“Crusaders”の本拠地、要塞村ウルヴァーンの界隈では名うてのプレイヤーだ。騎射の達人で、馬上で扱いづらい大弓を難なく使いこなし、木立の中であっても多少の障害物はものともせず、針の穴を通すような正確な射撃を叩き込んでくる、まさに死神。

バーナードたちが幾度となく辛酸を嘗めさせられてきた宿敵だ。“隠密殺気(ステルスセンス)“に長けているため初撃を防ぐのが非常に難しく、また、たとえ一矢しのいだところで、即死級の威力を秘めた矢が次々に飛んでくる。バーナードは勿論、杖術に長けたコウであっても、それらの攻撃を捌き続けるのは容易ではない。

それに加えてバウザーホースの性能に物を言わせ、近づけば退避、逃げれば追撃と、騎兵のお手本のような動きをするのも厭らしいところだ。会敵すれば苦戦は必至―下手すれば、三人がかりでもやられかねない、そんな相手。

でもアイツと遣り合うのが、何だかんだで一番楽しいんだよなァ

そうねえ~

首を傾けて後方からの矢を避けながらイリス。三人組の中で唯一物理的な飛び道具(スリング)を使う彼女だが、何だかんだで彼女もケイとの戦いを楽しみにしている節がある。

しかし、ここのところバーナードたちは退屈していた。

あ~~~もう! 何でログインしねぇんだよケイよォ!!

ガシガシと後頭部をかきむしり、天を仰いで吼えるバーナード。

その卓越した弓の技量から”死神”の呼び名を欲しいままにするケイではあるが、同時にVRMMORPG DEMONDAL のプレイヤーの中でも、指折りの廃人として知られている。サーバーのメンテナンス時以外は常にログインし続けている猛者で、フォーラムでも度々名指しで話題に上がっており、 最早ゲームの中に住んでいる よく出来た強NPC とまで呼ばれているほどだ。

が、そんなケイが、ここしばらく姿を見せていない。

オープンβのときから毎日欠かさず、24時間ログインし続けていた、ケイがだ。

話によると、要塞村ウルヴァーンのケイのホームで、自主トレモードに設定されているケイのサブキャラたちに話しかけても、 今、ケイは居ないよ としか答えないという。それはすなわち、ケイが DEMONDAL の何処かに姿を隠しているわけではなく、正真正銘ログインしていないことを示す。

何が起きたのか―プレイヤー界隈もネットのフォーラムも、今はこの話題でもちきりだ。引き篭もりが家から叩き出された、ケイの自宅のネット環境にトラブルが発生した、単純に飽きて引退した―などなど様々な憶測が飛び交っている。

そのログイン時間があまりに長いことから、実は寝たきりの病人だったのではという声もあり、症状の悪化なり何なりで死んでしまったのだ、とする者さえ現れる始末だ。

また、ケイとよくつるんでいた有名プレイヤー”NINJA”アンドレイも同時期から姿が見られなくなっており、こちらも騒ぎになっている。

ケイの”失踪”との関連性を疑う声もあるが―、真偽は定かでない。

……案外、あの二人がデキてたりしてね

はァ?

しばらく真剣な顔で考え込んでいたが、ふと顔を上げたイリスに、バーナードが目を点にする。

……そうよ、そう考えれば辻褄が合うわ。きっと二人とも時間を忘れて、VRルームで互いの体を貪るのに夢中なのよ。それなら DEMONDAL(こっち) にログインしないのも、説明つくでしょ?

はァァ? ないわーそれはないわァー

ぐへへ、と涎を垂らしそうな表情のイリス。呆れた顔のバーナードは、ぶんぶんと手を振った。

ええぇ~アタシ名推理だと思ったんだけど? アンドレイの美貌に見惚れ、遂に耐えられなくなってしまったケイ! 男同士、禁断の愛―! うへへ

ないないない。それに仮に、仮にだァ。ケイとあのオカマNINJA野郎がデキてたとして、それでVRルームでファックしまくってたとしてもだ……。長すぎるだろォ!! アイツらがログインしなくなってから今日で何日だァ!?

……それもそうね。いや、逢瀬を重ねてるのかも……! 二人だけの世界……?!

ないないない、それだけはない!

