笑いを漏らすOlに、美女──ウセルマートは詰め寄る。
大きい乳房が好きだと言っておったではないか。だからその希望を叶えてやったまでのことだ
自分に巨乳がついていても何も嬉しくないわっ!
死体の傷を癒やし、動いてない心の臓を動かし、その骸に命を戻す術。Olにとっては造作もない魔術ではあるが、それは極めて高度な術だ。それに比べれば、肉体の在り様を変化させて性別を変えることなど、大した技ではない。
なにせOlの迷宮というのは後宮をも兼ねている。そんなところを、Olの寝首をかく気満々の好色な男にうろつかれるわけにも行かない。裏切り防止の人質も兼ねた、策であった。
嬉しくないと言うならなぜ自分で揉んだのだ?
なっみ、見ていたのか!?貴様、余の肌を盗み見るなどなんと不埒な!
うろたえるウセルマートに、Olは思わず呆れて答えた。
冗談のつもりだったが、お前、本当に揉んだのか
ええい!眼の前にこれほど豊かな、理想と言える乳があるのだ!揉まずして何が男か!
開き直ったかのように胸を張るウセルマート。Olはその乳房を無造作にむんずと掴んだ。
何をする!?
眼の前にあれば揉まなければ男ではないと、お前が今言ったのではないか
ウセルマートはすばやくOlから飛び退いて、涙目で己の胸を腕で庇う。
ふ、ふ、ふ、不埒な!この高貴な余の胸を揉むなど、万死に値する!
元は男だろうに、乳の一つや二つ気にするでない。大体、お前に施術したのはこの俺だぞ。肌を見るだの触れるだの、今更であろうが
別段見て楽しいというわけではなかったが、男のときからウセルマートは均整の取れた美丈夫ではあった。それを元に女の姿にしたのだから、美しくないはずがない。今のウセルマートの姿はOlをして、なかなかの力作であると自負するほどであった。
せ施術しただと!?余の身体にこの聖体に触れたというのか!?
それがどうしたというのだ
Olほどの術者ともなれば触れずとも施術はできるが、わざわざそんな事をして難易度を上げる意味もない。
まさか、裸身を見たなどと言うのではなかろうな!?
見ずにどうやって施術する
別にOlとて男の裸など見たくはないし、女に作り変えたあともまじまじと見るようなことはしていない。だが、ウセルマートはショックを受けたように両手をわななかせ、己の顔を覆った。
別段、見られて困るようなものはなかったと思うが
当然だ!万物の支配者たるこの余に、そのようなものがあるか!
では何だというのだ、とOlは困惑する。
誰にも見せたことのない我が聖体、生まれたままの姿を、よもや最初に見たものが男になるとは
誰にも見せたことがないだと?
Olは首を捻って尋ねた。
お前の国では、着衣のまままぐわうのが普通なのか?
痴れ者め! そのようなことがあるわけがなかろう!
ではどういうことなのだ、と問いかけて、Olはふとある可能性に思い至る。
まさか、貴様
絶対権力者として一国を支配し、何人もの美女を後宮に侍らせておきながら。
童貞なのか?
童貞の何が悪い!?
Olの問いに、ウセルマートは渾身の力を込めて叫んだ。
(本当にこれで良かったのでしょうか)
脳裏に響くマリナの言葉に、Olは答えることが出来なかった。
第19話高慢なる砂漠の王の鼻をへし折り絶望の淵に落としましょう-2
あはははははは!良い格好ねウセルマート!しかも童貞なんですって?折角だからOlに処女を奪って貰ったら!?
お、おのれぇー!貴様、言わせておけば!
