部屋の中を満たす闇はぐるぐると渦巻いて、部屋の大きさに見合った巨大な怪物の姿を象った。ワニのような長く凶暴な顔。無数の鱗と棘に覆われた身体。一対の巨大な翼。

それがドラゴンと呼ばれる怪物であることを、サリハは知らない。だがその強大さは、嫌というほど感じられた。

火球!火球!火球!!

矢継ぎ早に火球を飛ばしながら、サリハはドラゴンに向かって駆ける。最初に覚えたその魔術は、威力は低く弾速も短い代わりに射程が長く連射が効く。素早い怪物には避けられてしまうが、これだけの巨体ではかわしようもない。

火球は狙い違わずドラゴンの顔に直撃し、大きな炎の花を三つ咲かせた。

その隙に雷撃の射程範囲まで走ろうとしたその時、火煙の中からドラゴンはぬうと顔を突き出して、その大きな口をぱっくりと開いた。

次の瞬間、サリハの視界は真っ赤に染め上げられる。

<四十のダメージ。残り体力、六十>

嘘でしょ!?

何が起こったのかさえわからず、サリハは悲鳴をあげる。巨大な石人形の太い腕に殴られた時も、牛頭の怪物の斧が突き刺さった時も、受けるダメージはせいぜいが十だった。それがここに来て、実に四倍もの大ダメージだ。後二回、同じ攻撃を受ければおしまいになってしまう。

あっ、そうだ幻影!

先程覚えたばかりの魔術を部屋の片隅に向けて唱える。サリハの似姿がそこに作り出されると、ドラゴンは長い首を曲げてそちらをみやった。

今のうちに回復!

<十の回復。残り体力、七十>

自分の胸に刀身を当てるようにして唱えると、剣からそう声が聞こえた。回復は連続では使えないが、こまめに回復していくしかない。

そうする間に、ドラゴンの口から吐き出された炎によって幻影が消滅する。それを見てようやく、サリハは先程視界を埋め尽くした赤色が炎であったことを知った。

げ、幻影!

あれ程の炎、避けることも防ぐこともできそうにない。幻影で狙いを反らし、サリハは竜の懐まで潜り込む。

雷撃!

放たれた稲妻はドラゴンの鼻面に突き刺さって、巨竜はのけぞり呻く。初めて入るダメージらしいダメージだった。

よ、よし石礫!風刃!火球!爆発きゃっ!

矢継ぎ早に攻撃魔術を飛ばしていると、ドラゴンの長い尻尾がぶんと振られてサリハと幻影を諸共に薙ぎ払った。

<三十のダメージ。残り体力、四十>

紛い物のその攻撃はサリハ自身に痛みも衝撃も与えることはなかったが、代わりにごっそりと体力を奪い去っていく。同時に、ドラゴンが大きく口をあけてサリハの方に首を向けるのが見えた。

か、回復!

<十の回復。残り体力、五十>

<四十のダメージ。残り体力、十>

咄嗟に叫んだ直後、視界が赤に染め上げられる。回復とダメージを知らせる声はほとんど同時に鳴り響いた。

攻撃の手はほとんど使い尽くし、次の攻撃への回復も間に合わない。どうにもならないと悟ったサリハは、破れかぶれで剣を投げはなった。

回転する小剣は炎のブレスを吐き出すドラゴンの上顎に突き刺さり、頭蓋を貫通する。

<クリティカルヒット>

剣からそんな声が聞こえるとともに、ドラゴンは絶叫を上げる。

悶え苦しみながら首をくねらせ、よろけるように数歩脚を踏み鳴らしそして、地面に倒れ伏して、消え去った。

ややった!

サリハは転がった小剣を大事に拾い上げ、奥の祭壇へと向かう。

わー、すごい。クリアおめでとう!わたしのダンジョンを攻略したのは、あなたが最初だよ!

すると、祭壇の中からぴょんと緑色の髪の少女が飛び出して、サリハは驚きに目を見開いた。年齢は、サリハより少し上くらいだろうか。

あなたが神様?

その身体には今まで出会った魔物と違い、圧倒的な現実感がある。けれど、ただの子供という気もしなかった。

そうだよ。わたしはソフィア。このダンジョンを司る神にして、一応王様

少しばかり自信なさげに、ソフィアは自分の胸に手を当ててそう名乗る。

お、王様陛下!?失礼致しました!

