ただ胸元に垂らされただけの布からは胸の下半分が丸見えで、その先端が硬く尖っていることまでがはっきりと形に現れてしまっている。下半身を覆う布は股の部分を僅かに隠すだけで、下着よりも面積が小さい。その上、紐が脚に食い込んで、そのむっちりとした肉感を殊更に強調していた。

面積としてはリルもそう大差はないのだが、彼女はその服装を恥じらうということがない為、あまりいやらしく見えない。淫魔として致命的な部分だ。だがイェルダーヴは明らかに恥辱を滲ませつつ、その衣装を着ている。

Olは思う。この服をデザインしたものは、よほどの馬鹿に違いない。違いないが、

いや。悪くない

完璧な仕事ではある。そう納得し、Olは頷いた。

で、そんな話をしに来たわけではあるまい

ほっと安堵の息を吐くイェルダーヴに問うと、彼女はどこかおっとりとした顔立ちを彼女なりに引き締めた。

はい。ご主人様は、ホスセリという名前の、狼の力を宿した方を探してらっしゃいますね?

居場所を知っているのか!?

突如立ち上がって勢い込むOlに、イェルダーヴは驚きつつもこくこくと頷いた。

はい。力を失う前に、視ておきましたので

となると、数日前の情報か

そんな事なら、純潔を奪う前に聞いておけば良かった。ちらりとそんな考えがOlの脳裏をよぎる。そして、彼は深く息を吸い、吐いた。

よく、教えてくれた。助かる

Olは彼女の力を利用しないと誓っていたし、そのつもりもなかった。それでも頼りたくなってしまうほどに、全知の力というのは強力だ。一度でも頼ってしまえば、それを手放すことなどできなくなってしまう。イェルダーヴがわざわざこうして事後に話しに来たのも、それを理解してるからだろう。

それで、奴はどこにいた?

ヤエガキと呼ばれる、サハラとヤマトの間の大山脈。あれを下り、こちらへと向かっているところでした

イェルダーヴの告げた場所に、Olは妙な表情で首を捻る。そんなに近くにいるとは思ってなかったのだ。

サハラからそこまで辿り着くには、あの大砂漠を超えた上で険しいヤエガキを登らなければならない。Olたちはソフィアの作り出した地下通路を辿ればいいだけだが、その助けもなしにたった一人で踏破するにはあまりに厳しい環境だ。

それに、時期も気になる。ウセルマートを討ち、ホスセリの行方が知れなくなってからもう数ヶ月が経っている。過酷な道のりと言えど、距離自体はそう何月もかかるようなものではない。

というより、そんなに時間をかければ先に食料が尽きる。砂漠も山脈も、間には店どころか食べることの出来る獣も木の実も殆ど無い不毛の地なのだから。

ならばホスセリは数ヶ月をどこか別の場所で過ごしたあと、今頃になってヤマトへ戻ってきたということになる。何故、と考えて、Olは一つの予想に行き当たった。

ホスセリがOlを裏切りウセルマートについたのは、恐らくその山犬の呪いを解いて人間に戻るためだ。イェルダーヴの全知の力によってその方法を知り、それを成し遂げて今帰ってきた。そう考えれば、辻褄は合う。

裏切ってまで手に入れた全知の力が今こうやってOlの元にいるというのは皮肉でしかないが。

そういえば今更だが、お前のその全知はイガルクとかいう太陽神によるものと言っていたな。砂の王はアトムだとか呼んでいたが、それは単に言語の違いなのか?

いいえイガルクとアトムはそれぞれ別の神。しかし、どちらも同じ太陽神です

矛盾するイェルダーヴの答えに、Olは首を傾げる。

何だそれは。山だの海だのならまだわかるが、太陽などというものは一つきりだろう。どうして幾つもいる?

わたしの奉ずる神イガルクは、中天に座す純白の太陽の神。ゆえにこの世の全てを見渡すことが出来ます。それに対しウセルマートが扱う神アトムは、赤き夕日の神。終わりを司るかの神は、過去を見通す力を持っています

なるほど二つ揃えてようやくの全知か

はい、とイェルダーヴは頷いた。

結局の所太陽が一つきりしかないのだから奇妙であることには変わりない気はするが、とりあえずOlは納得する。

過去と現在。加えて未来も見れるのならば真の全知だろうが、と思ったところで、Olはそれが出来るものがいることを思い出した。

あなた様!あなた様、帰ってきておられるか!?

