今回はそれを全部で十万個分持ってきた
そのうち最も小さいものをつまみあげるルヴェに、Olはそう答える。
えー、どう見たって十万個もないじゃない。せいぜい数百個ってとこでしょ?
ルヴェの言葉に、レイユの脳裏に稲妻が走った。相変わらずこの孫娘は、鋭いくせに抜けている。頭でっかちで考えすぎる癖のある妹と足して分ければいいのに、とレイユは常日頃から思っていた。
コレを、一体どうするってんだい
うむ。その袋の中身はひとまずくれてやるとして、今後お前にはそれとドロップ品を交換する権利をやる
慎重に問うレイユに、Olはとんでもないことを言い出した。
何いってるの、おじさん?こんな何の役にも立ちそうにないがらくたとスキルを交換なんてするわけないじゃん
そう、確かにそれは何の役にも立たないだろう。武器にもならなければ家具にもならない。食べられもしない。だが。
これはアンタんとこのフォリオって翼族だね
そのうちの一つを摘まみ上げ、レイユは呟く。問いかけのようだが、返答は求めていない。とっくに調べはついている事だ。
で、こっちはブラン。そしてこれがアンタが担ぎ上げようとしている前魔王の娘、フローロ
よく調べ上げているな
Olの世辞に、レイユは盛大に舌打ちして見せる。こんなものをレイユの元に持ち込む以上、Olの方がレイユの事をしっかり調べてきていることは明白だったからだ。
つまりこれは、ブランがフォリオ100枚分。フローロは更にその100枚分ってトコかい
察しがいいな、その通りだ。単位はまあフローロにちなんでフルとでも呼ぼうか
テーブルの上のそれをじゃらりともてあそび、Olは告げる。あらゆるものがモンスターから産出されるこの世界に、それまで存在していなかった新しい概念を。
これの名前を、貨幣という。俺の世界で最も強い力を持つ道具だ
理解できずに互いの顔を見合わせる姉妹をよそに、レイユはその価値を完全に理解していた。いや、正確には価値という概念そのものであることを。
つまりこれはあらゆるスキルやアイテムの価値を数字にするための道具だね?
流石だな。その通りだ
今まで、あらゆるアイテムやスキルは物々交換で取引されていた。自分の欲しいスキルやアイテムを、欲しがっている者と交換する。だが、自分が欲している物と、相手が欲している物が運良く合致することなどそうそうあるわけではない。
そこに目を付けたのが、レイユだった。不要なものはがらくた以外どんなものでも引き取る。そしてあらゆる品物の目録を作り、落とすモンスターの強さや希少性、有用さなどから釣り合うスキルやアイテムを提示する。
そうすることによってレイユは己の領地以外からもドロップ品を集め、中継し、かすめ取ることによって少ない戦力でもその勢力を維持してきていた。
だがこの小さな金属片が、そのレイユの仕事を全て奪ってしまう。レイユが今まで豊富な経験と勘で行ってきた取引が、誰にでも簡単にできるようになってしまう。
もう一度言おう。貨幣とドロップ品を交換する権利を、レイユ、お前にだけやる
今ならその利益を、独占することができる。これはそういう話だった。
つまりドロップ品を貨幣と交換するのは、アンタがやるって話なんだね
まあそうなるな
つまりこうだ。不要なドロップ品を手に入れた壁民は、まずOlの所にそれを持っていき、貨幣に交換してもらう。そして次に、その貨幣をレイユの所に持っていき、好きなドロップ品と交換することができる。
そしてレイユは必要なドロップ品を、Olから貨幣と交換で手に入れることができるのだ。レイユだけが、Olからドロップ品を譲り受けることができる。
しかもOlに払う値段より、壁民と交換する時の値段を高くすれば、レイユはその差分を丸々得することができるのだ。
いくつか決めることがあるね。まず、スキルの値は固定で、変えないこと。次に、在庫があるとき売り渋らないこと。そして、アタシが売るときの値段はこっちが勝手に決めさせてもらう事だ。どうだい?
ああ。それで構わん
なんだって?
