ケイのように民間から招集されたクチ、及び自分から名乗りを上げた物好きなんかは、義勇隊とやらにひとまとめにされているそうだ。

へえ、するとアンタが例の”大物狩り”か

兵士たちがケイにじろじろと無遠慮な視線を投げかける。

噂に違わぬ精悍さだな

そうか? 俺はもっとデカいかと思ってた

なあ、槍で森大蜥蜴の頭をかち割ったってのは本当か?

俺は背中に飛び乗って首をねじ切ったって聞いたぞ!

どんな噂だ。やいのやいのと勝手なこと言う兵士たちに思わず苦笑する。

義勇隊ならもうちょっと前の方だ。まあ見りゃわかる

そうか、ありがとう

隊長格に礼を言ってさらにサスケを進ませると、なるほど、統一された装備の中に、雑多な雰囲気を漂わせる一団がいた。

近寄ってみれば―なんというか、寄せ集めという表現がぴったりだった。山賊かと見紛うばかりの薄汚れた戦士がいるかと思えば、小綺麗な衣装に身を包んだ田舎の名士のような人物まで。大荷物だが武器を持たずローブに身を包んでいる奴は、まさかとは思うが流れの魔術師だろうか。狩人(どうぎょう)と思しき人員もちらほら。

そしてその中には、知っている顔もあった。

やあケイ、しばらくぶりだな。……来てくれて安心したよ

マンデル!

サスケから飛び降りて、馴染みの狩人の肩を叩く。

そう、他でもないタアフ村の狩人、マンデルだ。先の大物狩りでは生死を共にした仲間でもある。

マンデルも参加するらしい、とは聞いていたが……

関係者づてに話は聞いていた。しかし森大蜥蜴の狩りで精根尽き果てて、危険な目に遭うのはもう懲り懲り、と言わんばかりだったマンデルと、よりによって飛竜狩りの軍団で再会する羽目になるとは。

まあな。……恐れ多くも陛下の名において召集令状が届いたんだ

気まずそうなケイをよそに、マンデルは飄々と肩をすくめる。

例の武道大会。……繰り上がりではあるが、おれも一応入賞者だからな

ああ、そっちか……

大物狩りの一員として名を上げたから、ではないらしい。無理を言ってマンデルを大物狩りに巻き込んだケイとしては、自分が原因でないとわかって少し気が楽になったが、それにしても気の毒であることに違いはない。

とんだ災難―

いや、この物言いはまずい。

―とてつもなく名誉なことだな

まったく、違いない。……身に余るよ

ケイの意図を汲んで、マンデルも真面目くさって頷いた。

お話中のところ悪いが

と、雑多な集団にあって、正規兵らしい格好をした軍人が声をかけてくる。顔は悪くないが、どこか不貞腐れたような雰囲気のせいで小物臭く見える男だった。

ケイチ=ノガワで違いないか?

ああ、そうだ

よし

男は羊皮紙をチェックして、くるくると丸めながら溜息をつく。

お前が来ないんじゃないかと気が気じゃなかった。英雄は遅れてやってくる、とはよく言ったものだな

……名残惜しくてアイリーンと見つめ合っていたが、どうやら自分が思っていたよりも時間が経っていたらしい、とケイは思った。できることなら何ヶ月だって見つめ合っていたかった。

申し訳ない

大目に見よう。王命通りに馳せ参じた、その事実が重要だ。……しかし、馬連れとはな。うちは糧秣(りょうまつ)の面倒までは見んぞ

男はサスケをじろりと一瞥して顔をしかめる。 人間って歩くのおそいよねー と言わんばかりにキョロキョロと周囲を見回していたサスケは、突然視線を向けられて戸惑ったように首を傾げている。

