マリナの喉から、自然と声が漏れ出る。痛みではなく、さりとて快楽という程のものでもない。繋がった場所を突かれた分、押し出されたような吐息の音。
しかしそれは、マリナにとってはノックの返答のように感じられた。自然とOlを受け入れ、許しているからこそ出る声のように思われたのだ。
ん、あっふ、ぁん
許しを与えればOlの肉塊は更にマリナの奥へと踏み入り、コツコツと具合を確かめながら壁を刺激する。その感覚にマリナは吐息を漏らし、更に己の内側を許す。その繰り返しを経るたびに、漏らす息には熱がこもり、色香を帯びていった。
はぁぁんあっそこ!
気づけば腹の奥がじんと痺れ、疼くような感覚が生まれていた。そこを、Olの肉槍が的確に抉り、思わずマリナは高く声を上げる。
ああっ駄目っ!駄目、です!
未知の感覚にOlの腕を掴み、マリナは哀願した。しかしOlは動きを止めるどころか、むしろ更にそこを突いてくる。
やぁっ!い、やぁ!
反射的に否定の声をあげてしまってから、マリナの頭の片隅を冷静な考えがよぎる。本気で嫌だというわけではない。むしろ、この状態で止められてしまう方がよほど辛い。
しかしOlは動きを止めることなく、低い声でそう囁いた。
あぁっ!や、あぁっ!そこっ、駄目ぇっ!
己の身体を押さえつける逞しい腕も、威圧するような低い声も、荒々しく奥を突く太い肉の槍も。全てが、マリナが今まで嫌悪してきた男のそれであるはずなのに。
彼女を裏切り犯したイガルクのそれと同種であるはずなのに。
何故か、マリナはそれに安心感を覚えてしまっていた。
──目だ。
マリナは、そう思う。ただ一つ、こちらをじっと見つめている瞳だけが、イガルクとは違う。彼は夜闇の中でマリナを襲い、誰であるかすらわからなかった。どんなに悲鳴を上げ、助けを呼び許しを請うてもただただ一方的に犯され、穢された。
しかしOlの瞳はマリナをじっと見つめ、反応を見ながら彼女を抱いている。そして口から出る言葉が内心と間逆であっても、それをしっかりと察してくれるのだ。
それに気づいた瞬間Olの顔が近づき、唇が重ね合わされる。唇を割って入り込んでくる舌先を、マリナは抗うことなく受け入れた。
ふ、あっ!
次の瞬間、突然ずんと胎に響く衝撃にマリナは思わず背筋を反らす。
そ、こぉっ
奥の奥、子宮の入り口に、Olが辿り着いたのがわかった。その太く硬い男根が根本までずっぷりと突き刺さっているというのにもはや痛みは微塵もなく、代わりに震えるような快感が腰から全身へと波打つように広がっていく。
あぁっ!いやぁっ、だめぇっ!
奥を突かれるたびに、否定の言葉がマリナの口から飛び出した。本気で嫌がっているわけではないし、Olに対してそんな態度を取りたいというわけでもない。しかし彼から快楽を与えられるたびに、自然と身体はそれから逃げるように動き、そう声を発してしまう。
だがそれは、Olがマリナの真意を悟ってくれているという確信があるからこそだった。どんなに嫌だと叫んでも、Olは行為をやめることはしない。その一方で、本心からやめてくれと頼めばやめてくれるだろうという確信もあった。
マリナ自身は気づいていなかったが、それは甘えとでも言うべき感情だった。兄である太陽神に裏切られ、ただ一人で月の上に住まい、ヒムロの民を見守ってきた母神たる彼女が、初めて誰かに甘え頼ったのだ。
だめっ、いや、やぁんっ!そこ、だめ、だめぇっ!やぁあっ!
それは酷く甘美な酒だった。マリナはOlの背中を抱いて、否定の言葉で懇願する。その度にOlの肉槍は力強く彼女の最奥を貫き、女としての悦びをその身体に打ち込んでいく。
信頼で結ばれた性交がこれほどの快楽を齎すということを、マリナは初めて思い知った。
あぁぁっ!だ、めぇっ!も、もうわたしっ!
媚肉がわななき、きゅうとOlの逸物を咥え込んで、マリナは身体をビクビクと震わせる。
行く、ぞ!
うんっ
腰の動きを加速させるOlに、マリナは初めて素直に頷き。
来てお兄ちゃんっ!
