このようにお前の身体に俺の魔力を精と共に仕込んだ。お前は悪魔だから、並みの魔術師の数倍は魔力を溜めておけるな。移動できる小型のダンジョンコアのようなものだ

ピクリ、とリルのこめかみが引きつるように動くのに、しかしOlは気付かない。

今後、ずっとダンジョンに篭っているわけにもいかん。が、俺の魔力だけではどうしようもないからな。しかし流石悪魔だな、許容量一杯まで魔力を溜めるのに一晩かかった。まあこれだけ溜めれば当分は大丈夫だろうが

ふざけるなあっ!!

Olの言葉を遮り、リルは叫ぶと拳を振り上げた。

あーもうこの馬鹿殴りたい!契約で危害加えられないから殴れないけど、すっごい殴りたい!

な、何故怒る!?

Olとしては必然性を説く事でフォローしたつもりだったのだが、その説明は火に油を注ぐものでしかなかった。ちょっと拗ねた、程度だったリルの感情は完全に怒りに燃えている。

男を誘惑し、情を交わすことが種としての存在意義と言ってもいい淫魔に対し、一方的に身体を蹂躙した挙句、ただ魔力タンクとして必要だったから、などと言い放ったのだ。リルにしてみれば存在自体を全否定されたに等しい。

煩い、このイ○ポやろー! あんたなんかゴブリンでも犯してなさいよ!このダンジョン馬鹿、若作り爺!

リルはひたすらに罵詈雑言をわめき散らした。契約で悪態は制限されていなかったからだ。

人間に対してこんなに怒りを抱くのも、悪魔として生まれて初めてのことだった。

第2話近隣の村を襲撃しましょう-2

と言うわけで、これからあの村を襲撃する。いい加減機嫌を直さないか?

Olにとっては数ヶ月ぶり、リルにとっては前回人間に召喚されたときから数えて数十年ぶりの、地上。遠くに見える小さな村を指差し、Olは相変わらずへそを曲げたままのリルにそういった。

別に機嫌悪くなんてない

明らかに機嫌の悪い声色で答えるリルに、Olは内心ため息をつく。

流石にOlも自分の行為ではなく発言が悪かったのだろうとは気付いていたが、だからといって機嫌を直すような気の利いた言葉は思い浮かばなかったし、盛りのついた若い男じゃあるまいし、小娘の機嫌を取るのも馬鹿馬鹿しいのであまり気にしないことにした。

見た目も言動も若い娘とは言え悪魔は悪魔だ。機嫌で仕事の質を左右されるようなことはあるまい。

では、改めて確認をしよう。俺はある程度魔術を修めてはいるが、その研究の大半はダンジョンコアに費やされたものだ。魔力の取り扱いについては世界でも有数である自負はあるが、戦闘経験は殆どないし荒事には向いていない。ただの村人に負けるようなことはなかろうが、ある程度の腕を持った剣士でも出てくれば少々辛い。つまり、お前だけが戦力という事だ。頼んだぞ

いいわ、皆殺しにしてやる!

凶悪な目つきをしながら唸るようにリルは答える。八つ当たりされる村人達に若干の同情をしつつ、Olは彼女を伴い、村への入り口へと向かう。

村の入り口には魔除け代わりの怪物の石像と、村娘らしき女がいた。

よし、じゃあまず一人目ってけふっ!

Olは早速襲い掛かろうとするリルの首根っこを掴み制止する。

なにすんのよ!と抗議するリルを無視し、村娘に伝える。

そこな娘よ。ここに長を連れて来い。邪悪なる魔術師、Olが貢物を要求しに来たとな。逆らえば死のみが待っていると知れ

はあ?

いきなりの尊大な物言いに、娘は怪訝な表情を浮かべる。

まるきり気の触れた人間を見るような目だ。

Olは短く呪文を唱えると、炎の球を掌に浮かべ、村を囲む柵に向けてはなった。

炸裂音が響き、粗末な木製の柵が粉々に飛び散る。そのまま別の柵に燃え移り、もうもうと黒い煙を吐き出した。

二度は言わぬ。村全てを灰塵に帰したくなければ急げ

Olが低い声で言うと、女は飛び上がるようにして村の奥に駆けて行く。

めんどくさいなー。問答無用で皆殺しにしちゃえばいいんじゃないの?

リルが不服そうに物騒なことを言う。

殺さない方が使えるからな。とは言え、逆らうなら容赦はせん。そしてこの村は、逆らうだろうな

何でそんな事わかるの?

