ルヴェが目を覚ました時、そこは簡素な部屋の中だった。彼女の寝所とは比べるべくもない、小さな部屋。部屋の中央にぽつんと寝台が一つ置いてあるだけで、他には家具らしい家具もない。縦横十メートルつまりは四ブロック分の小さな部屋だ。

そしてその端に、ルヴェたち三人は首から下だけが石化した状態で並べられており、目の前には先ほど戦った金髪の男と見知らぬ魔族の女──Olとフローロが立ち、ルヴェを値踏みするかのように見下ろしていた。

あんた、よくも!あたしをこんな目に合わせてタダで済むと思ってるの!?

叫ぶと同時に雷撃を放とうとするが、やはりスキルを発動することはできなかった。放射系のスキルはどれも指先から出る。身体が石化されてしまっているこの状況では発動できないようだった。

テール!あんた、何とかしなさいよ!

申し訳、ございません

従者のテールは項垂れ謝罪するだけで役に立たない。ルヴェは舌打ちすると、Olに視線を向けた。

今なら特別に許してあげるわ。さっさとあたしたちを戻しなさい

よくもまあこの状況でそんなセリフを吐けるものだ

嘲るような、呆れるような、それでいてどこか感心するような、複雑な笑みをOlが漏らす。

わかってないようだから教えてあげるわ。あたしはルヴェ・スィエル。スィエル家の長女よ。あんたがどんなに愚昧でも、これで意味が分かったでしょ?

居丈高に告げるルヴェに対し、Olは頷いてパチリと指を鳴らす。すると信じがたいことに、床がぐにゃりと変化して椅子の形をとった。Olはそこに悠々と座り、足を組む。

見ての通り、俺は母なる壁を操れる。そしてこの部屋には出入り口がない。つまりお前がどれほど泣こうと喚こうと、お前の敬愛するお婆様はお前を助けに来るどころか、見つける事すらできないという事だ

ルヴェは絶句する。確かに言われてみれば、この部屋には出入り口が全くない。首を動かすにも限界があるから真後ろは確認できなかったが、クゥシェとテールも首を動かし背後を確認しているから、本当にどこにもないのだろう。

そういえば、聞き覚えがあるわ。母なる壁を動かせる奴がいるってとんだ与太話だと思ってたけど。じゃああんた、ユウェロイのところの奴ね!

それがわかったところで何だというんだ?

余裕綽々で答えるOlに、ルヴェは歯噛みする。

望みはなんでしょうか?

それまで沈黙を守っていたクゥシェが、唐突にそんなことを問う。

わたしたちを殺すことも、石のままにしておくこともできたはずです。それでもこうして会話ができる状態にしたという事は、要求があるはずですよね?

クゥシェの言葉に、Olはほうと呟き愉快げに笑みを浮かべる。

話が早い。俺の要求はお前たちの領地だ。何、全部とは言わん。半分ほど明け渡してくれればいい

そんなことできるわけないでしょ!?

壁族にとって領地は最も重要なものだ。それによって狩れるモンスターの数が決まり、つまりは得られるアイテムやスキルの数が決まる。より上層の壁族になるには上納する量を増やし力を示さねばならない。

半分も領地を取られたら、間違いなく上層に行く可能性がついえる。いや、それどころか下層送りになる可能性すらあった。

世継ぎたる孫娘二人と、それにつけた最強の護衛の命と引き換えにでも、か?

意地悪く尋ねるOlに、ルヴェはうめく。彼女の祖母は情に流されるような可愛げのある女ではないが、確かに失うものが多すぎるのも事実だ。そもそもユウェロイ一派との戦いになるにしろ、ルヴェたち三人が欠けるのは非常に痛い。

いや、それどころか早く帰らなければ、主力が抜けたこの状況を好機とみてハルトヴァンが攻めてくる可能性すらある。最悪なのはユウェロイとハルトヴァンが共謀して襲い掛かってくることだ。

ユウェロイさんは、このことを知らないんですね?

冷静なクゥシェの質問に、ルヴェはハッとした。共謀してつぶせるのならば、そうしてしまった方が手っ取り早い。そうしない理由はただ一つ

その通りだ。領地を欲しているのはユウェロイではなく俺自身正確に言えばフローロ。この娘なのだからな

Olは背後の魔族を見やり、そう告げる。その魔族が何者であるかは気になったが、付け入る隙はそこにしかない、とルヴェは考える。

ではなぜそうしないのです?

