若い肉体は些細な感情の変化にも敏感に反応して、老婆の時のように無表情を貫くことは出来なかった。
未来の姿はまるで万華鏡のように、くるくると無限に流転していく。
その中でテナは何千回も何万回も犯され、穢され、辱められた。
はぁっ、はぁっ
予知の途中で予知が変わることなど初めてで、そのあまりの情報量にテナは目がくらむ思いだ。
息は荒く、汗がしとどに流れ、もはや何が現で何が夢なのかもわからない。
ああぁっ!
そこにOlの指が突き刺さり、彼女は高く声を上げた。
テナの中心を、無骨な指が深く抉っている。いや、それは未来の像だ。実際の指は、テナの薄い乳房を鷲掴みにしている。いや、いや、違う。尻に、うなじに、太股に、指先に、唇に。
そら、次はどうする
もはやどれが未来で、どれが現在であるかすらわからない。何千本もの指が、テナの身体を這いまわっていた。それらは全て的確に彼女の快楽を引き出し、昂ぶらせていく。
指だけではない。掌が、唇が、舌が、テナの全身をくまなく愛撫する。
それは彼女が長い人生で味わったことのある中で最高の快楽を容易く超えて、更に何千倍もしたかのような体験だった。
や、やめやめ、て
何千回も絶頂を味わわされて、テナは息も絶え絶えに懇願する。
何を言う。俺は何もしてはおらんぞ
Olの言葉とともに、幻視は全て消えた。彼の言う通り、Olはまだ何もしてはいない。全ては可能性の世界の中の、未来の体験だった。
まだ
その可能性は一瞬にして、一つに収束する。
ぐうぅっ!
それと同時に、Olの肉槍はテナの秘部を貫いていた。
両脚の間に感じるのは、破瓜の痛みだ。
孫娘がいる以上、彼女は確かに妊娠出産を経ているが、時を戻された肉体は処女のそれだった。
くあぁぁあんっ!
それ以上に強い快楽が、鈍い痛みを一瞬にして押し流す。
幻視の体験で昂ぶりきった肉体は、貪欲に男のものを咥え込んでその快楽を味わっていた。
次はどうして欲しい?
耳元でぼそりと囁かれる。テナはぐっと唇を引き結んだが、魔王の前には無駄だった。
なるほど、奥深く、ゆっくりと、だな
先ほどまでと、全く逆のことが起こった。
幻視で見た動きを、Olの実体がなぞって繰り返していく。
しかも予知で感じた些細な不満を拾い上げて修正し、よりテナが感じる部分を抉っていくのだ。
なんっなん、れこんな、あぁっ!
Olから逃れようと身を捩れば、突き出す格好になった尻を後ろから鷲掴みにされ突き入れられる。そんな未来に抗わずOlに尻を向けて、テナは気付いた。
あああぁぁぁぁっ!
もはや、自分がこの男に犯されることに悦んでいると。
無限に続くかのような陵辱は、やがて終わった。
テナの身体は汗と愛液と白濁とにまみれ、叫び続けた喉はひりひりと痛み、何度も絶頂に導かれた身体は鉛のように重い。
さて、目覚めの時間だ
答える気力すらなく、テナは気だるげに視線をOlに向けた。
お前はこの夜のことを全て忘れ、老婆に戻る。お前自身は初めてだと思うておるだろうが、こうしてお前を嬲ったのはもう何度になるか
言われた瞬間、彼女は全てを思い出した。
思い出したか?ここが、逆向きの終着点だ。空に投げた石が再び落ちるように、お前は元の老婆に戻る
Olの言葉とともに手がしわがれ、足が萎え、腰が曲がっていく。
そしてそれと連動するかのように、記憶がぽろぽろと欠けていき
テナは、意識を失った。
お祖母様、起きて下さい
むもう少し、寝かせてくれんか
孫娘の声に、テナは目を瞑る。
ここ数日、妙に身体がだるくて朝起きにくい。
どれだけ寝ても疲れが取れないばかりか、余計に疲れているような気さえした。
そろそろ迎えが近いのかもしれない。
その前に、あの悪魔の王に奴を討ってもらわなければ。
欲を言えば共倒れになってもらうのが一番だが、最悪でも奴を倒して貰わなければこの村ばかりか周辺一帯に何も残らない。
それだけは避けねばと思いつつ、四苦八苦して身体を起こす。
ぐっ
起き上がると、脚がずきりと傷んでテナは呻く。
軋むような節々の痛みとは別の、鋭い痛みだった。
不審に思って脚を撫ぜると、覚えのない傷がそこについている。
爪を立ててつけたような傷だ。
寝ている間に、寝ぼけて付けてしまったのだろうか。
そう思って撫ぜるうちに、ふとテナはあることを思いついた。
未来を、明日の朝を見る。すると今付いている傷は消え、別の傷がそこに残っていた。
明後日を、その次を、更に見るたびに傷はその場所を変えていく。
テナは急いでそれを紙に書き留めた。
これは
それはただの傷では無く。
Olヲコロセ
そう書かれた、文字だった。
第3話原住民と平和的に友誼を結びましょう-6
んむ?
