地獄の猟犬。姿形も行動も犬そのものだが、一応悪魔に分類される。忠実で俊敏。鋭い牙や爪、そして口から吹く炎はかなりの攻撃力を誇る。反面、防御力は普通の犬とそう大差ないためにやられる時は簡単にやられる。勿論ユニスにはあっさり殺された。
クレイゴーレム
土に魔力をかけた生ける人形。動きは遅く、素材が土であるため脆いために殆ど戦力にはならない。が、身体が大きく怪力を持っている為、単純な力仕事や壁としては有用。ユニスには破壊すらされず無視された。
ユニス(英雄)
戦力:10最大貯蓄魔力:5
英雄の星の下に生まれた少女。堕ちたる英雄となってもその戦闘能力は健在。回復、攻撃、防御の魔術をバランスよく使いこなし、剣の腕も一流以上。一撃の重さよりスピード重視の戦闘スタイルだが、十分重い一撃を凄まじい速度で放ってくる。
クレイゴーレムに運ばせ、ダンジョンコアは第二階層に移動した。主な防衛設備はゴブリンの罠とヘルハウンド、簡単な迷宮。ユニスには凄まじくあっさり突破されたが、英雄補正で迷宮も最短距離で突破してきたため、設備の悪さというよりは相手が悪かった。
第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-1
日の光が一切差さぬ迷宮の奥で、時間を知ることは容易ではない。入り口付近ならまだしも、奥ともなると地上の暖まった空気すら流れ込んでくる事はなく、時間どころか季節すら感じる事はできない。
日時計など使えるわけも無いし、時間を伝える教会の鐘の音もない。機械式時計と言うのも考案されたらしいが、それも塔の上に取り付ける巨大なもので、狭いダンジョンの中に設置できるようなものではない。
そういうわけでダンジョン内での時間を知らせるのは、リルの重要な仕事の一つとなっていた。闇に包まれた魔界で暮らしていた彼女にとっては、今の時間を知る事は呼吸をするのと同じくらい容易い。
ごっしゅじんっさまー! 朝ですよー!
リルは機嫌よくOlの布団を剥ぐ。その途端、にこやかだった表情は怒りに引きつった。
何でアンタがここにいるのっ!?
布団の下にはOlに肢体を絡ませるユニスの姿があったからだ。しかも、一糸纏わぬ姿である。
んんおはよーリル
おはよーじゃない! アンタの部屋はちゃんと用意したでしょ?何でOlのベッドに潜り込んでんの!?
寝ぼけ眼を擦りながら身体を伸ばすユニスにリルは怒鳴る。
ユニスはぼんやりした表情で小首を傾げ、ぽんと手を打った。
あー、ダンジョンって底冷えするからついフラフラと暖かそうなベッドに
ならなんで全裸になってるのよッ!!
怒髪天を衝く、といった形相で叫ぶリルに、眉をしかめながらOlが身体を起こす。
やかましい。朝から騒ぐんじゃない
納得いかないーっ
Olに用意した着替えを渡しながら、リルは歯噛みした。
私は朝から着替えの準備に部屋の掃除、洗濯、ダンジョンの見回り、魔物の管理とか、色々忙しくやってるのよ!? なのに一日中働きもせずぐーたらしてるユニスの方がOlと沢山セックスしてるのはどういう事!?
お前とはそういう契約だから仕方ないだろう。ユニスに任せようにも、あまり役に立たんしな
Olの歯に衣着せぬ物言いが、ユニスの心に突き刺さる。元は王族であり、冒険者として根無し草の生活を続けていた彼女は基本的な家事は殆ど出来なかった。
(それに、ユニスにあまりダンジョン構造を知られても困る。寝返る可能性もあるのだからな)
(英雄の星の宿命はOlと契約する事で堕ちた英雄に変わったから、強制の呪いはまず解けないんじゃなかったの?)
(まず、であって100%ではない。また何かのきっかけで英雄に戻る可能性も僅かだが残っている。それがある限り、俺はユニスを完全に信頼する気はない)
契約を通した念話で、Olとリルはやり取りを交わす。遠回しに自分は信頼されているのか、と解釈しリルは笑顔になった。
うう、Ol、やっぱりあたしもリルの仕事手伝うよ
そんな思惑を露知らず、提案するユニスにOlは首を横に振る。
いや、お前はいざと言う時の剣として役に立ってくれれば良い。それに、リルの仕事も今日からは少しは軽くなるはずだ
ん? 手伝いのゴーレムでも作ってくれるの?
