我こそは全知にして全能なる、まったき一つ

四つの声は混じり合い、男とも女ともつかない声になって、宣言した。

あなたが、神と呼ぶものである

第16話愚かしい決断を選び取りましょう-3

馬鹿、な神だと!?

激しい混乱の渦に巻き込まれながらも、Olは己の不調の理由を悟る。

これは、魔力欠乏症だ。

人間は魔力を使いすぎると身体が動かなくなり、昏倒する。

全身に感じる激しい虚脱感は、まさにその症状だった。

お前が神だとかつて魔道王と戦い破れた、天に住まう神だというのか!?

そう理解してくれて構わない

ソフィアから溢れ出る凄まじい理力が、Olの体内の魔力を打ち消している。

この大陸にすまう神々サクヤやタツキ、ミシャといった者たちが使う力は、魔力と理力が混じり合った、霊力と呼ばれるものだ。

ならば本当に、目の前にいるのは神そのものなのか。

ソフィアを、どこにやった。お前はどこからきたのだ

あなたはわかっているはずだ

Olの問いに光は答える。

私がまったき一つになった今、一側面でしかないあなたがソフィアと呼ぶ存在は

やめろ。Olはそう叫ぼうとしたが、その叫びに意味はなく、声をだすことすら叶わず。

消えた

Olの身体が、地に崩れ落ちた。

馬鹿な。そんなはずがない、と思う一方で、その言葉が真実であると確信している自分がいた。

私は、全ての魔を滅ぼす

光はそう宣言し、手をOlにかざす。

魔王Ol。私を復活させた礼に、あなたはせめて苦しまぬよう、滅ぼそう

その手の中に、純白の炎が生まれた。

それはウセルマートが放ったような、全てを滅ぼす暴力を秘めた破壊の塊ではない。

全てが溶け浄化されていくような、心地よい熱を持った炎だ。

させないよっ!

Olがその火に己が身を委ねかけたその時、ユニスの声が響いた。

純白の衣服と鎧に身を包んだ彼女は、サクヤにザナ、タツキを抱えるようにして空間を転移し、Olを庇うように立ちはだかる。

タツキが腕を振るうと温泉の湯が渦巻いて光を飲み込む。

凍りなさいっ!

それを即座に、ザナが凍てつかせた。

早く行きなさい、長くは

保たない。その言葉を待つことすらなく、巨大な氷の塊は一瞬で溶解する。

邪魔は、許さない

怒りも苛立ちも含まない、ただ事実を宣言する声。それと共に、無数の火炎球が光の周囲に生まれた。

お下がり下さい

サクヤが扇を振るい、光とほぼ同数の炎を作り出す。それは光の作り出した火炎球を飲み込んで、尽く相殺した。

ほう

微かに愉快そうに、光が声をあげる。

無礼であるぞ

サクヤは扇を開き、声を轟かせた。薄紅色の長い髪がざわざわとはためき、赤い瞳が燃えるように輝く。

妾は山戸(ヤマト)国が主、不尽の山の木花咲耶!無断で妾の邸宅に踏み入りしその咎、なんと心得るか!

赤く輝くマグマが壁を突き破って迸り、光に向かって降り注ぐ。それは湯と入り混じって猛烈な蒸気を発しながら、赤黒い岩となって光を包み込んだ。

旦那様

サクヤはOlを振り返り、穏やかな表情で跪くと、倒れ込んで動くことが出来ない彼にたおやかに微笑む。

旦那様にお会いして、ほんの僅かな一時なれどサクヤは、仕合わせでございました

待、て!

渾身の力を込め、鉛のように重い腕を持ち上げ掴もうとするその手をするりとかわし、サクヤはOlに口づける。

さあ、塞の神。頼みましたよ

ああ。任せておけ

音もなく壁に空いた穴からミシャが姿を現して、Olたちの身体を引く。

マグマが冷え固まった岩が、戸を開けるようにして押し開かれ。そこには先程に倍するほどの光が浮かび

サクヤ────────!!

花のように儚い笑みを浮かべながら、サクヤは光に包まれた。

ここ、は

Olが次に目を覚ますと、そこは暗い石造りの迷宮の中だった。

コボルトたちが一つ一つ積んでいった煉瓦壁と、ソフィアがその権能で一瞬にして作り上げた石壁では造りが全く違う。Olはすぐに、そこが自分のダンジョンであると気がついた。

大丈夫?