はっと気づいて、サリハは慌てて跪いた。遊戯施設の方便、そういう設定なのだとばかり思っていたが、このピラミッドの神と言えばそもそもサハラの王を示すものだ。

いーよいーよ。あなた、名前は?

サリハと、申します

鷹揚に手を振るソフィアに、なおさら畏まってサリハは名乗る。

そう、サリハ。じゃああなたに、見事このピラミッドを攻略したご褒美をあげるね

ご褒美。その響きに顔を上げた途端、サリハの足元の床が抜けた。

悲鳴を上げる暇さえなく彼女は落下し、しかしその身体が地面に叩きつけられることはなく、徐々に緩やかになったスロープを滑っていって見知らぬ部屋に出る。

そこに、琥珀色の髪の魔王がいた。

第13話愛されるダンジョンを作りましょう-3

狭い石室に、ちゅぷちゅぷと淫靡な音が鳴り響く。

それはまだ幼い秘裂を男の無骨な指が愛撫する音であり、また少女が赤黒い男根を口いっぱいに頬張って奉仕する音でもあった。

サリハは寝台の上に横になり、Olの膝に頭を預けるようにして、彼の逸物を両手で握り拙い口淫奉仕に挑んでいる。同時に、Olの右手は男を知らぬどころか、ろくに触られたこともないサリハの秘部を念入りに解きほぐし、快楽の錠前を一つずつこじ開けていた。

んっふ、あぁんっ

若い肉体はまるでスポンジのように快楽を覚え吸収していき、甘く鳴いては強張った肉塊にしゃぶりつく。

ああ。上手いぞ

空いた左手でその濃紺の髪を撫でてやりながら、Olは思う。

一体何がどうしてこうなった、と。

観光業?

うん。それでね、パパに色々教えて欲しいの

ソフィアがその突飛な思いつきを告げたのは、Olが食料の提供を断ってから三日後のことだった。伝えられた言葉をオウム返しにして絶句するOlを気にもとめずに、ソフィアは羊皮紙をバサリと広げる。

来たくなるダンジョンって、どんなものなのか

そこに記されていたのは、ピラミッド自体を巨大な娯楽施設にする計画だ。

基本的にはね、罠を主体にしていこうかなって思ってるんだけど、やっぱり魔物なんかもちょっとはいた方がいいでしょ?ただ安全性の問題をどうしようかっていうのと、死体の処理なんかは

待て。待て待て待て。ちょっと待て。一から説明しろ

立て板に水とばかりに続けるソフィアを、Olは慌てて制止した。

ダンジョンの話をしている、そのはずだ。ことダンジョンに関する知識であれば、Olは他に並ぶものがないと自負している。

だがソフィアの話は、Olには全く理解できなかった。

ふぇ?

ご説明しましょう

目を丸くするソフィアの後ろで、トスカンが声をあげた。

サハラにおいて、貧富の差というのは極めて顕著です。中央を流れるアンニルの川付近に住むものたちは、我々に勝るとも劣らぬほどの豊かな暮らしをしております。その一方で、川から離れた不毛の地に住むものたちは、飲む水にすら事欠く始末

それで観光業を営み、その富を再配分するわけか

そこまで言われれば、Olとてソフィアの意図をおおよそは理解する。

富裕層を、ダンジョンに集めることによって

ダンジョンに入ってきた者を排除するどころか、積極的に呼び込み楽しませるという、その考え方を除けば。

うん。ママに聞いたら、パパがそういうのはすごく詳しいからって

確かに、魔物たちをあるいは、冒険者と言った連中を呼び寄せることに関して言えば、Olは熟練の技を持っていると言っていいだろう。

だがそれは、瘴気渦巻く闇の裡に邪悪な怪物たちを押し込め、愚かな侵入者たちの心を挫き滅ぼすための技だ。決して、ろくに苦労も知らず覚悟も持たない金持ちを歓待し楽しませ、金を落とさせるようなものではない。

殺しては、駄目なのだろうな

駄目なの?