首を傾げるリルに、Olはため息をつく。
忘れたのか?今日は初めて、生贄の娘が届く日だ
第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-2
では始めるぞ
現在Olが作っているダンジョンの奥の奥、最深部といえる場所に、その部屋はあった。
便宜上召喚の間と呼んでいるその部屋は10m四方ほどの大きさで、扉は一つだけ。地面には複雑な魔法陣が地面に直接彫り込まれていた。
Olのダンジョンの大部分には、転移魔術防止の結界が張られている。直接転移魔術でOlの寝室やダンジョンコアを襲撃される事への対策で、この結界の範囲内に転移を試みても元いた場所に跳ね返されてしまう。これは原理的なものなので、術を試すのがどのような存在であれ、覆す事は出来ない。
しかし、この結界はOl自身にも適用される為、外出や帰還が非常に面倒なものになる。それを回避する為に作られた、ダンジョン内唯一の穴がこの召喚の間だった。
この部屋にだけは外部から転移する事ができるのだ。当然、この部屋の座標は秘中の秘であり、読心の魔術や記憶を盗まれたりしても外部に情報が漏れないよう、リルやユニスには勿論、Ol自身にも念入りに呪いがかけられている。
剣を鞘から抜いてはいないものの緊張した面持ちのユニスと、同じく真剣な表情で魔法陣を見つめるリルを左右にはべらせ、Olはゆっくりと呪文を唱える。
部屋の中の空気がゆっくりと渦巻き、魔法陣が淡い光を放ちだす。Olの唱える呪文がうねり、機織りの様に振るわれる指先から描かれるルーンが輝く軌跡となって魔法陣を取り巻く。
渦巻く空気はやがて突風の様に吹きすさび、どんどんと力強さを増して竜巻の様にごうごうと音を立てる。
出でよ!
Olの叫び声と共に竜巻は一層激しさを増し、ルーンが強烈な発光と共にOl達の目を焼く。
は?
Olは思わず間抜けな声を上げる。
竜巻が過ぎ去り光が収まった後、魔法陣の上に現れていたのは、5羽の鶏と2頭の豚、1頭の牛と
その上で眠りこける、幼い少女だった。
子供?
ユニスが怪訝そうに呟く。
年齢は5,6歳だろうか。細い金色の髪をこめかみの上で二つ結びにして、貧しい村で調達できる中では最大限上等な服を着て来たようだ。綿で出来た質素なものではあるが、フリルのついた可愛らしいドレスに身を包んでいた。
そんな少女が、牛の背に抱きつくようにして眠っている。牛の方も時折尻尾をパタパタと振るだけで、少女の存在に頓着する様子はなかった。
娘よ、起きよ
Olが声をかけてみるが、少女は全くおきる気配もない。
叩き起こしたい所だが、こちらから足を踏み入れれば途端に魔法陣はその効力をなくす。逆に、こちらから踏み入らなければ、魔法陣の中から外に出る事は不可能だ。
村人達が生贄に戦力を仕込んで送る可能性も当然Olは予測し、対策している。その対策を自ら台無しにする訳には行かない。Olは油断なく、もう一度娘に声をかける事にした。
起きよ。お前は何者だ?
二度目の声も、少女には届いた気配は無い。器用にも牛の背の上で寝返りを打ち、Olから顔を背けさえした。
爆睡だね
リルが呆れたような、感心したような良くわからない表情で呟く。夢を操る夢魔でもある彼女には、少女が完全に熟睡している事が見て取れた。
起きよ!
苛立ち半分のOlの声が、まるで雷鳴の様に部屋の中に轟いた。魔術まで併用した怒声に、さすがに少女も身体をびくりと震わせて牛の背から転げ落ちる。
ふ、ぅぇ?
落下ダメージはさほどなかったのか、少女はすぐにひょこりと顔を上げると、戸惑ったように辺りを見回した。
娘よ。お前は何者だ?
