吼え、ナジャは床に剣を思いっきり突き刺した。直後、凄まじい衝撃が彼女を襲うが、大斧の一撃は床に刺さった剣を折ることはかなわず、ナジャの手前で止まる。凄まじい衝撃がナジャを襲い、剣を抑えた左腕に刃が食い込むが、戦闘不能に至るほどの傷ではない。

そこで、ミノタウロスの両脇に石の壁が立ち上った。ウィキアの魔術だ。本来防御に使うためのものだが、生半可な呪いでは動きを止められないミノタウロスの動きを強引に制限した。

ナジャ、続けッ!

好機と見て、アランがミノタウロスに向かって突っ込む。ミノタウロスは素早く大斧を手元に引き戻すと、アランに向かって思いっきり振り下ろした。

しかし、アランはそれを軽くかわす。両脇の石壁のおかげで大斧は振り回せず、振り下ろす事しかできない。それだけで、攻撃の避け易さは段違いになる。そして、アランが誘発した攻撃によって前傾姿勢となったミノタウロスの手首を蹴り、ナジャが跳んだ。

階段を駆け上がるようにしてその太い腕を駆け上り、両手で構えた剣を横薙ぎに振るう。狙い済ましたその一撃は、ミノタウロスの首に突き刺さった。

だが、オーガの胴体をも両断する鋭さを持って尚、ミノタウロスの太い首を刎ねるには至らない。剣は30cmほど食い込んだところで止まった。

くっ、しまった!

慌てて剣を引き抜こうとするが、それもかなわない。

危ないっ!

ナジャを衝撃が襲った。しかし、それはミノタウロスの攻撃ではない。彼女を突き飛ばした、アランの腕の柔らかな衝撃。そして、その後ミノタウロスの豪腕によって殴り飛ばされ、宙を舞うアランを目の当たりにした心の衝撃だった。

アランッ!?

普段冷静なウィキアが悲鳴を上げる。

だいじょうぶ、だ!

口から血を吹きながらも、アランはくぐもった声で答えた。

や、れ! とどめだShal、ウィキア、ナジャ!

アランが、指示する。三人の娘達は、彼の意図を一瞬で掴み取った。

ミノタウロスが腕を振るい、石の壁を殴りつける。魔力で作った仮初の壁はミノタウロスの腕力の前に耐え切れず、轟音を立てて崩れた。

ブオオオオオオオオッ!

傷をつけられ、怒りを露わにミノタウロスは突進する。狙いはナジャだ。

神よ、光を!

その瞬間、Shalが魔術で光を放つ。悪霊や夜の生き物達を討ち滅ぼす、神の光だ。ミノタウロスには毛の先ほどの傷をつけることも出来ないが、その目をくらませるのには十分だった。

強烈な光に一瞬視力を失い、よろけるミノタウロス。突進姿勢で低く下げたその首に向かって、ナジャは再び跳躍した。何も持たないその手に、アランが投げた剣が収まる。殆ど同時に、ウィキアの魔術がその剣に纏わりつき、光り輝いた。

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

渾身の力を込めて、ナジャはまっすぐ剣を振り下ろす。左側に刺さったナジャの剣と挟み込むようにして放たれたその一撃は、今度こそミノタウロスの首を両断した。巨体がぐらりと揺れ、ずんと音を立て床に沈む。

大丈夫か、アラン!

今、傷を治しますね

無茶を、しないで

勝利の感慨にふける間も無く、娘達はアランの下へと駆け寄る。早口でShalが回復魔術を唱え、アランの腹に手を当てる。

助かったよ、Shal

やがて傷が癒え、アランはShalの頭をなでた。嬉しそうに目を細める彼女の両脇で、ナジャとウィキアが不平を口にする。

とどめを刺したのは私なのに、私にはなしか?

私も色々活躍したと思うんだけど

わかってる、ナジャもウィキアもありがとな

二人を撫でてやると、ナジャはにこっと笑い、ウィキアは二人同時ってと形のいい唇を尖らせながらも頬を染めた。三人から好意を持たれているのには、アランは気付いている。が、その中から誰か一人を選ぶ事はずっと出来ないでいた。

初めてここまで来るものがいると思えば、これはとんだ色男だな

唐突に、地獄の底から響くかのような低い声が聞こえた。慌てて声の方に目を向けると、そこには琥珀色の髪の男が、ミノタウロスの死体に腰掛けるようにして座り、値踏みするかのようにアラン達に目を向けていた。

奇妙な仮面を身につけている為顔はわからないが、武器も防具も身につけていない普通の人間の男に見える。しかし、声をかけられるまで誰も気付かなかったその異常性に、アラン達は武器を構えた。

あなたはまさか。邪悪なる魔術師、Ol?