いきなりお前の孫娘の身柄を預かっているなどと言っても、お前たちの祖母も信用はしないだろう。そこで、手土産を用意することにした

手土産って何よ

嫌な予感がしつつ、ルヴェは問い返す。

お前たち誰か一人の首だ

な──

何を馬鹿な冗談を、という言葉は出てこなかった。Olの瞳には愉悦も嗜虐も、あるいは嫌悪や決意といった色さえなく、ただただ決まった事柄を告げているというだけの、事務的な光しか宿っていなかったからだ。

そこで、誰を送るかという話になってな。本来ならばそこの従者が筋というところなのだろうが

テールを見据え、Ol。

戦った感覚で言うと、この男の方がお前たち二人よりも価値があるように思えてな。一人で戦っていたなら俺たちは負けていたかも知れん

なんですって!

ルヴェは柳眉を逆立てるが、その反面それが事実であるという事も理解はしていた。護衛なのだから、護衛対象より弱くて務まるわけがない。だがそれはそれとして、足手纏い呼ばわりされれば腹が立つ。

それで、お前たちに決めてもらおうと思ったわけだ。誰を犠牲にするか、それぞれ言ってみろ

一瞬、三人の視線が交差した。この三人にとって、それで必要十分だ。

もちろん、テールよ。可愛い可愛いクゥシェを傷つけることは許さない。もしあの子に手を出したら、あたしも舌を噛んで死んでやるから

ルヴェが真っ先にそう答える。

ならば、クゥシェ様を。お世継ぎであり次代党首であるルヴェお嬢様を失うわけにはいかん。そうなれば俺は自刃するだろう

次にテールがそう答え。

自分の領民を守るのが壁族の務めです。テールだけは助けてあげてください。それが許されないのであれば、わたしはこの命を持ってあなたの企みを防ぎます

最後にクゥシェがそう答えた。つまり三人とも、別々の相手を指定したことになる。しかも指定しなかった方を殺せば、自分も死ぬという脅し付きだ。

ルヴェが妹であるクゥシェを。

テールが主君であるルヴェを。

クゥシェが従者たるテールを。

それぞれ守ろうとしている図だ。

誰か一人でも殺せば、連鎖的に全員死ぬと言っているわけだなるほど、面白い

もしこれが、全員が誰か一人でも殺せば自分も死ぬと言っているのであれば、簡単だ。それぞれ引き離し、情報を制限した上で離反させればいい。

だがこの三人は、誰か一人が死ぬこと自体はそれぞれ許容しているのだ。そちらが言った通り選んだのだと言われれば説得もしづらい。

どうせ満場一致でテールをあるいはクゥシェを犠牲にするという結果になると思ってたんだろう、とルヴェは内心でOlをせせら笑う。とにかく、時間を稼ぐ必要があった。

たとえ母なる壁の中にあったとしても、この状況を何とかする方法はあるはずだ。そしてあの悪辣な祖母なら必ずそれに辿り着く。その信頼が、三人にはあった。

馬鹿馬鹿しい駆け引きはこれで懲りたでしょ。さっさと道理に従ってあたしたちを解放しなさいよ

道理?

ルヴェは更に時間を稼ぐために、Olを挑発する。

あんたみたいな雑魚は、あたしたちみたいな強者に従うのが本来の道理ってものでしょうが

それを言うのならば、戦闘で負けたそちらが従うのがそれこそ道理ではないのか?

食いついた!

ルヴェは内心拳を握りしめつつ、素知らぬ表情で続ける。

ふん。あんな卑怯な戦い方、勝ち負けのうちに入るわけないじゃない。それにあんただって、テール一人だったら負けてたって言ってたでしょ

交わしたのはほんの僅かな会話だが、ルヴェは既にOlの性格をおおよそ見抜いていた。プライドが高く、相手を屈服させることにこだわるタイプ。なら乗ってこいと心の中で祈るようにつぶやく。

ならばお前はどうしたら負けを認めるというのだ?

そうね。対等な条件でもう一度勝負して、それでも負けたら認めてもいいわ

来た。笑みを浮かべそうになる表情筋を制御しつつ、あくまで優雅にルヴェはそう告げる。無論、本当に対等な勝負などするつもりはない。

何を持って対等とする?スキルなしで殴り合いでもするか?

