「お兄ちゃん。このミカカゲって国のクエスト結構色々とあるみたい。魔物退治とか薬草納品とか沢山あって面白いね!」
「日にち毎に変わるシステムみたいで、同じ依頼ばかりがある訳じゃないみたいです。後、魔物が地味に強いですね。奥に行くのには時間が掛りそうな感じがします」
「帰路の写本も使うと国外に出ちゃうし移動がかなり面倒だよね」
「……そう」
「武器や道具なんかもビザのランクが高くないと売って貰えないそうで、道行く他の方々が使い勝手が悪いと仰ってますね」
ふむ……新大陸の独自の制度が色々と足かせになる感じか。
永久ビザを持つ俺達でさえも魔物は面倒みたいだしなぁ。
「とりあえず行ける所まで行ってお店のチェックをしてみるね。もしかしたら良い装備売ってるかもしれないし!」
この辺りは紡の方がゲーマーらしいか。
まずは装備を整えてから戦いやすい魔物を相手にしてLvを稼ぐと。
「闇影さんはカルミラ島で一番良い装備を作っているからか、楽に戦えていますね」
「あの腕輪の性能が物凄く高いからね。ヤミちゃんが居なかったらもう少し苦戦していたかもね」
「そう」
まあ……闇影は俺達が考えうる最高の装備を用意して装備させているもんな。
ちなみに現在の俺の頭装備は相変わらずペックルが持っていたサンタ帽子だ。
極めてシュールな姿をしている自覚はある。
「絆さんはどうですか?」
「主とか釣れた?」
「釣れた?」
「俺の方はー……主っぽいのが引っかかったかと思ったらブルーシャークに横取りされた挙句、そのブルーシャークを釣る羽目になった。しかもでかくて妙な二つ名付きのブルーシャークだったかな?」
俺の返答に十秒以上の沈黙が支配される。
「えっと……もう一度聞いて良いですか?」
「だから主っぽいのが引っかかったと思ったらブルーシャークが乱入してきて、妙な二つ名付きのでかいブルーシャークを釣り上げたって事」
「ちょっと離れている間に色々とあったみたいですね」
「あはははは! お兄ちゃん相変わらず凄いね。説明されているのに全然わかんない」
紡の笑い声がずっと続く。
うるさい。こっちだってよくわからないし、なんでそうなったのかすらわからん。
このゲームの制作者は一体何を考えてこんな仕掛けを施したのか理解に苦しむな。
「そう……」
「なんか凄く見に行きたい衝動に駆られるけど、どうしようかな? ね、硝子さん」
「そうですね。ちょうど休もうと思っていた所にこんな話をされましたし……かといって合流するには大分時間も掛ると思います」
「……今行くとヤミおいてく事になる」
ああ……闇影が寝ちゃってるもんな。
起きるまでに行って戻って来る、なんて事も出来るとは思うけれど、その分硝子達の睡眠時間を減らす羽目になる。
先に起きて待機せざるを得ない闇影も退屈だろう。
ちなみに即座に解体するかとも思ったけれど、釣り上げた判定があるので一応俺の所有物となっている。
船のオブジェ判定になって設置しているから……掠め取られたりする事は無いはずだ。
こんな家具は嫌だなぁ。
「解体は後にするから明日の朝、闇影を連れてくれば良いんじゃないか?」
「そうですね。ただ……本当、行ったり来たりで忙《せわ》しないですね」
「そう」
「まーねー。お兄ちゃんの方で面白いイベントが起こり過ぎなんだよ」
いや、面白いと言われてもな。
俺は普通に主を釣りたかっただけだ。
「お兄ちゃんの近くで面白い事が起こらないか見張るのと、新しいマップを探索するならどっちが良いと思う?」
「見張ってどうするんだよ。普段は何も起こらないだろ」
ゲーム開始からしばらくは第一都市に居て、特にイベントも無かったぞ。
空き缶釣ってアルトに渡して悪徳稼いだだけだし。
ニシンの主を釣った時は紡や姉さんに見せたしな。
「確かに絆さんと一緒に居た方が変わった出来事に遭遇出来そうな予感はしますが……」
硝子まで言うのかよ。
何? 俺って皆の中でそう言うポジションに居る訳?
