自身が冒険者家業をやっていた時のことを思い返し、ユニスが言う。

しかし、欲しい答えではなかったらしく、他には?とOlは再度問うた。

多様性

ぽつり、とスピナが声をあげた。

街には、多様な人間がいます。街の人間だけでなく、冒険者や行商人、旅人、役人

Olはゆっくり頷いた。

村には村人しかいないと言っていい。村長の意思が村人の総意だ。長が取引に同意すれば、個々の感情はどうあれ村全体がそれに同意する。だが、街は違う

人間ではないリルとエレンにはピンとこなかったが、ユニスはああそっかと声をあげた。

気に食わなければその街を出て行ける旅人や商人が多すぎる。何かを要求すれば、町長はそれを税で補填しようとするだろう。そんな街に留まりたいと思うものは少ない。無理に要求すれば、その街はすぐに衰退し、やがては滅びる。略奪するのとそう大差はない

村に対してやったみたいに、街も得をするような条件をつけられないの?

街でも農作業は多少しているだろうが、村ほど自給率は高くない。お互いに得にはならんな。護衛も同様だ。十分自立出来ているからこそ発展し、街の規模になっているのだ。こちらが出来る事は、そう多くない

ユニスは悲しげに目を伏せ、言った。

じゃあ無理やり攻め込んで、略奪するの?

そんな事を続ければ世界が滅ぶだろう。そうなってはこちらにも益などない

Olは彼女を安心させるように、やや優しい口調で答えた。

決めさせるだけだ。どちらにつくのが得策かをな

第9話街を蹂躙しましょう-2

その日は雲一つない快晴だった。

さんさんと照りつける太陽の光と、頬をなでる風が心地良い。絵に描いたような小春日和に、ジェイクはふああ、と間の抜けた声をあげて欠伸をした。

最近不穏な噂が聞こえてくる事もあるが、国の外れのこの街は嫌になるほど平和だ。しかし、そんな街が彼はこの上なく気に入っていた。

よう、ジェイク。調子はどうだ?

同僚のマックが物見櫓を上りながら声をかける。

いつも通りさ。天気は快晴、気分は上々、本日も異常なし

だろうな

マックはジェイクの向かいにどっかりと腰を下ろすと、懐からカードを取り出した。

ポーカーでもやるかい

いいね

見張りの仕事はとかく暇だ。マックは簡単にカードを切ると、五枚ずつ配った。

たまにはゴブリンくらい襲ってくればいいのにな

そうだな

マックは懐から銅貨を一枚置きながらそういった。

マックに相槌を返し、同じように銅貨を一枚置きながら、ジェイクは内心平和を願った。騒動なんて真っ平だ。本音を言えば、植物の様に平和な日々を送りたい。

3枚変えるぞ

マックは場に三枚カードを捨て、山から三枚カードを引いた。

という事は、元々の手は良くてワンペア。交換で良くなっていても、精々がスリーカードだろう。手元の札を見て、ジェイクはにやりと笑みを浮かべた。手元には既にフラッシュが揃っている。

交換はいらない

ほう、強気だな。レイズだ

マックがテーブルに更に銅貨を一枚置く。

レイズ

ジェイクが銅貨を二枚足すと、マックの表情が変わった。

レイズだ

マックは一気に銅貨を三枚増やした。そんなにいい手が入ったのか? ジェイクはマックの表情を伺った。ジェイクの手はフラッシュで、一番高いカードはキングだ。これに勝つとなると、フルハウスかフォーカード、ストレートフラッシュしかない。3枚交換してそれらの手が出るなんて、まずありえない。

いいぜ、コールだ

ジェイクは銅貨を二枚足すと、カードを一枚一枚開いていく。

クイーンのフラッシュだ。どうだ?

マックが驚愕に目を見開く。

おい、嘘だろ

搾り出すような絶望の声が搾り出された。その手から、ぽろりとカードが零れ落ちる。

おいおい、カードで負けたくらいでそんな顔するなよ。そんなに懐が厳しかったのか?

ジェイクの声が聞こえていないのか、マックは目を見開いている。ジェイクはマックのカードに目をやった。

何だって、フルハウスだと!?

マックが落としたカードはエースが2枚、8が3枚のフルハウスだった。ジェイクのフラッシュより上の役だ。担がれてぬか喜びさせられたのかと、顔を上げると、マックは立ち上がり、外を凝視していた。

なんだ、ありゃ

その視線を追って、ジェイクは思わず呟く。マックの視線の先、遥か彼方では、地平線の少し手前に数百匹の魔物達が列を成して陣取っていた。

けたたましい音で早鐘が鳴らされ、あたりに怒声が響き渡る。

魔物だ! 何百匹っていう魔物が攻めてきやがる!

