聞き覚えのある音が響き渡り、島に強風が吹き荒れた。

「あー……」

俺は風が来た方角を見上げる。

島の近海にひび割れた空が映し出されていた。

前回は遠過ぎて色くらいしか判別できなかった波の発生現場が……割と目の前にあった。

そう……島の近くで波が発生するのがわかったのである。

「造船を急がせろ!」

「今回の波は海上で発生するらしいぞ!」

島のドックを買い取った造船技能持ちの職人達が急ピッチで船作りをしていた。

先発隊が調査した結果、波が起こるフィールドは全部海だったそうだ。

自然と船に乗って戦うか、泳いで戦うかの二択になる。

さすがに海の上を歩く魔法なんてのは見つかっていない。

空を飛ぶ技術も今の所無いし。

で、船上で戦うとしても一般プレイヤーは船の上で戦う事をしてきていない。

その為、船上で戦おうものならまともに体が動かなくなる。

硝子や闇影が初めて船の上で戦っていた時が印象的だ。

あの時と同じで、船の上での戦闘に慣れない連中は試験的に船で戦ったらボロボロにされたって話だ。

一部は海で戦う事をしていたから多少は船上戦闘技能を所持しているけれど、それ以外の連中は蔑ろにしていた項目だ。

どちらかと言うとインスタントダンジョンの需要が多かったのは時間の節約も然ることながら、船上戦闘技能を習得する手間を惜しんだ所為だろう。

アルトの話では前線組とやらはプレイヤー同士で不必要な技能を強引に習得させられるとか愚痴っていたとか何とか。

モンスターと戦えれば何でも良いってゲームじゃないだろうに……Lv=強さって訳じゃない。

どうも前線組って連中はその辺りの柔軟性が欠落しているのではないだろうか?

前に俺がやった事のあるゲームでもあったな。

情報サイトの攻略情報以外は信じないって連中の話。

ネット内で情報が出回る前に効率の良い方法を見つけた事があって、知り合いにより効率の良い方法があると教えても、そんな情報ネットに転がっていないから非効率だとか言い返された。

後に俺が見つけた方法が出回ると手の平を返されたけど、それまで聞く耳を持たなかった。

誰かが見つけたやり方をなぞる事しか出来ない人と言うのは一定数いるのを俺は知っている。

それが悪いとは言わない。

だけど、それが正しいなんて俺は思わない。

デマに踊らされるのもそう言った連中だと思うし。

話は戻るが船上戦闘技能は習得に時間は掛るけど、取得の難しい技能じゃない。

これがスキルポイント制のゲームだったら振り直しをしなきゃいけないけどさ。

ディメンションウェーブはスキルポイント制では無く熟練度要素があるので、どうにかなる。

この技能習得を面倒臭がる前線組の思考は一体何なんだろうか?

極寒地域で波が起こったら防寒具を着こまないと戦えないのはおかしいと不満を言う気か?

……まあ、気にしたって始まらない。

前線組には前線組のルールや常識があるのだろう。

どちらにしても島が解放されて日が浅く、俺達以外のプレイヤーは島に合わせきれていない状況での波に挑む事になった。

そういえば久々に奏姉さんに会ったっけ。

会ったと同時に不足分の素材を持ってないか聞かれた。

奏姉さんは相変わらずやりたいようにしているようで、俺が島主である事に気づいていない様子だった。

それもそれでどうなんだろう?