地獄の底から響くような低い声でOlが尋ねると、少女はびくりと身体を震わせ、同じように震える声で自己紹介を始めた。
え、あ、ぅご、ごきげんうわるしゅう、おうるさま、わ、わたし、は、マリーベルともうし、ます。え、と、い、いご、どうぞおそばにええと、おそばに
丸暗記させられたのが見え見えの文句を、マリーベルと名乗った少女はたどたどしく綴る。
魔力は殆ど持ってないよ。少なくとも、大人が魔術で化けたりしてるワケじゃない。見たままの子供
武器とか使えるわけでもなさそう。フツーの子供じゃないかな
リルとユニスが、それぞれマリーベルの能力を分析する。Olの所見も彼女達と同様のものだった。
若くて清らかな娘を寄越せ、とは言ったがな
幾らなんでも若すぎる。Olはため息をつくと、軽く手で払って魔法陣を打ち破る。
村に行く。ユニス、共をしろ。リルはその娘の相手をしていてくれ
また留守番、しかも子守~?
Olはあたしが守るからねー
不満を漏らすリルと、嬉しそうにOlの腕に抱きつくユニス。どうしてこう、忠実な部下が手に入らないのだろう、と悩みながら、Olは転移の術の準備を始めた。
第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-3
Olはユニスを伴い、マリーベルの村へと転移した。転移先は村の中央の祭壇ではなく、村から少し離れた場所だ。今回の件について、Olは三通りの予測を立てていた。そのうち二つは、こうしてOlが村を訪れる事を見越したものだ。
一つ目。抗議に来たOlに奇襲を仕掛け、倒す為の罠。
二つ目。抗議に来たOlが留守の間にダンジョンを攻める為の罠。
前者は転移先を村から離れた場所にする事で奇襲を避け、ユニスを伴うことで戦力的にも問題ない。後者はダンジョンにリルを残しているから、侵入者があればすぐにわかるはずだ。
問題は、三つ目だった場合。そして困った事に、その三つ目である可能性がもっとも高い。
村を訪れるとすぐさま平伏した村人達を見て、Olは自分の嫌な予感が当たった事を悟った。
つまり、マリーベル以外に清らかな若い女はいない、と、そういう事だな?
はい、その通りでございます。今、この村には若い娘が殆どおりませんで僅かにいた若い娘も、Ol様がいらっしゃる前に嫁いだもので、男を知らぬ中ではマリーが一番の年嵩なんでございます
さすがに生贄がOlの望んでいるものでなかった事は理解しているのだろう。村長は身を最大限小さくして、地面に額をつけんばかりに頭を下げた。
三つ目の予測。それは、村人が最大限誠実に取引を行った結果がこれである、と言うものだった。それは非常に困る。Olは今、切実に人手を必要としているのだ。
本来なら二ヶ月前に一人生贄が手に入る予定だったのだが、その村はユニスを手に入れる際に丸ごと灰にしてしまった。
骨も残さず燃やした為、リビングデッドやスケルトンさえ手に入らなかったのだ。
その言葉に嘘はないな?
猛禽の様に鋭い目で、Olは村長を射抜く。重圧に耐えかね、村長は震えながら答えた。
そ、その、一人、おるにはおるのですがとてもOl様に捧げられるような器量の娘ではなく
良い。その娘を連れて来い
もとより、Olは村娘の外見には殆ど期待していなかった。所詮田舎の村にそれほど美しい娘がいるとも思えない。処女を要求したのも、性処理ではなく魔術的な価値を重視しての話だ。
しかし
二度は言わんぞ
躊躇する村長に睨みを聞かせると、村長は逃げるように屋敷を飛び出していく。何故そんなに躊躇うのか、という疑問は、連れられて来た娘を見て氷解した。
長い黒髪に白い肌、均整の取れた体付きに、整った容貌。
そして、それら全てを台無しにする醜い傷跡が、顔の左半分を覆った娘だった。
Olの隣で、ユニスが僅かに息を呑む気配を感じる。
なるほど、醜いな
Olは率直にそういった。
幼い頃に重度の火傷を負ったのだろう。半分だけ焼け爛れた肌は、もう半分の美しさと対比されそのおぞましさをいや増していた。長い袖の服から顔を出している指先を見るに、顔だけでなく左半身の殆どが傷を負っているのだろう。この娘を抱こうなどと考える男は皆無であったに違いない。
ええ、ですから、Ol様のお目に入れるも見苦しく、候補から外した次第でして
Olの言葉に少し安心したらしく、村長は僅かに緊張のほぐれた表情で言った。
娘。名は何と言う
ソフィアと申します