すぐさま彼は執務机に座って、計算を始めた。
こちら側とあちら側、どちらが早い?いや、言うまでもない、双方からだ。となれば綿密な計算が必要になる地図をしかし海の上でどうやって
ぶつぶつと呟きながら羊皮紙に複雑な計算を書き連ねるOlは、ふと己をじっと見るタツキに視線を向けた。
タツキ。お前は、海の神だよな
うん。そうだよ
であれば海の形を、正確に描けるか?
こんな感じ?
くるくるとタツキが空中に指を走らせると、海水が意思を持っているかのように鎌首をもたげ、宙に絵を描く。それは二つの大陸や島々を空白にした、克明な海図であった。
素晴らしい!
Olは思わず立ち上がって、濡れるのも構わずタツキをぎゅっと抱き寄せる。
やんっ、おうる、たつきの事たべちゃうの?
悪いがそれは後回しだ。これから忙しくなる。悪いがお前にも協力してもらうぞ
Olの言葉に、タツキは不満げに唇を突き出す。
無論ただでとは言わん。美味い飯を存分に食わせてやる
やるぅ!
だが続く言葉に、一も二もなく同意した。
ではゆくぞ、マリー
うん。Olさま
Olとマリーは二人で一振りのつるはしを握ると、それを壁に振り下ろした。その一撃で、鈍い音を立てて壁に小さな穴が空く。かと思えば次の瞬間、壁は溶けるように消えて、掘り抜かれた岩壁は石造りのレンガに包まれた。
パパ、ママぁっ!
そしてほとんど間を置かずに、ソフィアがOlとマリーの腕の中に飛び込んできた。
久しいな、ソフィアよ
元気だった?
Olとマリーは愛娘の柔らかな身体を抱き返す。
着工から、僅かに数ヶ月。
二つの大陸を結ぶ長大な海底トンネルが、開通した瞬間であった。そしてそれは同時に、二つのダンジョンが一続きとなった瞬間でもある。
驚異的な工期の短さはソフィアのダンジョンの神としての権能もさることながら、タツキのもたらした海底の詳細な地図とOlの計算、魔王軍の誇る工作部隊、事故や失敗を防ぐテナの予知にマリナの最善手の権能など、ありとあらゆる手段を尽くしての結果であった。
じゃあ、連れて行くね!
ソフィアがそういった次の瞬間には、Ol達はもう見覚えのある部屋へと移動していた。火山のダンジョンに作った、Olの寝室だ。
己の領域の中でなら全能の力を揮えるソフィアの権能を持ってすれば、ダンジョン内ならどこへでも一瞬で移動できる。つまり、船で一ヶ月かかる距離を、これからは一瞬で超えられるということだ。
三つ指をついて、サクヤがOlを出迎える。
ずっとお待ちしておりました
泣くでない
頬を濡らすサクヤを、Olは言葉少なに抱き寄せる。
いいえ。これは嬉し涙です
その胸に顔を埋めるようにしながら、サクヤはそう囁いた。
えっと、盛り上がってるところ水をさすようで悪いんだけどさ
抱き合う二人の横から、気まずそうにザナが声をかける。
同じことをうちにも何とか出来ないかって
そう言って、彼女が指差したのは居城である氷の城ではなく、真上。
──マリナ様が
遥か彼方、月の上であった。
Olは妻達を抱き寄せて。
次は月にも届くダンジョンを、作ってみせようではないか
笑いながら、そう宣言した。
んっふぁああっ
純白の城の中に、艶めかしい声が響く。
もうお兄様ったら
咎めるようでいて、どこまでも男を許す甘い声。
そんなに胸に吸い付いても、まだミルクは出ませんよ?
そして同時にどこまでも甘え、媚びる女の声であった。
ほう。まだということは、神というのは人の子を孕むものなのか?
その白い居城の主──月の女神マリナを膝に乗せ、寝台に座るのは琥珀色の髪を持つ中背の男。魔王Olであった。
対面座位の形でマリナを貫きながら、右手で彼女の左胸を弄びつつ、ピンと尖った右胸の先端を唇でついばみ、舌先で転がす。
ぁん稀にですけど、そういったこともあるみたいです。神といってもんっ生き物であることに、代わりはありませんからや、ぁん、そんな、甘噛みしちゃあっ
最近のマリナの口調は神としての威厳に溢れた厳かなものではなく、まるで本当の兄に甘えているかのような、砕けた気安いものへと変化していた。
なるほど。では、しっかりと種を仕込んでやろう
もうっそんなこと言って、容赦なく中出しするのはいつものことじゃないですかああんっ!
