あんまり意識を持って行くのは良くないな。
デザートシャーク
「お? 絆の嬢ちゃん。こんな所でどうしたんだ? オアシスで釣りか?」
そんな感じで散歩をしていると、らるくがやってくる。
「らるくか、今夜はオアシスじゃ釣りをしないな。そっちこそ何してんの? まだ開拓でもしてる感じ?」
「うんにゃ? てりすの手伝いで細工をちょっとな。疲れたんで息抜きの散歩よ」
「俺も似たようなもんだな。らるくは細工も覚えるって言ってたけどどうなん?」
「んー……正直、細かい作業で面倒だって思うぜ。てりすが誘わなきゃやってねえなー」
ニカッと開き直りとも取れる笑みでらるくは答える。
「で、絆の嬢ちゃんはオアシスじゃ釣りしねえって話だけど、じゃあ何処で釣りしてるんだ?」
「ああ、砂漠の方で砂の中を泳いでる魚を釣ろうと思ってんだけど全く引っかからず逃げられてしまってさ。フィーバールアーをしないで釣りをしたいって所」
「あー……なるほど、縛りでのプレイをしてるのな」
らるくもこの辺りは察するのが早い。
年上でゲーム経験が多いからかな?
「作戦の練り直しに散歩しててさ」
「そうか、色々とあるんだな。釣りってのも」
「ああ」
「砂の中に居る魚ねー……ここに来る前に狩り場で見た魔物と同種なのか?」
そういやカルミラ島のディメンションウェーブイベント以降で行けるようになった所には砂漠もあったって話だったっけ。
硝子と一緒に第一と第二周辺を巡ったけど、海の方は軽めに回っただけだったなぁ。
「どうだろう? 少なくとも攻撃はしてくる様子は無い」
「開拓地設定で襲ってこないのかもしれねえな。そういやウサウニーにも狩猟って項目があって狩りに行かせられるって話だぜ」
「カルミラ島だと開拓地にある森っぽい所で肉の確保をしてたけど、それと同じかな?」
「絆の嬢ちゃんが狙ってる魚も捕ってくるかもしれねえぜ?」
「ありそう」
「何にしても俺が見た砂を泳ぐ魚の魔物だとデザートシャークとサンドシャークだな。同じような名前なのに大きさが違ったりしたぜ」
うわ……微妙なネーミングでの違いとか間違えそうだ。
「小さい方がデザートシャークなんだけど他の魔物を倒すと死体に群がって来たぜ。そこをついでに狩ったけど直接狙うのは面倒だったぜ」
「クエストとかで頼まれた感じ?」
「おうよ」
「となると死肉に群がる習性か……ただ、餌釣りで魚肉を砂地においても来なかったな。別種か」
「サンドシャークも大きさは違うけど似た感じで、砂地を走ったりすると反応したぜ」
振動反応で来る。
うーん……何か手立ては無いだろうか?
ハイディング・ハントで特に考えもせずに近づいたから僅かな音で感づかれたのか?
あり得る。
「後はデザートアングラーって口が大きい中型の魔物もいたぜ。こっちも砂の中から飛び出して襲いかかってくる魔物だったな」
「色々と開拓地の外の魔物にはいたみたいか」
なんだかんだ硝子と一緒に狩りはしたけど全ては網羅出来ていなかったんだな。
そういや島主はこれ以上行けないって所があった。おそらくその境界線で出て来る魔物だったんだろう。
「情報ありがとう。色々と検証して見るよ」
「おうよ」
アレだ。魚肉に釣り針を付けて居るのが行けなかったのか、それとも魚肉を食べないのかの検証も必要だった。
と言う訳でそのままとんぼ返りして魚肉を砂の中に居る魚を目撃した地域にばらまいて距離を取り、確認する事にして見た。
すると砂の中に居る魚は魚肉の方に集まっている。
魚肉は食べる。
となると針が付いているから食べないって事だろうか?
そう思って近づいて行くと一定範囲まで来た所で潜られてしまった。
どうやら俺が近くに居る事を察知して餌に食いつかないって事の様だ。
「……ダメか」
そうして数日ほど砂漠での検証を俺は繰り返した。
結果は惨敗。
どうやら魚自体は罠に掛けると引っかかって捕獲は出来るのだ。
らるくと話をしたデザートシャークという小型の鮫型の魔物ではあった。
どうやらプラド砂漠周辺に居るのは攻撃性が低いようになっているらしい。
解体した所、食用に向いているのはキモだった。
水で洗って蒸せばやや薄味だけどレバーって感じだ。
姉さんとてりす曰く、塩漬けやぬか漬けにするとまた別の味わいがあるって事でつけ置きされる事になった。
……安直に罠で捕まえろって事になりそうだが、それでは面白く無い。
俺はコイツを釣り上げたいのだ。
何か手が無いか?