あっさり承諾するOlに、かえってレイユは驚いた。条件を詰めていくことを前提に、まずはふっかけたのだ。あまりにもレイユに都合がよすぎる条件を、まさかそのまま飲むなどとは思ってもみなかった。
ああ、後は仕入れたスキルをこっちに提示する前に勝手に使うのも禁止させてもらうよ
もちろんだ
更に気づいた穴を埋めれば、それもOlは気にした様子もなく頷く。
取引の場はうちの者に見張らせるからね。誤魔化そうったってそうは
そもそも場所を分けるのは不便だろう。同じ場所で堂々と取引を行えばいい
Olの提案に、レイユは混乱した。あまりにOlに利益がないように思える。
悩むレイユを見て笑みを浮かべ、Olは懐からごとりと鉄の鎧を取り出した。
俺はこれを、いくらでも作れる
Olが鎧を撫でると、それは一瞬にしてざらりと貨幣の山へと姿を変えた。
なんだって!?
Olが貨幣をいくらでも作れるのであれば話は変わる。実質的に無限の富を所有しているようなものだ。レイユは得をするが、それ以上にOlが得をすることになる。
アタシがその話を飲まなければどうするつもりだい?
それは、レイユという大壁族が後ろ盾になるからこそ意味のある話だ。Olなどというどこの誰ともわからぬ人間が貨幣とやらを広めようとしても、乗る人間はいないだろう。レイユが協力しなければ彼の計画は簡単に頓挫する。
ハルトヴァンに持っていくまでの話だ
正気かい?アイツにその話が理解できるとでも?
中層でもっとも有力とされている三人の壁族。ユウェロイとレイユ、そして残る一人のハルトヴァンは極めて単純な男だ。脳味噌までもが筋肉で出来ていそうなあの男に、貨幣などという複雑な概念が理解できるとは思えなかった。
無論お前と組むよりは損はするだろうな。さりとてユウェロイに話を持っていくわけにもいかん
Olが自らの主であるユウェロイに頼まない理由は明白だ。彼は、ユウェロイを追い落とそうとしているのだ。そのパートナーを探し、レイユを選んだ。そういう事だろう。
商売というのは、本来互いが得をするべきものだ。俺も、お前も、そして貨幣を利用する壁民たちも得をする。故に裏切る必要はないし、破綻することはない。できれば俺はそれを、ハルトヴァンではなくユウェロイとでもなく、お前と築きたいと言っておるのだ
揺らぐことなく立ち上る煙に、レイユはカン、と煙管の灰を落とす。
全く、その手口で娘っ子どもも口説き落としたってのかい?やれやれ、こんな婆を口説いてどうしようってんだ
それは随分魅力的な口説き文句だった。もう五十程若かったら落ちていたかもしれない、などとは思うほどに。
アンタみたいなのが孫娘に近づくと知ってりゃ、もうちょっと警戒してたってのに
舌打ちして毒づくレイユに、手遅れですとルヴェとクゥシェがOlの腕にそれぞれ抱き着く。
で、ドロップ品を集める具体的な方策は考えてんだろうね
貨幣を広めるのならば始めが肝心だ。広がりだせば勝手に動くだろうが、まず壁民たちにそれを周知し使ってもらわねばならない。それは言うほど簡単なことではないはずだ、とレイユは読む。
うむ。それを広めるために、お前の領地に作ってもらいたいものがある
何を作るってんだい
また妙なことを言い出すんだろうね、と内心呟くレイユの心情を知ってか知らずか、Olは答えた。
冒険者ギルドだ
第12話冒険者ギルドを作りましょう-2
ネリスさん!見てください!
得意満面の顔でシェロが持ち込んだのは、毛皮の服だった。中層の強敵として知られ、中堅パーティでも出会えば逃げることを推奨される大猿のドロップ品だ。
シェロ様、大猿に勝ったんですの?素晴らしいですわ!これで名実ともに上級冒険者ですわね!
ネリスと呼ばれた女はカウンターに置かれたそれを確認すると、大仰に喜んでパチパチと手を叩いた。シェロは照れくさそうに、しかし誇らしげに鼻をこする。
では査定をいたしますので、他のドロップ品も出して頂けますか?
あ、いえ、今回はこれだけであと査定もいらないです!これネリスさんに差し上げます!