そんな野蛮なことするわけないでしょ。あたしが提案するのはもっと洗練された、正々堂々とした一対一のぶつかり合い。つまり

持ち込むのはルヴェが絶対的な自信を持つ勝負方法。それでいて、相手が引き受けざるを得ない内容。すなわち

セックスよ!

第11話繰り返し念入りにわからせましょう-1

五回目。

おお姉様、何を?

ルヴェの突然の発言に戸惑いを隠せず、クゥシェが問いかける。

大丈夫よ、クゥ。全部このあたしに任せておきなさい

だがそれを不安と見なしたのか、ルヴェは自信満々にそう答えた。

(今更なんですけどOl、これっていったい何をしたんですか?)

フローロから念話が飛んでくる。いつの間にやらそんな魔術も習得したか、と感心しつつ、Olはそれに答える。

(何、弱めに狂戦士の術をかけたまでのことだ)

それは本来であれば、恐怖を消し去り思考力を減らし、死ぬまで戦う戦士を作り出す術だ。ルヴェにかけたのはそれを調節し、論理的な思考力はギリギリ残しつつも恐怖心や羞恥心といった感情的な判断能力を奪い去ったものだった。

その結果、ルヴェは戦闘以外で最も得意なことつまり、性行為での勝負という発想に至ったのだろう。

(へー魔術ってそんなこともできるんですね)

ピントのズレた反応をするフローロをさておき、Olはルヴェに答える。

では、先に相手を絶頂させた方が勝ち、ということで構わぬか?

もちろんよ。あんたのよわよわチンポなんてすぐにイカせちゃうんだから

よほど自信があるのだろう。ルヴェはOlを鼻で笑いつつ首肯する。

ルヴェお嬢様、そのような!

あんたは黙ってなさい!ほら、さっさとコレ戻しなさいよ。それとも石相手に腰を振るのが好きなの?

異議を唱えようとするテールを一喝し、ルヴェはOlを挑発した。Olとしてもこれ以上口を挟まれても困るのでクゥシェとテールに沈黙をかけつつ、ルヴェに石化解除をかけてやる。

ルヴェが自由を取り戻すと、途端に雷撃が飛んできた。

それは効かんということくらい、わかっておらんのか?

フン。わかってるわよ。これはただの挨拶

Olとフローロは当然、事前に耐雷耐凍の術をかけてはいる。が

(Ol、痛いです。普通に効いてます)

(流石に威力全てを消すまではできん。耐えろ。全く効かないという顔をしていろ)

雷撃ほど強力なスキルの効果をゼロにするには、今のOlが持つ魔力は少なすぎた。アレオスのローブを着込んだOlはともかく、フローロにはそれなりのダメージがあった。

ほら、さっさとあんたのざこざこチンポ出しなさいよ。ま、そんな貧弱な体格じゃどうせ大したことないでしょうけど

ベッドの端に座り、シーツをパンパンと叩いてルヴェはOlを急かす。だがOlがローブを脱ぎ捨て隆々と屹立した一物を取り出すと、その声は尻すぼみに小さくなっていった。

なっなにこれ!?

男の性器だ。見たことがないのか?

小柄なルヴェの頭と同じくらいの長さに勃起した剛直を突き付けるように見せながら、Olは生真面目な口調で問う。

なんでこんな大きいのよ!

ルヴェが知る男性器とは、つまりはテールのものだ。だがOlのそれは、明らかにテールのものよりも倍以上は大きかった。長さだけではなく、太さも、先端の亀頭の膨らみも、全くの別物だ。

男は興奮すると大きくなることくらい知らぬのか?

ふ、ふーん。じゃああたしで興奮してるんだ。まだ服も脱いでないのに

虚勢を張りつつも、ルヴェの視線は男根から離すことができなかった。これを入れるのは流石に無理ではないか。まだ効果の続く狂戦士の術によって恐怖心はなかったが、それでもそんな疑念は生まれるほどの威容がOlの性器にはあった。

は!?なんでそんな事しなきゃいけないの!?

ずい、と鼻先に突き付けられる肉の槍に、ルヴェは顔をしかめる。

ハンデをくれてやっているのだ。別にしたくないならばしなくてもよい。だが勝敗の条件を忘れたのか?

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