そもそも俺が居る事をどうして察知しているんだ?
超音波で察知している可能性……そうなるとお手上げだ。
素直に罠で捕まえる事になってしまうぞ。
「うーん……」
何度目か、俺は唸りつつ考える。
そこで近くに岩があるのに目が入る。
「よし」
岩に腰掛けてやや遠目に魚肉に針を通して投げ込む。
これで引っかかるか?
できる限り静かに……獲物に察知されないよう、音を立てないように静かに釣り糸を垂らしてみる。
海釣りで耳が良い魚を狙うときに使う手法だ。
チヌ釣りとかが印象的か。
すると……ササーって音を立てて砂の中から魚の背びれが近づいてくる。
お? 上手く行くか?
気付かれない様に息を殺して獲物が食いつくのを待つ。
そうして待っていると砂の中からデザートシャークが顔を出して俺が仕掛けた魚肉に食いついた。
咄嗟に竿を上げると針がデザートシャークの口に引っかかる。
!?
ビクン! っと手応えと共にデザートシャークが深々と砂の中に潜って行く。
引っかかった事を想定して強度の強いワイヤーをセットしていて正解だった。
「よし! フィッシュー!」
サーッとワイヤーが砂の中に伸びていくのでリールを巻き取りつつ格闘を始める。
針さえ引っかかってしまえば俺の技能でどうにかなる!
ワイヤーと針が壊れない事を祈りつつリールを巻き取り、地表に近づいた所で一気に一本釣りで釣り上げる。
「おっしゃー!」
ドバァ! っと言った様子でデザートシャークを俺は釣り上げる事に成功した。
引き自体はオアシスや水晶湖よりも強かったな。
おそらく開拓地の外にいるデザートシャークに合わせた強さなのだろう。
現状の歯ごたえはコイツが一番良いか。
「なるほど……岩を足場にして音を立てないようにすれば釣れるのか」
条件がそこそこ厳しめになってきたようだ。
そして強度の強めなワイヤーならば砂でも切れる事は無さそう。
そんな訳で最初に釣ったデザートシャークを解体に挑戦してみた。
まあ……罠で掛かったのと同じ素材が出てくるのだけど砂鮫の皮の質は良かった。
「よし! 色々と分かってきたぞー! ヌシとか居たら良いな」
と言う感じで数日掛けて俺は砂海での釣りのコツを掴んだのだった。
砂海での釣りを終えて朝にオアシスへと帰還すると奏姉さんが朝食の準備とばかりに食材をキッチンで揃えているようだった。
「あら絆。朝帰りかしら?」
「うん。デザートシャークとか釣れる様になったからさ」
どうよ!
っと釣果を姉さんに見せつける。
ちなみに同じ釣り方でサンドシャークも釣る事が出来たぞ。
ちょっと釣りづらい感じで悪く無かった。
「ああそう。アンタは満喫してるわね」
「ふふん。ヌシだって釣ってやるぜ」
「砂海に居るのかしら?」
「さあ? 居なくても居るかも知れないで釣るのさ」
カルミラ島の海にはヌシが居なかったもん。
けど釣りを辞めたりはしなかった。
「別に良いけどね。てりすさんが来たら連携技でサッサと朝食作るから寝ずに待ってなさいよ」
「ウェーイ」
って感じにてりすが来るのを待っていると、寝起きではなさそうな様子でてりすがやってきた。
農薬ジャブジャブ野菜
「あら? 絆ちゃんおかえり」
「ただいま、てりすも徹夜ー?」
「うん。細工が楽しくてジャンジャン作ってた所よ。ゲームだけじゃなくリアルでも加工関連の技術習得に使えそうよねーってさすがに無理かしらー?」
てりすって凝り性な所があるみたいだ。
「ああ、そうそう。絆ちゃん用のルアーが一つ出来たわよーちょっと使い心地を確認して見てね」
「お? なになにー?」
と、てりすが俺にルアーを差し出してくれる。
大鯰のルアーと言うシンキングペンシルタイプ、巻かずに居ると沈むタイプのルアーのようだ。
これに付与効果で潜砂という代物が施されている。
「クレイがね。絆ちゃんが砂海で釣りをしているのならって溶岩での釣りが出来る様にするための実験でこう言った付与をしてくれたのよ」
