長時間ログイン状態になるのも冒険感というか、そういう気分が出て良いと思う。
まあ高い金銭を使って稼動しているんだし、面白くてナンボだろう。
「そんな訳で絆ちゃんと遊ぶのは楽しいよ」
などと突然喋り方を変えた闇影。
……普段ロールプレイしている奴が素の口調で喋るとドキッとするな。
こういうのを楽しむのもネトゲの醍醐味か。
「そ、それでは拙者、忍びの世界に戻るでござる!」
「おい、言った本人が恥ずかしいのかよ」
「ど、ドロン!」
闇影は潜伏スキルを使って姿を隠した。
「寝付けなかったり、暇だったらまた来いよ。話し相手位にはなる」
……反応はなかった。
なんだかんだでアイツも気にしていたのかもしれない。
自称コミュ障だし、その辺り気にしそうな性格だしな。
ところで今更だけど……闇影って頭の中で、俺の事を絆ちゃんって呼んでいるのか?
そういえば前にも言われた気がする。
俺はリアルでは男なんだと再三に渡って説明した方が良いかもしれない。
……別に良いけどさ。
まあ釣りを再開するか。
そんな感じで夜は更けていくのであった。
対策委員会
さて、各々好き勝手に生活を続けて行った訳だが……ついに城の建設が終わった。
島の何処からも見える高台に建設された西洋建築の城。
見上げるほどの大きな建物……現実世界でこれだけの建物を建てるのにはどれだけの時間と金銭を使うのか分からない程の出来栄えだったので、俺も完成した段階で思う所は多々ある。
まず城の門を潜ると大きな庭が待ち受け、その先にある城の中に入ると豪華なシャンデリアが天井から吊るされている広間が歓迎してくれる。
二階へと続く階段、客室へと続く廊下。
兵士や騎士が常駐しているであろう寄宿舎も併設してあり、食堂も完備。
更にカルミラ島は温泉も湧き出している様で日当たりの良い場所には大浴場と展望露天風呂が完備されている。
果ては大型プールまであるのだ。
何処の豪華ホテルかと言いたくなるほどの宿泊施設とも言えるだろう。
ついでにコレクションルームから動物園(ペックル)、図書室、武器庫、鍛冶工房と施設を探せばきりがない。
挙句、教会や用途不明の役場施設まである。
上の階には見晴らしの良いテラス、場内にある塔には円卓の会議場まである。
で、俺達は揃って玉座の間に来ていた。
玉座は二つある。
一つは人が座る用の玉座。
その隣には小さな玉座。
「よくぞこの島を開拓してくれたペン!」
サンタペックルが開拓が終わった事を宣言する為とばかりに、島中の者達を集めて宣言する。
人よりもペックルの方が多い。
「これも全て、みんなのお陰ペン! 完成式典が催されるペン!」
「やっと開拓も終わりか」
終わって見ればあっという間に感じられる。
やがてサンタペックルはサンタ帽を脱ぎ……あ、帽子を落としたぞ?
捨てるなよ。それはお前のアイデンティティだろう。
そう思っていると、何処からか取り出した王冠を被った。
「ボクはここでクラスチェンジするペン!」
ボク? お前の一人称はペックルじゃないのか?
それから小さい方の玉座に座る。
……クラスチェンジ?
お前が王様だとでも言うつもりか?
「あ……あのサンタ帽子のペックルが王にクラスチェンジしたみたいだね。能力値がかなり撥ねあがったよ」
「そうか」
……。
なんとなく気になったので落としたサンタ帽子を拾う。
「なんで拾ったのでござるか?」
「いや、なんとなく」
どうやら装備アイテムみたいだ。
「港も既に作られている……これでやっとこの島も外界との繋がりが復活すると思うペン!」
お? この台詞、島から出られないって問題も解決するって事だな。
長い期間軟禁されたからな。
早く新天地で新しい釣り場を見つけよう。
「それでここからは商談の話ペン! 島主様はこの島の殆どの権利を持っているペン。それはこれから来る来訪者達を歓迎し、彼等が島の設備を使う事で使用する金銭の一部を貰える権利でもあるんだペン」
「なんだって!?」
アルトが目を輝かせている。
金銭の一部ねぇ……。
「その前に仮とは言え、島主様の仲間達には最初のギルドを設立して欲しいペン。さあ、玉座に座るペン」
元サンタペックルが玉座に座る様に勧めて来る。
俺かよ。
まあ最初にこの島で開拓を始めたのは俺だし、そういう事になるのか。
「玉座かー……」
「建設途中、絆くんは座って足を組んでいたりしたね。何処からかワイングラスと飲み物を持ってきて飲んでいたのを覚えているよ」
くそ、見られていた。
結構恥かしいぞ。
「悪の首領ごっこでもしていたのかい? だけど魚の置物を撫でるのは間違っていると思うよ」
「それは――」
玉座があるのを見た俺は、それとなく座って王者のフリを何度かしていた。
だってこんな玉座に座る機会なんて早々無いだろ?
