硝子は人の目とか、道徳観念などを気にする所があるから、断るにしてももうちょっとやんわりと答えると思っていたからだ。

しかし同時に納得している部分もある。

硝子って本人も口にしていたが聖人君子じゃないというか、こうと決めたら無鉄砲な所がある。だからこんな風に断るのも硝子らしいとも感じた。

ロゼットの方もまさか即答されるとは考えていなかった様で少し動揺している。

「しかし、君の腕前なら前線組でも十分活躍できるはずだ」

「それでも絆さんと一緒に行くと決めているのです。私の魂に誓って」

……初対面の頃から硝子はこういう奴だけど、凄く照れる。

なんとなく出会った時にされたお辞儀を思い出してしまった。

「そうか……絆、引き抜く様な事を言ってすまなかった」

「問題ない。硝子はこういう奴だからさ」

「みたいだ……奴等は見る目がない」

奴等というのはおそらく硝子の元パーティーの事だろう。

スピリットという種族の風聞だけで物事を決めたのは早計だったな。

まあ攻略wikiを全てと鵜呑みにするプレイヤーに陥りがちな知識不足って感じか。

硝子と意気投合したというのだから元は良かっただろうに、本当残念だ。

プレイヤースキルはトップクラスなのにな。

「じゃあオレ達は行くぜ」

「おう、またよろしくな」

軽く手を振り合ってロゼット達は帰路ノ写本を使って飛んでいった。

そしていつまでも俺にのしかかったままのマイシスター。

「あのな……」

「なあに?」

「お前のパーティー、先に行ったぞ」

後ろを振り返りロゼット達がいない事を確認する紡。

そして指を咥えて『う~ん』と首を傾げた。

「どうした?」

「……お兄ちゃん達はこれからお花見?」

「その予定だが?」

「…………」

なんか紡が俺の目をジッと見つめてくる。

この目は紡が真剣にゲームをしている時の目だ。

考え事、というか脳が動いている時の目とでも表現するか。

この状態の紡は全力の姉さんでも止められない。

ある種、トランス状態に近い。

硝子にも言えるが、集中力が高いんだろうな。

紡の場合、好きな事……つまりゲーム限定だが。

そして考え事は終わったのかニコっと微笑み。

「き~っめた! お兄ちゃん、またね!」

そう口にして帰路ノ写本を使い飛んでいった。

なんだったんだ?

「取り敢えず、予定通り花見でもするか」

それから俺達は誰もいなくなるまで話に花を咲かせてのんびり過ごした。

死の踏み切り板

「絆殿がウザイでござる!」

とある海上にて闇影が言った。

俺達は船の甲板にいつも通りいる。違う事といえば360度全てが海である事か。

つまり陸地がない。

「お前な……本人を目の前にして言うか普通」

「自分、もうイカは飽きたでござる!」

「そうですね。ですがしぇりるさん、食べ物を粗末にするのはいけません」

「……粗末にしてない。武器にしてるだけ」

今日の昼食であるイカを眺めて闇影が嘆き、バリスタの矢の代わりにイカを使ったしぇりるを注意している硝子。

そして他二名。

「あはは、お兄ちゃん達、おもしろ~い!」

「はぁ……どうして僕は君達に付いて来てしまったんだ……」

紡が笑い、アルトが呆れている。

計六名の船員が何故、こんな面倒臭い事態に陥ってしまったのか……。

それは一週間と少し前、丁度ディメンションウェーブ討伐の翌日まで遡る。

俺達はその日を休日、もとい追加実装されたアイテムなどの調査と称して第二都市を歩いていた。

そうして偶然ロミナに再会したので解体したケルベロスの解体アイテムを武器にしてもらう事にした訳だが、全員の強い勧めで俺の武器を作ってもらう事になり、アイテムを渡されたロミナは怪訝な目で見ていたが潔く作ってくれた。

