ぴぃぃ、無理だよぉぉっ!

か細い声で泣きながら、ユグは苦し紛れの蹴りを放つ。

うおおおっ!!

ハルトヴァンはそれを容易くかわし、もう片足に全力でタックルした。流石に不安定な状態でハルトヴァンの体重の突進を支えきれず、ユグはその場に尻もちをつく。これを好機と見たハルトヴァンは、その胸元に向けて突きを見舞った。

だめぇっ!

だが初めてその攻撃がユグに受け止められる。胸元にしまわれたシィルも同様に魔力の運用は教えられているが、体格が体格だ。ユグ程の頑丈さは存在しない。ハルトヴァンの攻撃を受ければ致命傷になりかねず、ユグは必死でハルトヴァンの連撃を防御した。

やめ、てぇっ!

そしてその腕をがしりと掴むと、力に任せて放り投げる。ハルトヴァンの巨体が宙を舞い、高くなった天井を掠めて観客席に落下した。

ああれ?

その時初めて、ユグは頭上を見上げる。それは、彼女が初めて目にする遠い天井だった。いつも走ろうとすればすぐに角が引っかかり、頭をぶつけていた天井が、そこにはない。

ひろ、い

頭では理解していた。だが、そこが自分にとっても広い場所だという事を広い場所にいるという事がどういう事であるのかを、ユグはその時やっと実感した。

くそっ、油断した大した馬鹿力だ、お嬢ちゃん

その一方でハルトヴァンはきっちりと受け身を取り、全身に巡らせた気で落下のダメージを軽減している。と言っても無傷とは言えないが、まだまだ十分戦える状態だった。

だがもう今の手は通用

えっと、確かこう?

ハルトヴァンの言葉を遮るように、ユグはぐるりと身体を回して蹴りを放つ。それは、最初にハルトヴァンが見せた回し蹴りだった。

うおおっ!?

しかしユグの体格で放てばそれは大斧の一撃のようなものだ。とても捌く余裕などなく、ハルトヴァンは必死にそれをかわす。

動ける!

ぱぁ、とユグの表情が明るく輝いた。縮こまっていた背筋が伸び、視界が開ける。思いっきり身体を動かしても、どこにも当たらない。

すごい!

ぐっと拳を引き、まっすぐに放つ。少しだけそれを下に下げれば、ハルトヴァンの巨体であれば十分顔面を狙う事ができる。

見えないけど、なんかすごい!がんばれユグちゃん!

シィルの声援を胸に受け、ユグは矢継ぎ早に攻撃を繰り出した。それは全て、ハルトヴァンが見せてくれた技だ。

無論、精度で言えばお粗末なものだ。ハルトヴァンが愚直に繰り返してきた鍛錬は、目にしただけですぐに追いつけるようなものではない。ないが──しかし、ユグの体格と魔力をもってすれば、それは十分に通用する凶器となった。

ぐぅっ!

横から迫る柱のようなローキックを、ハルトヴァンは腕と脚でブロックして防ぐ。みしりと骨に響くような衝撃が走って、何とかそれでも倒れるのを堪えつつ一歩踏み込み裂帛の気合とともに鳩尾目掛け一撃を放つ。

だがそれは、今ハルトヴァンがやって見せたのと同じような形で、大楯のように構えられた腕によって防がれた。ユグが攻勢に回ることで、ハルトヴァンが見せる防御の技までが盗まれている。

拳技のスキルを使えば無用な努力と笑われながら、繰り返し繰り返し身体に染み込ませてきた技の数々。だからこそ、ハルトヴァンはそんな簡単に真似ができるものではないという事も知っている。

だがユグは、Olによって魔力の運用を隅から隅まで教え込まれている。それはつまり、肉体の構造についても感覚で理解できるようになるまで叩き込まれたという事だ。魔力の経路と肉体は密接に関係している。魔力を動かせば、肉体が動く。どうすればハルトヴァンのしている動きができるのか、ユグは理解できる。

それ以上に、彼女はハルトヴァンの動きをよく見ていた。彼女は生来の怖がりだからだ。その巨体で、ほとんどの攻撃に大した痛みを感じないにも関わらず、攻撃を怖がってしまう。それはつまり、攻撃を誰よりもよく見ているという事だった。

その性質が掛け合わされて、ユグは急速にハルトヴァンの拳を学習していっている。

そしてそれが──ハルトヴァンにとって不思議なことに、全く不愉快ではなかった。

むしろ彼が感じたのは、喜びだ。己の拳にこれほどの可能性があることに。自分の技術を学び、これほど強くなる存在がいることに。

参った!

