いや、そんな胸を張って宣言されても困るんだが。

金の亡者と化したアルトを海に突き落としたい衝動を堪えながら聞く。

俺達が海を活動範囲としている事を密かに知ったアルトは例の噂、数日前鎮火したシージャック犯の噂の中に嘘と真実が混ぜられているのではないか、と調査に乗り出した。

本当、金の匂いを嗅ぎ付けて来る奴だ。

「それが真実であったとしてアルトレーゼさんはどうするのですか?」

硝子が真剣な面立ちで訊ねる。

まあ俺以外はアルトと初対面だから分からないと思うが、俺は分かる。

「僕にも一枚噛ませて欲しい!」

アルトはこういう奴だ。

俺の知っている話では、アルトは敵対同士のパーティーへにじり寄り、武器とアイテムを手配する様な輩だ。

味方に付ければ心強いが、必ずしも味方とも限らない。

儲けが減ったと見るや海での効率などの情報を売るからな。

客層は前線組から製造組、果ては生活組まで幅広い。

噂を流されればあっという間だろう。

下手に断れば何があるか分からず、味方に引き入れても何があるか分からない。

困った奴だ。

まあ、それなら味方に引き入れるが。

「わかった。だが、海は釣れる種類が増えるのと、モンスターが陸地と違う位だぞ」

「クロマグロやタイだね。後、ブレイブバートやブルーシャークの素材アイテムか……」

話してもいないのに生息モンスターなどを言い当てられる。

ある程度裏を取ってから来ていると考えるのが無難か。

アルトは口元に手を当てて作った様な素振りを見せる。

「解体武器……人のいない場所……経験値……流通量……スピリット……」

闇影が心配そうに俺の方を見た。

残念ながらその行動が既に答えを言った様なものだぞ。

「まあ最初から知っていたんだけどね」

「って事は俺以外にも知っている奴が?」

「僕の知る限り絆を入れて三人かな。実際はもっといると思うけど、解体武器ってだけで外された子は多いからね」

彼等を取り入れて秘密協定を結び、買い取り、必要としている人に高値で売る。

死の商人がしそうな手口だ。

しかし意外なのは解体武器の真実を公開して評価を上げなかった事か。

真実が公になれば解体武器はパーティーに一人は必要になる人員となる。

そうなれば日の目を見られるというのに誰も公表しないのには納得がいかない。

……一つ、あるとすれば。

俺はアイテム欄に入っているケルベロススローターを思い出す。

ボスモンスターの死体を誰もいなくなってから解体すればあるいは……。

仮にこの案を実践するとすれば俺なら潜伏スキルを取得する。もちろん、闇影が以前使っていた様な低レベルではなく、足音が立たない程度熟練度やレベルを上げた奴を。

なるほど、ケルベロススローターを手に入れた時、思ったからな。

――これだから解体武器はやめられない。

まあ良い、ここまで知られている現状、隠す必要性がない。

「しぇりる、どうする?」

「……絆にまかせる」

「わかった」

海の可能性について一度は断っておきたかった。

独断で決めると後々面倒だからな。

「アルト、ある事無い事話すぞ」

「ある事ない事かい?」

「ああ。海はおそらく新大陸への航路だ。敵の強さから本来は第一大陸を攻略してから進むのが正規ルートだが、船を作れたから先に進んでいる。硝子がディメンションウェーブで活躍したのは手に入る経験値が陸より多いからだ。だから、海を越えれば良い装備が手に入る」

半分以上都合の良い嘘を言った。

確実な情報ではないが、可能性としてはこんな所か。

当然ここまで都合の良い話だとは思っていない。

無論、何かあると睨んでいるのは確かだ。

夢やロマンで海を越えたいという欲求の方が強く、道楽で終わるかもしれない。

それでも投資するというのならアルトは信用できる。

……例え他意があったとしてもな。

「さて、商人アルトレーゼはこんな夢物語に投資するか、否か」

「もちろん、投資するよ」

「いやにあっさりだな」

「勘違いしないでほしい。僕は絆、君の空き缶を金に変えた目を信じているんだ」

凄く期待されているみたいだが、アレは偶然に過ぎない。

まあ今更偶然だと言った所で無意味だろうし、異論は唱えない。

しかし……アルト、この一ヶ月で少し世界に染まったんじゃないか?

