「まあそういう事なら鑑定してあげようかい? 職業柄アイテムを触る事が多くてね。鑑定スキルの熟練度は高いつもりだよ」

「良いけど、金は無いぞ?」

光のルアーに限らず、リールや料理スキルに使うアイテムを購入したら底を尽きた。

特に媒介石が高かったが……鑑定して優秀なのが出たら無意味に……。

「君は僕の事を金の亡者とでも思っているのかな……」

「違うのか?」

「違うよ! それ位サービスするよ」

「それはすまなかった。じゃあ頼む」

未鑑定媒介結晶を渡すとアルトは虫眼鏡……ルーペ? を取り出した。

そして『アイテム鑑定』と小さく呟くとルーペが淡く輝く。

すると結晶が黒に限りなく近い、深い青色に変わった。

「うん。釣りで手に入った媒介石って感じだね」

「俺にとっては釣りと解体が唯一の長所だからそれで良いんだよ」

受け取ると実験に装備してみる。

装備というか、魂を移すと表現した方が風情はあるか。

システム上、寄り代とする器だからな。

初級媒介結晶。

シールドエネルギー700/700。

フィッシングマスタリーを二段階ランクアップさせる。

夜間に生息する魚に与えるヘイトを上昇させる。

特殊効果が二種類だ。

シールドエネルギーは高い方か? 微妙だ。

しかし店売りの方は媒介石だったが、媒介結晶なんだな。

多分、スキルの付いている数で名称が変わるのだろう。

「ともあれアルト、ありがとな」

「君からはいつも儲け話しかこないからね。これ位ならいつでも言ってよ」

こんな感じで初めのうちは船旅を楽しんでいた。

月夜の攻防

帰らずの海域を航海する事四日。

相変わらず水平線に変化は無く、経験値と解体アイテムが溜まってきた。

それ自体は喜ばしい事だが色々と問題も浮上している。

「全員が持っていた料理アイテムが尽きた」

「……そう」

「ついでに釣りで使う餌も尽きた。今まで溜め込んだ魚肉が尽きたら終わりだ」

「ど、どうするでござるか!?」

「お腹が空くのはつらいよね~」

元々長旅を準備しての出航でなかったのが原因だ。

全員一応に料理アイテムを持っていた位で食料と呼ぶにはお粗末だった。

まあ一応このゲームは餌なしでも釣れるけど。

それも六人の人間を賄うにはどうしても数に問題が出てくる。

何より俺の料理スキルはまだ低いからな。作成失敗も十分ありえる。

そうなると食材アイテムをある程度確保する必要があった。

「だけど悪い事ばかりじゃないよ」

「それはどういう意味だ?」

「うん。僕達はもう何日も水を飲んでいないけど大丈夫じゃないか」

「……なるほど」

「確かにアルトレーゼさんの言う通りですね」

仮にこれが現実だったらもっと前に水不足で問題になっていたはず。

このゲームでお腹が空くのはゲーム終了後が関係していると誰かが話していたな。

同じ理由で現実に帰還後、何かしろのプログラムで現実復帰も実現できているらしい。

俺のリアトモ曰く『鮮明に思い出せる夢』だったか。

そんな表現を言い出すので多少痛い言動こそ残しているが学校の成績に問題は出ていない所を見るに本当の事なのだろう。

……今は問題解決の方が重要か。

「これはゲームだからね。お腹は空くだろうけどシステム的なものだよ。死にはしないんだ。最悪、食べずに過ごす事だって可能だよ」

「そこまで達観はしないが……まあ食料は俺の方でなんとかしてみるよ」

