こうなればこの山を溶岩で満たし、灼き滅ぼしてやるより他はありません

それもほんの僅かな時間稼ぎにしかならないだろうが、とサクヤは心中で呟く。

パパがパパが、きっと

いいえ。それももはや叶わぬでしょう

勝つための準備をする。だから時を稼げ。

全知に気取られるのを避けるためだろう。Olからの指示はただそれだけだった。

Olが彼女たちを見捨てて逃げたなどとはサクヤも思わない。

だがこの状況を、一体どうやったら覆すことが出来るだろうか。

強力な兵器?それとも無数の援軍?

どちらがあっても、数の暴力の前には無力だ。

状況を今から覆す奇跡のような方法があるとはとても思えなかった。

Olは、間に合わなかったのだ。

やだ!

だがソフィアは首を振って、サクヤの手から逃れる。

聞き分けなさい。あなたの父君も、そんなことを望んではおりません

そんな事ないもん。だってパパは、サクヤお姉ちゃんの事も大好きだから!

死ぬわけではありません。神はそう簡単に滅びませんから

だがこの山を噴火させれば、サクヤは深い眠りにつく。ソフィアはそれを敏感に察していた。

目覚めるのは千年後か、万年後か。いずれにせよOlは生きてはいまい。

パパは絶対来るよ。だって、ソフィとわたしと、約束したんだもん!

ソフィアが叫んだその時、部屋の壁が打ち破られて屍兵たちが雪崩込んでくる。

扇を振るい投げ放った炎は予想の半分も熱量を持たず、サクヤは己の力が尽きかけていることを知る。これではもはや、山を噴火させることすら叶わない。

無理をするなと、言ったであろうが

だが次の瞬間降ってきたのは、屍兵たちの汚れた指に引き裂かれる感触ではなく、そんな呆れ声であった。

全く、そこまで俺を盲信するとは我が娘ながら一体誰に似たのやらだが、よくぞ言った

サクヤが恐る恐る目を開ければ、あれほどいた屍兵たちは皆真っ二つに両断され、地に倒れ伏していた。一体どんな刀を使えばこうまで見事に切れるのか、断面は恐ろしいほどに鋭利だ。

ソフィアがOlに駆け寄って、勢いそのままに飛びつく。それを受け止めたOlはぐらりと身体をよろめかせた。

旦那様お体が?

ああ。突貫工事だったからな。流石にちと疲れた

欠伸を噛み殺しながら、Olは答える。

だが、間に合ったぞ。よくやった

ですが一体、何を?

わしわしと無造作に頭を撫でられ頬を染めつつも、サクヤは思わず問うた。

最高の援軍だ

第11話愚かなる王を叩き潰しましょう-6

それは、巨大な土の塔のようなものであった。

あれはなんだ。なんの意味がある

砂の王の問いに返事はない。答えるべき口を持たないからだ。

ただただそれはウセルマートの望みに応じて、遥か彼方の地の光景を彼の脳裏に浮かばせる。

土で出来た円柱形のその塔は、ただただ土を掻き集めて盛り立てているようにしか見えなかった。凄まじく巨大ではあるが、大きいだけだ。中には何の機構も備え付けられておらず、術がかけられているわけでもない。

仮にあれが兵器だったとしても、脅威とはなりえない。

なぜならそれは遥か遠く海の向こう異なる大陸にあるからだ。

魔王が門を繋いでそちらから戦力を持ってこれることは知っていたが、それには限度があることもまたわかっている。あれほどまでに巨大な代物を持ってくるのは不可能だ。

考えられることは、陽動か。ウセルマートはそう結論づけた。

意味有りげな事をして彼の気を引き、他への意識を引き離す。

それは有効な手段ではあった。

全知は強力な力だが、いくつか欠点がある。

その最たるものが、人間の頭には手に余る、ということだ。

やろうと思えばそれこそこの世の全て、砂粒の数までも数え上げることも出来るだろうが、人の頭では処理しきれない。世界のどこにでも目を向けることが出来るが、見ていない場所を見ることは出来ないのだ。

なるほど。これか!