「まあ死の商人が投資してくれる事になったのは良いが、これからどうする?」

「誰が死の商人だい。ダメージキング」

「俺をダメージキングと呼ぶな!」

「喧嘩はいけません! 普段通りが良いのではないですか?」

こんな感じでアルトを引き入れたまでは良かった。

というか、ここまでは何もかも上手く周っていた。

……そう、東の空に浮かぶ黒い雨雲さえ除けば。

帰らずの海域

「さて、これからどうするか、だ!」

事が起こって翌日。

俺達全員は水浸しの濡れ鼠状態となりつつもどうにか船の上にいた。

要するに嵐に巻き込まれ命からがら生存した、という状況。

結果として船はどことも分からない……地図上で、方向すら機能しないという最悪の状況にいる。更に沖から離れすぎているのか帰路ノ写本まで使えない。

地図表示で分かるのはこのマップが『帰らずの海域』と表記されている事だけだ。

「死に戻りするというのはどうだい?」

「アルト、貴様俺達がスピリットである事をわかって言っているな」

「そんな事はないよ」

飄々とした顔で軽く流しやがった。

最悪の手段としてはしぇりる、紡、アルトは死に戻りは可能だ。

しかし俺達スピリットは少々厳しい。

「死んじゃう位ならこのまま進もうよ! 戻ってデスペナ受けるより、進んでデスペナ受けた方が良いとあたしは思うな~」

パーティーに加わってから常時機嫌の良い紡はニコニコ顔で言った。

持ち前の性格からか、闇影やしぇりるとも颯爽と打ち解けた紡。

話している内に、何故か誰よりも冒険心を刺激されて海、海、海と騒ぎ、毎朝就寝中の俺へのしかかりを掛けてくるに至っている。

この言動についてだが、元々紡はRPGがそこまで得意じゃない。

MMOなど、特にVRと付くゲームは結果としてアクションRPGになってしまうという弊害がある。

実際にゲームに入り込むのがVRの特徴であるが故に、どうしてもアクション要素が付く物が多い。そうなってくると紡は途端に上手くなるが家庭用RPGだと低レベルクリアでも目指しているのか、と思う程次へ次へと進む。

まあ後ろで見ている分には面白いのだけど……元々好奇心が旺盛な所があるからな。

「……元々どっちが前か後ろか分からない」

「あれだな。迷いの森とか、無限砂漠とか、RPGだと定番だがそれに近い感じか?」

「……そう」

「しかし驚いたね」

「そう」

「いや、僕はまだ何も言っていないんだけど……」

「そう」

「絆、彼女の翻訳を頼めるかい?」

しぇりるのコレに俺達は慣れたが、初対面のアルトじゃ厳しいか。

どうでも良いが、なんで俺がまとめ役みたいなポジションになっているんだ。

「それで何が驚いたって?」

「うん。僕は絆の言っていた海云々を半分……七割方信じていなかったんだけどね。現状を見て考えを改めようと思ったんだ」

「それは何故でしょうか?」

「絆も話していたけど、迷いの森や砂漠みたいなフィールドって昔のRPGでは一般的だと僕も思うんだ。それで、大抵はそういう場所をクリアすると次のマップに行けるとか、伝説の剣とかが手に入ったりするじゃない。もしかしたら絆の話の何割かは本当かもしれないってね」

