Olは頷き、ニヤリと笑みを浮かべるとぽんとリルの両肩に手を置く。

では、まず簡単な練習から始めようか

この笑みはと、リルが気付いた頃には、もう遅かった。

うう、臭い

リルは壮大に顔をしかめながら、ごりごりと小刀を動かす。

ぐにゃりとした嫌な感触と、べとべととした血や脂が手を汚し、全身酷い有様になっている。

彼女は動くしかばねとなった元村人達から、肉を剥ぎ取る作業の真っ最中だ。

あまり骨を傷つけるなよ。肉はしっかりと取り除け、つけばつくだけ邪魔になるからな

こんなの燃やしちゃえばいいんじゃないの!?

駄目だ。燃やせば骨も脆くなって使い物にならん。良質なスケルトンを作りたければ、やはり手で肉を取り除くしかない

リルに課した勉強のその一は、スケルトンの作成だった。

リビングデッドは死体さえあれば簡単に作れるが、動きは鈍くあまり強くない。

幾らダンジョンを複雑な迷宮にしても、そこを守るのがこれでは何の意味もない。

肉を全て取り除き、骨に呪文をかけた動く骨であるスケルトンもそれほど強い訳ではないのだが、それでもリビングデッドよりはかなり動きが早い。

死体の筋肉は機能しない為、ついていてもただの重りにしかならないのだ。勿論、防具の役割はするのでリビングデッドに比べれば耐久性に若干の難はあるのだが、そもそもリビングデッド自体たいして耐久力があるわけではない。

人間並みの速度で動けるスケルトンの方が防衛に向いているのは明白だった。

肉を取り除いたら、骨に魔法陣を彫り、動くようにしろ。関節部分に魔力を流す様に掘るのだ。擬似知覚をつけるのを忘れるなよ、めくらのスケルトンを作っても仕方ないからな

死体の肉を綺麗に剥ぎ取って骨だけにし、魔法陣を彫り、次の死体に取り掛かる

死体は小さな村だったとは言え数百体はいる。

では、俺は別の仕事に取り掛かるからな。サボらず作業を続けておけよ

ちょっ、待っちょっとくらい手伝いなさいよこの馬鹿主人ーーーーーっ!

暗い洞窟に、リルの叫び声が響いた。

第4.5話ダンジョン解説

第4話終了時点でのダンジョン。

階層数:1階層

瘴気:1

悪名:1

貯蓄魔力:7(単位:万/日)

消費魔力:2(単位:万/日)

寝室LV1

村から強奪してきた家具で一応寝室としての体裁を整えた部屋。

セックスしても身体が痛くならない。

キッチンLV1

村から強奪してきた食器や調理器具で一応台所としての体裁を整えた部屋。

料理は主にOlが作る。

水洗トイレ

邪悪なる魔術師といえども食事をすれば出すものは出す。地下水脈を発見したので、それを利用して水洗トイレを作った。流れる、というか流れっぱなし。落ちると生命が危うい。

ガーゴイル

戦力:5消費魔力:0.1

石像のような姿をした悪魔。悪魔としては下級から中級程度に分類されるが並みの魔物よりはよほど強い。頑強な肉体と自由に宙を飛びまわる羽、鋭い爪で戦う。魔術は使えない。

動く死体(リビングデッド)

戦力:2

村人の死体に魔術をかけ、動かしているもの。10体程度単位でこの戦力。雑魚といっていい。

インプ

戦力:1消費魔力:0.01

悪魔の中でも下級中の下級。契約とか深く考えずに魔力で幾らでも従えられるのだけが強み。ごく簡単な魔術を使えるが、ぼんやり歩いている人間を転ばせる、とか馬を驚かせる、程度の悪戯レベルでしかないので、戦力には数えられない。

ダンジョンコア周辺にいくつか部屋が出来たが、まだ防衛設備は殆どない。リビングデッドは一部が入り口付近で見張りをしているものの、大半はリルが突貫作業でスケルトンに改造中である。

第5話愚かな侵入者を捕えましょう

オ~ウ~ル~

地獄の底から響くような声をあげ、よろよろとリルが姿を現す。

その身体は全身血塗れで、凄まじい異臭を放っていた。

どうした。仕事は終わったのか?

終わったわよっ! ああもう体中どろどろで気持ち悪いったら!