鐘の音に、櫓の下に集まってきた兵士達にマックは叫び声を上げた。

魔物だと? 何だ、ゴブリンか?

余り緊迫感のない声で問い返す兵士に、ジェイクが声を荒げた。

ゴブリンにオーク、オーガまで編隊を組んでいやがる!宿で寝こけてる冒険者どももたたき起こして来い、街が滅ぶぞ!

見間違いじゃないのか? ゴブリンとオーガが仲良くお散歩なんて聞いた事ねーぞ

オーガは獰猛で残忍な人食い鬼だ。人に限らず、動くものなら何でも襲って食べてしまう。ゴブリンなど、彼らにとっては気の利いたデザートくらいにしか映らないだろう。オークにしたって、他の種族と協力して人間を襲ったりしない。

ゴブリンとオーガを見間違えるか! 想定外の事が起こってるんだから、兵士じゃ太刀打ちできないって言ってんだ! いいからさっさとあのごくつぶしどもを叩き起こしてきやがれ!

毎日の様に死線を潜る日々に嫌気がさして堅気の職についたが、ジェイクは昔冒険者をしていた。その時に、オークもオーガも見た事があるし、最近多少衰えてきたとは言え目の良さにも自信がある。元冒険者の勘が、全力で警報を鳴らしていた。

現役時代、この勘に従って失敗した事は一度もない。今回もジェイクはそれを信じた。

なんだありゃあ

マックの呟きにジェイクが振り返ると、小さな悪魔がパタパタと羽ばたき、こっちへと飛んできていた。それにも見覚えがある。インプだ。そいつが何やら旗の様なものをはためかせているのを見て、ジェイクは最悪の勘が当たった事を悟った。

待て、撃ち落すな!

即座に弓を構える兵士達を制止し、インプから旗のようなものを受け取る。それは思ったとおり手紙だった。インプ自身に敵対する意思はないようで、ジェイクにそれを渡すと魔物達が陣取っている方へと帰っていった。

町長を呼べ。それと兵士長もついでに商人ギルドの長もだ

物見櫓を飛び降り、ジェイクは叫んだ。かなりの高さを持つ櫓だが、身の軽さと手先の器用さだけで世界を渡ってきたジェイクにとってはその程度の高さはなんでもない。

魔術師Olが、宣戦布告を仕掛けてきた

第9話街を蹂躙しましょう-3

我々は断固として戦うべきだ!

机を叩き、兵士長が怒鳴る。

その場合、我々の損害は計り知れません。ここは歩み寄るべきなのでは?

商人ギルドの長は冷静にそう返す。

むぅ

長い髭をしごきながら、町長は唸った。

我に従い、税を払うならよし。さもなくば力づくで従わせる。一刻(ニ時間)以内に決断し、従うならば門を開けて迎えよ

Olから送られてきた文書には、概ねそのような内容が書かれていた。ジェイクは宣戦布告だと怒鳴ったが、どちらかと言うと最後通牒に近い。とにかく二時間以内に、戦うのか、受け入れるのかを決断せねばならない、と、町長の応接間で町長、兵士長、商人ギルド長、そして何故か冒険者の代表としてジェイクが顔を突き合わせていた。

そして、兵士長は徹底抗戦、商人ギルド長は服従と意見は真っ二つに別れていた。町長はどちらにも決めかね、ジェイクはあまり興味がない、と言うわけで中立を保っている。

邪悪な魔術師に屈すると言うのか!? この恥知らずめ!それに、これは我がフィグリア王国に弓引く所業だぞ!

ではお聞きしますが、あなた方はあの魔物の軍勢に勝てるのですかな?