ウセルマートを指差し爆笑するザナ。ウセルマートは激高し炎を出そうとしたが、それはザナに向けた途端に掻き消えた。彼いや、もはや彼女となったその身には、Ol特性の呪いがたっぷりと練り込んであるからだ。
あまり煽るな
実に楽しそうな氷の女王を、流石にOlは諌めた。
ザナの妹、イェルダーヴが怒り狂うウセルマートに怯え、Olの影に隠れるようにしていること。そして、十重二十重に構築した呪いの一部が、ウセルマートの放とうとした膨大な霊力によってピシリとヒビが入るのを見てしまったからだ。
力づくで鉄の檻を破るような、常識はずれな力だった。
お館様。準備が整いました
お茶とか用意したよー
そこへ、会談の用意を言付けていたホスセリとマリーが報告にやってくる。
うむ。ではお前たちも同席せよ
昇る太陽の神、純白のククルの巫女たるフウロの末裔、ホスセリ。
中天に座す神、金色のイガルクの巫女たるヒムロの姫、イェルダーヴ。
沈む太陽の神、赤きアトムの巫覡、砂の国サハラの王、ウセルマート。
地に隠れし神、黒きオオヒメの親にして地下迷宮の娘、マリー。
そして月の女神マリナの巫女ザナと、魔王Ol。
会議室に、太陽神に直接関わる者全員が集まっていた。
大体だな、この世で最も高貴なる余の胤(たね)をそうやすやすと下賤な女に渡せるわけもなく、ましてや何よりも尊い我が童貞をだな──
貴様の性経験の話はどうでもいい
ザナに煽られたのがよほど腹に据えかねたのか、椅子に座ってもなお言い訳じみたことを言い募るウセルマートに、Olはピシャリと言い放つ。
神に対して、基本的にはこの六人で挑む
嘘でしょ!?
そしてそう切り出したOlに、まずザナが異議を唱えた。
相手は四柱の太陽神の習合、全知全能の神なのよ!?それを、たった六人でって、正気なの?
だからこそだ
彼女がそう来ることはわかっていた。Olは落ち着き払って答える。
数を揃えたところで意味がない。対抗できる、ごく少数の精鋭。それこそが最善だ
──だとしても!
机を叩き、ザナは向かいに座ったウセルマートへ指を突きつける。
こいつは信用できない
ほう。不埒にもこの余を疑うか。王の中の王たる余が協力してやろうと言うのだ。それとも、この余が魔王との約定を違えるとでも?
ウセルマートは豊満な双丘を支えるように腕を組み、すらりとした脚も組んで椅子の背もたれに身体を預けた。元男とは思えぬほど妖艶な仕草に歯噛みしつつも、ザナは答える。
ええ、破るわ。あんたは他人との約束なんてなんとも思ってない
ははははははは!その通りだ。そも約束事、契約など対等な関係でするもの。万物の王たる余がなぜ貴様ら凡夫と結んだ約束を守ってやらねばならぬ?
ザナの指摘にウセルマートは隠しすらせず哄笑した。これには流石にマリーとホスセリも鼻白む。
それは構わんが、一生女の体のままでいいのか?
しかしOlの指摘にその笑い声はピタリと止んだ。
くっだがそのようなもの、全能の力を手に入れさえすれば
手に入れるまでは、否応なく協力する必要があるということだな
流石にウセルマートも一人でどうにかできると思っているわけではないのだろう。悔しげに表情を歪めつつも押し黙る。
まあ良い。だがむしろ、余の方こそ人選には不満がある。こやつらが何の役に立つというのだ?
ウセルマートはぐるりと一同を見回すと、尊大に言い放った。
太陽神の力を失い赤子同然の娘。未熟な半人前。犬ころ風情。一番マシなのが月の加護を得た氷の女王とはな。太陽に月が勝てるとでも思っておるのか?
あんた、誰のせいでイヴが!
太陽神と敵対しその加護を失った今、イェルダーヴは無力なただの女に過ぎない。それどころか服従の首輪によって自由を封じられ続けたために、できることは童女の頃と変わりないのだ。
誰のせい、だと?笑わせるな
激高するザナを、ウセルマートは嘲笑う。
お前がその軽い尻を振って、余を迎え入れたからではないか。余に拒まれれば今度は魔王に股を開いて助けを乞うなど、まこと呆れた淫売よ
ザナは怒鳴りも叫びもしなかった。代わりに彼女の手のひらから鋭い氷の槍がほとばしり、瞬き一つの半分の時間でウセルマートの心臓を貫く。
見よ
だが。その一撃は、ウセルマートの豊かな胸に届くより先に、放たれる熱波によって溶け消えてしまっていた。
余にすら歯が立たぬこの女が、一体何の役に立つ?
