仮に何かしろの要因で舵スキルが機能していなかったとしても原因が分からない。

最初こそ巨大イカを釣り上げたから、という線も思考したがハズレていそうだ。

巨大イカが原因の場合、釣りが条件という事になる。

普通に考えて、そんな限られた条件ありえないだろう。

単にイカとの攻防で引っ張られた影響で、ある程度移動した程度だ。

その移動経路が帰らずの海域で何かしろの条件を踏んだ、と楽観視もできるが……。

「ともかく警戒態勢を……なんだ?」

誰かが肩を叩いたので振り返る。

が、誰もいない。

当たり前だ。この場には全員がいて、俺の右柄に闇影、紡。逆側にアルトとしぇりるだ。そして正面に硝子がいるという状況なのだから、後ろから肩を叩かれるはずがない。

「絆さん。海で幽霊というと何を想像しますか?」

「そこはもうちょっと怖がってほしかった……」

真正面から俺を見ていたであろう硝子には正体が見えたらしい。

悲鳴を上げろとまでは言わない。

それでも幽霊的なイベント中に真顔で『幽霊と~~』とか言われるとな……。

まあディメンションウェーブはゲームだが、ちょっとは反応してほしかった。

さて、硝子の質問だが海で幽霊と聞くと頭に上がってくるのは。

「……幽霊船」

「そ、そそそ、そうなのでござるか?」

「僕の知る限り同じ条件で海賊船とかも定番だね」

口にする前にしぇりるとアルトに言われた。

MMORPG的にもその手のダンジョンやイベントは多い。

逆に海が登場するRPGで出てこない方が珍しいといえる位だ。

後闇影、お前なんでそんなにビビってるんだ。

「なるほど……つまり、妙に肌寒いのも、霧が出てきたのも説明ができるな」

霧で周囲が曇って視界が悪くなっている。

人魂の様な霧……幽霊船であるならゲーム作者的に演出は上々だろう。

現に闇影が直前まで眠そうにしていたというのに足が震えている。

怖いのか?

「闇影、突然『わっ!』とか言って驚かすのが定番だが、やっていいか?」

「何を言っているでござるか!」

「いや、先に言っておかないと怒られそうだし」

どうにも俺が口にする冗談は空気を読めないらしい。

そういう訳で、ありかなしか先に聞いておこうかと。

「やらなくても怒るでござる!」

「そうか……じゃあアルト」

「僕にもダメだからね! 昔からホラーは苦手なんだ」

「いや、やるとは言っていないが、お前等反応良すぎだぞ」

ここまで嫌がられると逆に楽しくなるというか。

それに引き換えこっちの三人は……。

「なんですか? その目は」

「……これはゲーム」

「幽霊はヒロインだよね!」

約一名血を分けた妹だが、その言葉は聞きたくなかった。

オタク的な意味で。

……いや、わからなくはないけどさ。

だからって幽霊船の話している時に幽霊はヒロインとか言うか普通。

風情も何もあったもんじゃないな。

「幽霊船か……敵、強いんだろうな」

「昼間でも結構大変だもんね~」

まあその甲斐もあってパーティー全体のレベルは上がってきているが。

俺も元々のエネルギーの半分位は回復している。

一応暇を見つけてはイカを元素変換しているが、元素変換はランクがⅠで詠唱時間が長い。イカ一匹5~15エネルギー位の変換率で一時間700位しか増えない。

変換数が増えればランクⅡとか出るだろうし、定期的にやっているが未だ現れず。

「ふ、ふふ、船が見えてきたでござる!? 怖くて驚いたでござる……」

「それ以前にお前が未だに夜目を取得している事の方が驚きなんだが」

お前夜は寝ているじゃねーか。

俺なんか随分前に未取得に戻しているぞ。

そんな事は置いておいて闇影が指差した方を眺める。

青白い不気味な光を煌々と放ち、VR特有の臨場感溢れるホラー映像が展開されている。

船の全長は超デカイ。

俺達の船ですら20メートルはある小型船だというのに、それを遥かに上回る巨大さ。

クルーザーが25フィート(約7、6メートル)以上の船を指す言葉だと以前しぇりるが言っていた。

なんでもクルーザーと言っても大きさはまちまちで居住空間と居住施設を備えたレジャー用のヨットやボートを差す言葉というのが現代の考えだそうだ。

そんな船の何倍? 何十倍か? は有ろう巨大なボロ船が前方に浮かんでいる。

帆は破け、木々はボロボロ、青白く発光していなければボロ船扱いされそうな幽霊船。

なんか『ひゅーどろどろ』とか流れて来そうな雰囲気だな。

「闇影」

「ぎゃああー!」

「いや……話し掛けただけで悲鳴はさすがに……」

そして面白そうなのでアルトの方を眺めると後ろを眺めている。

現実逃避か?