「俺は釣りで忙しいの。次に似た様な事があっても面白みなんてないだろ」
俺のディメンションウェーブにおける本来の目的は釣りだ。
そこに釣り場があるから釣っているにすぎない。
「むしろ海だからこそこんな奇想天外な出来事が起こるんだ。川なら大丈夫なはず。今度は川釣りをしよう」
「本当に?」
しぇりるが疑問をぶつけてきた。
「……たぶん」
「お兄ちゃんも自信が無くなって来てるんだね」
だから妹よ、いい加減にしろ。
「そっちには川とか無いのか?」
「無いですね。今いる所はミカカゲの村なんですけど井戸で水が飲める程度です」
「あ、井戸って言ってもつるべとか無いよ。キコキコってレバーで動かして出るタイプ」
俺がフッと思った事を紡が先に潰して来る。
くっ……釣り場が無いのか。
「絆さんが安心して釣りが出来る場所があれば良いんですけど……」
「お兄ちゃんも難儀だねぇ」
「そう……」
「まあいいや。じゃあ、明日一度合流で良いか」
「ええ、釣りあげたブルーシャークを見せてくださいね」
「おやすみ、お兄ちゃん」
「……おやすみ」
そんな訳で硝子達とのチャットを終えた。
うーん……釣りも良いけれど硝子達と良い感じに付き合いが出来ないかを考えないとな。
今までは一緒に居ると都合がよかったから一緒に居たけれど、俺の釣りライフと硝子達の冒険心との歯車が微妙に合わなくなってしまっている。
本音で言えば新大陸に興味もあるが、釣り場にも興味が尽きない。
そもそも海も場所によって釣れる魚が異なる訳だし、出てくる魔物なんかも違う。
一体どうしたら良いのだろうか。
釣りが出来て硝子達と狩りが出来る……そんな良い所取りの良い案が無いか考えておこう。
「さてと……俺もそろそろ寝ておくか」
フィーバールアーのお陰で本日の釣果は上場だった。
ここらで切り上げても損は無いだろう。
このゲームの魚を是非ともコンプリートしたいものだ。
と、思いながら俺は船の寝室で眠る事にしたのだった。
翌日。
「これは凄いでござるなー!」
闇影が船のオブジェと化したブルーシャーク『盗賊達の罪人』を見て言う。
「ブルーシャークにしては大きいねーボス魔物みたいな感じ」
妹も同様な感想でむしろ戦いたいって感想だ。
「是非とも釣る瞬間に立ち会いたかったとは思いますが……」
「タイミングが悪かったね」
「俺もまさかこんな漁港でこんなの釣れるなんて思いもしなかったっての」
「それで、これが主って事になるの? お兄ちゃん」
「どうだろう……」
攻略サイトや検証する奴がいる訳じゃないからなぁ。
「なんて言うか俺の勘だと主とかじゃなく、ランダムで発生する凶悪な遭遇ボスみたいな代物だったんじゃないかって思う」
「あー……ありうるね。よく初見で釣りあげられたね」
「そこはー……まあ、カルミラ島で得た物資やペックル達を駆使してどうにかね」
現に釣り上げるのは中々骨だったし。
「この様な出来事が発生する事を考えると、ただ釣りをして技能を習得していくだけでは限界が来るのではないでしょうか?」
ありえる……思えば初期から魔物にカテゴリーすべき魚がチラホラ釣れる事はあった。
何より、釣竿で魔物と戦う事を想定したスキルなんかも出現する訳だし……特化だけでは何かしら予測不能な事態が起こっても何の不思議もない。
「そう」
しぇりるがコクリと頷き、何やら俺に小首を傾げながらアイテムを渡してきた。
アイテム名はエレクトロモーター。
エレクトロモーター
エレクトロモーター
アタッチメントパーツ モーターを使用する道具に雷属性の力を宿す。
「なんだコレ?」
「リール……電気ショック漁法」
「それってビリ漁の事を言っているのか?」
「……そう」
「何それ?」
「魚を電気ショックで痺れさせて釣り上げる日本じゃ原則的に禁止されている漁法だ」
「ああ、川でスタンガンでバチッてする奴?」
「まあ……それも該当するだろうな。邪道だから俺はやりたくないと思っているが……」
「魔物を釣るなら相応の準備が必要」
しぇりるの言葉にぐうの音も出ない。
確かに、今後魔物を釣るって事態になった際、既存の釣り具では限界が来ないとは言い切れない。
釣竿やリールにそう言った相手を想定した仕掛けを施さねばいけない状況も出てくるかもしれない。