さすがに俺がケルベロスのアイテムを大量に持っていたら勘繰るよな。

まあそこは置いておくとして出来上がったのは『ケルベロススローター』。

光を反射しない黒炎の様な柄が特徴のシンプルな包丁……にも見える。

あれだけ強かったボスの材料から出来た武器だ。強いはず。

うん、強いはず……。

エネルギー低下によって装備できなかった……。

こうしてケルベロススローターはアイテム欄の肥やしになった。

こんな感じで武器系統の変更や媒介石などの買い物を行っていた。

俺はリールを手に入れ、ほくほく顔でパーティーメンバーである硝子、闇影、しぇりると歩いていた。

そして出会いを果たした。

――一つのルアーに。

光輝く、というか実際に光属性の付いたルアーだ。

暗い場所でも使える、むしろ夜釣り用のルアーを売っている商売人と出会った。

お値段一万セリン。

最初その値段で買おうとしたら硝子に『ダメです。詐欺です。心を強く持ってください』と懇願され、どうにか理性を取り戻し、交渉の末一万セリンで購入。

「完全に騙されてます! 人の話を聞いてください!」

と、強く非難されたが後悔はしていない。

今だから言える事だが、結果的にこの時俺が取った行動は決して間違ったものではなかった。

結局、その日は買い物やらなんやらと平和な日常を謳歌して床に就いた。

明けて翌日。

硝子達の決断で失われた俺のエネルギーを少しでも取り戻すという名目で俺達のホームグラウンドである海へと帆船を使って狩りへと旅立った。

ここまでは良い。

「絆殿がダメージを受けると本末転倒でござる。船内で休んでいると良いでござる」

と言われたので、ディメンションウェーブと前日の買い物による疲れもあってか、妙に眠かったのでその場は任せて船内で一眠りする事にした。

船内には休憩部屋が二つあり、片方で眠る際、何か恥ずかしかったので鍵を掛けて横になるとNPCの宿程ではないが睡魔が直に襲ってきて俺は仮眠を取った。

「やめてやめて! 助けてー!」

こうして数時間程経った頃、睡眠を終えた俺は船上へ上がる。

何か妙に騒がしいとは思ったが、船上に上がるとその意味を一目で把握した。

……そこには海賊みたいな事をしている俺の仲間がいた。

具体的には船の横腹で人一人が辛うじて乗れるであろう板の上に俺の妹である紡†エクシードが今にも突き落とされそうになっている、という常軌を逸脱した光景が俺の瞳に映し出された。

海面にはブルーシャーク三匹が今か今かと紡が落ちるのを待っている。

正直、何かのコメディーかと思った。

「お前等なにやってんの!?」

直に意識を取り戻した俺は思わず、叫ぶ。

その言葉に対しての硝子の返答がこれだ。

「密航者は処刑です!」

目が完全にイッていた。

果たして俺が眠っていた間に何があったのか。ぶっちゃけ知りたくもなかったが、聞かない訳にもいかないので、説得を繰り返す。

「紡は俺の妹だぞ。一体何があったんだ!」

「密航者は断罪でござる!」

「お前は黙ってろ!」

「……密航者はサメの餌」

「意味がわからん」

「シージャックは滅ぼすでござる!」

「もう喋るなダークシャドウ!」

こんな感じで要領を得る事は叶わず、ともかく紡を救出し、謎のテンションになっている硝子達を落ち着かせてから事情を尋ねた。

すると驚くべく事に俺が眠っている間、シージャック犯なる四人組が現れ、船を占拠しようとしたらしい。

なんでも船底で密かに潜り込んでいたそうだ。

これに対して硝子達は真っ向から衝突、船上戦闘スキルを所持していなかったシージャック犯は返り討ちに合い、硝子達はそいつ等を拘束した。

――そして。

「こうなったのか!?」

全く以て意味が分からない。

その後、四人組をどう処分するかについて議論が行なわれ、四人組の一人が硝子に。

「昔仲間だっただろう?」

と、友情を傘に温情を得ようとしてきた。

なんと以前硝子がパーティーを組んでいたという例のあいつ等だったらしい。

話によればスピリット風情である硝子達がディメンションウェーブで活躍できたのは何か裏があるはず、きっとズルい事をしているんだとヘラヘラ笑いながら供述。これに対して硝子は激怒、現在行なわれている死の踏み切り板制度を確立し、そいつを海に突き落とした。