純白の、英霊としての姿で、ユニスが心配そうにOlの顔を覗き込む。

恐らく意識を失っていたのはほんの一瞬だったのだろう。

その後ろにザナとタツキ、ミシャの姿もあった。

気絶したのは、空っぽになった身体に急激に魔力が入り込んだ反動だったのだろう。

自身のダンジョンに戻ったOlの身体には、ダンジョンコアを通じて流れ込む魔力で満ち満ちている。

状況を教えろ。逃げ出せたものは、何人だ

ソフィアのダンジョンにいたわたしの身体と、ローガンは消滅。理力を浴びて消えただけだから、召喚しなおせばいいだけ。あとはスピナが気絶したけど、少し休めばじきに目を覚ますと思うわ。後はだいたい、皆無事でこっちのダンジョンに避難してる。逃げられなかったのはサクヤとソフィア、ね

Olの問いに、リルが如才なくそう答えた。

サクヤは、火山の神だ。海を司るタツキや空間を司るミシャと違って、他の場所に動くことが出来ない。どうしても、逃げることは出来なかった。

すまぬ、我が主よ。我としたことが、不覚であった

ミシャが暗い顔で、Olに頭を下げる。

姿形も、霊気も、何もかもが違った。だからといって汝らがソフィアと呼ぶあの娘に、今の今まで気づかなかった

正体

そう言われて、Olはようやく気づいた。

あの娘は

大地に隠れた太陽の神。そうなのだろう?

Olが問うと、ミシャは驚きに目を見開いた。

知っておったのか?

気づいてしかるべきだったのだ。大地の下に隠そうと、太陽が無くなるわけではないと、Ol自身も言ったではないか。

だが気づかなかった。なぜか。

Olにとって、ソフィアはもはや大事な娘でしかなかったからだ。

その正体が何なのか。

一体なぜ森の中に赤子の姿でいたのか。

なぜ神でありながら成長するのか。

ソフィアの姿が十歳くらいの時までは、そんな事を疑問に感じていたように思う。

しかし彼女の成長を喜び、どうすれば幸せにしてやれるのか苦悩し、女としてOlを見始めた彼女に戸惑ううちに、そんな事はどうでも良くなっていた。

血の繋がりなどなくとも、ソフィアはとっくに、Olの娘であったのだ。

だがしかし、まさかあのようなことになるとは

ホスセリに宿った、昇る太陽の神、純白のククル。

イェルダーヴが奉じていた、中天に座す太陽の神、金色のイガルク。

そしてウセルマートが操る、沈む太陽の神、赤きアトム。

太陽を幾つかに分けるのであれば、それで全てのように思える。しかし違ったのだ。

見えなくなっても、太陽はなくなるわけではない。

地に隠れし太陽の神、オオヒメ。数千年の昔に消えたものと思っていたのだがな

そうかそういうことか

ミシャの呟きに、Olは得心する。

その地に、Olは形を与えてしまった。ダンジョンという形を。

つまりそれは肉体だ。

そしてそこから見出された赤子に、マリーは名を与えた。ソフィアという名を。

つまりそれは魂だ。

肉と魂とを与えられて、ソフィアは成長していった。

それは成長であって成長ではない。

彼女は元の姿に徐々に戻っていっただけだったのだ。

そしてダンジョンという形を与えてしまったがゆえに、ソフィアはもう一つの力を手に入れた。他を取り込み、己の力とする能力。ダンジョンは全てを内包し、あらゆるものがダンジョンとなりうる。だからこその力だ。

そうして全ての太陽神の力を一つに集めた結果が、あの光。

神。天に座し、かつて魔道王と戦い滅ぼされた全知全能の存在だ。

Olは、神と呼ばれる存在が多数存在するソフィアの大陸を、奇妙だと思っていた。

神という言葉がただ唯一を指すのではなく、海や山といった自然物から、性愛のような概念、月や太陽にまで宿る大陸のことを、奇妙だと。

だが、違ったのだ。

例外は、Olたちが生まれ育ったこの大陸の方だった。

おそらくかつては、この地にも幾千、幾万もの神々が住んでいたのではないか。

しかしそれは全てが滅ぼされ、あるいは吸収され、唯一にして無二となった。

その中でもっとも強く大きい、太陽そのものの神はそれが太陽の化身であることすら認識されず、ただ天の神、光の化身であると呼ばれた。

そういうことなのではないか。

どうするの?Ol

リルが、心配そうに問いかける。

結局の所、テナの予知は今回ばかりは外れなかった。

ホスセリに宿ったククルを下してなおその運命からは逃れられず、Olは炎に包まれて死ぬか、ダンジョンに逃げ帰るしかなかった。

そしてダンジョンに逃げ帰れば災いを避けられると言っていた以上、この地にいれば安全なのだろう。太陽の神の力も、太陽そのものというわけではない。他の大陸にまでは、その力は及ばない。