精々某夢の国の城にある椅子くらいなもんだ。
猫とかペットを撫でて悪役気取りをしたかったのだけど、動物なんてペックル位しかいない。
なので釣り上げた魚を模した手頃な大きさの置物を膝に置いて撫でた。
「お前等だってやってたじゃないか!」
アルトは元より、紡や闇影が座っていたのを俺は知っているぞ。
人目を盗んで座っていたって事もな。
「そ、それは……」
「お兄ちゃんと同じく『下賤な者を見ていると笑いが止まらない』をやっていただけだよ」
「何処の悪徳領主ですか」
硝子が俺と紡を交互に見て突っ込む!
誤解だ!
俺達兄妹は悪乗りが好きなだけで、本気でそんな事をする気は無いんだ!
「気の所為でござる! 社長の椅子よりも座り心地は良くないでござるよ!」
闇影、お前は社長の椅子とやらに座った事でもあるみたいな言い回しだな!
ネタなのかマジなのかよくわからないぞ。
「キングVSクイーン」
しぇりるは時々訳の分からない事を言う時があるな。
王VS女王って俺と紡だとでも言いたいのか?
「どちらにしても魚を猫代わりに撫でたりしていない! 絆くん程愚かでは無いよ!」
「堂々と言う事がそれか!」
「早く座って欲しいペン」
元サンタペックルが早くしろと急かしてくる。
NPCだけあって融通の利かない奴だ。
「ともかく絆くん、早く玉座に座りたまえ。じゃなきゃイベントが進まない」
くっそ。
俺は言われるままに玉座に座る。
すると俺の視界にシステムメッセージが表示された。
領地・第三都市カルミラ。
税収
ペックル管理
設備拡張申請
人口
領主委託
交易
等、いろんな項目が出て来るがまだ点灯しきっていない。
「まずはギルド名を決めてほしいペン」
「ギルドってオンラインゲームとかにあるあのギルドかな?」
「先ほどのサンタペックルの話からするとそうなんじゃないかい?」
「そういえば今まで無かったもんな」
これもプレイヤー達の活躍によって追加された、とかそんな所か。
ゲームのシステム上アップデートみたいな感じだ。
「絆さんが決めて良いと思いますよ」
「じゃあ『闇影と愉快な仲間達』と……」
「面白いね! さすがお兄ちゃん!」
紡が楽しげな顔で同意するのを余所に……。
「却下でござる! なんで拙者の名前なんでござるか!」
「それは闇影、お前のおかげでラースペングーを倒せたからだ……」
遠い目をして言ってみる。
あれだ。
こう、遅れてきたヒーロー的な。
なんていうの、主人公っぽいじゃないか。
今時、光の勇者よりも影からみんなを支えるポジションの方が主人公らしいんだよ。
「たったそれだけの活躍で代表にされても困るでござる! その頭文字には絆殿が相応しいでござる」
「みんな、そんな事無いよな? 闇影が良いよな?」
「……のう」
「随分と個性的なギルド名だね」
「おそらくサーバーで最初のギルドがその名前で良いのかい? それこそ他に競争相手は居ないだろうから良い名前があるだろうに」
他のみんなはボロクソ言ってくるな。
まあ正直、冗談で言ったけどさ。
「愉快な仲間達と括られるのはどうかと……」
硝子も難色を示している……うーん、しょうがないな。
「じゃあ妥当な所で『ディメンションウェーブ対策委員会』か『カルミラ島フィッシング協会』でどうだろうか」
「前者は悪くは無いとは思いますけど、後者は絆さんだけですよ、会員」
「ふ……ペックルを入れれば大人数だ」
ペックルの食事は魚だからな。
未だに漁という命令で食料確保は続けているし、きっと永続的にしなくちゃいけない所でしょ。
まあペックルの場合、人というよりは匹とか羽って感じだが。
「言ってて空しくなりませんか?」
「まあ……」
NPCを数に入れて良いものじゃないな。
「じゃあ、真面目にやっている様に見える『ディメンションウェーブ対策委員会』で」