その言葉と共に、絶頂へと至った。
自身に対する驚愕と、初めて感じる深い快楽と、あらゆる感情がないまぜになったマリナの内を、Olの白濁の液が大量に流し込まれ、白く白く染め上げていく。
胎の中に打ち付けるように吹き出す精の奔流に何もかもを洗い流されるような感覚を覚えながら、マリナは意識を手放した。
ああああああああああちがうちがうんです
マリナが意識を手放していたのは、ほんの数瞬であった。流石は旧き女神と言うべきか。彼女は忘我の境からすぐに立ち戻ると、寝台の上で頭を抱えながらそんな風に言い訳を始めた。
あの、最後のは、別にあなたをイガルクと同一視したとかそういうのではなくむしろその真逆と言うかイデアとしてのお兄ちゃん像といいますかあああわたしは何を言っているのでしょうかだいたいわたしの方が比べるのも烏滸がましいほど遥かに年上だと言うのにでもでもつい口をついて出たと言うかいえあれは
延々と続くそれを遮って名を呼ばれ、マリナは反射的に居住まいを正す。
それは、どうしたことだ?
Olの指先が、マリナの胸元を示す。そこには、見事な双丘が復活していた。大きすぎず小さすぎず、彼女の美貌を最大限に輝かせるような、美しい形の乳房。欠けていた月が満ちたかのような、完璧な美がそこにはあった。
そもそも、最も旧く偉大な女神たる彼女は不死不滅に限りなく近い存在だ。熟練の魔術師とはいえただびとたるOlにとってさえ、欠損部位の再生程度はさほど難しい術でもない。治らぬというのならば、彼女自身の意志でそうしているに他ならなかった。
えっと、その
裏を返して言えば、それが治ったということは。
触ってみます?
甦った二つの果実を己の手のひらで持ち上げ、マリナは首を傾げてそう問うた。
第19話高慢なる砂漠の王の鼻をへし折り絶望の淵に落としましょう-1
──寒い。
彼が初めに思い出したのは、凍てつくような寒さだった。
砂漠の空は、昼と夜とでその有様をがらりと変える。
昼間は焼け付くような暑さで何もかもを照り焦がしておきながら、偉大なる太陽神の恵みが失われれば即座に何もかもが凍りつく極寒の夜が訪れる。
だが今の寒さは、彼が感じたことのあるいかなる寒さとも別種の冷えであった。身体の芯の芯、魂の奥底から凍りついてしまったかのような
意識が、僅かに覚醒する。
ここはどこだ?なぜこんなに寒い?
余は余は、どうなった?
ようやくのお目覚めか
そう考えた瞬間、声がまるで頭蓋に直接放り込まれたかのように、ぐわんぐわんと鳴り響いた。
本当に貴様は鈍いやつだな、ウセルマート
オ、ウ、ルゥゥゥゥウウウウ!
忘れるはずもない、憎き相手の声。
その声で、彼は全てを思い出した。
己こそは太陽神の化身にして万物の支配者。砂の国、サハラの王、ウセルマート。
そしてそれに語りかけるのは、彼を殺した魔王、Olの声だと。
ゆぅぅるぅぅぅさぁぁぁあぬぅぅぅ!
怒声を放ちながら、ウセルマートはOlの姿を探す。
気づけば周囲は眩い光に埋め尽くされていて、何も見えない。
まるで太陽の中に放り込まれたかのようだ。
オォォォオオウゥゥゥゥルゥゥゥ!どぉぉぉこぉぉぉだぁぁぁぁ!
目元を腕で遮ろうとしても、瞼をどれだけきつく閉じようとしても、光はウセルマートを刺し貫くかのように輝く。
──いや。
腕も瞼も、今の彼には存在しなかった。
なぁぁぁんんんだぁぁぁ、こぉぉぉれぇぇえはぁぁぁあ!
それどころか発した言葉さえ幾重にも反響し、茨の棘のように突き刺さって彼を苛んだ。
眩しいか。どれ、火を消してやろう
Olの言葉と同時に、ほんの少しウセルマートの苦痛は和らぐ。周囲を埋め尽くす光の洪水は消え失せ、ただ赤く揺らめく炎の残照だけが燻っていた。
今のお前にとっては松明の明かりすら辛かろうな
そう言ってOlが炎を消した松明を投げ捨てると、ようやく周囲の様子が感じ取れるようになる。それは黒い紙の上に黒い墨で描いたような、漆黒の景色であった。
何をぉぉ余にぃぃ、何をしたぁぁぁぁ
己が発する声すらガンガンと響き渡り苦しみを味わうため、叫ぶことすらままならない。ウセルマートは闇の中のOlを睨みつけながらも、そう尋ねる。
別に俺が何をしたわけではない。強いて言えば、お前を起こしただけだ
Olの視線が下を向く。それにつられるようにして意識を向けたウセルマートが見たものは。
剥き出しの魂で感ずるものは、刺激が強すぎるだろう?