振り向きもせず問うOlに怒鳴り返すリル。すると、Olは意外そうにリルに視線を向けた。

もう終わったのか。思ったより早かったな

Olがリルにスケルトン作りを命じてから、既に三日が経っていた。

数百体はある死体の肉を削ぎ、骨に魔法陣を彫ってスケルトン化する作業だ。

途中で作ったスケルトンに手伝わせる事に気付いたとしても、一週間はかかるだろうとOlは見ていた。

なんかゴブリンが沢山迷い込んできたから、魅了して手伝わせたの。それよりこれ何とかしてよ

リルは血と脂でどろどろになった身体を示していった。

ゴブリンと言うのは、身長4,50cmほどの小さな鬼の一種だ。見かけは醜悪で力も弱いが、大勢で群れるし手先は器用なのでそういった手伝いには確かに最適だろう。

そちらも思ったより早いな。いいだろう、こっちについてこい

いつもみたいに魔力で吹き飛ばしてくれればいいんだけどって、何これ!?

ぶちぶち言いつつもOlの後をついていくリルは、眼前に広がった光景に目を見開いた。

10m四方ほどの大きな部屋の中央には大きな穴が掘られ、そこにはなみなみと水が満たされていたのだ。

地下水脈を見つけてな。ここに引いてみた。少し待ってろゴーレム! 岩を水の中に入れろ!

Olが命じると、部屋の片隅に鎮座していた石の像がゆっくりと立ち上がる。

ガーゴイルに似ているが、存在としてはむしろリビングデッドの方が近い。Olの魔力によって仮初の命を与えられた岩の人形、ゴーレムである。

ゴーレムは部屋の隅で盛大に焚かれていた炎の中に手を差し込むと、赤く焼けた大きな岩を取り出した。人間であれば重篤な火傷は免れ得ないところだが、岩で出来たゴーレムには何の影響もない。

そして、そのまま赤く焼けた岩を人工の泉の中に放り込む。じゅわっ! と音がして湯気を立てながら、岩は泉の底に沈んでいく。2,3放りこむと、泉の水はちょうど良い温度になった。

赤く焼けた岩はそうそう冷たくなる事はない。が、泉の水は少しずつ水源から流れて来る水と徐々に入れ替えられるので熱くなりすぎる事もない。ここ数日でOlが調整し作った自慢の湯殿だった。

お風呂作ってくれたんだ

胸の前で手を組み、リルは感激に目を輝かせた。Olは別にお前の為じゃないという言葉を飲み込む。実際、リルが仕事を終えるのはもっと後になるだろうと思っていたのだから、リルのためであろうハズが無いが、一々いう事でもない。

まあな。ゴーレム、新しい岩を焼いておけ。さて、では入るとするか。先に桶で身体を洗い流せよ

あれ? Olも入るの?

桶を受け取りながら、リルは尋ねる。

ああ。悪魔とは言え、三日も飲まず食わずで疲れただろう?

Olの意味する所を理解し、リルもにっこりと笑う。

じゃあお湯とお食事、頂きまーす

数分後、大きな部屋に嬌声が響き渡った。

はー気持ちいー

ゆったりと湯につかりながら、満足そうにリルは呟く。

彼女は汚れを湯で洗い流した後、Olからたっぷりと精を注がれ、今はのんびりと湯の温度を楽しんでいた。

そういえばゴブリンが来たと言っていたな。仕事を手伝わせた後はどうした?

湯に入ってリラックスしているのか、こちらもいつもよりほぐれた表情でOlが尋ねる。

そういえば、会った頃からどこかギラギラとした、張り詰めた表情だったな、とリルは思う。焦っているというわけではないだろうが、Olは意識していかめしい表情を作っていた気がする。

湯につかり、リラックスしているOlはどこにでもいる若者の様に見えた。

と言っても、中身は70を遥かに越える老人なのだが。

リル?

あ、うん、えっと、魅了が解けたらなんか入り口の方に巣みたいの作ってたからそのままにしといたよ

訝しげに名を呼ぶOlに、リルは慌てて答える。

そうか、ならばそれでいい今後も、このダンジョンが持つ瘴気や魔力に誘われて、妖魔や魔獣の類が迷い込んでくる事はあるだろうが、基本的に放置して構わん。コストのかからぬ外敵への供えになる

結構あることなの?