シェロの申し出に、ネリスは口元に手を当てまあと目を見開く。そして申し訳なさそうに微笑みながら謝罪した。
お気持ちは嬉しいのですが、規定で受付は冒険者の方からの贈り物は受け取ってはいけないことになっておりますの
そんなじゃあ、冒険者から受付じゃなく、俺個人からネリスさんに贈るという事では?
なおも食い下がるシェロに、ネリスは首を横に振る。
わたくしがオーナーに怒られてしまいますの。どうか聞き分けてくださいまし
あああのちょっと顔の怖いオーナーさんか
オーナーの顔を思い出し、シェロは少し怯む。確かに彼に怒られるのは恐ろしそうだ、と考えるシェロの手を取ると、ネリスは両手でぎゅっと握りしめた。
シェロ様のお気持ちは、しっかり受け取っておりますわ。それは、規定では禁じられておりませんもの
ネ、ネリスさん!
カウンターの上にぐっと身を乗り出し、ネリスに顔を近づけるシェロ。
その動きを、ゴホンと立てられた咳払いが遮った。
あら、オーナー
すまんが少々用事があってな。ネリスを借りて構わんな?
怖い顔と呼ばれたばかりの鋭い眼光がシェロを捉える。巨大な猿と戦い勝利した彼でさえ、思わず腰が引けてしまうほどの雰囲気がオーナーと呼ばれた男にはあった。
あ、も、もちろんじゃあネリスさん、また来ますね!
はい。お待ちしておりますわ
ニッコリと笑うネリスに手を振って、シェロは逃げるようにギルドを出ていった。
では、休憩に入りますわ
そう言って手を振りオーナーと共に奥の部屋へと向かうネリスを、他の受付嬢たちは羨ましげに見送った。
ギルドの運営は順調なようだな
ええ。それと言うのもOl様が下さった変化のおかげですわ
ネリスは、スカートに深く入ったスリットからすらりとした脚を覗かせてみせる。
彼女は豊かな胸元と気品のある物腰、そしてそのスリットから覗く美しい脚で、ギルドでも特に人気の受付嬢であった。その上品な立ち居振る舞いや口調から、上層壁族の令嬢なのではという噂すらある。
随分とモテているようで何よりだ、ナギア
そしてその正体は、蛇の下半身を持つ美女、尾族のナギアだ。彼女はそれなりに派手に動いていた為、名も売れている。念の為に偽名を使い人族に化けて、冒険者ギルドの受付嬢をしていた。
壁族令嬢どころか最下層の魔族奴隷だと知ったらどんな顔をするかしら、とナギアは内心ほくそ笑む。
あらOl様、焼きもちですの?
幾多の愛人を抱え込むOlが嫉妬などするはずもないが、ナギアはそう言って彼をからかった。
悪いか?
だが、するはずも無いそれをしていると告げる彼に、ナギアは内心驚愕する。
では確認してみますか?わたくしが他の男のものを咥えこんでいるかどうか
そうさせてもらおうか
スカートをたくしあげ、下着が見えるかどうかギリギリの線まで脚を露出して見せれば、Olは素直にそれに乗ってきた。
え、えっと、それではどのような体位でなさいますか?
変化は解かないのか?
やや動揺しつつもナギアが問うと、Olは不思議そうにそう尋ねた。これからまぐわおうと言うのに、美しい人の脚より醜い蛇の下半身がいいと言うのだ。
もう!あなた様のような方がいて、浮気なんてする訳ないじゃありませんの!
ナギアは堪らなくなり、Olに抱きついて口付けた。変化を解いて、蛇の下半身でぐるぐる巻きにして一生自分だけのものにしてしまいたい気分だった。
ですが今日は、この姿で愛していただけませんか?
構わん。元が美しいものは変化してもその美しさは変わらぬからな
蛇の身体では取れる体位が著しく制限される。色んな形で抱かれたいナギアの提案に、Olはまたしれっとそんなことを言う。
もう!もう!本当にそういうところですわよ!
ナギアは枕をOlの胸板に叩きつけると、休憩室に設えられたベッドの上に四つん這いになった。
今日は後ろからお願いいたします
なるほど、これは蛇の身体では出来ぬ事だな
Olは敢えてナギアの服を脱がさず、スカートの中に手を入れ下着をずらして中に指を差し入れる。
もう準備などとっくに出来てますから、Ol様のお情けを早くくださいまし