尚、そいつの遺言は。

「悪い噂流してやる」

どこぞの元祖恋愛ゲームのヒロインが言いだしそうな最後であった。

補足だが残り三人は。

「許されないぞ」

「次のディメションウェーブでお前達を倒す」

「ぬわー!」

とんだ迷言集だった。

何故俺が硝子達の声を介して、こんな訳の分からない言葉を聞かなければならないのか、それが一番だるかった。

ともかく、その後タイミング悪く船内で俺を驚かそうとタルの中に潜伏していた紡が変な脳汁の出ていた三人に発見され処刑されそうになっていた、というのが事の顛末である。

「本当しょうもねぇ奴等だな!」

「そうですね」

「硝子、何他人面しているんだ。お前が主犯だよ」

「すみません……」

まさか硝子がこうも暴走するとは俺も考えていなかった。

そうして紡がどうしてここにいるのか、という話になり。

「お兄ちゃん達が凄く楽しそうだったから抜けてきたの。それに……」

「なんだって? デスゲームごっこに飽きた?」

「小声で言ったのにどうして聞こえちゃうかな!」

生憎と俺は難聴ではない。それは現実でも一緒だ。

そもそもこんな至近距離で聞こえない訳がない。

決して俺が地獄耳という訳ではないはず。

……多分。

「というか、デスゲームごっこってなんだ?」

「……VRMMOで見られるロールプレイの一種」

「へぇ、そんなのがあるのか」

なんでもしぇりるの話では、特に第二人生計画製の任意ログアウト不可のゲームで行なわれる事の多い『死んだら現実でも死ぬ』というシチュエーションで楽しむロールプレイ、だそうだ。

要するに死亡するとパーティーから強制離脱&連絡を絶つ、という感じらしい。

「え? あいつ等、そんな事やっているのか?」

いや、まあ他人の遊びにどうこう口を挟むつもりはないが、比較的好印象のロゼット達の評価が俺の中で少し低下した気がする。

もちろん、そういうロールプレイをしているからこそ、前線組と呼ばれる位本気で打ち込めるのかもしれないが。

「皆が良いなら紡をパーティーに入れるけど、いいか?」

「もちろんです」

「妹君にはディメンションウェーブで恩を受けているでござる」

「ん」

「しかし、そんな紡を処刑しようとした訳だが」

全員が顔を逸らした。

いや、誤魔化したって忘れないからな。

ともあれ釈然としないまま紡がパーティーに加わった。

尚、シージャック犯だが都市の方で俺達の悪い噂を流しているという話をアルトから受信、事情を説明すると奴等自身が普段からしてきた蛮行が災いして直に鎮火された。

という話はどうでも良い蛇足か。

結果、最初に至る経緯としてアルトにこの話をしたのが原因となる。

なんか今見るとストーリーを進める為とはいえ、

妙に駆け足展開&言動がおかしいので、後々加筆修正するかもしれません。

死の商人

「密航者でござるー!」

紡がパーティーに加わってから三日間……陸と海を行き来して俺達はレベル上げに勤しんでいた。

そしてまたタイミング悪く船内から闇影が叫んだ。

ちなみに俺達が事に至る原因まで残り数時間。

「ち、違うんだ!」

密航者のAさん。職業、死の商人。年齢、不詳。

相変わらず死の踏み切り板を実践している四人組……紡も加わった――が、Aさんを突き落とそうと板に乗せて棒で突いている。

下には何故か、死の踏み切り板が始まると現れるサメが三匹グルグル回っていた。

これってそんなに楽しいか?

「で、Aさん……じゃなくてアルトレーゼさんは何をやっているんだ?」

「なんで他人面? いいから助けてよ!」

「俺は釣りで忙しいの!」

「この外道! 頼むよ! 友達でしょ!」

「冗談だよ。別に殺したりしないから」

そもそも海に落ちた所でデスペナルティを受けて、セーブポイントに戻るだけだろうに。

あれか、VRゲームにありがちな再現過剰による恐怖か。

確か、Z指定のVRゲームで殺人再現できるとか、なんとかで一時期社会問題になったが、あれに近い感じかもしれない。

「む、絆殿の知り合いでござるか……」

「そこ、なんで残念そうなんだよ」

この板には俺にだけ掛からない中毒性でもあるのかもしれない。

ともあれ、何故アルトが密航していたのかを訊ねる。

「それで、どうして密航なんてしたんだ?」

「うん。絆が言っていたじゃないか、海に突き落としたって。あれから気になって海について調べたんだけど、船を作っている人はほとんどいない事を知ったのさ」

「結果、密航か?」

「僕はお金の為なら、なんでもする!」

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