噂をすれば、というわけでもないだろうが、扉が激しく叩かれる。

何事だ、テナ

扉を叩いていたのは天狐を操る巫女。未来を見、予知をなす女。Olが若返らせた老婆、テナであった。

先見があった。今すぐ逃げるんじゃ、あなた様!

テナはOlに縋り付くようにしてそう訴える。彼女がOlをあなた様などと呼ぶのは、二人きりの睦言の時のみ。せいぜいが、孫娘であるユツの前でだけだ。それをイェルダーヴがいる前で呼んでしまうというのは、よほど動転しているのだろう。

何事だ?今度は何を見た

といっても、彼女の予知は割と外れる。それを見た結果行動を起こせば未来は簡単に変化し、どのように変化するかまでは正確に見通すことが出来ないという欠点があるからだ。それを知っているOlは、落ち着き払って尋ねた。

死じゃ!あなた様が、死んでしまう!

何故これほどまでに怯えているのか。訝しむOlに、テナはほとんど叫ぶように言った。

どうあっても逃れられぬ、避けられぬ!業火に焼かれ、魂までも消えてしまう!ただ一つ、この地を捨て、逃げぬ限りは!

それほどまでの相手か。言ってみろ、俺は何に殺される?

予知で見た未来は変えられる。それは、他ならぬテナが誰よりも知っているはずだ。にもかかわらず断言するテナに、流石にOlも居住まいを正して問いかける。

あの、娘じゃ

テナは震える声で、言った。

ホスセリ。奴が、あなた様を殺す

第15話不滅の勇者を斃しましょう-2

ホスセリが、だと?

確かに、彼女はOlを裏切りはした。しかしそれは彼女の呪いを解くためのやむない判断であって、Ol自身に叛意を持っていたわけではない。むしろその逆だ。

Olに愛されたいがため、その醜い山犬の姿を消そうと考えたはずだ。ローガンからも、ホスセリがマリーを陰から守っていたらしき情報を聞いている。ウセルマートが死んだ今、彼女がOlを害する理由は一つもない。

だがしかし、イェルダーヴによればホスセリは今こちらに向かっているとも言う。それは奇妙な符合であった。

俺はいつ、どこで、どのように死ぬ?

不可解な点はまだ幾つかある。それは、そもそもホスセリがどうやってOlを殺すのか、という話だ。彼女は強い。強いが、それは飽くまで人としての強さだ。あの巨大な狼の姿にしたって、ミオの操る魔獣より強いかどうか。ユニスやスピナ、ホデリといった脅威をくぐり抜けてOlを殺せるとはとても思わなかった。

わからぬ、のじゃ

テナは力なく、ふるふると首を振る。

儂の予見は知っての通り、いくらでも変えられる。そして、変えた結果を知ることは出来ぬ

うむ、とOlは頷く。それは今まで散々見知ってきたことだ。

これは正確には、どう変わるかわからぬということなのじゃ。どう変わったか、なら、わかる

どういうことだ?その二つはどう違う?

例えば今、儂は半刻後に一つ数字を口にすると決めたとしよう。そしてそれを予見で見て、儂が言っていた数字を一つ増やして言う。初めに予見した時に儂が一といっておれば、半刻後に儂は二と言う

Olはハッとして目を見開く。テナが言わんとしていることがわかったのだ。

再び予見を使えば、二と言っている儂の姿が見えるじゃろう。その半刻後、儂は三という。予見を使って三と言っている儂を見れば、四じゃ。わかるな?

つまり、予見を使った時点で未来がずれ、その予見が役立たずになると言うことだな。変えた結果を知ることが出来ないとはそういうことか

Olの直截な言葉に、テナはぐっと呻いた。

や、役立たずとは限らんじゃろ。儂が何度予見を使おうと絶対に起こることはあるし、例えばあなた様の迷路を抜けるようなこととて出来る

今度はOlが呻く番だった。確かにそのような予知であるなら、迷宮の道を歩む全ての未来を見通すことが出来る。ダンジョンを通り抜ける可能性が僅かでもあれば、それを潜り抜けられるということだ。

わかったぞ。つまり、こういうことだな?