ああ、それに関しては心配ない。コーンウェル商会が提供してくれることになってる、一応証書もある

ケイが懐から書類を取り出して見せると、男は途中まで斜め読みしてあっさりと興味を失った。

そうか、気前のいい話だな。騎射の達人と名高い英雄殿、その活躍に期待しよう

踵を返し足早に去っていく男。しかし途中で思い出したかのように振り返り、

おっと。一応、隊長を務めるフェルテンだ。せいぜい皆とは仲良くして、問題は起こさないでくれよ

今度こそ足早に、隊列の前方へと姿を消した。

……なんというか、あまり部隊の運用に熱心なタイプではなさそうだな

無理もない。……こんな軍人でもない平民の寄せ集め部隊ではな

ケイの感想に、マンデルが笑った。

彼は正規の軍人のようだし、そりゃあやる気もあまり出ないだろう

堅苦しくても息が詰まるから、このくらいの方が楽だけどな俺は

おれもだ。……それはそうと、ケイ。キスカが手紙で言っていたが、アイリーンがご懐妊だとか。遅ればせながらおめでとう

ああ、……ありがとう

ケイは曖昧な笑みを浮かべた。

……身重の妻を置いて出征とは、ひと悶着あっただろうな

マンデルも困ったような顔をしている。

まあ、そうだが、王命だからな……

ケイのところには、直々に使者が来たんだったか。……まあ大変に名誉なことだからな、こればかりは

もちろん、喜び勇んで馳せ参じたわけだが

かくいうマンデルも、娘二人を残して来ている。ケイたちの心はひとつだった。

今から、凱旋のときが楽しみでならないよ

それはいいことだ。……ケイと一緒だと、五体満足に生きて帰られる気がする

マンデルは急に改まって、ケイをじっと見つめた。

飛竜が出てきても、ケイなら何とかしてくれるだろう?

……いやあ、うーむ……

ケイは唸りながら、手の中の朱い弓に視線を落とした。

“竜鱗通し”―理論上二百メートル先の竜の鱗をもブチ抜く、その絶大な威力から、この弓は銘打たれた。

(飛竜か……)

実際にやれと言われたら、どうだろうか……森大蜥蜴を超えるデカブツとはいえ、高速で飛び回るし、最強の防具の代名詞たる竜の鱗で全身が覆われている。ヤツらを仕留めるなら、ただ矢が刺さるだけではダメだ。鱗を貫通した上で、致命傷を与えねばならない。となると狙うのは、頭部か、臓器が密集した腹部か、……それにしても何本の矢を命中させればいいものか……

……飛竜は、流石にちょっと厳しいな

渋い顔でそう答えると、マンデルはクックックと低い声で笑みを漏らした。

ケイ。……普通の狩人はな、『飛竜を何とかしろ』と言われたら『無理』と即答するんだよ。それに対してケイは、しばらく悩んだ上で『ちょっと厳しい』なんて答える。この時点できみは尋常じゃない

マンデルはニヤッと笑った。

そして、それがこの上なく頼もしい

ばん、とケイの背中を叩くマンデル。彼にしては珍しいボディタッチだった。……極力いつもどおり振る舞っているが、やはり不安なのかもしれない。

そういえばケイ、鎧を新調したんだな

あ、ああ。そうさ、この間の森大蜥蜴でな。腕のいい職人に頼んだんだ―

ほぼ新品の革鎧を撫でながら、ケイはチラッと振り返った。

街道の向こう、サティナの街はちっとも―ケイの視力基準でだが―小さくなっていなかった。わかってはいたものの、遅々とした歩み。

これでは東の辺境ガロンまで、どれだけかかるかわからない。

(……長い旅になりそうだな)

そしてそれ以上に疲れそうだ。

願わくば、旅路の間に話題のストックが尽きませんように―気だるさをごまかすようにサスケの首をぽんぽんと叩いて、ケイは小さく溜息をつくのだった。

103. 親睦

やはりというべきか、飛竜討伐軍の歩みはあくびが出るほど鈍(のろ)かった。

ケイも最初から覚悟していたし、隊商護衛の経験からこんなもんだろうとは思っていたので、それほど苦痛には感じない。

ただ、大人数の行軍ゆえ、もうもうと舞い上がる砂埃には参った。

冬場で空気が乾燥していることもあって、視界が常に霞んでいるようだ。サスケも ねー、ちょっと空気わるくなーい? と言わんばかりに、不満げに鼻をスピスピさせている。

視力が落ちやしないか心配だ……

少しでも埃が入らないように目を細めて、苦々しげに言うケイ。

大丈夫だ。……そのうち慣れる

対して、マンデルは達観した様子で肩をすくめる。

彼は従軍経験者だ。適度に諦めることを知っていた。

緩やかな起伏の丘陵の間を縫うようにして、ゆったりと蛇行しながら伸びる石畳の道―“サン=レックス街道”。

寒風が吹き荒む中、兵士たちはぞろぞろと歩いていく。都市近郊ではまだ『軍隊の行進』の体をなしていたが、見物客がまばらになると気も緩み、その歩みはのんびりとしたものに変わっていった。

