だが結果として、彼は判断を間違えた。
オロチの狙いは瀕死に陥ったユニスでも、それを助けに来たOlでもなく。
ダンジョンの中枢、ソフィアの心臓部たる、ダンジョンシードだったからだ。
させないっ!
そしてその前に立ちはだかるのはたった一人。
ソフィアの傍をけして離れず構えていた、マリーだった。
まるで花のように広がり進む八本の尾のうち半分を、四振りの剣が防ぐ。
ローガンっ!
任せとけ!
そして残りの半分を、彼女の影から現れいでた赤い悪魔の拳が受け止めた。
互いの力が拮抗したのは、ほんの一瞬のことだ。
オロチの泥人形のような造形の頭が中央からばくりと二つに裂けて牙と顎を形作ると、首が伸びてマリーを丸呑みにせんと大きく開く。
それを
鈴の鳴るような声が、響いた。
マリーでも、ローガンでも、リルでもスピナでもユニスでも、ソフィアでもOlでもない。
その場にいないものの声が。
待って、ました!
マリーの髪を縛っていた髪飾りがぶわりと広がると、ポンという軽い音とともに人の形に転じる。
髪飾りに変じていたユツはそのまま己の尾を引き抜くと、巨大な櫛に変化させる。
そして、一気にオロチに向けて振り下ろした。
半円状の櫛の歯はオロチを貫いて地面にまで突き刺さり、まるで牢獄の檻のように繋ぎ止める。
本来水の性質を持つオロチにそれは束縛にも攻撃にもならなかったが、マリーを攻撃する為にある程度実体化しているその瞬間だけは別だった。
液状化し、櫛の歯をすり抜けようとするのに要したのはほんの数拍。
だが、リルが石火矢で狙いを付けて撃ち抜くのには、十分な時間だった。
やったの?
尾を残して消し飛んだオロチのいた場所を見つめ、誰よりリルが信じられずに訝しげに問う。マリーとローガンが受け止めていた尾はどろりと溶けると、液体となって流れ落ちていった。
そのようだな
Olは魔術でダンジョンの中を探査し、オロチの反応が残っていないことを確認する。
待っていろ、今すぐ治療する
ギリギリでかわしたのだろう。幸いユニスの傷は致命傷を外れていて、命に関わることはなさそうだった。
Ol、あたしより先にソフィアを治してあげて
馬鹿を言うな。傷の程度がまるで違うだろうが
そうは言っても、体中に大きな穴が八つも空いている大怪我だ。左腕を負傷しているだけのソフィアとは優先順位は比べ物にならず、Olはユニスの身体に治癒を施す。
ぱぱ
そんな彼にゆっくりとソフィアは歩み寄り。
ソフィっ!
マリーは咄嗟に、彼女を突き飛ばした。
巨大な蛇の牙がその上半身をばくりと齧り、千切れた下半身と突き飛ばされたソフィアが地面に転がる。
ありゃ。外れちゃった
呑気な声に、その場にいた者たちは皆言葉を失ってその女を見た。
青い髪に、鹿のような角、魚のようなヒレ。
そして魚のような下半身は、今は大きな顎を備えた大蛇と化している。
まあいっか。ねえ、もっとごはんください、おうる!
タツキは邪気のない口調で、そう言った。
第5話死の運命を覆しましょう-4
おい嘘だろ
ローガンは、地面に転がる少女の半身を見つめて呆然と呟いた。
彼は数千年に渡って人間の魂を見続けてきた大悪魔だ。
ましてやマリーの魂を、見間違えようはずもない。
それは幻術でも、偽物でもなく、紛れもない本物だ。
マリーの魂は粉々に砕かれて、半分に齧り取られていた。
こうなってはもう蘇生の魔術も効かない。
き、サ、マァァァァァァァアアア!!
ローガンの身体から、爆発的に炎が吹き上がった。
その赤銅色の肉体がねじれ膨らんで、彼は巨大な炎の嵐そのものへと転じる。
吹き付ける熱波の中で炎の断片が鋭く光り、鉤爪を備えた巨大な腕となって四方からタツキを切り裂かんと襲いかかる。
サクヤの操るそれにも匹敵するかのような凄まじい熱量となってタツキを襲った。
うげえ。焦げ臭くってまっずい
だがタツキは尾の蛇でそれをばくばくと飲み下しながら、そんな不平を漏らすほどの余裕を見せる。
やっぱりそっちの方が美味しそうだな
タツキの尾が、ソフィアを向く。
途端、炎は収まりローガンは実体を取り戻すと、ソフィアを背中に庇った。
オロチの力を取り込んだのか
オロチが死に、どろりと溶けて流れた尾。
あれは消えたのではなく、タツキが飲み下したのだとOlは悟った。
ダンジョンの中に全くオロチの力が感じられないのはおかしいことだと、気づくべきだった。
河の水は海に流れ込むものでしょ?