それを認めた時、ハルトヴァンは自然と膝を屈し、そう宣言していた。

ワシの負けだ。お嬢ちゃんいや、ユグ殿。あなたこそ、真の強者だ!

ハルトヴァンの言葉に、戦いを見守っていた者たちがざわめく。不正じゃないのか、と誰かが言い、そうに違いない、女がハルトヴァン様に勝つわけがない、という声が上がり始めた。

ワシに恥をかかせるな!今の戦いは正々堂々とした、男のいや、男も女もない。まことの、よき勝負であった!それにワシは敗北したのだ

だがそれを、ハルトヴァンはきっぱりと否定する。流石に彼にそう言われ、面と向かって否定できる者はいないらしく、領民たちは押し黙った。

約束通り我が領地はお譲りしよう。者ども、祝福しろ!我らが領の新しき領主、ユグ殿だ!

え、ええええっ!?領主ってどういうことですか!?

ハルトヴァンが拳を振り上げるとそれはそれで感銘を受けたのか、領民たちが同様に拳を振り上げて雄たけびを上げる。ただの戦闘訓練としか聞いていなかったユグは戸惑い目を白黒させた。

ああ、それは面倒だから断る

だがOlはあっさりとその権利を投げ捨てた。

一日に二度も同じことを言いたくはないが仕事とは、最も適しているものが行うべきだ。この娘に領主が向いていると思うか?

Olが視線を向けると、ユグはぶんぶんと激しく首を横に振った。

ハルトヴァン領はハルトヴァン。お前が治めてこそだ。ここにいる者たちは、お前が最強だから、負けないからついてきているわけじゃない。お前が真の男だからついてきているんだ。そうだろう!?

Olが声を張り上げると、観衆はその通りだ!ハルトヴァン様!とそれに応じた。実際はハルトヴァンが負けないからその勝ち馬に乗っているという打算的な者もいただろうが、こう言われれば否定はできない。

うおおお皆、ありがとう!次は負けぬよう、我が拳を一層鍛えることを誓おう!

ハルトヴァンが拳を振り上げると、歓声が闘技場を埋め尽くす。

ところで、そんな化け物を育ててどうする気だ?

それに手を振って応えながら、ハルトヴァンはOlに問うた。領地が目的でないなら、ユグを成長させることにあったことは明白だ。実地訓練というのは冗談でもなんでもなかったのだと、ハルトヴァンは見抜いていた。

ブランにぶつける

本物の化け物ではないか

スキルなしであれば、ハルトヴァンも負ける気はしない。だがありでならば、どのようなスキルを使ったとしてもブランに勝てる気はしなかった。身体能力、魔力、そして技巧、全てでハルトヴァンはブランに勝てないからだ。

だがまあユグ殿ならば勝てるかもしれんな

腕を組み、重々しく頷くハルトヴァン。身体能力と魔力で勝てないという点では、ユグも同じだ。あとはブランを上回るスキルさえ身に着けられれば勝機はあるかもしれない

そう考える彼に、Olは端的にそう答えた。

第14話孤独な少女を救いましょう-1

んっちゅっんむ

あんっオーナーさまぁもっとぉ

次はあたしの番ですよ!

シィルさんはもうたくさん指導してもらってるじゃないですか

冒険者ギルドの奥、指導室と呼ばれる部屋の巨大な寝台の上で、何人もの女体とOlが睦みあっていた。すべて元は底辺冒険者だった女魔族たちで、かわるがわる精をねだっては、Olの唇や胸板、指先やペニスを舐めしゃぶり、少しでも多く寵愛を貰おうと身体を擦り付ける。

何をしているっ!

そこに突然、扉が開け放たれ、乱入してくるものの姿があった。受付嬢たちの制止を振り切り全身甲冑と長大な槍を構えて突進してきた、ユウェロイの姿である。

Ol、貴様!壁民としての義務も果たさず、女を集めてみだらなことを!

