もちろん、ペックル達への指揮は俺が担当している。
ただ……なんだろう。
昔、紡や奏姉さんと一緒にプレイしたゲームで似た様な事をした様な覚えがある気がする。
アレは砂の上を走る船だったけど、鯨みたいに大きなモンスターを倒した感じだった。
なんて言うか、アレに似てる。
次元ノ白鯨の背中でツルハシとか振るったら何か採掘出来そう。
発想は力だよな。
今まで、その発想力で俺達は登って来た訳だし。
とは言え、今は目の前のボスに意識を向けるべきか。
次元ノ白鯨は大人しくしているはずもなく、割と過激に突撃や複数ある宝石の部分から熱線を放つ。
挙句津波を起こしたりと、攻撃のバリエーションは多岐に渡る。
俺達の船の機動力は波に参加している船の中で最も良い物で、次元ノ白鯨の攻撃をその機動力とブレイブペックルの強固な守りで抑え込んでいる。
しかもバリスタ等の装備は潤沢、投網や機雷まで用意してある分、しぇりるが用意した品々が大いに役立っている。
「しぇりるさん楽しそうですね」
「だなー」
次元ノ白鯨の上に引っ付いて『エイハーブ! モビーディーック!』って叫びながら技を放ちまくっている。
「しぇりる殿は白鯨のエイハブ船長になりきっているのでござるな。大元は小説でござるよ。拙者、読んだ覚えがあるでござる」
「確かエイハブって白鯨に負けた人物だとかしぇりるが言っていたな」
「そうでござるな……語り手が唯一の生存者で、他の船員は全員死んだと言っても間違いは無いでござる」
改めて聞くと縁起の悪い武器って意味がわかるな。
捕鯨に興味があったのか、好きな物語だったから実際に挑めてやる気を見せているのか。
たぶん、後者だろう。
まさかしぇりるはその血縁者って訳ではあるまい。
血縁者だとしたら外人だろうし、あんなに嬉々として戦ったりしないだろう。
後に本人から直接聞いた所だと、好きな物語だったからだとか零していた。
「ちなみに映画だとエイハブ船長が勝ったハッピーエンドのバリエーションもあるでござる」
「へー」
割とどうでも良い。
どちらかと言えば闇影がどうしてそんなに詳しいのかの方が気になる。
と言うか、こんなに雑談して居られるのは、出て来るモンスターや攻撃に対して余裕があるからに他ならない。
闇影のサークルドレインで次元ノサハギンとかの雑魚が余裕で沈んで行く。
「紅天大車輪!」
紡がしぇりるに続いて次元ノ白鯨に飛び乗り、技を放ち始める。
結構良い感じにダメージは入っているんじゃないか?
鯨の中
「拙者も行くでござるよー! 雷遁……バーストサンダーレインでござる!」
闇影がそこそこ長い詠唱をしながら次元ノ白鯨目掛けて魔法を放つ。
おお、雷を落とす魔法か……結構、広範囲で威力も高い。
古来から水生系のモンスターには雷系の攻撃は良く通るという法則がある。
次元ノ白鯨もそれに準じているのか、闇影の攻撃を受けてガクッとHPゲージを減らした。
もちろんバリスタや大砲、捕鯨砲での攻撃も十分に威力がある。
ところで闇影はいつから雷属性の魔法も使える様になったんだろうか?
まあ俺達の狩場は海ばかりだから相性は良いし、それを想定した結果なのかもしれないが。
『すげー……あの島主パーティーの独壇場じゃねえか』
『俺達の出る幕あるのか?』
『チートって訳じゃねえんだよな?』
『話によると、一ヵ月以上開拓を強要されて、装備もLvも潤沢らしい。金の掛るバリスタや大砲を雨みたいにぶちかましてるだろ』
『ああ、税金あるんだっけ』
『俺達の納めた税はしっかり使われている訳だ』
『どっかの政治家とは雲泥の差だ』
『けど、貢献度はお前等には分配されないぞ?』
『これが裏金……だと……?』
なんかオープンチャットがうるさいな……。
そこはゲームシステムだろ。
本気で言っている雰囲気じゃないけどさ。
『皆の者! 攻撃は苛烈じゃが、倒せない程の相手では無い。一気に畳みかけるのじゃ!』
「――――!?」
次元ノ白鯨が声にならない叫びをあげる。
そりゃあ無数の船舶から人が飛び出して、飛びかかり、攻撃してくる訳だしな。
さらに言えば、バリスタや大砲、捕鯨砲を資金? なにそれ? みたいにぶちかましていたらその膨大なHPだって速攻で減って行く。
今の俺達がそれだけ強く、金銭面で余裕だって事の証か。
「ペックル共! 全てを撃ち尽くす勢いでやれ!」
「「「ペーン!」」」
しかも俺達の船は人数は少数でも数はペックルのお陰で水増ししている。
手数は多いに越した事は無い。
やがて次元ノ白鯨は大きく海中へと潜って行く。
次の攻撃動作に入るのか?