Olの周辺を探って、ウセルマートはそれを発見した。

赤い髪の剣使い。恐らくは魔王の手の中で最強の駒。

それが、斬撃を転移させて飛ばし斬り裂く練習をしていた。

なるほど、この状況でウセルマートに勝つのであれば、彼本人を殺すのが最も手っ取り早い。

どこにでも転移できるあの娘の力を持ってすればそれも或いは可能だろう。

ならば奴はまだ気づいていないのだ。そんな策にはとうに対策を講じているということに。

ピラミッドはただの要塞ではない。それ自体が力を持つ巨大な結界の発生装置だ。

その中では彼の信ずるアトム神以外のありとあらゆる神が力を削がれ、権能を失う。

あの娘がこの中に飛び込んできたが最後、二度と転移は叶わない。

神の力がなければ強いと言っても小娘一人、始末するなど造作もない。

何なら奥の手を使っても良い。いずれにせよこれで、ウセルマートの勝利は揺るぎようがなくなった。

そう確信した瞬間。

砂の王は表情を歪ませた。

呆けたようにその光景を見つめ、目を見開く。

ありえない光景が、そこには広がっていた。

人の男の器と聞いて、お前は何を想像する、サクヤ

器ですか?

眠たげに問いかけるOlに、サクヤは首を傾げた。

難しいですね。他者を許し受け入れる心根でしょうか

なるほど。ミシャの能力があるだろう。あれが俺にもあるのだそうだ

よほど眠いのだろうか。ポンポンと話題が飛ぶOlの言葉に、しかしサクヤは生真面目に付き合う。

そうですね。神が人に力を与える時は普通、女性に巫女に降ります。ですが塞ノ神はその特殊な神でして。男性に力を与えるのだそうです

塞ノ神は元々男根の姿をした神だ。それが男に力を貸すのは、ある意味で自然なことなのかもしれない、とサクヤは思う。

うむ。で、ミシャが言うには、本来俺とあいつとで揮える力に差はないらしい。だが俺がほんの小さな力しか揮えぬのは、俺の器が小さいからだと言う

はあでは、霊力ですとか、魔力の話だったのでしょうか

Olは首を振って、言った。

ペニスの大きさだ

ぶっ、ぐ、く、くふ、ぐぅっ!

サクヤは思い切り吹き出して、顔を真っ赤にしながら笑いを堪えた。

下ネタに弱すぎるだろう、と呆れつつOlは話を続ける。

奴は塞ノ神。境界を塞ぐ神だ。であればその境界の大きさは、塞ぐものの大きさに比例する。つまりはペニスだ

ぶふぅっ!や、やめ、やめてくださいましっ

はしたないと知りつつも腹を抱えて笑うサクヤ。

だから作ってやったのだ。我が天のダンジョンが通れるだけの大きさを持つ、男根をな!

自棄になったように、Olは叫んだ。

それはかつてOlがメリザンドと戦った時に作り出した歩くダンジョンの、成れの果て。もはや二度と動かすこともないだろうと放置されたその体格に相応しい怒張を作り上げ、Olはそこに宿った。もはやその体を立たせるほどの魔力は用意できないが、局部を勃たせるだけであれば造作もない。

そして、その凄まじく馬鹿馬鹿しい方法で、異なる大陸からやって来た。

ウセルマートにとっての破滅が。

実にいい顔をしている。そうは思わないか?

メリーもね

この上なく楽しそうな顔をしながらウセルマートの姿を投影する年上の妹に、マリーは呆れ混じりに答えた。

しかしこれは便利だな。まさか英霊にこのような使い方があるとは、思いもしなかったぞ

メリザンドの身体に宿るのは、無明の名で呼ばれる英霊。全てを見通す千里眼の持ち主、盲目のガイウスだ。

ちょっと教えただけなのに妹があっという間に口寄せをマスターして、お姉ちゃん悲しいやら誇らしいやら

年季が違う、年季が。さあ待たせたな、諸君

英霊をその身に宿したメリザンドは、マリーどころか英霊自身よりも巧みにその力を引き出すことが出来た。メリザンドの見た光景が、窓のように無数に浮かんで居並ぶ射手たちの目の前に映し出される。

エレンを筆頭とする黒アールヴの弓使いたちだ。

矢弾は無限にあるぞ!好きなだけ射殺せ!