リルの問いにOlは頷く。

元々ゴブリンは、洞窟の様な暗い場所を好んで巣を作る。ゴブリン以外にも、妖魔には闇を好む者が多い。血が流れれば瘴気も溜まる。屋外と違って風や雨で散らんからな。瘴気が溜まれば、魔に属する者にとっては居心地のいい場所になる。そうすれば魔獣の類もよってくるし、高位の悪魔も呼び出せるようになる

あー言われてみれば、ちょっと身体が軽くなってるかも

死体を大量に切り刻んだからな。もっと瘴気が濃くなれば、怨霊の類も発生するし、死者が勝手に動き出す事すらある。これだけのダンジョンを用意してやれば、労せずともある程度の守衛は手に入るのだ

なるほどねえ

内心、リルは苦笑する。先ほどまで弛緩していたOlの表情はすっかり元に戻り、口元には僅かながら笑みが浮かんでいる。ダンジョンの仕組みを語る時の彼の表情はいつもこうだ。

更に

Olが言葉を続けようとしたその時。

聞き覚えのない、ジリリリリリ!というけたたましい音が鳴り響いた。

何これ!?

侵入者だな

Olの表情が、更に引き締められた。

侵入者ってどういう事!?

急いで身支度を整え、ダンジョンコアへと向かいながらリルはOlに問う。

恐らく、冒険者だろう。契約をした村のどれかから依頼され、俺を殺しに来たのだろうな。それが警報の罠に引っかかったんだ

迷宮の入り口には、Olの魔力で罠が張られていた。

スケルトンの配置は?

この前渡された地図に、骨のマークがあったからそこに平等に割り振っておいたけど

よし、上出来だ

ぽんぽん、とOlはリルの頭を軽く叩く。初めて受けるストレートな誉め言葉に、リルは思わず頬を赤くした。

今この迷宮にいる守衛は、ゴブリンとスケルトンの他には、ヘルハウンド4匹、ゴーレム2体、インプ382匹だ。インプは戦いの数に数えられんが、初級から中級の冒険者なら十分撃退できるはずだ

リルの様子は気にもせず、Olはダンジョンコアに辿りつくと魔力を取り出す。そして、コアに流れ込む魔力を通じて、ダンジョン全体に感覚を広げていく。そうする事で、Olはダンジョン全体の様子を手に取るように見る事が出来た。

中級の冒険者ってどのくらい?

この前の村長が、中級の中でも上位くらいだ

Olの言葉に、リルは少し青ざめる。中級一人で防戦一方、奇襲で何とか倒したのだ。中級が数人いたり、上級の相手だったらどうにもならない。

いた! スケルトンと戦闘中かしかし、これはなんだと!?

Olが珍しく焦りの色を滲ませる。彼の見ている光景が見えないリルは余計に不安に駆られた。

ど、どうしたの?

スケルトン10体が一撃だ。しかも、相手はたった一人。コイツは上級だな

ダンジョンコアから手を離し、Olは壁に立てかけてあった杖を手に取り、浴室のゴーレムを呼び寄せる。

恐らくヘルハウンドも相手にならんだろう。ここで相手をする事になる。相手は魔法剣士だ。ゴーレムとお前で抑えている間に、俺が魔術を叩き込む

わかった

神妙に、リルは頷く。リルは一刀の元に屠られるだろうが、どうせこっちの身体は仮初のものだ。死んでも魔界に戻るだけだから問題ない。

もし勝てたらさ、また呼んでよね。まだまだやる事は山積してるんでしょ?

勿論だ。来るぞ!

Olの声に応えるように、通路から一人の女が姿を現す。赤い髪をポニーテールにした、16,7の少女だ。とてもそんな凄腕には見えなかったが、纏う迫力は間違いなく彼女が相当の実力者であると語っていた。

君が、邪悪なる魔術師Ol?

ゴーレムとリルの奥に控えるOlに剣を向け、少女が問う。Olは答えず、呪文の詠唱を始めた。

沈黙は肯定、っと。いくよ!

小さく呟いた刹那、少女は凄まじい速度で駆けた。迎撃しようとリルが爪を長く伸ばし、ゴーレムが腕を振り上げる。が、少女の動きに対して、それはあまりに遅すぎた。少女は疾風の様にゴーレムとリルの間をすり抜け、一瞬にしてOlの前に迫る。

しまっ!

振り向いたリルがみたのは、少女の剣によって刎ねられ、宙を舞うOlの首だった。

首の切れ目から鮮血がほとばしり、首が地面に落ち、ごろごろと転がる。

一瞬遅れ、身体の方も地面へと倒れこんだ。

それと同時に、Olの魔力を失ったゴーレムが腕を振り上げた体勢のまま地面に倒れる。

君は人間じゃ、ないよね。羽生えてるし。ご主人サマの敵討ちとか考えるタイプ?

少女がリルに向き直り、油断なく剣を構える。リルは両手をあげて降伏の意を伝えた。

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