俺が釣りに使っていたナマズの居た池周りなんて完全に舗装されて池が噴水みたいな感じになっていたし、空き家になっている住居がそれこそ無数にある。
しかし、なんでこんなに家を建てているんだろうか?
「僕の推測なんだけど、おそらくここは第三都市に相当する場所なんだと思う」
「ふむ……その根拠は?」
「絆くんも見ていただろうけど、空き家の数だね。ペックルが運営する物もあるんだけど、ロミナくんの工房の様に商店にするのが目的としか言いようのない設備とか、必須建築に含まれている」
必須建築は建てなきゃいけない建物の事らしい。
要するにペックルの『これこれを何軒建てるペン』って事だ。
微妙にゲームシステムの匂いを感じる仕様である。
プレイヤーに都市を作らせるとか何を考えているんだ運営とは言いたくなる。
とはいえ、そういうシステム自体を組み込むのは面白い。
一般的なネットゲームとは趣向が異なるんだろうな。
これもゲーム開始から終了まで一律でプレイヤーを管理しているから出来る事なのかもしれない。
「他に自由に家を建てる事が出来ない土地も存在するよ。敷地は確保できているけどね」
アルトは島の地図を出して説明する。
自由に出来ない土地ね。
普通に考えれば後々何かイベントが発生するとか、そんな所だろう。
「後は海辺に桟橋を設置させられて家を建てた。こっちも空き家が多い」
「……マイホームか何かか」
「借り工房があるんだから当然だろうね」
「セカンドライフプロジェクトなんだから当然か」
「しかもリゾート地の様な側面が強いからね。青い綺麗な砂浜もあって、第一都市の海辺よりも遥かに好きな人がいると思うよ」
まー……元々このゲームはセカンドライフプロジェクトって名目なんだから自由に家を買ってゆっくりする事も出来るんだろう。
そんな住むに適した場所を俺達に作らせるって魂胆はよくわからないし理解しがたい所はあるけど、開拓ってフレーズに面白さを感じる人がいるのは、他のゲームでも証明されているしなぁ……。
実際、俺も結構楽しんでいるし。
「どちらにしても順調だよ。城とやらもいずれは完成するし、出来上がったらどうなるか見ものだね」
「早く島から出たいもんだ」
「巻き込んで置きながらその台詞? まあ良いけどね」
なんて感じで俺達の日々が過ぎて行った。
そんなある日の事だ。
海辺でボケーっと釣糸を垂らしていると……突如視界に映写機の様な演出が掛った。
「な、なんだ?」
しかも帰路の写本を使用した時と同じ様な浮遊感。
何処かへ飛ばされている?
じー……ってフィルムを回す様な音と共に5……4……と謎のカウントダウンが開始される。
メニューを開いて装備を弄る余裕はある様だからいざって時に備えて変更した。
2……1……。
バキン!
と波が発生する時と同じ様な音が響いてガラスの弾ける演出と共に視界が開ける。
ここは……島の外れにある海岸沿いの丘か? 若干開けた場所だ。
「絆さん」
「お兄ちゃん」
紡と硝子が近くにいた俺に声を掛けてきた。
「い、一体なんだ!?」
「これは一体?」
驚きで狼狽するアルトと状況確認を取るロミナ。
「わーお」
驚いているのかボケっとしているのかよくわからないしぇりるが声を上げた。
船作り中だった様で木槌を持っている。
島内にいる全員が強制で転移させられたって事か?
「いきなり何が起こったんだ?」
装備品をチェックしつつ状況を確認する。
29:24
視界には謎の目減りする時間が映し出されている。
開始制限時間30分って事なんだろうけど、何が起こっているのか確認しなきゃ動きようがない。
とは言っても、どうせ何かしなきゃいけないだろうから辺りを再確認。
……開けた場所のど真ん中で、ブレイブペックルが横になった体勢のまま浮かんでいる。
意識が無いって感じだろうか?
割とシュールな光景だ。
ラースペングー
「ブレイブペックル?」
俺がブレイブペックルを指差して硝子達に視線を向けると、硝子が紡の方を向いた。
紡の方はてへペロッて感じの表情をしてやがる。
妹よ、何をした?
「ペエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ――」
ブレイブペックルが胸をかきむしり、呻くような声をあげたと共に黒いオーラを放ち、球体の影に隠れてしまう。
そして黒い球体が弾けたと思ったら其処からカルマーペングーのような……いや、ドラゴンゾンビの様な羽を生やし、禍々しい盾を複数展開した黒い炎を纏うモンスターが出現する。
名前は……ラースペングー。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
雄たけびと共にラースペングーがこっちに向かって突撃してくる。
敵意満載って感じだ。
「アルトさんとロミナさんは下がって!」
硝子が前に立ち、ラースペングーに向かって構える。
ラースペングーは盾を上に掲げた。
するとラースペングーの周りに一羽の……なんだ?
カルマーペングーとも異なる真っ黒な鳥型のモンスターが出現したぞ!
こう……古いゲームのデブな鳥みたいなモンスターだ。
ダークフィロリアル?
「キュエエエエエエエエエエエエ!」
ダークフィロリアルというモンスターが素早く硝子に向かって突撃。
一瞬、姿がぶれたかと思うと、硝子に複数の攻撃エフィクトが発生した。
「うぐ……は、早い!」
硝子がどうにか往なしていると、紡がダークフィロリアルに向かって鎌を振るう。
「硝子さん!」
そんな紡の攻撃を予見していたと言うかのようにラースペングーがダークフィロリアルを庇うように前に立って受け止める。
ガキンと金属音が響いた。
「硬! 凄く硬くて刃が立たない!?」
ハッと俺は我に返り、取り出した弓でダークフィロリアルと言うモンスターを狙う。
「落ちついて陣形を取るんだ!」
「わ、わかってるけど!」
「僕は戦いは専門外なんだけどな」
忙しいのでアルトは無視する。
そうして俺が矢を放った直後、ラースペングーを中心に黒い炎が立ち上り、辺りを焼き尽くす。
『セルフカースバーニング』
視界にボスが放った技らしき演出名が出された。
範囲が広い!
至近距離にいた硝子と紡に命中し、黒い炎で焼き焦がされる。
「きゃああああああ! 痛い。何コレ! 物凄く痛い!」
痛いというのはダメージ的にだろう。
攻撃を受けると痛い様な感覚はあるが実際に痛い訳じゃないからな。
あれだ。テレビゲームで攻撃を受けた時に思わず『いたっ』とか言っちゃう感覚に近い。
紡はどちらかと言えば感覚派なので、そういう光景は結構ありがちだ。
「く……」
合わせてダークフィロリアルが翼を交差させ、一瞬で移動して硝子の背後に立った。
直後に八回の打撃音。
「こ、これは厳しいです……ね!」
負けじと硝子がダークフィロリアルに扇で殴りかかった。
「輪舞零ノ型・雪月花!」
硝子の大技が発生して花びらが舞う。
するとラースペングーがダークフィロリアルの隣に回り込み、盾の檻を展開して受け止めた。
モンスターの連携が厄介過ぎる!
「だけどその隙を私は逃さないよー!」
紡が回復アイテムを使用して傷の治療を始める。
「お兄ちゃん! みんな! 援護をお願い!」
「もちろんだ!」
「……うん」
「攻撃の威力からしてしぇりるさんは接近しちゃダメ。ロミナさんも援護をお願いするね」
「わかった」
各々言われた通りに動き始める。
俺は特に言われていないので、弓での援護攻撃を続行する。
「僕はどうしたら良いかな?」
「回復アイテムをばら撒いてくれると助かるかな」
「非常事態だ。しょうがない」
アルトも戦力外では無いらしい。
確かに回復アイテムが手頃な場所に配置されていると助かるよな。
「硝子さん、ラースペングーは守備力が高すぎるから何か攻撃手段があるのかもしれない。ダークフィロリアルから先に攻撃しよう」
「わかりました!」
なんて会話中も刻一刻と状況は変化していく。
丁度硝子の技が終わると同時に、敵の盾も消失した。
合わせて俺としぇりる、ロミナが弓で援護射撃を行う。
狙うはダークフィロリアル。
なのだけど、俺達の矢はラースペングーが遮ってダークフィロリアルに当たらない。
「くそ! 邪魔だ、どけ!」
何度も矢を放つのだが、その度に何処からか盾が出現して遮られる。
挙句、ラースペングーが矢を掴んで捨てやがった。
で、ダークフィロリアルは物凄く俊敏で硝子と紡でも攻撃を当てるのが至難の技の様だった。
「あ、また!?」
しかもダークフィロリアルを庇うようにラースペングーが回りこんで硝子達の攻撃を受け止めたら、もう大変。
また謎の演出と共にダークカースバーニングって技を使ってきて、焼き焦がされる。
「あーもうイライラして来る! 邪魔だよ!」
紡が苛立ちを見せているが、俺の方でも考えてみる。
戦略的な行動を取ってくる敵だな。
今までみたいな真っ直ぐ攻撃してくるタイプとはちょっと違う。
どちらかと言えばソウルイーターに近いかもしれない。
「はぁあああああああああ! 輪舞破ノ型・甲羅割り!」
ガツンと硝子が距離を取り、遠距離技を放った。
するとラースペングーがよろめく。
効果があった?
