己の巨体に見合う大きさの女体を目にするのも初めてであれば、乳房で挟み込むなどという技を見るのも初めてで、サイノカミの身体は思わず硬直した。

今です、リルさん!ボクごと撃ってください!

え、いいの?

いいんです。あれはただの幻術ですから

耳元から聞こえた声にリルが顔を向ければ、本物のユツはすぐそばに立っている。

よし。食らいなさい!

リルの放った弾丸が巨大なユツの体を貫くと、その身は木の葉の塊となって霧散した。

そしてそのまま、その奥にそそり勃つサイノカミに向かって突き進む。

<このようなもので我の身を貫けると思うなッ!>

だがしかし、サイノカミは一際大きく怒張すると、ぶんと頭を振って弾丸を弾き返す。

うそでしょ

空の彼方へ飛んでいく弾丸に、リルは呆然とした。

<今のは、なかなか痛かったわ>

鎌首をもたげるようにして、サイノカミは大きく凹んだ頭をOl達に向ける。

<そら、お返しだ>

その縦に裂けた亀裂から、白色の炎が噴き出した。

なにこれ!?

どう見ても尋常な炎ではない。それはまるで油でも撒いたかのように地面に落ちても消えることはなく、それどころかどろどろと流れるようにして周囲に広がっていく。

<我の浄炎を消せると思うな。その炎に触れたが最後>

焼き尽くすまで消えないってわけね

<いいや。確実に子を孕む>

ほんと最低ね!?

ある意味、焼け死ぬより酷い話であった。

<ちなみに言うておくが>

サイノカミの顔がOlの方を向き。

<男とて逃れられると思うな>

見境なさすぎでしょ!?

Olが妊娠したらどうなるのだろうか。

リルはちらりとそんなことを思わなくもなかったが、流石に試してみる気にまではならない。

仕方ない、ここは一端退くぞ

こちらの最大の攻撃が通じないのでは勝ちようがない。

待って

そう判断するOlを、マリーが止めた。

わたし、倒せるかもしれない

白い炎はゆっくりと、Ol達を囲みつつある。

逡巡している時間はなかった。

やってみろ

ありがと、Ol様。開け、天門!

マリーが空に手を掲げると、彼女の右目が赤く輝き指先に四角い紋様が現れた。

曲線を基本とする魔術円に対し、直線で構成されたそれは法術陣と呼ばれる図形だ。

来たりませ。猛きもの、折れたる剣の守護者、比類なき英霊よ

マリーの金色の髪が赤く染まり、膨れ上がる。

髪飾りがぷつりと千切れて、炎のような髪が広がる様はまるで獅子の鬣のよう。

マリーは三振りの剣を鞘に納め、一刀だけを掲げ持った。

<何をする気かわからぬが、この身を切り裂けるものなどありはせぬ。例えそれがヒヒイロカネの剣であろうとな>

明らかに雰囲気の変わったマリーに、しかしサイノカミは傲然と言い放つ。

己の硬さと持久力には、絶対の自信があった。

一切の力みも工夫もなく、マリーの剣は静かに振られ。

そして次の瞬間には、白い炎もサイノカミもすべて両断されていた。

<ば、か、なぁぁぁぁぁ!>

半ばから二つに分かたれて、サイノカミはどうと地面に倒れ伏す。

戻りませ、竜殺しウォルフディール

言って剣を鞘に収めた途端、マリーの目と髪は元に戻り、彼女はその場にくずおれる。

やっぱり、ウォルフおじさんを降ろすのは一瞬でもしんどいね

慌てて抱き留めるOlに、マリーはへにゃりと笑んで言った。

お前、どうして

ユニスのお父さんだし、急に頼んでも力を貸してくれるかなって思って

マリーの答えは、Olの問いが求めたものではなかった。

彼女が巫術を学んでいるのは知っているし、メリザンドを通じて不死身の力を宿したのだから、同じ方法でウォルフの力を使えても不思議ではない。

何故、あれが竜だと思った?

え、だって、蛇みたいだったし、火も噴いてたじゃないですか

改めて問えば、マリーは当たり前のように答える。

だが、Olはそこに思い至らなかった。

何千という魔を従え、何万という獣を知るOlでさえだ。

ただの偶然かそれとも。

自分を凝視するOlに、マリーは不思議そうに笑みを浮かべた。

第6話旧きものを斃しましょう-3

それにしても、殺しちゃってよかったの?