そもそも……釣っている最中に魚に攻撃をしたのは昔からだしな。
「で、しぇりる。このパーツをどうしろと?」
「ロミナ、作ってもらえる」
「ああ、鍛冶で釣竿や電動リールの改造に使えと」
コクリとしぇりるが頷いた。
「中々釣りをする上でも大変なんですね」
「そうみたいなんだよなぁ……」
問題は経験値とかは釣りで得られる訳じゃないんだけどさ。
「それで絆さん、解体をするのですか?」
「うん。皆には一度見て貰ってからと思って待ってただけ」
皆と合流するまで朝起きてから相変わらず釣りをしていた。
釣果は上々……主が他に居るかもしれないから離れるに離れられないのが難点か。
「大分解体に関しては広まっているみたいですね。解体技能持ちはパーティーに一人は居るのが無難になりつつあるそうです」
「一応、街とかで解体専門で店を開いている人もいるみたいだよ」
「じゃあ専門家に任せた方が良い感じ?」
「なーに言ってんのお兄ちゃん。お兄ちゃんが、解体のトッププレイヤーだよ?」
そうかー? 釣り三昧でカルミラ島でも好き勝手釣りをしていた俺がトップとか怪しさ抜群だぞ。
「絆さんは解体武器を結構揃えていますし、経験も豊富な方なので私達はお店に任せる事はしませんよ」
「でござる」
「……そう」
「了解、まあ期待に答えられるようにこの辺りも強化していくよ」
今の所は硝子達が狩りをしてきた獲物を俺が解体してって事で良いのか?
魔物の場合はその場で捌かないとアイテム欄に入らないのもあるから微妙なラインだ。
大型の魔物ほど、その傾向が強い。
解体技能の難点だなぁ。
「じゃあ早速捌いて行きますか」
って事で俺は勇魚の太刀を取り出してブルーシャーク『盗賊達の罪人』の解体を行う。
……念のため、出来る限りの解体マスタリーを引き上げて行おう。
今まで結構解体をしていたお陰か解体マスタリーをⅦまで上げる事が出来た。下げるかはエネルギーとの兼ね合いだけど一時的に引き上げるのは悪い手じゃない。
解体をするとミニゲームみたいに斬るべき箇所が分かって、そこをなぞる様にやって行くんだよな。
結構これがゲーム的と言うかシステム的なアシストがあってサクサク進む。
まあ、大分馴れているから難易度が高くても特にミスなく解体が出来るようになった。
最初にニシンなんかを捌いた時と今は腕に違いが出るな。
ただ……うん。このブルーシャーク『盗賊達の罪人』はかなり解体難易度が高い。ロミナが鍛冶に失敗だと言った時と同じような難易度の高さが伺える。
勇魚の太刀やケルベロススローターじゃ大分、性能が負けて来ているのがわかる。
何度も刃を通さないと切れて行かない。
解体武器もそろそろ更新していかねばいけないか。
「おおー見る見るうちにあの大きなブルーシャークが捌かれて素材になって行くでござる」
「絆さんも中々やりますよね」
「解体マスタリーの上昇条件を満たしているからだよ」
なんて言いながら解体を終える。
おお、頭が派手に斬る事が出来たなぁ。
上手くすればトロフィーに加工できるみたいだけど、一応、素材優先なので断念する。
盗賊罪鮫の牙、盗賊罪鮫のヒレ、盗賊罪鮫の胸びれ、盗賊罪鮫のサメ肌、盗賊罪鮫の切り身、盗賊罪鮫の筋肉、盗賊罪鮫の軟骨、盗賊罪鮫の心臓、盗賊罪鮫の胃袋……っと、盗賊罪鮫と言う品々が解体で入手できた。
レアリティが高いのか文字が光っている。
「よーし、終了っと」
「お兄ちゃん。ロミナちゃんの所に持って行って新しい装備を作って貰うのはどうかな?」
「良いとは思うが何を作って貰うんだ? 新大陸の武具も確認したいんだろ?」
「そこなんだよねー……正直出来る事が多過ぎるし、まだまだ手探りな感じだし、作って貰って店売りでより優秀なのがあったらなぁ……」
「ですね……」
「新しい装備を入手するまでのつなぎに使うのはどうなのでござるか?」
「それも手ですね。そもそもロミナさんなら変わった素材を持っていけば喜んで下さるかと思います」
確かに、ロミナは面白い素材を打つ事を喜んでいた。
作業的に見慣れた素材を叩くのとは別に楽しんでもらえるだろう。
「そもそも白鯨素材でもまだ武器を作って貰ってないし……」