反応いいな、こいつ等。やっぱ仲間に一人はこういう人材が必要だよな!

「絆、僕は君の評価を少し下げる事にするよ」

「なんで幽霊船一つでそこまで」

「君は今自分がしている顔を自覚した方が良い」

ははっ!

まあ良い。今は幽霊船だよ。

「取り敢えず戦闘準備をするぞ。さすがに幽霊船に敵がいないとかありえないだろ」

「わかりました」

「……ん」

「むふー!」

元気に返事をした三人。

残り二人は相変わらず怖そうにしている。

特に闇影。お前ビビリ過ぎ。

アルトの場合は商人やっていたのでレベル的問題があるのでわかるが、闇影は俺達の中で一番スペックは高い。

ドレインが基本なのでステータスだけは硝子を上回る程だ。

まあ性格的に幽霊が苦手なのだと言われればそれまでだが。

「そんなに怖いなら、お前等二人だけで残るか?」

「……残る? ここに?」

「ああ」

「自分、絶対に付いていくでござる!」

「いや、船で待っていた方が安全だろう?」

「誰も居ない所の方が怖いものなんだよ!」

「そういうもんか? 俺ホラーとか昔から見慣れているから良くわからん」

兄弟が多いとホラー映画とかレンタルでよく借りてくるんだよな。

しかも何故か一緒に見させられる。

最近だとVR機を映画に取り入れた主人公と同じ目線で見られるVR映画なんかもあったか。

ジャンルとしては好きでもないし嫌いでもない、という微妙なラインだがな。

そうこうしている内に船が幽霊船へ突撃する。

ピキンッ!

何かにヒビが入る様な音が響く。

これはほんの二週間前位に聞いた事がある。

あれは……。

強い閃光が発生し、空間が歪む――

――リミテッドディメンションウェーブ。

リーダー   1 絆†エクシード。

サブリーダー 2 函庭硝子。

メンバー   3 闇影。

4 しぇりる。

5 紡†エクシード

6 アルトレーゼ。

メニュー画面が表示され、こう表記された。

光が晴れると船は幽霊船内で降りられる形となっており、如何にもダンジョンと言った形相を示していた。

地図を表示させると俺達がいる場所が映っているのみで、他の場所は黒く塗りつぶされている。おそらくゲームにありがちな探索すれば表示されるという奴だろう。

「リミテッドディメンションウェーブ?」

思わず俺が呟くと周りには事態を把握できていない仲間達が各々な反応を示している。

硝子は武器を構えていた。あの閃光の一瞬に武器に手を伸ばしたとか、どこの武人だよ。

しぇりるは無表情でキョロキョロと周囲を見回しただけで特に反応なし。

紡は両手で戦鎌を持って、足腰を震わせ、ケモノ耳を興奮気味に動かしている。

アルトは相変わらず現実逃避を繰り返している。

そして……。

「ぎゃああぁぁーー! 怖いよー! 助けてええぇぇー!?」

約一名、周りがドン引きする位驚いている人物が……。

というか口癖が無い。本気で怖いのだろう。

幽霊云々で驚かそうと思ったが……なんだろう、凄い罪悪感が襲ってくる。

「闇影、落ち着け!」

「……絆ちゃん?」

「絆、ちゃん!?」

「…………絆殿」

言い直した闇影に若干思う所はあるが良いだろう。心の中で俺をどう思っていようが気にしない。

それにしても闇影の奴、どんな奴なんだ?