半ばから両断されたサイノカミの死骸を横目に、リルはOlに尋ねた。

オロチもそうであったし、蛇の類は頭を潰してもなお動くこともある。

警戒していたがサイノカミは全く動く気配を見せず、どうやら完全に死んだようだった。

ああ。空間を司るといっても、こいつ自身が転移の力を持っているわけではない。むしろそれを阻害しているもの。故に塞(サイ)の神だ

ふうん。じゃあ、Olが奪いにきたって言うのは

この洞窟のことだ

Olはサイノカミが塞いでいた洞窟を指さす。

どのような形で空間に類する力を持っているかはわからん。だが

その力を手に入れる方法だけはわかる。ってことね

うむと頷き、Olは洞窟の壁にキューブを連結させる。

剥き出しの石壁は見る間にレンガ造りへと変わり、光が灯って中を見渡せるようになった。

門だ

するとマリーが前方を指さして、声を上げる。

魔術光によって照らし出されたのは、洞窟に似つかわしくない巨大な両開きの扉だった。

ダンジョンを探索する際、扉というのは最も警戒すべきものの一つだ。

取っ手や扉自体、扉の向こう側の部屋、意表をついて扉の手前の床など幾らでも罠を仕掛けることが出来る。

破壊しろ、リル

とはいえダンジョンそのものを掌握するダンジョンマスターたるOlにとっては関係のない事だ。

扉の向こう側までを自分の領域に収めてしまい、そこに罠を設置できるような隙間がない事は把握しているし、門自体に罠があっても破壊してしまえば問題ない。

Olさまが開けた方がいいんじゃないかな

だがそれに、マリーが異を唱えた。

なんとなくだけど

なんとなくとはなんだ。理由を話せ

わかんない

問うても、マリーはふるふると首を横に振るばかり。

リルやユツの顔を見ても、二人とも不思議そうにしているばかりでマリーの意図を測りかねているようだった。

まあ良い。下がっていろ

破壊すれば無闇に音を出すことになるし、万一の時はこの扉を盾にして逃げることもできる。

壊さずに通るのも別段おかしな選択肢というわけではない。

Olが両腕を門にかざすとキューブがパタパタと展開してふくらみ、彼の背後に人型を成して立つ。それはOlの動きに沿って門に手をかけると、ぐっと押して開いた。

罠はないようだな

大きさゆえか多少の開きにくさは感じたものの、鍵も閂もない扉はあっさりと開く。

その向こうには罠もなければ番兵もおらず、それどころか部屋すらなくただただ通路が進んでいるのみだ。

いくぞ。番人は倒したとはいえ、何が出てくるかわからん。警戒は怠るな

わかりました

マリーが気合いを込めて頷き、生真面目な表情でユツが返事をする。

だが二人の思いとは裏腹に、探索は酷く退屈なものだった。

洞窟の中には敵や罠どころか分かれ道一つなく、ただただ真っすぐに通路が続くのみ。

緩やかな下り道を、Ol達は黙々と進んでいく。

ねえ、これって

リルが何かを言いかけたその時。

部屋だ

マリーが声を上げ、通路の先に部屋があるのが見えた。

何もないですね

部屋の中を覗き見て、ユツが呟く。

彼女の言う通り大きな部屋はがらんとしていて、ただ通路が二つ、左右に続いているだけだった。

妙な構造だな。罠もなく、守衛を集めるでもなく、ただ部屋だけがあるとは

これならただの三差路で良いのではないか、とOlは思わずにいられない。

ただの天然の洞窟でないことは明らかなのだ。

もしそうであれば、もっと細かく幾つも横穴が伸びているものだ。

天然のものでないならばそこに何らかの意図が込められているはずなのだが、それがどうにも読めない。

まあ良い。さてどちらに進むか

試練の山でも似たような場所があったが、あの時と違って今回の戦力は乏しい。

二手に分けるような愚策は避けるべきだ。

進む必要はないと思う

Olが悩んでいると、リルがそんなことを言い出した。

どういうことだ?