当然のように、タツキはそう答える。
オロチはお前自身だったということか?
違うんじゃない?たつき、難しいことはわかんない
Olの問いに、タツキは首を傾げた。
わかるのは、これのおかげで毎年陸のおいしーものが食べられるってことと
ずるり、と音を立てて蛇の尾が鎌首をもたげる。
それが凄くおいしそーってこと
タツキはソフィアをじっと見つめながら、ぺろりと舌なめずりをした。
旦那。何か打つ手はねえのか
珍しく焦りを滲ませた声色で、ローガンはOlに囁く。
ない
だから、Olは正直にそう答えた。
タツキは全てを喰らってしまう。Olに出来ることはもう何もなかった。
不意に、タツキの動きが止まる。
何、こ、れ
そして己の腹を両手で押さえると、その場に蹲った。
痛い、痛い痛い痛い!何、なんなの!?
タツキは地面をのたうちまわり、もがき苦しむ。
魔王とは何か、わかるか?
それを眺めながら、Olはローガンにそう問うた。
あぁ?そりゃ、あんたのことじゃねえのか
突然妙なことを尋ねるOlを訝しみながらも、ローガンは答える。
いいや。俺はこちらの言葉では勇者ということになるらしい。魔王ではない
いいからさっさと言えよ
その落ち着き払った様子から、タツキが苦しんでいるのはOlの仕業であるとローガンは何となく察する。だがマリーが死んでしまっているのにこれほど落ち着いている彼に苛立って、ローガンは荒い口調で言った。
誤訳だ。俺はずっと言葉を間違えていた。こいつらの言う魔王というのは我々の言葉で言えば恐らく、神という言葉が一番近い
はぁ?神が何匹もいるってのか?
神。
それは悪魔の天敵にして、絶対の支配者。
かつて滅びた天上世界の主だ。
それと今、目の前でもがき苦しむタツキや、ローガンが背後に庇うソフィアは全く結びつかなかった。
そこが勘違いのもとだ。俺も神とは唯一無二のものと思っていた。だが、種族としての神は少なくともこの大陸には無数に存在するのだ
だったら何だってんだ?
あの。ボクが、教えたんです
苛立ちを隠さず、唸るように炎を吹き出すローガンに、ユツは堪えきれず声を上げた。
だから一体何の話だ!
ですから
うもう、だめ
タツキの下半身から生える蛇が大きく頬を膨らませたかと思えば、突然何か大きなものを吐き出す。
巫術、口寄せ、召鬼の術。妖魅えっと、その神というもののもうちょっと弱いの?を、自分の身に降ろして力を得る術をです
死ぬかと思ったー!
タツキから吐き出されたマリーは、全身についた消化液のようなものを拭いながら叫んだ。
マリー?なんで、生きてんだ!?
彼女の魂が粉々に砕かれていたのは、ローガンははっきりと確認した。だがいつの間にか地面に転がる彼女の下半身は霞のように消えていて、その魂も傷一つなく輝いている。ローガンが十年間ずっと見守ってきた、太陽のように金色に輝く美しい魂だ。
だが、あそこまで破壊された魂が修復することなどありえない。
いや
一つだけ、ローガンはそれがあり得た事例を知っていた。
あのロリババアか!
魔道王に造られた魔への供物。
けして死なず滅ぶことのない数千歳の幼き娘、マリーの年上の妹、メリザンドだ。
ご名答だ、この変態が
マリーが、マリーの顔と声でメリザンドの言葉を綴る。
その青い瞳が、右目だけ赤く輝いていた。
魔王、妖魅、神。
その共通点を見出してしたOlは、それを応用出来るだろうと考えた。
何せマリーはメリザンドと元々二心同体の間柄だし、メリザンドにも己の魂を材料に不死身という英霊を作り出した経験がある。そして何より、あらゆる物事に万遍なく適正を持つマリーの才能は、巫術という未知の技術に対しても効果を発揮した。
メリザンドの力をマリーに憑依させ、彼女の不死の力をマリーにも与えるのはそう難しいことではなかった。
死の運命を変えられぬなら、殺してしまえば良い
後はオロチの力と、魔道王の呪いの強さの勝負。
だが数千年の時を経て今なお微塵も綻びを見せない強力な呪いを相手にしては、全てを喰らうオロチといえど消化しきることは出来なかったようだ。
そしてそんなものを飲み込めば、タツキもただでは済まなかった。
苦しげに地面に手を突き、堪えきれず彼女は八匹の小さな蛇を吐き出した。
すかさずそれをユツが木槌で叩き潰すと、タツキの下半身は元の魚のような尾へと戻る。
これで、完全にオロチの力は消え去った。
初めて食あたりした気分はどうだ?