ぶんぶんと、手だけではなく今度は尻尾まで振り始めるバーナード。

ちなみにバーナードとイリスがお喋りする後ろで、コウは黙々と”Crusaders”への妨害を続けている。

……あ、

と、そのとき、イリスがふと気付いた。

ねぇ二人とも、あんなところに村があるわ。この間までなかったのに

そう言って、木立の奥を指差す。指先を辿って視線をやれば、成る程、森の中に小さなログハウスが何軒も建っているのが見えた。

おっ! これは立ち寄るしかねえな!

プレイヤーメイドの入植村かしら?

…………

バーナードが村の方に馬首を巡らせ、イリスとコウが自然にそれに付いていく。背後から”Crusaders”の追撃を受けながらも、茂みを掻き分けてバーナードたちは木立を突き進んだ。

近づけば近づくほどに、村の全貌が見えてくる。森を切り開いた開拓村。質素な衣に身を包んだNPCたちが木を切り、畑を耕していた。

村の入り口まで残り数十メートルといったところで、向こうもバーナードたちの姿に気付く。

化け物だー!

うわあー、化け物だ!

衛兵(ガード)! 衛兵(ガード)!

馬上でメイスを構えて突撃する竜人と、笑顔で投石紐を回す豹人の姿に、NPCたちがにわかに慌てだす。

DEMONDAL のパッケージ版を購入することで、特典として付いてくる”竜人““豹人”といったモンスター種族だが、身体能力や特殊能力の面で人族よりもアドバンテージがある代わりに、全てのNPCが自動的に敵対状態となり、街や村などの施設が一切利用できないというデメリットがある。

尤も、バーナードとイリスには関係のないことだったが。

お邪魔しまァ―す!

ドドドドッと蹄の音もけたたましく、村に入り込んだバーナードは、

ヴァアアアアァァアァァッ!!

早速、手近な納屋にブレスで火をつける。

うわあー

燃え盛る納屋から、慌てた様子で飛び出してくる子供のNPC。服に燃え移った火を消し止めようとしていたが、すぐそばに竜人(バーナード)の姿を認めて うわあー! と再び悲鳴を上げる。

こんにちは! 死ねクソガキィ!!

馬上からバーナードは容赦なくメイスを振り下ろした。メゴンッと子供NPCの頭が陥没し、赤い血飛沫(エフェクト)とともに目玉が飛び出る。

ヴァッハハハハ!

化け物め! 何をしている、化け物め!

村の奥の方から、全身金属鎧に斧槍(ハルバード)、赤いマントを装備した屈強な男が走ってきて叫ぶ。どんなに小さな村にでも最低一人はいる衛兵(ガード)だ。筋力・体格に優れ、下手なプレイヤーよりは余程強いが―

ふッ

ボッ、とイリスの腕がブレる。砲弾と化した丸石が直撃、兜ごと頭部を吹き飛ばされ衛兵はあえなく肉塊となった。

なんだァNPCだらけかここはァ! つまんねえなァ!

言葉の割には実に楽しげに、次々と家屋にブレスを浴びせかけるバーナード。その隣ではイリスが まるで鴨撃ち(ダック・ハンティング)ね などと言いながらニコニコと投石を続けていた。コウは相変わらず妨害の魔術をぶっ放す傍ら、近くに逃げてきた村人の頭を杖で叩き潰している。

“Crusaders”の面々が村に辿り着く頃には、ほとんどの家屋は轟々と燃え盛り、元NPCの肉塊が山積みになっている有様だった。そして当の下手人たちは、煙に紛れて既に遁走している。

あまりの惨状に、“Crusaders”のプレイヤーたちも一瞬呆気に取られていた。

ひでぇ……よくもまぁ短時間でここまで壊すもんだ……

ここ傭兵団(クラン)“Tester’s Camp”さんのトコの入植村だよな……

“Tester’s”にも連絡しよう、このまま逃げられたら最悪俺たちのせいにされるぞ

そいつは勘弁

肩をすくめたプレイヤーの一人が、背負っていた大きな籠の中から一羽の鴉を取り出し、放つ。

バサバサと羽ばたきながら、飛び立っていく黒い鳥。

……行こう

それを見届け、“Crusaders”の団員たちはPKたちの追跡を再開した。

木立を抜け、右手に草原を望みながら、バーナードたちは駆け続ける。

いやーなかなか楽しかったなァ

ついでにお金もちょっと稼げたわよ。あとで山分けしましょう

そいつァいいや! おっと安心しろよコウ、触媒分は多めに出すぜェ!