義務は果たしているだろう。しっかり求められた分の上納はしているはずだ

今まさに突きかからんとするばかりのユウェロイを前に、反り立った男根を隠そうともせずOlは答える。

黙れ!冒険者だか何だか知らんが、私兵を集めてドロップ品を不当に貯め込んでいること、気づいていないとでも思ったか!?ノルマよりも集めたのならば、その分多く差し出すべきだろうが!

無茶苦茶なことを言う、とOlは思う。稼げば稼いだ分だけ搾り取る税などあってたまるものかと言いかけ、意外とそれが合理的な制度なのではないかと思い至った。とはいえすべての民の収入を把握するなどあまり現実的ではないし、試すにしても元の世界に戻ってからの話だ。

ふむ。ではどの程度の収入があればどの程度の上納が必要か具体的に記載したものを書面で用意してくれ。検討しよう

なんで私がそんなことをしなければならんのだ。お前がやれ

多少の理を認めて譲歩すれば、ユウェロイは即座にその仕事をOlに丸投げした。

わかった。では上納は今の量で問題ないとする。以上だ

ななふざけてるのか!

こっちの台詞だ、とOlは思う。確かにこんな上司に仕えていたら、フォリオも離反したくなるだろう、と同情した。

では何か?お前の利益を最大化し俺の利益を最小化する条件を俺が考え、上奏奉ればいいのか?

その通りだ。わかっているじゃないか

皮肉を口にすれば、あろうことかユウェロイはそれを理解することもなく頷いた。

わかったわかった。用意しておくからさっさと失せろ

どうせロクに裏を取ることもしないだろう。適当にそれらしい文書をでっちあげる事にして、Olはユウェロイを追い払う。

おい、その破廉恥な行為をまだ続けるつもりか?さっさと壁民としての義務を勤めに行かないか

だがユウェロイはその場を立ち去ることもなく、Olを非難した。

それこそ余計な世話だ。別に無駄に女遊びをしているわけではないのだ。俺自身が狩りに行くよりも、ここでこうして指導をする方が効率がいい

そうですよ!この指導のおかげでユグちゃんはすっごく強くなって、ハルトヴァンさんに勝ったんですから!

ユグの腰を抱き寄せるOlに、シィルが加勢する。

下層の奴隷がハルトヴァンに?確かに奴が負けたという噂はあったがしかし奴はまだ領主を続けているだろう

奴の統治方法を考えれば、領主はハルトヴァンのままにしておいて上納させた方が得だろうが。上をすげかえたら領民はほとんど逃げていくぞ

Olの言葉に、ユウェロイはふむと唸り考え込んだ。だが正確には、それは考え込むふりでしかない事をOlは見抜いている。

良いだろう。そこまで効果があるのなら、その指導とやら、私にもさせてやる

ユウェロイの本来の目的はそちらだ。そもそも、ここにやってきたこと自体が。

今私たちが指導してもらってるんですけど

冒険者たちは口々に不満を漏らすが、ユウェロイはだからどうした?とどこ吹く風だった。壁民どころか奴隷階級である彼女たちより、壁族である自分が優先されるべきだと何の疑問もなく考えているのだ。

仕方あるまい。この埋め合わせはまた今度、たっぷりとしてやるからな

Olとしても、獲物がかかったところで罠を外すわけにもいかない。一人一人丁寧に口づけ、埋め合わせを約束して納得させる。冒険者の娘たちは、しぶしぶといった様子で服を着こむと、恨みがましげにユウェロイを睨みつつ指導室を出て行った。

さあ、さっさと始めろ

構わんが、その前に承知してもらう必要がある

ベッドの上に大の字に横たわり居丈高に命じるユウェロイに、Olは釘をさす。

指導は性交を通して行う。お前にとって奇異に思えることも要求するかもしれないが、それらはすべて必要なことだ。いちいち異を唱えたり抵抗したりせず俺の言う事に従え

わかったからさっさと始めろ

承諾したな?

たとえどれほどそれがおざなりに、口先だけで結ばれたものであっても、魔術師にとって約束とは絶対的なものだ。

では、これを舐めろ

は!?ふ、ふざけるな、なぜ私がそんなことをぐぅっ!?

怒張を突き出し要求するOlにユウェロイは抗議し、その直後、全身を走る痛みにうめき声をあげた。

なんだ、これは!?

呪いだ。約定を違えれば痛みが襲う。俺もまた、お前に不要なことをなせば同じ痛みを味わうから安心しろ

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