とても飛竜狩りに赴いているようには見えないが、目的地は遠いし、飛竜と出くわすのはまだまだ先のことだ。今の段階で怯えたり不安がったりする必要はない―気を張り続けていたら参ってしまうので、実際、兵士としては彼らは正しい。

ダラダラと歩き続けること数時間。昼食の休憩となった。出てきたのは堅焼きビスケットに薄いワイン、それに干し肉の欠片。

わびしい……としょんぼりするケイをよそに、マンデルは、

おっ、干し肉がついてるとは豪勢だな。……さすがは飛竜討伐軍

などと感心していて、色々と察するほかなかった。

長く続いた街暮らし(使用人つき)のせいで、自分はすっかり贅沢になってしまったらしい、とケイは忸怩たる思いになる。

このぶんだと夕食も期待できない、何か彩りを確保せねば……と草原に目を向けると、夏場ほどではないがウサギの姿がチラホラあった。

“竜鱗通し”と銘打たれたこの弓も、一番血を吸っているのはウサギかもしれない。

それから特筆すべきことはなく、夕暮れ前に行軍は止まり、野営の準備が始まる。夕食はそれぞれの部隊ごとに食材が配られ、自分たちでシチュー的なものを作る形式だった。

案の定、配給されたのは穀類や干し肉など非常にわびしい内容だったので―マンデルいわく、これは量的にも質的にもびっくりするほど豪勢―ケイは快く部隊の皆にもウサギ肉を提供した。これから数週間、下手すれば数ヶ月、同道する仲間たちなのだ。仲良くなるに越したことはない。

よっ、太っ腹!

さすがは公国一の狩人!

無論、義勇隊の面々も大喜びだった。

近隣の部隊より具だくさんになったシチューを味わいながら、焚き火を囲んで親睦を深める。

義勇隊に集まったのは、マンデルのように武闘大会で入賞した者や、弓や弩の扱いに秀でる退役軍人、高名な狩人、森歩き、流れの魔術師などで、出自は様々だがそれなりの人物が多かった。

一部、名声や実績のためだけに参加した者たちもいたが、彼らは実力がない代わりに相応の身分(といっても田舎の名士とか豪農の子とか)の出で、こちらもまともに話が通じる手合だ。

総じて、付き合いやすい者たちばかりだった。夕飯に彩りを添えてくれるケイに絡んでくるような無作法者ももちろんおらず、良好な関係を構築しつつあると言えるだろう。

ちなみに、ほぼ強制参加だったのはケイとマンデル、その他武闘大会入賞者くらいで、あとは志願者が主だった。

それで、

シチューをかき込んだ大柄な傭兵が、目を輝かせながら尋ねてくる。

あんたは、森大蜥蜴を2頭も狩ったんだろう? 吟遊詩人の歌は飽きるくらい聞いたけどさぁ、実際のところどうだったんだ? 教えてくれよ!

野性味あふれる笑顔が素敵な彼は、その名をフーベルトという。もともと東の辺境の傭兵で、竜人(ドラゴニア)から商隊を守るため剣を振るっていたらしいが、わざわざサティナまでやってきてから義勇隊に参加したらしい。

目的は金。そしてひとかけらの名声。蜥蜴人とやり合うのにはもう飽き飽きだよ、とはフーベルトの談だ。

これからまた東へ行くのにサティナまで来るのは無駄足ではなかったのか、と尋ねると、 実はサティナに妹夫婦がいてな、ついでに会いに来たんだ! 新しくガキが生まれててさぁ、可愛いんだなぁこれが! とニカッと笑っていた。

森大蜥蜴か……そうだな……

問われて、ケイはマンデルと顔を見合わせた。

ヴァーク村を守るため、 深部(アビス) の化け物と演じた死闘はまだ記憶に新しい。

マンデル、せっかくだから頼めないか? 俺は説明がヘタだからさ……

……おれだって口下手なんだが

マンデル? マンデルというと、あの大物狩りにも同行したという”十人長”のマンデルですかな?

少しぽっちゃりとした青年が口を挟んでくる。彼はとある田舎の名士の次男坊で、名前はクリステンというらしい。

丸顔で、くりくりとした瞳が印象的。いかにも人が良さそうだ。少し気弱なきらいがあるものの、健脚らしく、行軍には問題なくついてこれる程度の体力はある。彼の体型は自堕落によるものではなく、単に裕福さを示すもののようだ。

Перейти на страницу:

Поиск

Книга жанров

Нет соединения с сервером, попробуйте зайти чуть позже