「おお……」
「てりすの釣り系技能が低いから土台のルアーは拠点に居たブレイブペックルに技能でサポートをして貰ったんだけどね。このルアーを使えば砂漠でも水の中みたいにルアーを使えるんじゃないかしら?」
凄いな。砂の中に潜れるルアーって。
試しにセットして軽くキャスティングしてみると……すっとルアーが砂の中に潜って行ったぞ。
巻くと浮かび上がり止めると沈む……うん。普通にルアーとして使える。
「ありがとう。使わせて貰うよ」
「これで上手く釣れると良いわね」
「さっき釣って来てたみたいよ。コツを掴んだようね」
「あら? 一足遅かった?」
「姉さん。俺がやったのは釣り方の一つだからこれはこれで悪く無いよ」
こっちの釣り方で引っかかるのかも気になるし別の魚だって引っかかる可能性は大いにある。
このルアーで何が釣れるかと思うと中々楽しいじゃないか。
「しっかし……潜砂ねー……装備に使ったら砂の中にプレイヤーも潜って泳げるのかしら?」
「てりすも気になって聞いたんだけど装備類には今の所、付与できそうにないみたいよ? 出来たら面白そうよね」
「ペックル着ぐるみ辺りに付与出来たら砂の中を泳ぎ回るとか出来そうだね」
それはそれで夢はある。
「ゲームだからでしょうけど、発想は無限大ね。それはさておき二人とも朝食を手伝って頂戴」
「はーい」
「わーい」
そんな訳でプラド砂漠で料理技能持ちが揃って朝食の連携技を行ったのだった。
もはや日課になってきたなー。
ちなみにこの潜砂仕様の鯰のルアーを砂海で使用した所、デザートシャークが引っかかるのは元よりサンドアンチョビ、砂漠鯛とサンドゴーレムの欠片、砂漠のバラってのが引っかかるのが確認出来たぞ。
サンドアンチョビって……まんま砂漠仕様のアンチョビのようだ。海だと大雑把に網とかで捕れる魚だったかな。
砂漠鯛も似たような代物で鯛! って感じの食感だ。砂とか混じって食べづらいかと思ったけどそうでも無かったのが不思議だ。
デザートシャークの身は食用じゃないのになー……。
何にしても色々と釣れる魚が多くてプラド砂漠での生活も馴染んできたような気もしてくる。
硝子と再会するのが楽しみだなー。
そうして釣りに興じて更にしばらく経過した頃の事。
「島主よ。とうとう出来たのじゃ。どうやら――」
「お? 出来た? じゃあ姉さんを呼ぼうか」
顔文字さんが俺に報告をしてくれたので早速姉さんを呼ぶ。
「何よアンタたち?」
「ホラ姉さん。ご希望の農薬ジャブジャブ食材が出来たから見てくれ」
と言って密かに顔文字さんと一緒に研究していた野菜を姉さんに見せる。
実験に使ったのはトマトだ。そこにクレイさんに作って貰ったポーションをコレでもかと毎回使って育て……二世代ほど進めた所で目処がたった。
出来上がったのがこれだ。
ケミカルアシッドボムトマト
原種は普通のトマトだったが無数の農薬と度重なる交配によって凝縮され新たな種として確立した毒トマト。
強度な毒性を持ち、肌に触れれば火傷を引き起こす。
運用には注意が必要である。
品質 上質
まだらに黄緑やピンク、赤や紫が混ざった食欲を全くそそらない代物へと昇華された代物だ。
農薬漬けによって普通のトマトだった代物が品種変化を起こして出来上がったぞ。
「さ、姉さん。これが食べたかったんでしょ? 食べなよ」
「ちょっと、毒食材じゃないの」
「農薬ジャブジャブ食材と言っておったからのう。無農薬派だったわらわも今では抵抗はそこまでなくなってきた。これを作る時は大丈夫かと思ったものじゃ」
「途中から楽しそうな顔をしてたけどね」
俺と顔文字さんはフフフと笑い合う。
時々情報交換をしながら経過を確認してたんだよねー。
二人して楽しくなってきてた所だった。
もちろんクレイさんは知ってて黙ってたぞ。
「これ、どこまで行けるんじゃろうか? と面白くなってしまっておったぞ。まだまだ品種改良が出来そうじゃ」