駄目でしょうな

念のため確認すれば、ソフィアは背後を振り返って尋ね、トスカンはそれに頷く。

冷静に考えてみれば、問うまでもないことだ。冒険者であればいくら殺しても一攫千金を狙ってやってくるだろうが、もともと金を持ってる人間であればわざわざそんな危険を冒そうなどと考えるわけがない。

だが思わずそんな問いを漏らしてしまうほどに、ソフィアの掲げるそれはOlのダンジョン観とはかけ離れたダンジョンの運営方法であった。

とはいえ、ひとたび偏見を取り払って見てみれば、それほど悪い案ではない。

食料にせよ他の何かにせよ、物を作って売るのには元手がかかる。その点、観光であれば施設の整備くらいにしか金はかからないし、ピラミッドの修復さえ済んでしまえばその内部の運用はソフィアの思うがままだ。

それだけではない。ピラミッドはアンニルの川を辿って流れ込む魔力を受け止めるようにそびえている。それはつまり、川を下ればそれだけでピラミッドに辿り着くということになる。そして富裕層は必ず川の流域に住んでいるから、交通の便が極めて良いのだ。

そして王族とごく一部の配下だけしか足を踏み入れられなかったピラミッドを開放することは、ソフィアの王としての方向性を示すことにもなる。無論、軽んじ侮るものも出てこようが、それはOlの方で締めればいいだけの話だ。

そのような経緯で出来たのが、石のダンジョン攻略体験。

物理的な罠はどのようなものであれ事故を起こしかねないと最小限にし、魔物や魔術の幻影を発する魔導具を作り上げ、それを作り上げたリルの発案で魔改造された本格娯楽施設であった。

それは、良い。実際上手くいったし、成果は収入という形で順調にあがっている。

あ、あの、誰ですか?

<パパ、その子はね、サリハっていって初めてわたしのダンジョンを攻略したすごい子なんだ!だからご褒美をあげてくれる?>

自らの書斎に突如として放り出された怯えた少女にOlが困惑していると、部屋の中にソフィアの快活な声が響く。

ご褒美、だと?

<うん。ママたちにいつもあげてるご褒美>

無邪気に言ってのけるソフィアに、Olは絶句する。流石の魔王も、よもや娘から他の少女を抱くよう頼まれるとは思っても見なかった。まるで友達に菓子でも渡せと言うかのような気楽なソフィアの物言いに、Olはなんと答えたものか逡巡する。

とはいえ、顔を見られた以上はこのまま帰すわけにもいかないのも確かなことだ。

怖がらなくとも良い。ソフィアには会ったか?俺は、あれの父親だ

陛下の!?

ともかく落ち着いた声色で話しかけてやると、サリハの表情から僅かに怯えと警戒が消え去って、代わりに緊張と畏怖が乗った。

ああ。あいつのダンジョンを攻略したのだそうだな。お遊び程度の仮初のものとは言え、その小さな身体で大したものだ。褒めて使わす

言いつつ、Olはぽんとサリハの頭を撫でる。そうしながら、印も呪文も使わずに、彼女の頭に魔術をしかけた。

恐縮です

サリハの瞳がとろりと潤み、その表情から緊張の色が抜け落ちる。ほんの僅かに心を緩める、単純な魔術だ。しかし大した魔力も持たない幼い少女には、覿面に効いた。

何か褒美をくれてやろう。望みのものを言ってみるが良い

えっえっとその

突然望みを聞かれ、サリハは大いに戸惑う。突然出会った見知らぬ男ではあるが、サリハは彼が王の父親であるという事実を自然と受け入れていた。

疑う気持ちもないではなかったが、Olは位の高いものが纏う独特の空気を持っている。それは豪商の娘として、今まで出会った貴族から何度も感じ取って来たものだ。

それに加えてソフィアの人間離れした超然とした雰囲気とOlのかけた魔術の効果が、サリハの疑念を完全に拭い去る。結果として、彼女はひどく恐縮した。

いいえその、滅相もありません。私はただ、その、楽しく遊ばせて頂いただけですから

何、遠慮することはない。無論何もかもをとは言わんが、大抵のことは叶えてやろう

なにせ初めてのダンジョン踏破者だ。今まで少なくない客がソフィアのダンジョンに挑み、その中には子供だけでなく大人も数多くいたが、最後のドラゴンまでをも倒したのはサリハが初めてだった。無碍に扱えばソフィアは機嫌を損ねるだろう。

それにOlの存在をあまり吹聴されるのも好ましいことではない。口封じと褒美を兼ねて、言葉通り大抵のものは与えてやるつもりであった。

で、では先ほどソフィア様が仰っていた、褒美というのを頂けますか?

だがサリハは、Olにとっては予想外の、そして彼女本人にしてみれば当然の言葉を口にした。

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