まあ、奏姉さんも仲間が居て、そっちで色々とやっているみたいだし、あんまり干渉するのもどうかと思うけどさ。

紡の方も知り合いと一緒にそこそこ話をしたそうだ。

しぇりるに船を作ってもらえないかと頼まれたとか言ってたな。

俺の所の船を貸すのは図々しいから紡自身が念を押して断ったみたいだ。

海戦

そんなこんなで波戦が発生するだろう当日。

波の亀裂が黒く変質している。

間違いなく今日だな。

「うわー……一体どこからこんなに船が集まっているのかねー」

波が発生する専用フィールドには無数とも呼べる船舶が今か今かと待ちわびている。

第一都市に居た頃は船なんてほとんど見た事が無かったのにな。

「な、なんだあの船」

「でか! 巨大ペックルと融合してるぞ!」

「海賊船風か? 妙に凝ってんなー」

マップチャットが聞こえてきた。

みんな揃って俺達が乗っている、しぇりる作の俺達専用の船を指差しているのがわかる。

ちょっと気分が良い。

どんな形状かと言うと、まず船首は巨大ペックルが引っ張る形に適した船とも呼び辛い形状。

で、船の真ん中あたりからマストを建ててあり、大砲が横軸に設置されている。

しぇりるの趣味なのか、使われた素材がドラゴンゾンビ素材だからなのかは不明だが、髑髏のマストが設置されている。

もちろん、船首にもバリスタを設置してあるぞ。

船尾周りにもバリスタは設置してあって、完全に海賊船に見えなくもない。

開発段階ではこの船でペックル達は漁をしていたっけ。

こう……昔、シューティングゲームで猫と船が合体した中ボスを見た覚えがある。

それのペックルバージョンだと思ってくれて間違いは無い。

ちなみに何故か船にペックルを乗せると、みんな海賊の子分が着用するバンダナを頭に巻く。

パイレーツペックルってか?

ご丁寧な細工だ。

「良いなー、あれ。どうやって作ったんだろ?」

「島主のじゃないか? ペックルを滅茶苦茶連れてるし、あの巨大なペックル……設置物じゃないだろ」

「限定アイテムか何かを持ってるって事か。不公平だな」

「シークレットクエストをクリアしたら差も出るだろ、俺達もがんばるしかねえよ」

「堅実にダンジョン行くか大穴でクエストを探すか、か……」

割と注目の的になってしまった気がする。

まあ、これだけ事前準備をしていたらそうなるか。

ちなみにテスト運転をした限りだとかなりの速度で移動可能だ。

ソナー付きで魚影もキャッチ可能。

俺向きのカスタマイズをしている。

しぇりるも良い仕事をしてくれたな。

「前回は開拓業をさせられて免除にされたんだ。今度こそやるぞー!」

「ええ、がんばりましょうね」

「もちろん!」

ちなみにアルトやロミナは島の方で一般プレイヤーの援護に専念している。

回復アイテムの支給とか武器の提供とかする事は無数にある。

予備の船を戦闘フィールドと行き来させるつもりだ。

やはり問題はボスが出るまでだよなー……。

『今回もわらわが指揮を執るのじゃ』

お? 最初の波で的確な指示を出していた奴のオープンチャットが聞こえて来る。

前線組も何だかんだ言って手慣れた様子で武器の準備をしているし……どうにかなるだろ。

なんて準備をしていると前に参加した波と同じく……モンスターが現れた。

『毎度おなじみ、ボスが出て来るまでの辛抱じゃぞ! みんな! 前回と同じく、しっかりと戦うのじゃ!』

前回は参加してないけど、まあ気持ちはわかる。

俺もやっと戦える!

で、出てきたモンスターの名前を確認。

次元ノサハギン

次元ノ怪魚

次元ノカジキ

どれも水棲系のモンスターが出てきたようだ。

『ふ、船にモンスターが乗り込んで来た!』

『急いで殲滅するのじゃ! Aの6とBの5とAの1に黒い島……今回の破壊目標が設置されたのじゃ。モンスターの方は海から無数に湧き出しておる。出現数は前回の比では無い様じゃ! みんな気張るのじゃ!』

1  2  3  4  5  6

バシャッと海中から次元ノサハギンが飛び出して甲板に乗り込んで来る。

「負けませんよ! しぇりるさんと絆さんはバリスタと大砲で海中のモンスターを殲滅して居てください」

俺としぇりるは親指を立てて、バリスタで海中にいる次元ノ怪魚と次元ノカジキ目掛けて、バリスタを乱射する仕事を始める。

すぐに矢が射出される音が響く。

「ペックル共は投網と機雷を海に投げ込めー! モンスター共を少しでも減らしてみんなの手助けをするんだー!」

「「「ペーン!」」」

俺の指示に従ってペックル共が海中に投網と機雷を投げ落とし始める。

金に物を言わせた物量を俺達の船は積んである。

「拙者もやるでござるよ」

闇影が相変わらずのドレインを硝子が戦う次元ノサハギンにぶちかます。

バシっと良い感じの効果音がして、次元ノサハギンは一撃で息の根が止まる。

「おや……?」

闇影も手ごたえの無さに首を傾げている。

巨大ペックル船で高速で動きまわりながらバリスタや大砲を乱射する俺達に次元ノサハギンや次元ノカジキは狙いを絞り、群がってくる。

「ヘイトを集め過ぎましたね」

甲板に無数のサハギンが現れ、硝子と闇影、紡が防衛する為に構える。

「ペーン!」

そこにクリスとブレイブペックルが筆頭となったペックル部隊が乱入して甲板は乱戦となる。

「む!?」

俺に狙いを絞った次元ノサハギンの群れが突撃してくるのをケルベロススローターで迎撃しようとした所で、ブレイブペックルが前に立ちはだかり、盾でサハギン達の猛攻を受け止める。