長い事一緒に生活をしていればその人がどんな立場か、ある程度推測する事ができる。

性格云々ではなく、現実でどんな人物なのか、だ。

無論、それを訊ねるのは本人が自分から話す以外ではノーマナーだ。

オンラインゲームでの常識とも言える。

あくまで俺の勝手な予想だが、硝子は旧家みたいな金持ちのお嬢、しぇりるは……情報不足で不明、紡は論外、アルトは……多分年上。

こんな認識だ。まあゲームでそれを考えるのは無粋か。

「闇影、これはゲームだ。幽霊がいても、あくまでゲームなんだ。わかるか?」

「……わかったでござる」

目を見て、俺が見上げる形だが……落ち着かせる様に話すと闇影は素直に頷いた。

さて、闇影も落ち着いた事だし、事態の把握をしよう。

俺の服の裾をダークシャドウさんが引っ張っているとか、そういう事は気にしない。

「リミテッドってなんだ?」

「……限られた、有限。日本だと制限ともいう」

「つまり直訳すると制限された次元の波ってなるのか」

「パーティーが表示されたという事は人数が制限されているのではないですか?」

「ありえるな……」

オンラインゲームでは度々見られるシステムだ。

インスタントダンジョンとか、パーティークエストとか、そんな感じ。

紡が以前やっていた奴だとパーティーメンバー全員で協力してクリアするって奴か。

お約束になるが、ダンジョン攻略後にボスがいて、そいつを倒すとクリア。

クエスト報酬やボスドロップが手に入るというパターンだ。

一日何回とか、週一回とか制限が付いていたりするんだよな。

なるほど。だから制限された次元の波、なのか。

「まあ、このまま立ち止っていてもしょうがない。進んでみるか?」

トラップ

「闇影、本当大丈夫か?」

全員で船内の探索を始めたのは良いが、明らかに怖がっている。

アルトですら闇影を心配する程なのだから相当だろう。

まあ気持ちは分からなくもない。

幽霊船の船内は視界が悪いというのに見える範囲は青白い不気味な色をしている。

しかも木製の壁に触れると冷たくヌルッとしていて、船というよりはおばけ屋敷だ。

どちらかといえば幽霊船とおばけ屋敷は近いのか?

「だ、大丈夫でござる」

「ついて来るだけでも良いからな? 無理に戦って怖い思いするよりは良いだろう」

「そういう訳にはいかないでござる。自分、パーティーの魔法役でござる故」

闇影もなんだかんだで仲間想いなんだな。

柄にもなくちょっと感動しちまったじゃないか。

よし、闇影。お前を攻撃しようとする幽霊は全部俺がなんとかしてやるからな。

そう息巻いて前方を眺めると硝子が先頭で警戒を行なっている。

尚、一番後ろは紡だ。

通路が狭いから広がって戦えそうに無いんだよ。

だから戦力を前と後ろに割いて不測の事態に備えている。

「それにしても結構歩いたが、中々モンスターが出てこないな」

「確かにそうだね。この手のダンジョンは普通もっと敵が一杯沸くイメージがあるね」

「地図も中々埋まりませんね」

「……まるで迷宮」

言われてみれば迷宮という言葉がしっくりくるな。

妙に広い船内。そして狭い通路。

船上戦闘スキルが機能している所を見るに船であるのは事実だろうが。

地図が広くて良く解らないし、石畳だったら地下迷宮と間違えても不思議じゃない。

そうこう雑談しながら進んでいると硝子が前方にある扉に気付いた。

「皆さん、扉です。何があるか解りません、気を付けてください」

警告に全員が頷き、扉を開けて直に横へ移動する。

いきなり銃で撃たれる訳じゃあるまいし、警戒し過ぎだろう。

何秒か経過しても敵も攻撃もやってこないので頭を出して扉の先を確認する。

食堂?

船の見取り図に関して詳しく知らないが大勢の人間が一同に座れるイスと長いテーブルが置かれていた。当然どれもボロいが、どうにもホラーっぽさを意識している。

硝子、しぇりる、アルトの順番で入り、続いて俺も入ろうとした直後。

バタンッ!

扉が突然閉まった。

開けようと扉に力を込めるが開かない。

「おい! 大丈夫か!?」

中に向かって叫び、ドンドンと扉を叩く。

「大丈夫です! 敵が――」

フッと硝子の音が消えて以降はどんなに話しても言葉は返ってこない。

モンスター風情に硝子としぇりるが遅れを取るとは思えないが……。

おそらくこの罠はプレイヤーを分散させる類の罠だ。

広いダンジョンでパーティーが拡散すれば戦力的に厳しくなる。

入った順番、だろうな。

「お兄ちゃん、チャットを送れば良いんじゃない?」

「さすが紡。だが、ゲーム的に良いのか?」

しかし考えとしては有りだ。

メニューカーソルからチャットの欄を表示させて硝子へ会話を送る。

出ないな。

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