寝苦しさを覚え、今日もテナは夜中に目を覚ます。
寝床を抜けて、未来が見えないことに不審を抱きつつもレンガ壁の通路を通り、Olの待ち受ける部屋へと辿り着く。
そして鏡を見せられて、己の若返りに気付く。
毎夜繰り返されてきたやり取りだ。
む!
だが、そこから先は違った。
ぼたぼたと垂れる血に、Olは顔をしかめる。
夜着を翻し、短刀を構えたテナは、Olの肘から手の平までを切り裂いてついた血を刃から振り払った。
なるほど。こういうわけじゃったか
テナが傷の形で未来の自分から送られた情報は、短く簡素な物だった。
しかし寝る前についていなかった傷が起きた後に付いていることから、その間に何かが起こっていることは明白だ。
彼女はそれを武器を準備しておけという忠告であると受け取り、夜着に短刀を隠して床についた。そして、その選択はどうやら正しかったようだ。
そんな小刀で俺に勝つつもりか?
ふん。儂を若返らせたのは失策じゃったな
テナは己の親指に短刀の先を押し当てる。
ぷつりと浮かぶ血の珠を瞼の上に赤く塗って、彼女は叫んだ。
来い!
銀の髪の毛がざわりと蠢き、側頭部からは獣のような毛に覆われた三角形の耳が生え、夜着の裾からはふさふさとした尾が伸びる。
ほう。ライカンスロープともまた違うか
感心したように、Olは呟いた。
彼の知る獣人(ライカンスロープ)とは違い、耳や尻尾が生えても元々の身体自体には変化がなく、瞳に宿る知性の光も失われてはいないようだった。
タツキといい、どうやらこの大陸には身体の一部だけを変化させるものが随分多いようだ。
テナの四本の尻尾の先端に炎が灯り、ふわりと浮いてOlに向かい飛来した。
矢よりも早い速度で宙を走るそれは、しかし全てキューブに防がれる。
ダンジョンの中で俺に勝てると思うなよ
それはどうじゃろうな
言葉とともに、Olの眼前からテナの姿が掻き消えた。
幻術か
だが消えたのはどうやら姿だけだ。
ほんの微かな足音と、ダンジョンの中の空気の動きからOlはテナがまだそこにいることを察知する。それを追って視線を向けると、キューブがぐるりと動いて彼の背後で火花を散らした。
チッ
テナは舌打ちする。空中を飛んで不意をついたつもりだったが、どうやらOlの防御は本人の意思とは無関係に攻撃を防ぐらしい。見えていようがいまいがお構い無しだ。
そっちだったか
Olが呪文を唱えると、幻術が解除されてテナの姿が露わになる。
同時に床石がいくつも隆起して、彼女を捕らえようと触手のように伸びた。
複雑な動きで動くそれを、テナはするりと容易くかわす。
次々と襲いかかる触手は紙一重で避けられて、互いに巻き付き合い、塊になった。
身体能力が強化されているだけでなく、彼女は予知が出来るのだ。
相手が動くよりも先に避ける事ができた。
ならばこれでどうだ
Olがその行動を実行に移すよりも早く、テナはそれを見る。
檻のように床が迫り上がって、テナを閉じ込めるつもりだ。
素早くすり抜けようにも範囲が広すぎて間に合わない。
ならば!
彼女の身体が細く長く伸び、まるで蛇のようになって檻の隙間をすり抜けた。
器用な芸当をする
もっと器用な真似も得意じゃぞ
言葉とともに再び炎が投げつけられた。自動で展開するキューブの防護。
だがテナの炎は今度はそれをすり抜けて、Olに着弾した。
くっ!
