後ろからぎゅうと抱きしめ、リルはOlにくすぐるように囁いた。

お前の様に二枚舌を使い分けられるような相手には効かん。善がっている演技をされたらそれまでだからな。それに、悪魔なんてものは存在自体が端から堕落しきっているものだろうが

あーそうね、そんな事されなくても私Olの事結構好きだしね

そうか

気のない素振りで答えるOlの背に、リルはそっと頬をくっ付けた。

ほんと、だよ?

Olはそれに答えず、すっと立ち上がる。そして振り向くと、リルと視線は合わさずに言った。

それより、腹が減ったんだろう。褒美だ、相手してやるから寝室まで行くぞ

ん。やったーっ、ひっさしぶりのごっはんー!

努めて明るい声を出し、リルは諸手を挙げて喜んだ。いつかは心を開いてくれる事を願いつつ、こんなの悪魔らしくないな、と思いながら。

第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-6

やっと来たの

牢獄に姿を見せたOlに、青銀の髪の魔術師ウィキアは冷たくそう言い放った。

彼女は既に数日をここで過ごしている。朝晩の食事を届けに来る娘以外に牢を訪れるものも無く、その冷静な口ぶりとは裏腹に彼女はかなり焦っていた。

もう、ナジャとShalは何らかの形で処分されてしまった可能性は高い。対処されるなら自分が最後であろう事は大体予測していた。ナジャとShalを篭絡した後でなら、彼女達がウィキアに対しての切り札になりえるからだ。

安心しろ。お前の仲間達は皆生きている

そんな言葉で安心できるとでも思っているなら、あなたは大間抜け

ウィキアはにべも無く言い放つ。大体、生きているなんて何の保証にもならない。例え何も出来ない肉達磨にされてようと、意識があるならそれは生きているんだから。

そうだな。では言い直そう。大きな怪我もないし、精神を壊すような事もしていない。今すぐ地上に戻せば、冒険者として復帰できる。三人ともだ

何が言いたいの

そんな情報には何の意味も無い、と言わんばかりの態度でウィキアは核心を促した。事実、そんな情報に何の意味も無い。嘘など幾らでもつける。

情緒の無い奴だなまあいい。お前とは手っ取り早く賭けをしにきた

賭け?

鉄格子越しに怪訝な表情で問い返す彼女に、Olはうなずいた。

ちょっとした、簡単なゲームで俺と勝負をしてもらう。お前が勝てば、仲間全員を無事に地上に帰してやる。俺が勝てば、お前自身を貰い受ける。条件は3対1だ。お前に有利だろう

馬鹿な事を言わないで。そんなものに乗るわけが無いでしょう

提案に飛び付きたくなる衝動を微塵も見せず、ウィキアはそう答えた。現状は完全に手詰まりだ。ウィキアの能力では、魔術を封じられた状態で逃げ出す事など出来ない。

まあそういうと思ってな。公正な審判役も用意した

Olが言うや否や、暗闇に炎が立ち上り、全身赤銅色の巨大な悪魔が姿を現した。

もし俺がゲームでイカサマをすれば、この悪魔に魂を捧げてお前の勝ちとする。対等な勝負だ。受けるか?

ウィキアはじっと考えた。勿論、この悪魔はOlの配下だろうが、悪魔というのは本質的に人間の絶対的な味方にはならない存在だ。これほどの大悪魔となれば尚更。魂を賭けているとなれば、悪魔は容赦なくそれを取り立てるだろう。性格にもよるが、場合によってはウィキアの味方に回ってくれさえするかもしれない。

いいでしょう。話を聞くくらいの気分にはなったわ。説明してみなさい

牢の中でベッドに座って足を組み、魔術師の少女はそう言い放った。

ゲームの内容は実に単純だ。まず、ウィキアとOlは攻撃側と防御側に分かれ、それぞれ身体の部位を相手に見えないように隠しながら書く。

書けるのは両手足と頭、胸、腹、腰の8箇所。攻撃側と防御側の書いた部位が同じであれば防御成功で、攻守交替。違った場合は攻撃側に防御側のその部位の所有権が渡り、やはり攻守交替する。