口を封じるように一際強く突かれ、マリナは高く声を上げる。
嫌だったか?
別に、嫌というわけではありませんけどもう
マリナは唇を尖らせ、Olの顔を恨めしげに見やる。
本当に孕んだら、こうして睦み合うこともできなくなっちゃうじゃないですか
その可愛らしい物言いに、Olは思わず笑みを漏らした。
あっ、わ、笑わないでください!これでも、お兄様との逢瀬を、わたしはそれはもう楽しみにしてるんですからね?
わかっているとも
Olはマリナの背に腕を回し、その全身を抱えるようにして抽送を始める。
あっそんな、深いっ!
だが、だからこそ、子でもいればお前の心も慰められるのではないかと思ってな
月の上にはなにもない。真っ白な砂漠だけが続く、不毛の大地だ。マリナはその上からザナたち氷の民を見守ることによってのみ己を慰めてきたが、そんな生活が寂しくないはずもない。
わたしとお兄様の、子
呟き、マリナはその光景を想像する。その幸せな未来図に、彼女の膣口はきゅうとOlを締め付けた。
お前の身体は乗り気のようだな
お兄様ぁっ!あっ、あぁっ!
身体の奥底から湧き上がってくる快楽と喜びを堪えるように、マリナは両手両足をOlの背に回してしがみつく。しびれそうなほどに子宮が疼き、自分がOlの子種をどうしようもないほど欲していることを、マリナは自覚してしまった。
はいっ!孕ませて、妊娠させてくださいっ!お兄様との子、産みたいですっ!
なら、産ませてやる。俺たちの子がこの白い大地に満ち、ここに楽園を作り上げるまで何度もだ!
~~~~~~っ!
ずん、と奥を貫く一撃とともにそう宣言され、マリナは盛大に気をやった。だと言うのに、Olはお構いなしにマリナの身体を揺らし、膣奥を蹂躙する。
あぁぁっ!お兄様ぁっ!だめぇっ!わた、し、イッ、て、あぁんっ!
パンパンと濡れた肉のぶつかり合う音を響かせ、マリナの白い尻を持ち上げながら、赤黒い暴力的な肉塊を何度も彼女の華奢な股の間に出し入れする。その度にじゅぷじゅぷと音を立てて吹き出す愛液は白くにごり、泡立っていた。
やぁっ、だめぇっ!あ、あ、あ、あぁっ!も、もうっ!ゆる、許し、あぁんっ!お兄、様ぁっ!こんなの、おかしく、なっちゃうぅっ!
間断なく絶頂させられ、悲鳴のようにマリナは懇願する。
どうして欲しいか言ってみろ
中に、膣内に出してくださいっ!お兄様のぉっ!子種ぇっ!精液、ください、あぁっ!犯して、中に出して、孕ませて!おなかっ!わたしの、おなか、おっきくしてっ!赤ちゃん、作ってくださいっ!
マリナの両脚がOlの腰をぎゅっと締め付け、秘部がぐりぐりと押し付けられる。言葉だけでなく全身を持ってOlに種付けをねだるマリナに、Olの限界も訪れた。
ではイくぞ!しっかり孕めよ!
はいっ!ちゃんと、妊娠しますっ!お兄様の、赤ちゃんっ!ちゃんと、孕むからぁっ!