テナが何をいいたいのか理解し、Olは言った。

予見を行う度に、違う時、違う場所、違う方法で、俺は殺される

そういう、ことじゃ

項垂れ、テナは力なく頷いた。

じゃが唯一の例外がある。あなた様がこの地を離れ、元いた大陸に戻れば、その身が滅ぶことはない。こればかりは何があろうと絶対じゃ

なるほど、とOlは頷く。

じゃから手遅れにならぬうちに、早く

まあ、そう焦るな。死ぬと言っても今日明日というわけではないのだろう?

Olの問いに、テナはゆるゆると首を横に振った。

わからぬ。あなた様の言う通り、儂の予見はした時点で無効になる。その次の予見では、明日死ぬかも知れぬ。それを確認して大丈夫でも、その次の予見で今日死ぬかも知れぬ。どれほど見ようと、儂は結局何が起こるのか正確に知ることは出来ぬのじゃ

背を丸め床を見つめるテナ。Olはしばし黙考した後、唐突に扉を開け放って叫んだ。

なーに、パパ?

壁の一部がパカリと開き、そこからソフィアが顔を覗かせる。彼女は今日もピラミッドでアトラクションの商売をしているはずだったが、ダンジョンの中ならどこでも彼女の領域だ。遠く離れたここヤマトの地でもそれは変わりなかった。

ホスセリを覚えているな?ダンジョンの中にいないかどうか確認してくれ

うん、わかった!

Olを討つなら、どうしたってダンジョンの中に入る必要がある。であるならば、ソフィアなら絶対に見つけられるはずだ。

いた

目を閉じ集中していたソフィアが、パチリと目を開く。それと同時に壁面に丸く別の光景が映った。鬱蒼と生い茂った木々の立ち並ぶそこは、森のダンジョンの中だろう。

ホスセリか?

そこを歩いているのは、Olの知るホスセリとはずいぶん印象の違う姿であった。

オレンジだった髪は銀に染まり、身を包んでいた赤装束は見慣れぬ異国の武具にとって変わり、扱っていた短刀や投げナイフのかわりに長剣を振るっている。

忍びの者を自称し、その身軽さと身体の柔らかさを生かして隠れ潜み奇襲を好んでいた彼女が、真っ向から剣を振るって小鬼たちを殺していた。

無論小鬼如き、奇襲などかけずとも彼女の腕なら殺すのは簡単だろうが、それにしても様子がおかしい。そもそも、なぜ小鬼を殺しているのかわからない。

確かに妙だな。ソフィア、サクヤとホデリに繋いでくれ

はあい

ソフィアが腕を振り上げると、彼女が顔を出した窓の左右にスパンと二つ扉が開く。そしてOlの眼の前に現れたのは、床に座り背筋をピンと伸ばしてコメと呼ばれる穀物を頬張っているホデリと、着替えている途中だったのか脚に通した下着以外は一糸まとわぬ姿のサクヤで。

中身くらいはしっかり確認してから開けろ。

響き渡る火山の女神の悲鳴に耳を塞ぎながら、Olはそう思うのだった。

間違いなく、あれは我が愚妹、ホスセリです

サクヤが落ち着き着替えるのを待っている間、ホデリはソフィアの浮かべた光景を見つめてそう断言した。

装束には見覚えがありませぬがあの銀の髪。あれはそもそも、地の色です

ふむそう言えば、巨大な狼に変身した時も毛並みは銀だったな

ピラミッドで見た姿を思い出して言えば、ホデリは深く頷いた。

あれが毛を染めていたのは、赤装束と同じく火山の色に溶け込むため。そして、呪いの象徴たるあの銀色を厭うたが故でしょう

魔物を殺しているのは何故か分かるか?

ホスセリは小鬼だけでなく、出会う生き物全てを斬り殺しながら進んでいる。

わかりませぬ。ですが、あれは恐らく正気ではござりませぬな。そういう意味ではあれはホスセリではないのでしょう

弱すぎます

ホデリは短く、切って捨てる。

どこも至らぬ愚妹なれど、流石にあれほど愚鈍ではありませぬ。積んだ修練をどこぞに置き忘れてきたのでもなければ、あれの中身は別物なのでございましょう

悪しざまにいいつつも、そこには確かに妹に対する信頼があるように思えた。

あの衣装。見たことがございますわ

いつの間に着替えを済ませたのか。サクヤはその豪奢な着物の気配をまるで感じさせぬ軽やかさで、Olの背後から映像を覗き込みそういった。

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