何かあるとしたら多分この部屋だから。進んでも、どっちも同じだよきっと

なぜそんなことがわかる

だって、ここが子宮だもの

リルに言われ、遅まきながらOlは悟る。

守っていたサイノカミが男性器の形をしていたのなら、この洞窟は女性器。

今まで通ってきた通路は膣で、この先は卵管。

とすれば最初の門は処女膜か。道理でOlに開かせたわけだ。

しかしなぜ、それがマリーに分かったのか、とOlは疑問に思った。

己の身にも宿しているものとはいえ、子宮とは要するに内臓だ。外から見えるものではない。

Olには多少の医学の心得があるし、リルはサキュバスなのだから知っていても不思議はない。

だが、マリーにはそのような知識はないはずだった。

そもそもここに来るまでリルですら気付かなかったことに、マリーは入り口で気付いていたという事になる。

その通りだ

パチパチ、と乾いた音とともに、Olは女の姿に気が付いた。

気が付いた、としかいう他なかった。

隠れる場所など何もない部屋の奥に、その女は立っていた。

だが突然現れたわけではない。ずっとその場にいるのに気づかなかったのだ。

貴様は何者だ

何者だ、とはつれぬことを言う

真っ白な女だった。だがそれはメリザンドや英霊たちの白さとは違う。

肉としての美しさを伴った白だ。

肩で切り揃えた艶やかな黒髪に切れ長の瞳。

キモノと呼ばれるヤマト装束に覆われた身体は露出どころか体型すら覆い隠しているというのに、それでもなお匂い立つような色香があった。

我を殺し、あまつさえ女にせしは汝であろうに

なんだと?

くく、と喉で笑う美女の言葉に符合する相手は、一人しか思い浮かばない。

だがそのあまりにも変わり果てた姿に、Olは自分自身の考えを疑う。

我は塞ノ神。この洞の守護にして主人よ

だがサイノカミはその考えを裏付けるようにそう言った。

殺しても死なぬ、というのか

いいや。確かに汝らは我の半身を殺した。だが生とは元来対なるものであり、かの姿は我の一つの側面でしかない

つまりマリーがおちんちん切っちゃったから、女の子になっちゃったってこと?

正しくはないがまあ、斯様な解釈でも良い

リルの言葉に若干呆れたような口調で、サイノカミは答える。

肝要なのは汝が欲する力を、我が揮えるという事よ

その白い肌、金の髪、高い鼻に青い瞳。およそこの地の者ではあるまい。察するに、己の国へと帰りたい、といったところであろう

まあそんなところだ。ただし、帰るだけでなく再びこの地に戻ってくる必要がある

Olの言葉に、サイノカミは深々と頷いて見せた。

我ならばそは能うだろう。汝の望む数だけな

対価はなんだ

Olは直截に聞いた。

半身とは言え殺された者が、わざわざ何の見返りもなく協力を申し出に現れるわけがないからだ。

対価?妙なことを言う。言うたであろう。我は祀られぬ神、順(まつろ)わぬものと。糧を得るために人の身の願いを叶えることなどありはせぬ

ならばやはり戦うつもりか、と身構えるOl達に

だが我が汝のモノとなるのなら、話は別だ

サイノカミは薄く笑んでそう答えた。

俺のものだと?どういう意味だ

そのままの意味よ。古来より、男が女を己がものとする方法など、一つしかあるまい?

そう囁くサイノカミの吐息は、どこまでも艶めかしい。

お前を女に数えていいのか?

しかしOlの脳裏に浮かぶのは、先ほど殺した雄々しくそそり立つ男根の姿だ。

笑止。我ほど女としてある女も他におるまいよ

確かに、目の前にいるサイノカミの姿に男性らしさは微塵も見受けられない。

なのに白蛇の姿と重ねてしまうのは、その持つ雰囲気が全く同一のものだからだろう。

生きとし生けるものは皆、男としての性質と女としての性質を持っておる。性別とは、ただそのどちらが表にあらわれているかに過ぎぬ

ほう。では俺にも、女の部分があるとでもいうのか?

うむ。全ての生き物は、父と母とから生まれる故にな

サイノカミの言葉に、Olはむっと唸る。確かに筋は通っている。

しかして我の雄は、汝らが殺した。残りし我は純粋な雌。この世で最も全き女というわけだ

Olが足を鳴らすと、彼の傍らの床が盛り上がり、石の寝台が出来上がる。

表面をさらりと撫でれば、それは忽ち天蓋付きの柔らかなベッドになった。

まって、Ol

寝台へと向かおうとするOlを、リルが引き止める。

多分、あれ

わかっている。お前の同類という事だろう

男が女を己のものとする方法は、確かに交わり屈服させることだろう。

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