概ね同意見だ。

俺の知っているゲームだと一度はプレイヤーを困らせる通過マップ、後半に物語を進める為のキーアイテムが眠っている、というパターンもある。

攻略本でもあれば良いんだが、生憎とディメンションウェーブはβテスターがいない。

そうなると手探りで帰らずの海域を探索せねばならない。

どちらにしても海を越える場合、行く事になるのだから。

そうして帰らずの海域を彷徨う事となった俺達だが。

「紡さん、闇子さん!」

「むふー!」

「承知でござる!」

ブレイドマーマンとスカイレイダーなる水系と鳥系の、どう見ても生態系が違うだろうってモンスター群が連携攻撃を仕掛けて来ていた。

それに対する我等が戦力。

扇子の派生武器である両手持ち……左右の手に扇子を持った硝子。

特化に進んだ戦鎌の紡。

相変わらずドレインオンリーの闇影。

この三人が対峙する。

ディメンションウェーブ第一波で活躍した二人がいるのだから絶対安心かと思いきや、敵も強い。おそらく海域に流された影響で適正より上の敵と戦っている。

少なくとも俺が相手するにはエネルギーが大幅に足りないな。

「輪舞一ノ型・回撃!」

両方の手に握られる扇子が開き、硝子は舞うかの様に一回転。

狭くはあるが全方位攻撃なので背後の敵にも攻撃が命中する。

確か輪舞の概要説明は……充填時間の大幅増加と防御能力を低下させる代償にスキルと通常攻撃の威力が高くなる、だったはず。

以前が防御必殺タイプだとするなら、攻撃必殺タイプって感じだ。

説明通り以前使っていた乱舞系とは違いチャージ時間が大幅に延びたがその分威力が高くなっている。使い始めてまだそんなに時間は経っていないので断言はできないが硝子には輪舞の方が合っている気がする。

なんというのか、硝子は受け止めて防ぐより避ける方が向いていると思うんだ。

ケルベロス戦アクロバット的な意味で。

尚、先日……光のルアーを買った日だが。

硝子の新たなリアルスキルが判明した。

なんでも硝子は利き手が両方……両利きらしい。

文字を両方の手で書きやがった。

硝子さんマジパネェッす。

冗談は置いておくとして。

考えてもみれば双剣とかゲームではありがちな設定だがVRゲームだとやはり利き手の剣の方が上手く動かせるのだろうか。

もちろん、スキルはシステムが勝手に動かしてくれる。だが通常攻撃は別だ。

利き手は反射動作される手の事だから脳と関わりがあると考えられる。

詳しくないので予測になるが、脳と関わりがあるとすればやはり利き手もゲームをする上で重要な才能の一つになるはず。

そういえば昭和を懐かしむテレビ番組で左利きは独楽の対戦で有利だったと聞いた事がある。

他にもスポーツでは右利き選手と左利き選手は違うとも聞く。

具体的には科学の塊であるVRゲームでそれが該当するかは不明だ。だが、現実と差の少ないこの世界において利き手は意外にも重要かもしれない。

まあ今は関係ないか。

ちなみにどうでも良い補足だが、俺は平均的な右利きだ。

「彼女、第一印象と大分違うんだね」

「アルト? こんな所にいると殺されるぞ?」

「……気をつけるよ」

「で、硝子の何が違うって?」

「第一印象だよ」

確かに硝子は普段話している時は、物腰が柔らかく話し方も丁寧なのでキャラクター外見と一致していると思う。

しかし結構考えている、というか見た目よりも暴力的な所はあるな。

ディメンションウェーブの時も防衛より攻めを提案していた。

……生まれる時代と性別間違えたんじゃないか?

戦国時代とか三国志に生まれたら武将とかやってそうだよな。

「そういえば絆はやっぱり以前手に入れた媒介結晶を使っているのかい?」

「……店売りだが?」

――媒介石。

NPCの店で売られている媒介石は一つ特殊効果が付与されている。そしてシールドエネルギーという他種族でいうHPに該当するゲージが付属している。

このシールドエネルギーはHPと同じく自然回復する効果もある。

唯あまり数値自体は高いものではなく、低い物だと50、一番高い物でも1000。

シールドエネルギーの低い物は特殊効果が優秀で、高い物は貧弱というありがちなバランスだ。どれを使うかは個々人の好みと言った所か。

闇影なんかは闇魔法威力%アップとか付けていた気がする。

俺は中途半端なスキル構成なのでマスタリー系ランクアップを使っているけど。

「ほら、僕等が出会った頃……もう一月位前になるのかな。空き缶で稼いでいた時に、話していたじゃない。媒介結晶って」

あーあったな。そんなアイテム。

アイテム欄をごちゃごちゃ詰め込んでいるので忘れていた。

俺はカーソルメニューからアイテム欄を選択して探してみる。

色の入っていないやや灰色染みた結晶石。

これは未鑑定という意味か。

「あった。これか」

「まだ未鑑定だったんだね」

「実装前に手に入れたアイテムじゃな……」

実装とは言っても事前に搭載されている追加システムみたいな物だからな。

きっとこれからも装備できないアイテムとか出てくるのだろう。

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