いかにも

ウィキアの問いに、Olは頷く。予期せぬ迷宮の主の登場に、アラン達に緊張が走った。

ふん、国中を騒がせている魔術師がこんな若い男だったとはな。それも護衛もつけずにノコノコと現れるとは、運がいい

ナジャが剣に手をかける。剣は剣士の命。アランに駆け寄る際にもしっかり回収していたのだ。そうでなければ危うく手詰まりになるところだった。

合図もなく、同時にナジャとアランは駆け出した。魔術師相手の戦いは速攻がセオリーだ。いかに強大な魔術を操ろうと、その肉体は脆弱で鈍い。魔術の一撃を受ける前に殺してしまえばいい。

アランは首、ナジャは胴。挟み込むように放たれた一撃は、しかし、Olの身体を傷つけることは出来なかった。

身の軽そうな男の剣士が陽動、女の剣士の一撃が本命。僧侶が不測の事態に備えて回復の準備をし、魔術師は後方から援護射撃か。一瞬でよくもまあこれだけ連携の取れた動きをしたものだ

目の前でぴたりと止まった二人の姿を観察し、しみじみとOlは言った。二人だけではない。後衛の二人も、口をパクパクと動かすが声が出ず、魔術も発動できない。

しかしそんなパーティでさえ、このような単純なトラップに引っかかるのだな。少しはおかしいと思わなかったのか?

その言葉にウィキアがはっとして指輪を外そうとするが、もちろん外れるような事はない。

呪われて、いたのだ。ウィキアの指輪もShalの杖も、アランとナジャの剣も、この迷宮で手に入れたものは全部。

素晴らしい力を持ちながら、迷宮の主にだけは逆らえない。そんな呪いが。

さて、剣士は動けず魔術師は魔術を使えない。そんな状態でコイツを相手にしてもらおうか

首を失ったミノタウロスの死体が、ゆっくりと起き上がった。

第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-2

目を覚ますと、ナジャは見覚えのない部屋にいた。

部屋の中には簡素なベッドと便所代わりの壷が置いてあるのみで、三方を壁に囲まれ、残りの一方は鉄格子。どう見ても牢獄だ。ナジャは頭を振り、ぼんやりする頭を叩き起こそうとした。しかし、思考には霞がかかったように考えが纏まらない。とにかく、彼女は何が自分の身に起こったのかを考えた。

だんだん、記憶が戻り、意識がハッキリしてくる。思い出したのは、動かない身体と、迫る首のない大男の腕。ああ、ミノタウロスだ、とナジャは嘆息した。動き出したミノタウロスの死体に動けぬ剣士がかなう訳もなく、アランたちはなす術なく捕らえられた。

殺されなかったのは幸いだが、あまり状況はいいとはいえない。武器も防具も奪われ、彼女が身に着けているのは粗末な服だけだ。ワンピースのような作りの服だが、少し丈が短く彼女の太ももは中ほどから露出していた。

武器そう考え、ナジャはほぞをかんだ。あんな呪いの剣に舞い上がり、長年使い込んだ愛剣は手放してしまった。愛剣を使ってさえいれば、Olを倒せたかもしれないのに。

しばらく自分の不覚を悔いると、彼女はすぐに思考を切り替えた。現実的な戦士の思考は、いつまでも過去を思い悩んだりしない。大事なのは現在、そして未来だ。

彼女の気がかりは、やはりアランだった。もちろんShalとウィキアの安否も気にかかるが、迷宮の主Olは支配下の村で若く美しい娘を集めているという。貞操の心配はあるが、こうしてナジャが生きている以上他の二人も無事だろう。少なくとも、しばらくの間は。

しかし、アランはそうはいかない。確かに女に見間違われるほど見目麗しい美青年だが、彼は男だ。実は女でした、などという落ちもない。Olが彼を生かしておく意味はあるのだろうか。

考えても仕方ない思考に彼女が頭を悩ませたとき、その答えは唐突にもたらされた。

さっさと歩け!