まあ見ていろ

ニヤリと笑うOlに、リルはなにやら嫌な予感を覚える。

暫くして、村長と思しき壮年の男が杖をついてやってきた。

年齢は40過ぎ半ば。茶色い髪のガッシリとした体格の男だ。

お待たせしました、Ol様。何でも、貢物をご所望との話ですが

ああそうだ。こちらの要求を呑めばよし、呑まぬならばこの村には灰になってもらう事になる

それはそれは恐ろしい勿論、おさめさせて頂きます

村長は頭を深々と下げ、祈りを捧げるように杖を両手で掲げた。

鉄の剣で良ければなッ!

その杖が半ばから二つに分かたれ、中から現れた白刃が煌めいた。仕込み杖だ。

杖を引きぬくと同時に流れるように間合いを詰め、村長はOlの首を狙う。

完全に虚をついた、必殺の一撃。しかし、それをOlは難なくかわした。

チッ、かわしたか

リル、俺を守れ

契約に基づいた命により、リルはOlを庇うように前に出る。それとほぼ同時に、村長の背後にも民家の影からわらわらと武器を持った男達が出てくる。

ちょっと! どういう事よ!?

端からこちらに従う気などなかった、と言うことだ。とは言え、芝居が下手だな。お前の様な50にもならん男が杖をついて歩いては、折角の暗器がバレバレだろうが

前半はリルに、後半は村長に向けOlが言う。

ご忠言痛み入る。次からは気をつけるさアンタを殺した後でな!

村長が剣を振るい、リルに襲い掛かる。リルは爪を剣の様に長く伸ばし、それを辛うじて受け止めた。

Ol、こいつ強い! あたしじゃ敵わない、逃げよう!

駄目だ

何とか剣を爪でいなしながら、リルはOlにだけ聞こえる声で囁くが、返ってきたのは拒否の言葉だった。

今は何とか凌いでいるが、村長の背後から走ってくる男達が加勢に加わればリルでは防ぎきれない。そもそもサキュバスは戦闘向きの悪魔ではないのだ。

それでも中位程度の格はあるからちょっと剣をたしなんだ程度の敵なら相手できるが、この村長は明らかに手だれといっていい腕だ。

キィン、と澄んだ音が鳴り響き、リルの爪が半ばから両断される。

じゃあな、悪魔の嬢ちゃん。恨むなら馬鹿な主人を恨みな。すぐに同じところに向かわせてやるからよ

村長が剣を振りかぶる。

今だ、殺せ

そして、灰色の腕がその胸から生えた。

え?

リルが呆けたように声を出す。その場にいた誰もが状況を把握できず、呆然と動きを止めた。

生えたのではない。村の入り口に合った守護像が動き出し、村長の胸をその腕で貫いたのだ。

村長は声をあげる暇もなく絶命し、地に倒れる。

後は戦闘の訓練も積んでない有象無象だ。任せたぞ、リル、ガーゴイル

呆然とする人々を置いてOlはその場を立ち去る。

その後は、一方的な虐殺が始まった。

ねえ、いつの間にガーゴイルなんか置いたの?

数十分後。動く者のいなくなった村いや、村の跡地で、リルはOlに尋ねた。

石像を魔力で動かしたのかと思ったら、あれ本物のガーゴイルなのね。びっくりしたわ

ガーゴイルとは、ある意味で最も有名な悪魔の一種だ。翼を持った見るからに悪魔然とした醜悪な外見を持つ悪魔だが、最も特徴的なのは動いてないと石像と区別がつかない、と言うところにある。

その為、ガーゴイルを模した石像が多数作られ、盗賊への脅しや魔除けの像として扱われている。もし本物だったらどうしようと思うだけで、ある程度の抑止効果があるのだ。だがまさか、村長も自らの村を守っているはずの像に殺されるとは思っても見なかっただろう。

あれを置いたのは大体30年前だな

は?