ブレイブペックルで防御をする体制を俺は取らせる。
しぇりると紡は……次元ノ白鯨の背中に引っ付いたまま……潜って行った。
……大丈夫か?
「さて、次の攻撃が来るぞ」
ヘイトは俺達が集めている。
また俺達の船目掛けて突撃してくるだろう。
なんて思いつつ、海面を睨みつける。
……。
…………。
………………。
……………………。
…………………………………………来ない。
ボコボコと泡は定期的に上がって来るんだけど、一向に下から突撃してくる気配が無い。
「しぇりるさんと紡さん、大丈夫でしょうか?」
硝子が舵を取りながら俺に声を掛ける。
『あー……皆の者! 次元ノ白鯨が海中に潜り、別の戦闘フィールドに移動したそうじゃ。そこは海中で縦横無尽に泳ぎ回って背中に引っ付いていたプレイヤーを振るい落して攻撃を始めているとの話じゃ。しかも徐々にHPが回復していると報告が出ておるぞ』
「「「何ー!?」」」
周りの船中から悪態染みた言葉が聞こえて来る。
なんだよそれ! 超面倒臭い仕様だな!
俺達の与えたダメージが無駄になるのか?
さすがにそれはやっていられない。
ゲーム的になんとかする方法がありそうだが、すぐには思いつかないな。
『ん? ふむふむ……どうやら最初に突撃を喰らったパーティーは次元ノ白鯨の体内で戦闘しているそうじゃ。他にも海中で捕食攻撃に巻き込まれるとそっちに飛ばされるそうじゃな』
……食われた?
まあ、鯨の体内が空洞、みたいなファンタジーはあるよな。
ピノキオとか、ゲームとかではよくあるギミックだ。
「そっちの連中が活躍すればまた浮上するとかじゃね?」
「そうじゃなきゃHP回復なんて阻止出来ないだろ」
「陽動って事か……初発の攻撃受けた奴、運良いな」
「二度目の攻撃を阻止した島主チーム。折角の攻撃の機会失ってやんの」
うるせー!
そんな敵の攻撃動作を分かり切っている訳じゃないから守らせるに決まってんだろ。
『かと言って、別働隊が任務を達成するのを待っていたら回復され切ってしまう。泳ぎの技能を所持している者達は挙って潜って戦ってほしいのじゃ』
「別フィールド……海中に潜れば行けるのでござるか? 拙者、泳ぎの技能は覚えていないでござる」
「島の開拓を少しは手伝ったと言うのに、持っていないとか」
「私も持ってません……」
「ぷは……お兄ちゃーん、泳ぎの技能を殆ど習得してないからまともに動けずに戻って来ちゃったよー」
紡が海面に顔を出して手を振っている。
嘘吐け! 泳げなかったら前の闇影みたいに溺れるだろ!