…………

ビッ、と無言でサムズアップするコウ。ヒゲとフードのせいで表情は分からないが、ニヤついているような雰囲気もある。

が、ぴりりと鋭い殺気を放ち、コウは天を仰ぎ見た。つられてバーナードとイリスも空を見上げる。

遥か高空、小さな黒点―鴉だ。黒々とした翼を広げ、気流に乗って滑空している。

咄嗟にコウが懐に手を突っ込み、一掴みの塩を空へと投げた。

Aubine. Rigardu supren al la cxielo, tie estas korvo, vi faru glacikonuso , kaj vi pafu lin mortigi la birdon.

半透明の長衣の乙女が浮かび上がる。塩の結晶が霧散し、ガラスが軋むような音を立てて空中に研ぎ澄まされた氷の杭が出現した。

Ekzekuciu(執行せよ).

ギンッ、と氷の杭が一条の光となり、空を引き裂きつんざいていく。

上空を旋回していた鴉が氷の杭に貫かれ、羽を散らす。そのままキラキラと血飛沫(エフェクト)を撒き散らしながら、力なく落下していった。

……見ツカッタ

片言じみた口調で、コウ。

あらら。じゃあこのままアジトには直帰できないわね

ならしばらくハイキングと洒落込もうじゃねえかァ

気楽に笑いながらバーナード、しかし弾かれたように体を逸らす。

一瞬前まで体のあった空間を、銀閃が貫いていった。

噂をすれば、また連中だァ

口の端を獰猛につり上げ、チロチロと舌を出す。後方、白マントに黒の十字架の一団。先頭のクロスボウを構えたプレイヤーが、悔しそうに顔を歪めていた。

あら、数が増えてるわね。応援呼んだのかしら

囲まれても面白くねえなァ。コウ、頼んだぞ

…………

先ほどまでと同じように逃げ始める。増援によって勢いを増した”Crusaders”たちは、後方から真っ直ぐ追い上げてきつつ、別働隊を草原に展開し半包囲網を敷いていた。

その包囲網の圧力を避けるように、バーナードたちは西へ西へと追いやられていく。走り続けること十数分、周囲の景色は徐々に草原から疎林地帯へと変わりつつあった。

こりゃあ本拠地の方にまで誘い込まれてんなァ

ウルヴァーンの近くまで来ちゃったわね

……二人トモ、見ル。様子、オカシイ

コウが前方を指差して言う。

はァ? なんだありゃ

バーナードが、ぎょろりとした黄色の目を瞬かせて、気の抜けた声を上げた。

前方、切り立った崖に挟まれた谷。

そこを覆い尽くす―白い霧。

……随分と濃い霧ね。罠かしら?

魔術かァ?

……殺気、感ジナイ。魔術、チガウ

馬の足を止め、霧の前で立ち尽くすバーナードたち。しかしその背後から追跡者たちの蹄の音が迫る。

前方は霧、左手には岩山、後方と右手には包囲網。

……ええい、ヤケクソだ! 突っ込め突っ込めェ!

まあ、ここでやられるよりマシかしらね

…………

無言でサムズアップし、賛成の意を示すコウ。

再び馬を加速させたプレイヤーキラーたちは、霧の中へと突撃していく。

その姿が、濃霧の向こう側へと。

呑み込まれて、―消える。

果たして、“Crusaders”がその場に到着する頃には―

一面を覆い尽くしていたはずの霧は、影も形もなく消えうせていた。

この日以来、バーナードたちの姿を見た者はいない。

幕間. PlayerKiller?

ゆるい、ゆるい、まどろみのなか。

あ、そろそろ会社行かなきゃ―と、そんなぼんやりした思考が流れていく。

今日は新しいプロジェクトの重要な打ち合わせがあったはずだ。起きないとまずい、いや、もうちょっとだけ―と、そんなことを思いながら寝返りを打とうとする。

だが、不意にカッと目を見開いた。

よくよく考えれば目覚ましの音を聞いていない。というより明るすぎる。これは―

―寝過ごした!?

がばりと勢いよく上体を起こし、―そこで呆然とする。

抜けるような青空。地平の果てまで続く緑の草原。

―はっ?

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