兵士達は、王国から派遣されている者たちだ。国の頂点に王がおり、その下に王国の各地域を治める領主がいる。そして更にその下に各町や村の町長、村長がおり、下から上へと税は吸い上げられていく。

Olの要望は、その税を自分に寄越せつまりは、所属している国を変えろ、と言うにも等しいものだった。しかも厄介な事に、Olが要求している額は、王国から要求されているそれより随分安い。

国に属す兵士が断固として拒否し、利のみを求める商人が受け入れる姿勢なのも、それが原因だ。町長はと言えば、その狭間で迷っていた。それは、Olの文書に書かれている一文。

従う場合、フィグリア王国に税を納める事を禁止する

という物のせいだ。武力を楯に禁止されていると言えば、この街が王国を敵に回す事はなく、税の支出を抑える事ができる。それはつまり、この街が潤うと言う事だ。

街としては嫌々Olに従っており、従来通り税を支払って欲しいなら先にOlを討伐してくれ、というポーズをとる事が出来る。町長の頭の中にあるのは、商人とは真逆の思考。Olは国に敵対してどこまで戦えるのか?と言うことだ。

冒険者どもがいるだろう! 魔物を相手にするなら、あの無法者達が打ってつけだ!

まあ、そうかもしんねぇけどよ。あいつらは報酬がないと動かんぜ。誰がその金を出すんだ?

兵士長の言葉に、沈黙を守っていたジェイクが口を挟んだ。

貴様らと言う奴は! この期に及んでそんな事を抜かすか!?敵は悪の魔術師! これは侵略戦争だ! 正義は我らにあり、戦うのに理由など

ですが、先方は略奪をしに来た訳ではない。譲歩すればむしろこちらに利すらある。それにも拘らず、無償で命を張れと?

と言うか、俺はもう冒険者じゃないんだからそんなこと言われてもなあいつらは絶対そういうぜ、って言いたかっただけだ

兵士長が怒鳴り、商人が冷静に言い返し、ジェイクが混ぜ返す。

少し、黙りなさい!

紛糾を極めたその場を、町長は怒鳴り、収めた。

ジェイクと言ったか。君は、敵を直接見てきたと言ったな

そして、一つの決意を胸に静かに尋ねる。

率直に言ってくれ。この街の兵士と冒険者、全ての戦力を持って戦ったとして敵は、倒せるのかね?

良いか、者ども、良く聞け!

居並んだ兵士、そして冒険者達の前で、兵士長は声を張り上げた。

敵は邪悪なる魔術師Ol、そしてその配下の悪鬼妖魔ども!その魔力は計り知れず、数は300を優に越える!対して我らは、僅か200の手勢に過ぎない!だが、しかし! 我らフィグリア王国兵士団と、勇猛なる冒険者諸君が力を合わせれば、ゴブリンやオーク如き、物の数ではない!

町長が選んだ道は、抗戦だった。

勝てる。が、甚大な被害が出る。そう答えた、ジェイクの言葉を信じた。

利よりも勇を取り、悪に屈してはならない、そう決断したのだ。

しかしその決断の裏には、冒険者達が甚大な被害を受けるならその分払う額も減る。そんな打算もあった。

剣を取れ、槍を掲げよ! 正義は我らにあり、邪悪なる者は光の前に必ず滅びる!往くぞ! 我らが愛するこの街の為に!

応、と男達は声を張り上げた。敵対的とは言わないまでも、お互い反目しあっていた兵士と冒険者が、共通の敵を前に手を携え戦う。その敵は、醜悪な怪物を従えた邪悪なる魔術師。Olの要求を知らされていない兵士と冒険者達はそのシチュエーションに血を沸かせ、正義の心を燃え上がらせた。

剣を持つものならば、誰でも英雄願望を持っている。それを湧き上がらせるのには格好の状況だった。

配置につけ! ゴブリンは前衛に任せ、オーガを優先的に狙え!敵は狙いやすいデカブツだ、ぐっと引き付けて射殺してしまえ!

弓を得意とする者たちが櫓に登り、狙撃の準備をする。

門の前には槍を構えた戦士達が集い、その後方に魔術を得意とする冒険者達が構える。

相手は三種類もの魔物を操ってる。何人魔術師がいるのか知らないが、魔力は殆ど残ってないはずだ。たとえ火球を放ってきても、俺の魔術でしっかり守ってやるから安心してゴブリン共を駆逐してくれよ、兵士さん

まさかお前達に背を任せる日が来ようとはなだが、こんなに頼もしい味方は他にいない!

冒険者の魔術師が兵士に声をかけ、兵士がニヤリと笑みを返す。

勝てる。兵士長はそう確信した。

たとえこの身が朽ちようとも、後続の勇者達が必ず邪悪なる魔術師を討ち滅ぼしてくれる。全身に力が漲り、鎧が軽く感じる。

こんな気持ちで戦うのは初めてだった。

もう、恐れるものは、何もない。

往くぞ、勇者たちよ!

パンッ。

そんな、軽い音を立てて。

兵士長の上半身は消滅した。

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