「素直に言えば良いって物じゃ無いとは思いますが、それで良いと思います」
「改名は出来ないでござるか?」
「出来るペン。優先度は高いから被っても大丈夫ペン」
あ、元サンタペックルが反応している。
反応するワードだったって事だな。
というか、ギルド名は変更可能なのか。
一度決めたらダメなゲームも多いけど、ディメンションウェーブでは大丈夫らしい。
第三都市
「じゃあそれで決定……っと」
ギルド名をディメンションウェーブ対策委員会と入力して決定する。
「今、島主に呼ばれたプレイヤーは全員、ギルドに加入したペン」
などと元サンタペックルが宣言すると俺達の前に帰路ノ写本らしき物が光と共に現れる。
領地帰還ノ書
ギルド領地に帰還出来る。永続アイテム。
倉庫使用不可。
「島から出ても、いつでも帰って来てほしいペン。ペックル達は島主様達をいつでも歓迎するペンよ」
「これって、カルミラ島に帰る事が出来る道具って事で良いのかな?」
領地ってカルミラ島だし。
……これってもしかしてカルミラ島以外にもこの手のイベントがあるんじゃないか?
「だろうね。しかし……これは便利なアイテムだね。使っても無くならない転送アイテムは便利だ」
アルトはタダって言葉が好きそうだもんな。
「後は……島主様には更なる報酬があるペン」
「ん?」
元サンタペックルが俺に手をかざす。
すると俺の視界にメッセージが表示される。
エクストラスキル・カモンペックルを習得!
なんだそのスキルは。
「いつでもペックルを呼ぶ事が出来るペン。御用があったらお手伝いをするペン」
いやー……別にペックルなんて必要ないと思うんだけどな。
「後は既に解放済みだからこれが出来るペン!」
カモンペックルがパワーアップ!
カモンブレイブペックルに変化!
玉座の間で控えているブレイブペックルに視線が向く。
いつでも応じますとばかりに敬礼された。
……ペックルって戦闘でも使えるのか?
あ、確認したらしっかりとステータス周りが追加されている。
やはりというか、ブレイブペックルは他のペックルよりもステータスが高い。
防御系ばっかりだけどな。
「後は……開拓をしてくれた島主様からボクに名前を授けて欲しいペン」
「サンタペックルに名前を授けろって事だよな? じゃあサンタペックルで」
「まんまです。可哀想ですからしっかりと名前を授けましょうよ」
硝子が名付けようとした俺に注意してくる。
そうは言ってもなぁ……。
俺は基本的にゲームではデフォルトネーム派だし。
……よし、デブペ――
「では開拓人鳥でどうでござる?」
「呼ぶ方の身になれよ、闇影。しかもそれはペックルの性質そのままじゃないか!」
「ではダークペックルでどうでござる? 後はキングペックルとか」
「キングペックルは良いな」
「それもそのまんまの名前じゃないですか!」
「ペックルの王様……絆くんのゲーム経験からデブペックルを出さないだけマシかもしれないね」
それはさっき考えた。
でもデブじゃないし。
……後で体形をいじったり出来そうだけどさ。
というか、笛で呼ぶ方のペックルの方がデブっぽいだろ。
「もっと洒落た名前は無いんですか? サンタ帽子を被っていた子なんですよ? 授かり物と言う事でギフトとか」
「サンタクロースとか?」
ふむ……。
「じゃあクリスマスからクリスで」
「南国で季節感ないですけど、サンタ帽子を愛用していたから良いですよね」
硝子も納得。
「イエス・キリスト」
「名前負けするから却下」
しぇりるはしぇりるで凄い名前を提案するもんだ。
そんな訳で元サンタ帽子ペックルの名前はクリスと入力した。
「わかったペン! これからクリスと名乗るペン!」
おお、発音まで俺達と一緒だった。
中々良いAIをしているじゃないか。
「これで開拓は一区切りしたペン! じゃあ行くペンよ!」
どこに?