そうして俺は結果的に念願の釣り生活へ突入した。

高級餌の尽きた餌なしではマグロなどが釣れる訳もなく、小魚が限界だが。

ここで活躍したのが光のルアーである。

常時光っているので夜間、ライトの代わりに使われていた光のルアーだ。

昼間は光のルアーで釣れる魚はいないが、夜はイカが釣れる事が判明した。

アルト曰く。

「エギだね」

エギというルアーの一種があるらしい。

いや、光のルアーは普通のルアーって感じの外見だが……光っている以外。

ともかく光のルアーによって食料問題は解決。イカ生活に突入した。

というか夜釣りではイカしか釣れない。

調子に乗って夜間に500匹近く釣って何日も続けて朝昼晩イカ尽くしにしたら。

「絆殿がウザイでござる!」

などと暴言を吐かれた。

しぇりるに至ってはバリスタの矢をイカにする始末。

ともあれ今日も今日とてイカ釣りだ。

既にアイテム欄に1000匹以上いるとか、そういう事は気にしない。

さすが光のルアー。

あの日、あの時、あの俺に言ってやる。

多少高くても買って正解だったな。

尚、帰らずの海域はどういう訳だか昼間にしかモンスターが沸かない。

少なくとも第一都市近くでは夜でもモンスターが沸いた。

長期的航海になるとゲームとして夜はモンスターを配置しなかったとか。

……理由としては弱いか。

仮に何か理由があるという前提を立てたらどうだろう。

一般的なRPGでは迷いの森、無限砂漠などといったパターンは大昔から使われてきた王道中の王道だ。特定の方法でしか抜けられない。ギミックが掛けられていて、進み方一つで行き先が変わる。こんな感じだろう。

既に航海を続けて一週間を迎えようとしている。

俺を始め全員のストレスも高まりつつある。

無論、食べ物がイカだけなのも理由だが。

どちらにしても何かしろ対策を立てないとな。

「釣れますか?」

「……硝子か」

深夜に考え事をしながら釣りをしていたので話し掛けられて少し驚いた。

硝子は俺の隣に腰を下ろすと月を見上げた。

今日は月が出ていて……この世界の月は現実の物より大きいので風情がある。

唯、大きさの割に照らす光は弱い。

「自然は凄いですね」

「どうした?」

「いえ……この世界が作り物である事は理解しているのですが、嵐一つで私達の生活を一変させてしまったものですから」

「確かに」

嵐に巻き込まれたのは不幸だが、六人で船上生活をする事になるとは思わなかった。

これまで夜は第一都市の宿で個別に休んでいた。

不謹慎だとは思うが修学旅行の様で楽しい、という思いもある。

だからこそ、この困難を乗り越える方法を模索しなくてはならない。

ゲームというのはしっかりと観察していれば答えは手に入る様に作られている。

答えを導き出せないという事は何か見落としているという事だ。

「絆さん、引いていますよ」

「大丈夫だ。イカはそんなに難易度高くないからな」

ちょんちょんと竿の先端に響く感覚。

……違う。イカじゃないぞ、こいつ。

ここ数日釣り続けているからか感覚で分かる。

帰らずの海域で夜に釣れるのはイカだけだ。

これは光のルアーに限らない。

しかしここで上がってくる疑問がある。

1000匹以上釣ったイカとイカではない何か。

確率的にゲーム内設定数値は相当低いはず。

ともすれば、釣れる生物は……。

「来る!」

――ガクンッ!