その矢になるのは、天のダンジョンの森に生える無数の木々。彼女たちが棲み慣れ親しんだそこは、そのものが強力な魔力を帯びた聖地のようなものだった。その枝を折って矢に加工するのには材料も魔力も必要ない。枝自体に既に大量に魔力が含まれているからだ。

天に浮かぶダンジョンから雨のように降り注ぐ矢は、しかし正確無比に屍兵たちを射抜いていく。メリザンドの操る千里眼とアールヴの魔技が合わさって初めて出来る絶技であった。

だが矢に対して屍兵たちはあまりに多く、また既に死んでいる彼らには急所というものがない。矢で貫いただけでは動きを止めないものも多かった。

風よ。雲よ。我らが友よ。その恵みをどうか分けておくれ

そこへ、セレス率いる白アールヴ達が一斉に魔術で雲を呼び寄せる。異大陸からも掻き集められた雲は本物の雨を降らせ、屍兵たちを濡らした。

無論水に弱いとは言え、屍兵は雨に濡れた程度で崩れるほど軟弱ではない。

しかしそれも、身体の内に生木の矢を抱えていなければの話だ。

肉に食い込み、雨を吸ったアールヴの魔木は瞬く間に成長し、周囲の屍兵をも取り込みながら大きくなって彼らを喰らい尽くす。

そこへダメ押しとばかりに、白銀の竜が舞った。英雄王ウォルフが宿ったメトゥスの身体だ。

その身が吹き出す毒の息は死者たちの身体さえもあっという間に溶かし腐らせる。

ソフィアの方はうむ、問題ないようだな

メリザンドが眼下からダンジョンの中へと意識を転じさせれば、目にも止まらぬ速さで三つ首の猛獣が駆けていた。その背に跨るのは勇ましい女騎士ではなく、純朴な娘。しかし誰より恐ろしい獣の魔王、ミオだ。

彼女の最大の欠点はザナが突いてみせたように、魔獣を操るミオ自身は無防備である事だ。

大群や巨大な敵相手であれば問題とならないが、単独の強者には遅れを取る可能性がある。

否。あった。

つい先日までは、の話だ。

ケルベロスの爪と牙を掻い潜り、死角から不意を突いて小柄な屍兵が斬りかかる。

ミオはそちらを見ることもなく、すっと左手を掲げた。

その袖口からするりと小さな蛇が飛び出して、剣を咥えて受け止める。

同時にその蛇の尾に生えたもう一つの頭が、屍兵の首に噛み付いた。

双頭蛇(アンフィスバエナ)と呼ばれるその蛇の毒は、瞬く間に屍兵を石へと変えて砕く。

天井に張り付き、落下して奇襲をかけた屍兵は、ミオの右腕に乗った小さな火蜥蜴(サラマンダー)の炎に焼かれて一瞬で燃え尽きた。

投げ放たれた短刀は、ミオの胸元に入った小さな獣が額の宝石を輝かせると見えない壁に弾かれ落ちる。結界を自在に作り出す魔獣、カーバンクルだ。

何十何百という犠牲の末に、屍兵たちはようやく魔獣の防護を掻い潜ってミオの頬に僅かな傷をつけることに成功した。だが彼女の頭の上に乗った白い小鳥がぺろりと舐めとったかと思えば傷は瞬く間に消え、小鳥の吐き出した息に触れた屍兵の同じ場所に何十倍も深くなった傷がつく。医療を司る神鳥カラドリウスは、人の傷や病を吸い取り他人に与える力を持っていた。

ミオ自身が攻撃に気づかずとも、全方位にあらゆる感覚を巡らせた魔獣が必ずそれを察知し防ぐ。防ぎきれなかったとしてもすぐに癒やす。小さな魔獣を何匹も身につけたミオは、もはや全身凶器であり、単独で軍隊に匹敵するような存在に成り果てていた。

あれ、反旗を翻したらどうもならんぞ

その時は諦めよう

頭を抱えるメリザンドに、マリーは潔く答えた。

第11話愚かなる王を叩き潰しましょう-7

くははははははは!痴れ者め。むしろ好都合というものだ

ウセルマートは哄笑した。

それは負け惜しみなどではなく、心からの笑いだ。

核熱(アトム)の炎。防げるものなら防いでみるが良い!

山頂の雪を溶かしていた炎に、霊力を込める。

防げるわけがない。それこそはこの世で最も力を持つ神の威光。

全てを滅ぼす始原の炎なのだ。

Ol。あたしに出来ると思う?

悪戯っぽい笑みを浮かべ、ユニスはOlに問うた。

わかっていて聞いているな、とOlは思う。

彼はそう言った不確実な事を断言する性格ではない。

それをわかっていながら、ユニスはそう望んでいるのだ。

そうだな

それはつまり。

お前になら絶対に出来る。なにせこの俺が愛する正妃なのだからな

甘える妻に、Olは最大限の譲歩をした。

もう照れる

流石にそこまで言ってくれるとは予測していなかったユニスは、自分で言わせておいて頬を染めて俯く。かと思えばぱっと顔を上げて、Olの首に腕を回してキスをした。

でも勇気は満点になったよ!ありがと!

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