所有権を取られた部位は呪いによって相手の手に渡り、自由に動かすことは出来なくなる。ただし、生命維持に必要な内臓の活動や、視覚、聴覚などの五感、思考能力や意思、発言する為の口や喉などは所有権を取られても自由に動かすことが出来る。実質、四肢の動きを制限するものと考えていい。

イカサマについては、多岐に渡る。読心術、遠隔視、未来視、使い魔等の利用による相手の手を読む全ての行為や、暴力や呪いなどによるゲーム終了以外の方法によるゲームの停止や手の強制、妨害、幻術等による手の偽装、約束の反故などは全てイカサマとみなされ、発覚次第悪魔によって魂を奪われ、ウィキアの勝ちとなる。

例外は両腕の所有権を奪われてゲームが続行できなくなった場合で、これは反則には含まれない。と言ってもゲームの続行は出来なくなるから、実質敗北となる。ウィキアがそこを指摘すると、Olはお前には口も脚もあるだろう?と答えた。

意外な事にウィキア側は反則はない。といっても、魔力を封じられ道具もない状態では反則しようにも出来ないのだが。

勝敗は、相手に自分の持つ肉体の所有権が一箇所を残して全て奪われた時点で敗北となる。残り一箇所になれば負けようがないのだから当然だ。

勝敗がつけばお互いの取得した所有権が元に戻った上で、ウィキアが敗北した場合は彼女の全身の所有権がOlのものとなり、Olが敗北した場合はウィキアを含め、仲間4人を無事に地上に送り届けてもらえる。

既に仲間が無事でない場合は、約束の反故に違反するのですぐさまウィキアの勝ちとなる。Olの魂を奪い去った後、責任を持って悪魔が彼女達を地上に送ることになる。

無事の定義は、悩んだ結果地上に戻った後、元と完全に同じように戦える心身状態であることとした。本当はOlと戦えるくらいにしたかったが、恐らく最低でも逆らえなくなる呪いくらいはかけられているだろう。まずは勝負の場にOlを引きずり出さない事にはどうしようもない、とウィキアは仕方なく妥協した。

では始めるとするか。先攻はお前でいい

Olは椅子にゆったり腰を下ろし、鉄格子をはさんでウィキアに向かい合った。間には無言で炎を纏った悪魔が立ち、四本の腕を組んで両者を睨みつけている。片手でも札を隠してかけるように、譜面台の様な台と筆が用意された。

このゲームはいうまでもなく先攻が有利だ。相手の所有する肉体を残り1個にした時点で勝ちとなるのだから。ウィキアはゆっくりと思考を重ねた。このゲームに時間制限は特に指定されていない。

お互いがランダムに場所を指定するなら、攻撃が失敗する可能性は1/8だ。終盤はともかく、序盤の攻撃はあまり深く考えずともいい。だが、だからこそウィキアは深く考え込んだ。

8種の部位の価値は対等ではない。それが、このゲームを単なる運の勝負から、読み合いが必要な複雑なものへと変化させていた。攻撃が成功すればその部位は一時的にとはいえ相手のものになる。

腕をとられれば手で文字を書けなくなる。つまり、その時点でウィキアは敗北する。いざとなれば口や足で書くことも可能だろうが、出来ればそんな屈辱的な事はしたくないし、やりたくても腹や腰では無理だ。腕は最優先で守らなければならない。

逆に、Olはそういった事情は多少有利だ。例え両手足を縛られても、口さえ動くのなら魔術で文字を書くことなど造作もない。対等といいながら、勝負以前の部分でウィキアは不利になっているのだ。

しかし、そこにこそ付け入る隙がある、と彼女は内心で呟いた。

書けたわ

随分長い事考えたな。まあ良い

ウィキアが部位を書いた札を差出し、Olもまた札を差し出す。長考したウィキアに対し、Olは殆ど悩む事無く札に答えを書いていた。

悪魔が互いの札を改め、金属のすりあうような不愉快な声で言った。

攻撃側、ウィキア。指定部位左腕。防御側、Ol。指定部位頭。攻撃ハ成功、Ol ノ 左腕ハ ウィキア ノ モノ トナル

Olの左腕が銀に輝き、ダン! という音ともに光り輝く楔が打たれた。

ふむ。では次は俺の攻撃だな

Olは気にした様子もなく、再び迷わずに札に文字を書いて伏せた。ウィキアは、まずOlの防御札に考えを巡らせた。Olがまず守ったのは頭だ。守るなら四肢、特に利き腕である右腕がもっとも可能性が高いと思ったが、その予測は外れた。