以前似た引きを受けた経験がある。

通常とは明らかに違う引き、点の様なアタリ判定。

これは……あいつだ、巨大ニシン。

「違う。もっと強い……!」

「絆さん、船が引かれています」

「……くっ! 硝子、しぇりるを呼んでくれ、あいつの銛スキルを使えばあるいは……」

「わかりました!」

走って船内へ消えていった硝子に意識を割けない。

逆に全神経を竿の先端に向けた。

脳神経と竿の糸を精神的に繋げ、一本の線に変える。

そして点を見つけ出し、力強く引き……巻く。

リールという新たな要素。

俺が付けているのはベイトリール。

海釣りやルアー釣りと相性が良いという事で一緒に購入した。

最初こそ慣れるのに苦労したが、巻き上げる力が強いのが特徴だ。

難点はルアーを投げるのにコツがいる事だろうか。

なんでも現実でも似た様な特徴があるらしい。

ともかく繋いだ感覚を信じて点となる部分を引っ張りながら巻く。

「……絆、来た」

「しぇりる、俺の指定した場所に銛を撃てないか?」

「……可能」

「頼むっ! 俺だけじゃ釣れそうにない」

銛は元々スピアフィッシング的側面も持っている。

巨大な水棲生物を捕獲する際に最も適した武器は銛だ。

だからしぇりるは敵の体力を奪うにはうってつけの人材だと言える。

「……どこ?」

「待ってろ……」

この間も攻防を繰り返しながら意識を二分、敵の位置を探っていく。

糸と神経を擬似的に繋げているので探知できる……はず。

例えるなら憎しみを追う、だろうか。

なるほど、媒介結晶にあるヘイトを増加させる、というのはこういう事か。

イカを1000匹以上釣っているので身に覚えが無いとは言わない。

だが、逆に憎悪が肌を焼く様なオーラとして伝わってくる。

位置は……。

「そこだ!」

「……ボマーランサー」

銛の中級攻撃スキルだ。

投げ槍の様に銛を射出する中距離攻撃スキル。

青白い紐がしぇりるの銛に繋がり、爆裂の様なエフェクトと共に海に射出。

ドスンッという敵に何かが、しぇりるの銛が突き刺さる感触が手にやってくる。

一瞬明らかに引きが弱まったので巻きまくる。

だが、直に再動した。

「もう何発か出来ないか?」

「だいじょぶ」

「頼む」

「ん」

しぇりるに頼り過ぎるのは俺のプライドが許さない。

弱っていなくとも点を引っ張り、巻き続ける。

そして定期的に射出される銛……仮にスタン状態と名付けよう。

スタン状態の隙を付いて巻きまくる。

「このまま行くぞ!」

「ん」

そんな魂を磨り減らすかの様な攻防がどれ位続いたか。

確実に敵の体力は消耗されていた。

当然だ。こちらは二人で敵は一匹、負ける要因がこちらに無い。

「しぇりる、次で決めるぞ!」

「……yes」

穿たれた銛の感触を合図に力を込め、敵の正体が――――

「……分かっちゃいたけどな」

釣れた、というか捕獲したのは巨大なイカ。

どう見ても巨大ニシンの親戚です。ありがとうございました。

船に載せられないので現在ロープで牽引している。

ていうか、モンスター判定じゃないんだな。

クラーケンとか、そういう名前で登場させればモンスター扱いできるだろうに。

……いや、しぇりるの攻撃をアレだけ受けたらモンスター扱いでも致命傷か?

銛は水棲モンスターと相性が良いからな。

「……絆」

「ん? どうした?」

「あれは早く解体した方が良い」

「理由は……いいや。わかった、解体するよ」

「そう」

理由は訊ねても聞けそうに無いが、しぇりるの目が妙に輝いている様に見える。

そういえばイカをバリスタの矢に使ったまでは良いが、毎日黙々とイカを食っていたな。

イカの消費量が一番多いのもしぇりるだ。

……好きなのか?

ともあれ俺は言われるがまま巨大イカを解体した。

手に入った解体アイテムは――

水神の触腕、水神のヒレ、水神の頭、水神の腕、水神の外套膜、水神の心臓、水神の瞳、水神の貝殻、最高級イカスミ、最高級イカの肉。

巨大ニシンの時と同じく妙に沢山取れた。

きっとぬしに属する奴は全部こんな感じなのだろう。

それにしても水神……元がイカだと思うとアレだな。

仮にこれで武器を作ったらどんな物になるのか。

…………。

「しぇりる、一応皆で決めると思うが、これ持っていてくれよ」

「……そう?」

「なぜに疑問系?」

「そう」

「いや、他意はない。しぇりるが持っていた方が良い事がありそうな気がしてな」

「そう」

「勘だよ。そういえば……さっき普段と違わない事言っていなかったか?」

「……別に」

まあ良いか。

釣る事に必死で良く聞こえなかったし。

ともあれ俺は解体したアイテムを全てしぇりるに渡しておいた。

まだ決まってはいないが、良い武器になるといいな。

「絆さん! しぇりるさん!」

巨大イカを釣り上げた達成感に酔っている中、硝子が血相を変えて俺達を呼ぶ。

硝子が慌てているなんて珍しいな。こんな表情は初対面の頃に何回か見た位だ。

「何かあったのか?」

「船が勝手に動いています」

「そりゃあ船なんだから動きもするだろう」

「そうではなく――」

「絆」

硝子の言葉を遮ってしぇりるが上を指差した。

その方向は閉じられた帆。

周囲を見回す。風も無く波の少ない静かな夜。

舵スキル持ちが動かしている訳でもない。

それなのに。

……船が不自然な速度で移動していた。

リミテッドディメンションウェーブ

「こんな真夜中に一体なんの用だい……?」

アルトが眠そうに目を擦りながら言った。

周りにはほんの数分前まで眠っていた闇影や紡もいる。

闇影も最近は規則正しい生活が続いていたので眠そうだ。

紡に至っては半分寝ている。

「船が何かに引かれているんだ」

「波ではないのでござるか?」

「舵スキルが効かない波なんてあるのか?」

嵐の時だって沈まない様に動かす事ができた。

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