ギリ、と噛み締めたザナの唇から、血が滴る。ザナとウセルマートの術には絶対的な相性差、そしてそれ以上の出力差があった。どれだけ早く氷を繰り出しても、ウセルマートの纏う熱の鎧を彼女の氷は貫けない。ザナがウセルマートに攻撃を当てるためには、以前やったように完全に油断している隙を突くしかないのだ。
そして一度それを行った以上、もうそれが成功することはないだろう。ザナの目の前でウセルマートが油断することはない。
お前もだ、魔王。運もあったとはいえ余を下した智謀智略。余を蘇らせたその技術。見るべきところはないとは言わぬ。だが余の伴をするにはあまりに貧弱。お前の配下をよこせ。あの空を斬る赤毛の女や、獣を繰る女であれば多少の役にも立とう
ほう、とOlは内心声を上げる。ウセルマートは他人を歯牙にもかけないように見えて、存外Olの配下のことを見ていると思ったからだ。確かに、純粋な実力で言うなら連れて行くのはその二人だろう。
ユニスにミオか。無論奴らにも協力はしてもらう。だが、俺より部下の扱いが下手な奴に任せるわけにはいかんな
どんなことでも負けるのは気に食わないのか、ウセルマートは柳眉を釣り上げる。
俺ならば、この四人を従えお前を倒すこともできる
──ほう
しかしその表情は続くOlの言葉に、値踏みをするような笑みへと変わった。
大きく出たな。この半端ものどもで、余を倒すだと?
容易いことだ。何なら試してみるか?
──かかった。そう内心で笑いつつ、彼は答える。
良かろう。しかしよもや、この神帝たる余を試すなどという愚挙ただで済ますとは思ってはいまいな?
言ってみろ
余が勝ったときには、この女どもは余のものとする。もちろん、余の身体も男に戻せ
ば
馬鹿じゃないの、とザナは叫ぼうとする。そんな勝負を受けるメリットが全く無いからだ。
いいだろう
マスター!?
しかしあっさりと頷くOlに、彼女は驚愕した。彼が思っている以上に、ウセルマートの防御は鉄壁だ。たとえ四人がかりだろうと、勝てるとは思えなかった。
負けた時はどうするの?
それまで無言だったマリーが、不意に尋ねる。
は。余が負けることなどありえぬ
その問いをウセルマートは鼻で笑った。
いや普通に負けたじゃん
ぐっあれは例外だ。二度はない!
しかし鋭いマリーのツッコミに、狼狽えながらも言い放つ。
ないんだったらどんな条件だっていいよね
吐き捨てるようなウセルマートの言葉に、マリーはにんまりと笑う。
これが狙いだったのだろうか?と、ザナは思う。けれどそれはあまりに無意味に思えた。ウセルマートに言うことを聞かせるのであれば、そもそもその身体をもとに戻す約束を盾に取ればいいのだ。
ただの口約束なら、ウセルマートはそれを守る気などない。だが自分が勝ったとなれば平気でそれを守らせようとするだろう。相手と同様、そんな約束など守る理由がないと拒否する事もできるがそうなれば、ウセルマートは協力しなくなるだろう。
悔しいが、砂の王の実力は本物だ。太陽神と戦うのであれば必要だというマリナの判断はおそらく間違っていない。だが、この勝負にはあまりにも益がなく、失うものばかり多いように、ザナには思えて仕方がないのであった。
第19話高慢なる砂漠の王の鼻をへし折り絶望の淵に落としましょう-3
四対八つの乳房が、Olをぐるりと取り囲むように並ぶ。
ザナ、イェルダーヴ、ホスセリ、マリーの四人は、上着をはだけ胸を露出するようOlに命じられ、言われるがままに乳房をさらけ出していた。
無論、別に淫らな欲望からそうさせたというわけではない。胸元に特殊な顔料で塗り込めるのは、術の媒介となる魔法陣。ウセルマートとの勝負に向けての下拵えだ。
その光景に人知れず、ザナは苦悶の声を漏らす。
たわわに実ったイェルダーヴの双丘はもとより、Olの手のひらにちょうど収まる程度のホスセリの乳房、そしてもっとも年若いマリーの青い果実ですら、ザナの薄い胸より明らかに大きかった。
遅いぞ魔王、早くせぬか!
それどころか部屋の外から怒鳴り声を上げる元男にすら負けているのだ。
どうした。緊張しておるのか
あ、ええそうね。どうしてあんな条件で受けたの?
気づけば己の顔を覗き込んでいるOlに、ザナは慌ててそう問う。
簡単な話だ。お前たちは負けん。それに
Olはザナの胸元に呪印を描きながら答えた。
奴の鼻っ柱をへし折ってやりたいだろう?
ええ!
ニヤリと笑うOlに、ザナも笑みを返す。