あらぬ方向へと首の折れた、無惨な己の死骸であった。
馬鹿な──馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁぁぁっ!
己の見たものを信じられず叫ぶウセルマートの首を、Olの右腕が掴む。その動作によって初めて、ウセルマートは己の実体をすなわち、霊魂となった己自身を、知覚した。
それだけわめく元気が有り余っているなら心配はいらんな。──選べ
Olはそのままウセルマートの霊を引きずり下ろすと、彼の死骸に突きつけて宣告した。
このまま腐り果て、無に帰すか。蘇生して俺に手を貸すか。どちらかを
蘇生、だと!?
そんな事が出来るはずがない。ウセルマートの常識は、そう叫んでいる。
しかしその一方で、己がその死の淵から既に二度、蘇っている事を記憶していた。
一度目は目の前にいるOlによって。
そして二度目は、あの誰よりも輝かしく美しい、太陽の女神によって。
一度目だけであれば。あるいは、二度の順番が逆であれば、何らかの誤魔化し、詐術の類だと唾棄したであろう。
だが、ウセルマートは知っている。
この芯の底から凍りつくような死の寒さを。そこから舞い戻る暖かさを。
手を貸す、とは何にだ
問うウセルマートに、Olは渋面を作りつつも答える。
我が娘をソフィアを、取り戻す
ソフィア。その名をウセルマートは記憶していなかったが、誰のことを指しているのかはわかった。隠れし太陽の女神。この世で最も尊き女。
いい、だろう
つまりはウセルマートの物、妻となるべき者だ。
この地上の全ての支配者、神帝たる余が手を貸してやる。感謝せよ、下郎
Olに手を貸し太陽神を下したあと。
──この魔王も滅ぼして、女神を手に入れれば良い。
(わたしが言うのも何なのですが)
Olの脳裏に、涼やかな声が響く。
(本当にこれで良かったのでしょうか、お兄様)
加護によって伝わる、女神マリナの預言だ。流石にお兄ちゃんは女神としての威厳が保てないと思ったのか、預言ではOlをお兄様と呼ぶことに決めたらしかった。
月の女神マリナの権能は、最善手を導きはするがその結果がどうなるかまでを見通すことは出来ない。そしてその力が導き出したのは、砂の王ウセルマートを蘇らせ、助力を仰ぐことであった。
ある意味、全ての元凶となった男だ。命を盾にしたところで、素直に従う玉でもないだろう。マリナの不安はわからないでもない。
だがあの男は愚かとはいえその力は侮れるものではない。戦力にならんということはないだろう
敵対した際に見せた、それこそ太陽が大地に降りたかのような強大な炎。その質こそ太陽神の力を借りたものだろうが、量は純粋にウセルマート自身の力量だ。Olもダンジョンの中であればあるいは、己の魔力を仕込んだ女を大量に用意すれば、同じことは出来るだろう。
しかしそれはOl自身の精微極まる魔力操作と、長年の研究の果てに辿り着いた魔力蓄積のすべのあってこそ。ましてや連発するなど、Olでさえ不可能。
ウセルマートはそれをやってのけたのだ。それはまさしく天稟と呼ぶに相応しい力であり、万物の支配者などという大それた名乗りもあながち大言壮語と言うわけではない。
まぁぁぁぁぁぁおぉぉぉぉぉぉうぅぅぅぅぅう!
出し抜けにドタドタと足音が響いたかと思えば、Olの私室のドアがノックもなしに乱暴に開かれる。
これはどういうことだ!?
そして目の醒めるような美女が飛び込んできたかと思えば、艶のある声で叫んだ。
Olは舐めるような視線を、無遠慮に美女に向ける。気の強そうなアーモンド型の瞳。短く切った黒い髪。艶めかしい褐色の肌は白い衣装に包まれていて、所々に施された金の装飾がその肌の美しさを一層輝かせている。
そして何より特徴的なのはスラリとした長身と、リルやサクヤに匹敵するほどの豊かな双丘であった。
存外似合うではないか、ウセルマート
ふざけるなぁぁっ!これはどういうことだと聞いている!