頭をとられて何か弊害があるのだろうか? 確かに頭は重要な部位だが、五感や口の動き、意志などは取られないからそれほど害があるとは思えない。

魔術も行動も通常通り出来るし、目を閉じさせたりしてゲームの妨害をするのは禁止事項だ。そもそも所有しているだけで神経が繋がっているわけではないのだから、ウィキアにOlの身体を動かせる訳でもない。

ウィキアは悩んだ末、札に部位を書くと悪魔に差し出した。先ほどと同じように悪魔が双方の札を見て、キイキイと声をあげる。

攻撃側、Ol。指定部位胸。防御側、ウィキア。指定部位右腕。攻撃ハ成功、ウィキア ノ 胸ハ Ol ノ モノ トナル

ウィキアの胸部が光り輝き、琥珀色の鎖がじゃらじゃらと伸びて締め付ける。

しかし、特に苦しい感じはしなかった。最初に定めた通り、心臓も肺も生命維持に必要な部分は問題なく動いているようだ。

しかし胸とは、とウィキアは内心驚きを隠せなかった。最初は間違いなく四肢を取りに来ると思ったのだ。Olからしてみれば四肢に頭を封じれば勝てる勝負なのだから、胸を取りに行く必要はない。しかし、だからこそ取りに行ったのかもしれない。優先順位を鑑みて論理的に予想を張るウィキアに対し、その裏を突いている、という事か。

次は私の攻撃ね

ウィキアはそういって、札を差し出した。今度はそれほど悩まずに差し出す。Olは相変わらず、殆ど間をおかずに札を出した。

攻撃側、ウィキア。指定部位右脚。防御側、Ol。指定部位右腕。攻撃ハ成功、Ol ノ 右脚ハ ウィキア ノ モノ トナル

ほう

Olの右脚に銀の楔が突き刺さり、Olは少し感心したように声をあげた。四肢を取りに行くというウィキアの戦略は読まれている。しかし、Olにそれほどの危機感はないはずだ。彼にとっては、腕も他の部位もさして価値に差はないのだから。

だが、そここそが付け入る隙だ。

宙をたゆたう銀と琥珀色の魔力を視界に収めながら、ウィキアはうっすらと笑みを浮かべた。

第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-7

ギフト、と呼ばれる先天的な才能がある。

それは魔術よりも一段高い運命の領域にある能力で、ごく一部の人間だけが持って産まれてくる。

英雄の星もそれに当たり、ギフトの中でも特に高い効果を持つものの一つだ。

ウィキアの持つ魔力の瞳はそれに比べれば随分とおとなしい。このギフトを持つものは、本来目に見えない魔力の流れを肉眼で見ることが出来た。彼女にとって他の魔術師は、盲目の剣士の様なものだ。魔力の流れも見えぬのによくもまあ器用に魔術を扱うものだ、とは思うが、彼女の目にはその様子は酷く危なっかしく映る。

Olは熟練の魔術師であり、全身に魔力を漲らせている怪物ではあったが、やはり盲目である事には変わりが無かった。悪魔に頼るまでも無く、Olが魔術を使えばそれは容易に知れる。単純なものであれば、それがどのような魔術であるかも解析できる。

つまり、両腕を封じてOlが魔術で筆を扱うようになれば、ウィキアは魔力の流れからOlの文字を当てられる自信があった。

ギフトは魔術とは違う。使うのに呪文も印も要らないし、魔力すら使うことは無い。封魔の呪具をつけられていても何の問題も無く使うことが出来るし、使っている事は悪魔にすら気取られることは無い。そもそもウィキアには反則は適用されない。万が一バレても何の問題も無い。

次は私の攻撃ね

ゲームは既に、4巡目へと突入していた。今の所、お互いに防御は成功しておらず、ウィキアはOlの腹を、Olはウィキアの左腕と腰を手に入れていた。

しかし腰とは、相変わらず妙な場所ばかり持っていく。ウィキアが腹を狙ったのは四肢からOlの意識を逸らす為だが、Olはまるで左腕を狙うことで別の部分から彼女の意識を逸らそうとしている様に見える。

ひあっ!?

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