紡も自由に動けるように少しは取ってるじゃないか。
「こんな事もあろうかと、ロミナさんが潜水装備を用意はしてくれていますが……」
ロミナが用意してくれた品とやらを確認する。
その名もペックル着ぐるみ♪
自然とその場のみんなが考えを放棄する。
あんなもんを着たら周りの連中になんて言われると思ってんだ。
「紡、息は続くのか?」
「えっとね。次元ノ白鯨が別フィールドからこっちに攻撃する時に使っている大きな泡を潜ると息が続くよ」
敵の攻撃を利用して泳ぎ続けながら攻撃か……。
一応専用ギミックは準備されているみたいだな。
さながらアクションRPGのボス戦みたいな感じだ。
「とりあえず……」
俺は次元ノ白鯨にターゲット登録してペックル達に攻撃を指示する。
「「「行くペン!」」」
「おー!」
ペックル達とブレイブペックルが次元ノ白鯨目掛けて船からゾロゾロと海へ向かって突撃して行く。
これである程度はどうにかなるだろう。
現にペックル達を行かせた所、HPゲージの回復は少しだけ収まった。
しぇりるも活躍していると見て良い。
「投網や機雷を落としまくればそこそこ効果ありそうだ」
「では泳ぎがそこまで得意ではない人は投網と機雷の投下をしましょう」
「絆殿は? 確か素潜りが出来るはずでござる」
「俺に期待してどうすんだ。自慢じゃないが運動神経は悪いぞ」
「お兄ちゃんはねー……その辺りどんくさいもんね」
「やかましいわ。運動が出来るならゲーマーやってねぇよ」
『確かに』
『わかる』
いや、お前等には言ってない。
というか、何会話聞いてんだよ。
「でも習得しているなら拙者達よりも動けるはずでござる!」
「行った早々白鯨の腹の中に行きそうだな。ペックル諸共体内で大暴れさせるのか?」
ぶっちゃけると俺が行っても戦力になれる自信は無い。
むしろ遠くからペックルに指示を出す方が正しいだろ。
島主補正でペックルの能力を引き上げている訳だし。
となると途端にやる事が無くなるな。
舵は硝子と紡が兼任してくれているし、雑魚の掃除は闇影、投網と機雷投下は残ったペックルにさせている。
う~ん……お! 良い事を思いついた。
「闇影……俺、名案を閃いちまった」
「おお、打開策でござるか?」
「いや……そうじゃない」
「じゃあ何を閃いたのでござる?」
……うん。
やる事は一つ。
ここは波発生時限定のフィールド。
そして目の前には海。
俺は釣竿を取り出してルアーを振りまわす。
ここでは何が釣れるかな?
「き、絆殿がこんな状況で悪い発作を発症したでござるー!」
ポチャンと海面にルアーは落ちて行った。
「こら闇影! 人聞きの悪い事を言うな! こんな状況だからこそ、釣れるレアな魚があるかもしれないだろ」
「絆さん……さすがにそれは擁護のしようがありませんよ……」
「泳げないなら体内フィールドの方へ行ってくれば良いだろ! 船の方は俺に任せろ」
「確かに一理ありますけど……せめて戦ってください」
「硝子があの着ぐるみをきたら考える!」
「……それは本当ですか?」
え? マジ?
さすがにやらないだろうと思って言ったんだが……。
く……確かに波で戦うのは楽しいから参加しているけど、俺の本来の役目はみんなに美味しい魚を釣り上げ、解体で刺身とかの料理を提供するのが仕事なんだ。
言わば半生産職。
そんな俺に硝子は戦えと言うのか!
「私も同行しますから戦える場所に行きましょ。ペックルに命じれば回避は出来るはずです」
やらねばならないのか?
社会という巨大な波を前に自分を曲げる時が来たのか……。
「そうだ! 巨大ペックル! サブマリンモード!」
「絆殿がとんでもない事を言い始めたでござる。そんな機能があるのでござるか?」
「ペン?」
巨大ペックルが首を傾げている。
今までまともに反応しなかったのに、どんなAIだ。
「お兄ちゃん、ノリでとんでもない事を言うね」
「あれば良いのか悪いのか……」
「魔法の膜とか展開して船を守ってくれるなら良いけど、ただ潜るだけだったら船が壊れてそう」
「アイデアは良いと思いますよ。絆さんらしいです」
さすがにそこまでペックルは万能じゃないか。
なんて誤魔化しながら海面に二度目のキャスティング。
「良いから絆さん、釣りを止めてくだ――」
硝子が俺を注意しようとしたその時!
ガクンと今までに無いくらい竿がしなった。
なんだ!? この手ごたえ!
大鯰の比じゃない程の力を感じるぞ!?
ディメンションウェーブ第三波-討伐-
シークレットウェーブクエスト発生!
クエスト名『次元ノ白鯨を釣りあげろ!』
俺はリールを巻き取りながら眉を寄せる。
「な、なんでござるか!? 絆殿!」
船が引っ張られて斜めに寄っている。
原因は俺だ。
「紡! 舵をしっかり持って運転しろ!」
「絆さん! 一体何を引っかけたんですか!?」
「どうやら次元ノ白鯨が引っかかっているらしい……」
「はい? あの絆さんのルアーと垂らした糸で、深い所にいる次元ノ白鯨に?」
「どう見てもおかしいでござる!」
「気持ちはわかるが気にするな!」
ゲームではありがちな現象だ。
モンスターをハンティングするゲームに登場する、カエルを餌にするとデカイ足の付いた魚が釣れたりするもんな。