腹の中でOlの男根が一際大きく膨れ上がるのを感じ、マリナはぶるりと身体を震わせる。一瞬の後、その先端から白濁の液が吹き出して、膣内を犯していくさますらはっきり見えるかのような質感。
それを感じながら、マリナは自分がほとんど無意識に膣口をキツく締め付け、Olのペニスを絞り上げるかのように腰を上下させていることに気がついた。
マリナ。それは
程なくしてOlもそれに気づく。その動きは、マリナの権能によって齎されたものであった。すなわち、最善手。目的に辿り着くために最も優れた手段を講じる力。
つまり今マリナは──神としての力を使ってまで、全身全霊で孕もうとしている。
膣口で浅ましくちゅうちゅうと精液を啜りながら、マリナは顔から火が出そうなほどに赤面した。
では、またな
はい。いってらっしゃいませ、お兄様
マリナの居城から少し離れた場所。月面に穿たれた巨大な井戸の前で、マリナとOlはそう言葉を交わした。
こうしてOlがマリナに会いにこれるのは一月に一度。満月の晩だけだ。それ以外では塞の神の力を持ってしても、大地から遠く離れたこの地に辿り着くことはできない。
ここで引き止め、夜を明かしてしまえばと、マリナはいつも思わずにはいられない。たった数刻Olの足を止めれば、少なくとも次の満月までは共にいることが出来る。
しかし、それは許されることではなかった。ただでさえ広大な国を治め、無数の寵姫を有する魔王であるOlが、忙しい合間を縫って丸一晩、マリナのために時間を割いてくれているのだ。それ以上を望めば、Ol自身はともかくとして、彼の愛妻たちが黙っていないだろう。
この度の結果は、その時にはわかるでしょうか
下腹を擦りながら、マリナは微笑む。そして言ってしまってから、まるで試すような真似をしてしまったな、と反省した。
何。できていなければ、できるまで試すだけの話だ
だが事も無げにそう答えるOlに、マリナは思わず彼の首に抱きついて口づける。
マリナ。あまり誘惑するな。名残惜しくなる
ごめんなさい
あながち社交辞令でもなさそうなOlの言葉に、マリナは渋々身体を引いて彼から離れた。
それではまた、一月後
ええ。また月の満ちるときに
小さく手を振るマリナに目配せをして、Olは井戸へと降りる。
──それが。
魔王Olがこの世界でかわした、最後の言葉となった。
第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-1
いない。いない。いないいいないいない!
タンスを開け開き、ベッドの下を覗き込み、ゴミ箱をひっくり返し。
一体どこに行っちゃったのよ!?
薄っすらと涙さえ浮かべつつ、半狂乱で彼女──魔王Olの第一の配下であり、最も信を置かれた右腕であり、最愛の妻の一人でもある淫魔リルは、叫んだ。
そんなところにいるはずがないでしょう
いつになく苛立ちを滲ませた口調で言いながら、各地に使わせた分体達の視界を探るのはOlの一番弟子にして半人半スライムの魔女、スピナ。
ねえ、ソフィア。本当にダンジョンの中にはいないんだよね?
うん三回も全体走査をかけたけど、どこにも見当たらないよ
不安げに眉を寄せて問うのはダンジョンで育った少女、マリー。そしてダンジョンを司る神、ソフィアがそれに答える。
月からは帰ってきてるんだよね?
ただ一人、いつもとそう変わりない落ち着いた態度で問うのは、英雄のユニス。
そのはず例の地上に繋がった井戸に降りたところまでは見送ったって。マリナ様もパニックに陥ってるから、隠しているとかは無いと思う
難しい表情をしながらも、マリナを信仰する氷の女王、ザナはそう答えた。
ねえ!マリナの最善手の力とかいうので、探せないの!?
マリナの能力は、強力であるがゆえにそう気軽に目的を設定できるものではない、とは聞いていた。だがマリナ自身が狼狽えるような状況であれば、話は別なのではないか。
やってるわよ!やってるけどないの!あいつに、繋がる糸が!
一縷の望みを託してリルが問えば、ザナは堪えきれずに怒鳴り声をあげた。マリナの能力は目的を達成するための最善の手を導き出すものであって、何でも出来る万能の能力ではない。
その目的を達成する方法が一切ない場合、何もできない。
嘘、でしょ
その意味を悟って、リルはぺたんと地面にへたり込んだ。
あたし──
ぽつりと、ユニスは決意を秘めた声色で、呟くように宣言する。
あたしの能力なら
やめなさい
だがそれを、スピナが止めた。
なんで?あたしの能力なら、Olがどこにいようとそこに行ける!
ユニスの英霊としての名は跳ね駒。その権能は自由自在の転移である。ことに、その能力の根本をなすOlがいる場所へは、ユニス自身が場所を把握していなくとも転移することが出来るという、規格外の性能を持つ。
それで安全に戻ってこられるのであれば、ザナの啓示にそう出ているでしょう
だがしかし、欠点もあった。転移する前に、転移先の状況を知ることが出来ないのだ。
お師匠様は、何らかの原因で未曾有の事態に巻き込まれています。おそらくこの世界にはいない。魔界か、もっと別の場所か。いずれにせよ、月の女神の力の及ばぬ地に。であるならば、ユニス。あなたの能力も通じない可能性が高い