「なるほど……防御無視技が効果的な様ですね」
「え? もしかして、アレを使うの? 威力低くないの?」
紡も心当たりがある様でラースペングーに視線を向ける。
一定の熟練度が必要な技で、効果的な物があるって事なんだろう。
だが、その技を放った代償はより厄介な物であるのをこの時、俺達は身を持って味わう事になった。
攻撃を与えた硝子にラースペングーは思い切り睨み付け、手をかざす。
「こ、これは――」
すると、硝子が大技を放った際に、自己を守る行動時に出ていた盾の檻が硝子を一瞬で閉じ込める。
ラースペングーが拳を握りしめる様なポーズを取ると、盾が逆向きになった挙句、大きなダメージ演出が入る。
そして……。
俺達の視界に文字が浮かび上がる。
凝った演出だな!
『愚かなる罪人への罰の名は鉄の処女の抱擁による全身を貫かれる一撃也。叫びすらも抱かれ、苦痛に悶絶せよ! アイアンメイデン!』
敵が使うカットインってウザイ!
硝子が閉じ込められている盾の檻の背後に鉄で作られた拷問具で知られるアイアンメイデンが出現し、門が開く様に扉が開いて盾の檻共々抱え様としている。
「させるか! こっちもコレだ!」
紡が鎌でラースペングーを何か技で殴りつけるけど、ビクともしない。
というかダメージ入ってないぞ。
一定時間無敵って奴じゃないか?
「クエエエエエエ!」
「本気で邪魔!」
ダークフィロリアルがそんな紡に襲い掛かる。
俺達は俺達で遠距離から矢を連射して妨害しようとしているのだけど、決定打にならない。
ん? アイアンメイデンに矢が当たる?
釣竿に持ち替えて、スナップを掛けて光のルアーを分銅の様にしてぶつける。
カーンと良い感じに音がしてダメージが入る手ごたえがした……までは良かったのだけど、アイアンメイデンが硝子の入った盾の檻を完全に包み込んでしまった。
バキンと凄い音と共に、アイアンメイデンが砕け散る。
「キャアアアアアアアアア……く……」
するとそこから硝子がどうにか抜けだして戦意を見せているが、目に見えてダメージを負っているのがわかる。
「大丈夫か!?」
「大丈夫……と言うのは厳しいですね。大ダメージを受けてしまいました」
「というか凄く戦い辛いんだけど……まるで別のゲームでPvをしているみたいなうっとおしい連携をしてくる敵だよ」
「見た感じ、タンクとアタッカーの連携攻撃だね」
アルトがそう分析する。
確かにそんな感じだ。
攻撃の要はダークフィロリアルで、それを護衛するラースペングー。
護衛の方を攻撃すると反撃スキルで大ダメージを受けてしまう。
この手のタイプは各個撃破をすると連携が崩れるので後は勢いで倒せる事が多いが、ラースペングーがボスである以上、やはりダークフィロリアルは取り巻きなんだろう。
とりあえずはダークフィロリアルを倒したいが、ラースペングーが邪魔だ。
赤髪の人形
「どちらにしてもラースペングーの方が脅威度が高い! 硝子くんに紡くん! そちらに攻撃を集中するんだ!」
「とは言いましても……」
硝子が防御無視攻撃を放つのは良いが、盾を出す技で攻撃が命中し辛い。
「ああもう、こっちのモンスターが凄く邪魔! やああああ!」
紡がダークフィロリアル相手に戦い辛そうだ。
「やっぱり動きが早いだけで体力は其処まで無いみたい! 後少しで倒せる! それからラースペングーを相手にしよ!」