し歯ごたえというか敵わない相手である方が好ましいのだけどさ。
ギリギリ……っと、リールを巻きつつヌシの魚影を確認する。
「格上なら姉さんやクレイさんに攻撃して貰って弱らせるとかお願いするんだけどね」
「やるかい? 魔法で狙ってあげても良いよ?」
「遠距離攻撃系のスキルはあんまり持ってないのよねー」
「大丈夫、むしろ弱らせられるとつまらない位には引きが弱い」
水晶湖のヌシ、肺魚と同じくごり押しが出来てしまう程度のヌシなので頼りにする程じゃない。
バシャバシャとヌシは抵抗を見せているけど糸や針が切れるような危険な強さでは無い。
「一気にエレキショックとかで弱らせたら面白く無い! やってやるぜー!」
ギリギリとヌシとのバトルを俺は楽しむように右に左にヌシの動きに合せて竿を動かしてリールを巻き続ける。電動モードにしなくても釣れてしまうぞ。
間違い無くこっちのLvが高すぎている。
やがて……岸近くまで魚影が来た所で……フィニッシュの一本釣りを放った。
「うおー! 一本釣りだー!」
ザバァ! っと竿を振り上げた所でヌシが姿を現した所で……何かクレイさんがヌシと俺が重なる角度に移動してカメラ撮影をしていた。
姉さんも何故かクレイさん側でこっちを覗き見てる。
「よし、上手く撮影出来たかな」
「クレイ、結構カメラ撮影が趣味だったりするのかしら?」
「いや、この角度で撮ると釣り漫画の決めシーンみたいになりそうだなと思ってね」
「納得だわ。私も面白いアングルで撮影出来たわ」
いや、何を撮ってる訳?
ビチビチっと釣り上げたヌシを無視して二人へと意識が向いてしまうぞ。
撮影した画像を送らなくて良いからね?
「で……釣り上げたヌシだけど、相変わらず大きいわねー」
「大物のようだね。ここまで大きいと圧巻ではあるけど……絆くんは驚く様子は無いね」
「最初は驚いたけど最近はそこまでかな。予想通りの奴が釣れたって感想」
釣り上がったヌシはレッドテールキャットフィッシュだった。
先ほど釣った個体の倍以上ある……3メートルだろうか。
恐るべき大きさで、もはや魔物って扱いであるのだけど、このサイズはゲーム内の魔物とかで遭遇するので驚きも大分少ない。
とりあえず魚拓とばかりに撮影をしてっと。
「まあ、とりあえず顔文字さん達にも自慢出来る様に解体は後回しにするけど……釣れちゃったなぁ……」
「何よ。イヤだったの?」
姉さんが怪訝な表情で俺を覗き込む様に見て言う。
「アレではないかい? じっくりと釣り上げたいと言う奴だよ。あっさりと目標を達成すると逆に面白く無い時もあるだろう?」