Olはぐったりと地面に横たわるタツキの下半身を踏みつけて問うた。
さいあく
全てを吐き出し痛みは落ち着いたようだが、力も吐ききってしまったのだろう。タツキはいつに無く弱々しい声で答えた。
美味しいもの食べたかっただけなのに
食ってみろ
Olが彼女の口元に指を差し出すと、、タツキは半ば反射的に噛みつく。
ぎゃっ!
途端鋭い痛みを感じて、彼女は悲鳴を上げた。
よし、呪いも効果を取り戻したな
かつてOlがタツキにかけた、攻撃を禁ずる呪いだ。
タツキの認識が曖昧だったせいもあって押し流されていたが、これで危害を与えることも出来ないだろう。
とはいえこのまま殺してしまった方が心配もないのだが、と考えながらOlは彼を見つめる瞳に視線を向けた。
リルの金色の双眸が、何かいいたげに彼を見つめている。
お前、そんなに食べるのが好きか?
嘆息し、Olが尋ねるとタツキは即座に頷く。
そうか
悪気はないのだろう。ただ単純に、食欲を何より優先しているだけなのだ。
であれば餌付けしても無駄だし、呪いをかけてもそれを超える力を手に入れる可能性がある。
ならば、取りうる方法は一つだけだ。
では、それ以外の喜びを教えてやろう
そう宣言するOlに、タツキは不思議そうな表情を浮かべた。
第5話死の運命を覆しましょう-5
ねー、おうる。美味しいもの、食べさせてくれるんだよね?
ああ。そうだ
じゃあ、何ではだかになるの?
Olの寝室でベッドに横たわり、言われた通りに着ていた衣を全て脱ぎ捨てた後。
一糸纏わぬ姿を恥ずかしげもなく晒しながら、タツキはこてんと首を傾げた。
何故だと思う?
Olの問いに、タツキはんーと眉根を寄せる。
もしかして、おうるを食べさせてくれる?
まあ、当たらずとも遠からずといったところか
ぱっと顔を輝かせるタツキとは対照的に、Olは微妙な表情を浮かべた。
まずはこれを咥えてみろ
おー。おいしそう!
屹立した男根を鼻先に突き付けて言えばそんな反応がかえってきて、Olはますます表情を曇らせる。美味しそうと言われたことは何度もあるが、食的な意味で言われたのは初めてだった。腸詰めか何かと勘違いしているのではないか。
歯は立てるなよ
うん。いただきます!
Olの忠告に頷いた後、タツキは躊躇いなくOlの剛直にかじりついた。
ぎゃんっ!
途端、その身に内包した呪いが彼女に牙を剥いて、タツキは悲鳴をあげる。
いたい
だから歯を立てるなと言っただろうが
事前にかけた呪いによって、タツキがOlに与えたダメージは全て彼女を襲うようになっている。そうしていなければ一体どうなっていただろうかと思うと、Olの背筋に寒気が走った。
うー。どうやったらいいの?
歯は立てずに、ただ口に含んで舌で甜めしゃぶれ
んーこうお?
言われた通り、今度は恐る恐るといった様子でタツキはペニスを口に咥えた。
子供が飴をしゃぶるような拙い動きは快楽を生み出すものではなかったが、何も知らぬ無垢な少女が懸命にグロテスクな器官を舐める様は肉とは別の愉しみがある。
んなんかだんだん、味がしてきた
そうするうちに漏れ出てきた先走りの汁をちゅうと吸い、タツキはぺろりと唇を甜めて肉塊をじっと見つめた。
ここかなー
タツキは舌を長く伸ばし、先端を探るようにちろちろと舐めていく。その舌先がOlの裏筋を捉えると、肉茎はぴくりと反応して僅かに震える。
あ、やっぱりここだ
タツキは嬉しそうに声を上げて、反応のあった部分を重点的に甜め始めた。そうしながら、鈴口から滴るつゆをちゅうちゅうと吸い上げられて、Olは思わず声を漏らす。
ああ。中々上手いぞ