慌ててOlは魔術を起動し、己のローブに燃え移った炎をかき消す。魔術の込められた特性のローブは、その柔らかな感触とは裏腹に下手な鎧などよりよほど硬く火も寄せ付けないが、それでも何発も撃たれればOlの身体の方が持たないだろう熱量を持っていた。
なるほど、迷宮か
テナは少女の顔でにやりと笑う。Olの防御の仕組みを早くも見抜いたのだ。
キューブは攻撃に対して自動的に展開し防御しているように見えるが、実はそうではない。
攻撃を察知し、防ぐ。それは非常に高度な魔術が必要だった。
近づいてくるものに対し、何が攻撃で、何が攻撃でないかを判断しなければならないし、その速度にも対応できなければならない。そういった部分に気を使えば使うほど防御能力には関係ない部分で大量の魔力を消費するし、それを超える速度の攻撃には対応できない。
Olの防御はもっと単純なものだった。目に見えないだけで、常に彼の周囲には防御壁が展開しているのだ。それを悟らせないために、攻撃を防いだ部分だけが実体化してまるで壁が伸びたように錯覚させる。これがキューブの本当の姿。Olを常に囲む、小型の迷宮(ラビュリントス)だ。
全てを囲んでしまうと窒息してしまうし、外部に対して魔術を使うこともできなくなってしまう。かと言って攻撃の時だけ防御を解くなど言語道断だ。
それを解決するのが、見えない迷宮だった。例えどんなに曲がりくねっていようと、Olならばその道を通じて外部に魔術をかけられる。
だが、Ol以外のものが見えない迷宮を潜り抜けるなどというのはほぼ不可能だ。目に見えず、曲がりくねった道を正確に通すことなど、エレンのような弓の名手ですら出来ることではない。
そら、ゆくぞ!
テナには、それが出来た。
生み出す矢が形をもたない炎の塊であるということ。
そして何より、未来を予知して正解のルートを辿るまで無限に施行を繰り返せるという性質が、絶対の防御を打ち崩したのだ。
させるか!
Olは壁に手をついて、迷宮自体を操った。キューブの壁で防げないなら、ダンジョンの壁で防ぐまでだ。
しかしそれこそ、テナの狙いだった。
チャンスは一度。しかし失敗することは絶対に無い。
なぜなら、失敗するならそれも予知で見ることが出来るからだ。
そしてテナには、成功するビジョンだけが見えていた。
曲がれっ!
くい、と指を横に向けるテナの仕草に呼応して、炎はOlの繰り出した壁ではなく、その根本に突き刺さって爆発した。堅牢なダンジョンの壁に、ほんの僅か、小さな穴があく。しかしテナにとってはそれで十分だ。小さな鳥に変化して飛び、更に虫に変じて穴から外に出る。
Olの迷宮魔術は石を生み出すわけではない。動かすだけだ。
だから床を操作すれば床が、壁を操作すれば壁がその分薄くなる。
その隙を突けば、テナの炎で破壊することは十分可能だった。
ユツ!
お祖母様!
迷宮を抜け出した先に、テナは孫娘の姿を認めて彼女の名前を呼んだ。
同時にテナは未来を幻視する。Olの放った石の槍が、ユツの胸を貫くのを。
振り向きながら、彼女は尾をぶんと振る。
四振りの刀に変じた尾は細く長く伸ばされた石槍を切り落とす。
石槍は宙を舞って地面に落ちた。
ユツの頭から、ぴょこりと丸い獣の耳が飛び出す。
テナ同様、妖魅を降ろせる彼女と二人でなら勝つことも可能なはずだ。
戦闘に限って言えば、ユツはテナよりも強い。
力を貸すんじゃ!
ゆっくりと壁を開き、出てくるOlを睨みつけながらテナは叫ぶ。
その両脇に、ユツの腕がするりと滑り込んできた。
な何をする!?
ユツの両腕はテナの腕をがっしりと締め付けている。
いわゆる、羽交い絞めの状態だ。
儂じゃ、お前の祖母、テナじゃ!
はい。わかってます、お祖母様
若返っているからわからないのかと思って言えば、ユツはいつも通りの笑顔で答えた。
どういうことじゃ
言葉の後半は、力なく呟かれる。
問い詰めるまでもなく、テナは予知によって全てを悟ったからだ。
お祖母様がボクを守ったらこうしろと、Ol様に言われていたんです
その予知で見た通りの言葉を、ユツは語る。
騒ぎを聞きつけてか村人たちが姿を現したが、彼女たちに助けを求めるつもりにもならなかった。
助けにならない予知が見えたからではない。
若い娘などユツしかいなかったはずの村なのに、姿を見せた女たちは皆一様に、少女のような若々しさだったから。