光の神に挑んだとして、勝てるわけがない。

かつて魔道王がその全力を持って相対し、共に滅んだ相手だ。

Olは十数年前、その力のほんの一端を持ったメリザンドとすら、全力を振るって辛うじて勝利を収めたに過ぎない。

勝利の目はゼロと言っていい。だから挑むなどと言うのは、愚かしいことだ。

取り戻しに行くぞ。俺の娘を

その愚かしい選択を、Olははっきりと宣言した。

第17話反撃の準備を整えましょう-1

魔王Olの治めるダンジョンは、三つの宮を兼ねていると言われている。

一つ目は、侵入者を拒み惑わす罠と怪物たちの迷宮。

二つ目は、魔の眷属とその王が住まう絢爛たる王宮。

そして三つ目は、魔王の美しき妻たちが控える後宮だ。

旺盛な精力を持つ魔王はその後宮に何人、何十人と美姫を侍らせ、一度に相手をすることも少なくない。であるからその日、魔王の妻、妾、愛人たちが一所に集まり顔を突き合わせているのもそう珍しい光景ではなかった。

──その主たる、魔王Olの姿がないことを除けば。

主殿が倒れられたというのはまことか?一体何があった!?

中でも殊更に血相を変えて問いただすのは、黒アールヴたちの長、エレンであった。彼女率いる黒アールヴの弓兵隊は、通常の王宮で言えば親衛隊に当たる魔王の直属部隊である。

その手の届かぬところで主人が倒れたと聞いてはましてや、砂の国サハラや風の国フウロといった敵国を無事に下し、あとは凱旋するのみという段になってそのようなことになったとあっては、心穏やかにいることはできなかった。

安心して。倒れたと言ってもただの魔力失調よ。二、三日安静にしていれば良くなるって

魔力失調ですって?

病床に伏せるOlに代わり説明するのは、魔王の右腕にして使い魔、サキュバスのリルである。しかしその説明に、熟練の魔術師であるウィキアが目を光らせた。

冗談でしょ?未熟な魔術師見習いならともかく、あの魔力操作の化け物が、魔力失調になんてなるわけないじゃない

魔力失調って何だ?

鋭く視線を向ける彼女の横でこそりと尋ねたのは、同じく熟練の腕を持つ剣士、ナジャ。剣の腕は確かな彼女であるが、魔術に関してはからきしであった。

魔力を大量に失ったり、逆に急激に回復したりするとなる不調のことです。ウィキアさんの言う通り、自分の魔力量を把握できてない未熟な魔術師が分不相応な魔術を使おうとしたり、効き目の有りすぎる魔力ポーションをうっかり飲んじゃったりするとなるんですが

これに答えたのは白アールヴの僧侶、Shalだ。

Ol様がそんなミスをするわけはありませんし、あの方ほどの魔力容量で軽いめまいとか吐き気程度ならともかく、倒れるほどの量を回復できるポーションがこの世にあるとも思えませんね

その言葉を引き継ぐようにして、同じく白アールヴの長、セレスが眉根を寄せる。

あるじゃん

しかしそれに、クドゥクの盗賊、Faroが異を唱えた。

このダンジョンだよ。Olはダンジョンの中でなら無限の魔力を揮える。逆に言えば、魔力を失った状態でこのダンジョンに戻れば、限界まで回復するってことでしょ

普段のOlであればそれでも己に流入する魔力を制御できるであろうが、限界まで魔力と体力を失い、疲労困憊していた状態であればそういったこともありうるかも知れない。Faroの言葉に、一同は納得する。

あのうでも、なんでそれほど魔力を失う事になったんでしょうか?

そんな中おずおずと手を挙げ、自信なさげに意見を述べたのは牧場主のミオであった。

それは異大陸でも随分と女性をお増やしになられたようですから、大層お励みになったということではないでしょうか]

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