思ってもみなかった答えに、リルは思わずあんぐりと口を開く。

この近辺に龍脈があることは50年も前には気付いていたから、足掛かりにする為に行商のフリをして売りつけた。なんと精巧なガーゴイル像なんだ!と喜んで買っていったよ。当然だ、本物なのだからな。そして、そのガーゴイルを通じて今の村長の実力や気風は知っていた。あいつは元冒険者で、昔はそこそこ名の知れた剣士だったそうだ。素直に従う訳がないから、殲滅し易いように集まってもらった訳だ

なるほどね本当、あんた嫌になるくらい周到で狡猾ね

誉め言葉と受け取っておこう

笑みを返しながら、Olは魔術の準備を終える。それは巨大な魔法陣だった。

村の中央に描かれた円形の陣の上に、村人達の死体が累々と積み上げられている。

さて、始めるか。この数は少々億劫だ。魔力を貰うぞ

言うや否や、強引にリルを抱き寄せ唇を奪う。リルは少し嫌そうにするが、抵抗はしない。

一応いっておくが、魔力を取り返すなら手を握るだけでもいいからな

あーそーですかー

どうでも良さそうに言葉を返すが、視線をこちらに寄越さないという事はまんざらでもなかったのだろう。

ようやく多少は機嫌が直ったか。面倒な事だと内心思うが、Olにとって意外な事に、それは思ったほど不快な事でもなかった。

Olは口付けが最も効率よく魔力を取り返せる、という説明はしないことにして、魔法陣に向き直り、居住まいを正すと、長い呪文の詠唱を始めたのだった。

第3話定期収入を手に入れましょう

さて、これで一応の戦力が整ったな

目の前に立つ老若男女を見、Olは頷く。年齢も性別もバラバラなその集団は、やはりバラバラに剣だの棒切れだの農具だの、武器になりそうなものを手にしている。

共通しているのは唯一つ、皆死体であることだけだ。

彼らはいわゆる動く死体(リビングデッド)であり、Olの魔力で仮初の命を吹き込まれた生ける屍である。

あなた、本当に他人を信用してないのね

周りを見渡し、リルは呟く。ガーゴイルは契約によってOlに完全服従を強いられている。命令されたことだけを忠実にこなし、命令されていない事はけして出来ない。中級以下の悪魔と契約する時には良くある種類の契約だ。

死体達はそもそも自我さえ存在しない。Olの魔力によって動いているだけの操り人形だ。

唯一自由意志を持っており、ある程度自分の意思で動けるリルも、やたらに細かい契約によって出来る事は限られている。

その徹底した対応に、過去に何かあったのだろうとリルは当たりをつけたが、それに対して詮索はしない。

Olの事を慮ったのではない。契約に過去を詮索しないという条項があったからだ。

では、次の村に行くか

リルの呟きが聞こえなかったのか、それとも聞こえたが無視しているのか。

Olは呟きに答えることなくそういった。

次? まだ村を襲うの?

この村にあった食料や金品はそれぞれもてるだけ死者達に持たせてある。それほど豊かな村ではないとは言え、冬が近いせいか膨大な量だ。リルは食事はできるものの必要ではないし、Ol一人なら十分すぎる量がある。

いいや、むしろここからが本番だ

ニヤリと笑みを見せるOlに、リルは額に手を当てる。まだ丸一日程度の付き合いだが、この笑みを見せる時のOlは大体ロクでもない事を考えている時だとわかってきたからだ。

ピシャアアアアッ!!

空間自体が破裂するかのような独特の轟音と共に、稲妻が地面を焦がす。

天気は雲一つない晴天。雷どころか雨さえ降りようのない状態で落ちた稲妻は、Olの魔術によるものである。

魔力を食う割には攻撃範囲も狭く、威力もそれほど高い訳ではない。生物を殺すには十分であるが、石や岩といった無生物には殆ど効果がないのだ。そんな使い勝手の悪い魔術であるが、相手をただ脅すのにはかなり有効な術だった。

突然の雷鳴に驚き、村人達が何事かと家から出てくる。そこで目の当たりにしたのは、真っ黒なローブに身を包んだ怪しい男と、申し訳程度の衣装に身を包んだ女、そして、血だらけの軍勢だった。

良く聞け。我が名は邪悪なる魔術師、Ol

さっきも思ったんだけど、邪悪なる魔術師って自分で自称するのはどうなの?

うるさい。こういうのはわかりやすい方がいいんだ

小声で突っ込みを入れるリルに、やはり小声で言い返す。

今日は貴様らに取引を持ちかけに来た

とりあえずOlは、すぐ目の前にいる一番年かさの男に向けて話を進める。

と、取引ですか?

先ほどの村に比べ、こちらの村はかなり及び腰だ。前の村の村長の様な手だれがいない事もあるが、Olの背後に控えるアンデッド達の存在も大きい。

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