黒アールヴに槍を突きつけられながらナジャの牢の方に歩いてきたのは、見間違うはずもない。ナジャが想いを寄せるアランの姿だった。

アラン!

思わず鉄格子を掴んで近寄ると、黒アールヴの女がナジャに槍を向けた。

奥の壁に手をつけ。早くしろ!

ぎり、と奥歯をかみ締めつつも、ナジャは言われる通りに奥の壁に手をつき、目を閉じた。がちゃりと音がし、牢獄の扉が開けられる。その瞬間を狙って反転し、扉から飛び出そうとしたナジャの身体に覆いかぶさるようにアランの身体が牢の中に蹴り入れられる。

無駄な事はするな。貴様らにはまだ二人仲間がいる事を忘れるなよ

冷たく吐き捨て、黒アールヴは牢獄に鍵をかけ、去っていった。残り二人の無事もとりあえずは確認でき、安心してナジャはアランを抱きしめた。

アラン、良かった。無事だったか

ああナジャも元気そうで良かった

一体何があったんだ?

全員捕らえられたのはわかっているが、それにしてはアランとナジャだけが同じ牢に入れられるのもよくわからない。二人ずつ入れられているにしても、アランが後から牢に運ばれてきたのも意味がわからなかった。

呪いだよ

よろよろとした動作で、アランはベッドに腰掛けた。

魔封じの呪いをかけられた。魔術を使おうとすれば、全身に激痛が走ってとても行使できない。Shalとウィキアも同じだ。ナジャだけは、魔力を感じないからって先に牢に入れられたんだ

そうなのか

とりあえず、ナジャも座ったら?

アランはベッドの端によって、隣をぽんぽんと叩いた。

あ、ああ

ナジャはぎこちなく隣に座った。今の服装を思い出したのだ。薄く粗末な衣服はナジャの身体の線をはっきりと示し、しかも太ももは露出している。その上、下着を着けていないのが感覚でわかった。

しかし、呪いと言うのは厄介だな。魔封じの呪具とかなら、破壊できれば効果を消せるだろうが呪いとなるとな

Shalなら呪いを解く事も可能かもしれないが、彼女自身も魔封じの呪いを受けているならそれも期待できない。神の力を借りる僧侶の奇跡も、魔術の一種である事には変わりないからだ。

ナジャ

思い悩むナジャの名を呼ぶアラン。

こんな時に言うのもいや、こんな時だからこそ、言っておきたい

視線を向けると、彼はじっとナジャを見つめていた。

好きだ、ナジャ。君を、愛している

3秒。彼の言っている言葉の意味を解釈するのに、歴戦の戦士をしてそれだけの時間がかかった。きっかり三秒後、一瞬にしてナジャの顔は真っ赤に染まる。

え、な、えほ、本当に?

アランはこくりと頷いた。

でも、Shalとウィキアは

二人の事はもちろん大切に思ってる。けど、愛してるのはナジャ。君だけだ

そんなアラン。ありがとう、嬉しい

他の二人に対する罪悪感がナジャの心をよぎる。しかし、アランが選んだ事なのだ。仮に他の二人のどちらかが選ばれたとしても、ナジャはそれを受け入れ祝福しただろう。そう結論付けて、彼女は素直に彼の好意を受け入れた。

その、はしたない女と思わないで欲しいんだが

今しかない。そう思い、ナジャは率直に言った。

私をその、抱いて、くれないか?

いいのか?

目を見開くアランに、ナジャは頷く。

この後、Olに無理やりされる可能性もある。そうでなくとも、無事帰れるかどうかもわからない。こんな稼業だ、覚悟はある。それでも、初めてくらいは、好きな男に抱いて欲しい

わかった

アランはゆっくりと、優しくナジャを抱きしめ、そっと唇をかわす。そのまま首筋に唇を這わせながら、ベッドに押し倒していく。

ナジャ

レオナと呼んで

普段の男勝りな態度とは打って変わった、弱弱しい口調でナジャはそう囁いた。

私の真名は、レオナというんだ。レオナ・ジャーヴィス。それが、私の本当の名だ

ざ。

綺麗な名前だ。レオナ

あっ

アランはナジャの服を捲り上げる。その豊かな胸元から、赤い茂みを備えた秘所までが丸見えになった。

あ、あまり見ないでくれ恥ずかしい

どこも恥ずかしい所なんてないさ。綺麗だよ、レオナ

んんっ

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