「負けないペンよ!」

クリスが回転しながらサハギンに突撃して、フリッパーでコンボを繰り返す。

うわ、地味に動きが良いな。

開拓の七つ道具を使用した攻撃コンボがある意味綺麗に、サハギン達を蹂躙して行く。

さすがはペックル。海の生物って事なのか?

NPCがこれだけ活躍してくれるなら、今回の波は楽勝だな。

「……ん?」

闇影の威力やペックル達の動きから早くも勝利を確信した所でオープンチャットが聞こえてきた。

『敵を倒す前に敵が湧いてきて!』

『うわぁああああーーー! ゴボゴボゴボ……』

『こちらEの3。風が強くて船が転覆した。誰か助けてくれ!』

『救援に行きたいけど船が上手く動かなくて無理だ!』

「ペックルはモンスターじゃないペン」

そんな声が結構聞こえてくる。

あっれー?

これって結構やばいんじゃないか?

まあ今回は船上戦闘スキルや舵スキルが必要になる。

そしてそれ等のスキルを波に挑む全プレイヤーに求めるのは酷だ。

特に舵スキルは移動する為のスキルなので、これが無いと移動するのも難しい。

これは思った以上にきつい戦いになるかもしれないな。

……最後のは無視する。

少なくとも俺のペックルではないしな。

「絆さん、右隣の船の方々が助けを求めているので行っても良いでしょうか?」

確かに右隣の船は船上戦闘も舵も無さそうなメンツで困っている。

無視していると壊滅して流れてきそうだ。

何よりこちらは闇影と俺達で十分削れ切れている。

「わかった。動きがあるまで周囲の援護していてくれ」

「はい!」

そう硝子は頷くと船の縁を蹴って右隣の船に飛び移った。

俺達の船の方が大きいので見えるが、着地と同時に次元ノサハギンを一匹仕留めている。

「じゃあ私は左の助けに行くね」

紡も反対側へ硝子と同じ様に飛んで行った。

こちらは確認するまでもなく蹴散らしてくれるだろう。

「……前進する」

しぇりるが突然船を進ませ始めた。

いや、硝子達が今さっき飛んでいったばかりなんだが……。

「硝子殿達はどうするでござる? サークルドレインでござる!」

「このままだと圧迫される」

そう言われて周囲を眺める。

地面と違って船ばかりの光景だが、至る所に船があり、そして戦闘を繰り返している。

中には船が転覆して海に落とされている者までいるな。

これが地上であれば連携をして敵の進行をなんとか出来るんだろうが、如何せん敵は海中からやってくる訳で、中々にぐだぐだな状況になりつつある。

お、素潜りして海中で戦闘している奴がいた。

特殊な戦場だが、スキル相性の良いプレイヤーもいるみたいだ。

しかし……それでも周囲を見る限り、しぇりるの言う通り動けなくなる前に進んだ方が良い。

「そうだな。まともに少なくとも動ける程度までは前進しよう」

「うん」

そうして船を前進させながら、俺はパーティー会話に切り替える。

『硝子、紡、このままだと船が動けなくなるから、船を前進させる。船から船に飛び移って適当に蹴散らして移動してくれ。合流はそっちの判断に任せる』

『わかりました!』

『了解ー!』

幸いな事に俺達の船は目立つ。

近場に船が並んでいる現状なら、それ等を足場にして合流する事も可能だろう。

次元の白鯨

「むう……硝子殿と紡殿、かっこいいでござる!」

「闇影、お前は船の護衛な」

「わ、わかっているでござるよ」

闇影が硝子達に羨望の眼差しを向けている。

飛んで移動する感じは忍者に通じる物があるからだろう。

とはいえ、闇影まで消えると俺達の戦力的に厳しいので残ってもらわないと困るんだ。

おっと、フィールドチャットで報告しておかないとな。

Перейти на страницу:

Поиск

Книга жанров

Нет соединения с сервером, попробуйте зайти чуть позже