Olは、決定的な言葉を口にした。
予想もしていなかった言葉に、ユウェロイは目を大きく見開く。
貴様、な何という侮辱を!
だが一瞬後には言われた言葉を理解して、烈火の如く怒り始めた。
侮辱だと? 侮辱しているのはお前だろう。俺はお前の部下でもなければ手下でもない。それどころか命を助けてやったのだ。なぜお前の側にだけ選ぶ権利があるなどと思う
ぐ
しかし返ってきたOlの言葉に、二の句が継げず押し黙る。
だ、だが私の協力がなくば、お前とて死ぬのだぞ!
実はもう一つだけ方法がある。しかしその方法は可能な限り取りたくない
その言葉を聞いた瞬間ユウェロイは跳ね起き、Olを壁に押し付けて槍を突きつけた。他に方法があるとなれば話は全く変わる。覚悟を決めて身体を差し出そうとまでしたのに、今更他の方法を隠していたなどとなれば、もはやOlの言う事など何一つ信用できない。
言え。その手段を取るかどうか判断するのは貴様ではない!
お前を殺すことだ
だが、提示されたのはよりありえない選択肢であった。
魔力というのは肉体とりわけ、身体の中の臓腑に宿るものだ。故に、最も臓器に近い生殖器を繋ぐことで魔力の道を作るわけだがそこにあるものを俺の身体の内に入れるなら、もっと単純で手っ取り早い方法があろう
つまり、ユウェロイを殺してその内臓を喰らえばいい。
貴様に私が殺せるか!
別に俺が殺す必要はない。待っていれば自然と息が詰まって死ぬだろう
Olから距離を取り、全身を甲冑で覆うユウェロイ。しかしOlは壁にもたれかかったまま、悠々と腕を組んでそう告げる。
その時は貴様も死ぬだろうが!
魔術師を舐めるな。魔力が尽きたと言っても、完全に使い果たしたわけではない。息を保つ術を使う程度の余裕はある
なにせ母なる壁を動かす魔術は非常にコストがかかる。明らかに何らかの魔術が付与された壁を、そこにかかった魔術ごと操作するためだ。例えるならなみなみと水のはいったコップを動かすのに等しい。しかし下手にこぼしてしまえばダンジョン全体が崩壊しかねないから、そうする他ない。
それに比べれば、体内に新鮮な空気を作り出す術など消費はほぼゼロに等しかった。
それを私にも使え!
そうして二人仲良く死んで何になるというのだ。そもそもこの術は他人には使えん
自分自身の肺腑の中に新鮮な空気を作り出すからこそ、消費が少ないのだ。流石に他人の体内に干渉するのはOlとて難しいし、かと言ってこの小部屋の空気全てを作り変えるなら流石に壁を動かす方が安くつく。
貴様に食われるくらいなら、先に貴様を殺す!
落ち着け。その方法は取りたくないと言っただろうが。そうするつもりなら、お前に教えるわけがないだろう。ただ黙って死ぬのを待てばいい。お前が言えというから言ったまでだ
両手に槍を作り出し戦闘態勢に入りかけるユウェロイを、Olは落ち着いた仕草で宥める。
固定空気にしたってそうだ。放っておけばじきにお前は意識を喪失し、そのまま二度と目覚めることなく息絶える。それをわざわざ説明してやったのは、お前を死なせたくはないからだ
死なせたくない?
ユウェロイはOlの言い回しに引っかかりを覚え、問い返した。
殺す気はないとか、死なせるつもりはないとかなら、わかる。王座を奪還しフローロを魔王に据えるというOlの目的のためには、ユウェロイの壁族としての立場は今後絶対に必要になるからだ。
だが死なせたくないという言い方は、そういう利害関係とは別のニュアンスを孕んでいた。
ああ。俺は、お前のことを殺すには惜しい奴だと思っている
無論、壁族という立場は抜きにした話だ、とOlは付け加える。
お前は類まれなる武勇を誇る真の戦士であり、同時に民を思いやることが出来る良き壁族だ。みすみす殺してしまうには惜しい
そのような見え透いた世辞でこの私が喜ぶなどと思うなよ
絞り出すような声で、ユウェロイは憎まれ口を叩く。だがその口ぶりには、隠しきれない喜色があった。
ユウェロイについての愚痴は、彼女の部下であるフォリオから散々聞いていた。他者に正当な評価をくださないものは、たいてい自身も他者から正当な評価を受けることはないものだ。
この状況で世辞を口にしてどうなる。単純にお前への評価を口にしたまでだ
確かにそれはそうだ、とユウェロイは思う。抱かれることを拒んでいた時であればまだわかるが、今ユウェロイはそれを承諾した後なのだ。
ならば、さっさと私を抱けばいいだろうが
死なせたくないなどと言うくせに、一体何を躊躇っているのか。
それとこれとは話が別だ
こうしている間にもユウェロイの呼吸は徐々に苦しくなり、視界が歪み、意識が朦朧とし始めている。だがOlは大仰に首を振り、言った。
お前には女としての魅力を全く感じないからな
そしてその言葉は、ユウェロイに多大な衝撃を与えたのだった。
第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-5
ユウェロイはOlに投げつけられた言葉の衝撃に、怒り狂うことさえできずにただただ言葉を失った。
ユウェロイ。お前、部下から侮られていると感じることはないか?
な、何故そんな事を聞く
続く唐突な質問に、ユウェロイは思わず問い返した。しかしそれは、肯定しているも同然の返答だ。
俺がお前を抱きたくないのと同じ理由だからだ。折角麗しい見目と高潔な誇りを持っているのに、それでは男も部下もよりつくまい
理由とは何だ。聞いてやる、言ってみろ
居丈高に問うユウェロイにOlは嘆息し、言った。
まさにその物言いのような態度だ。上から威圧的に言いつけるばかりでは人はついては来ぬ
私を侮辱しているのか!?
いや。勿体ないと思っている
肩をすくめあっさりと言うOlに、激昂しかけたユウェロイは毒気を抜かれる。
お前が類稀なる勇士であり、善良な領主であることは世辞でも何でもない。率直な感想だ
それは実際、Olの心からの感想だった。もっとも、単純な褒め言葉というわけでもないが。善良な領主が有能な領主であるとは限らないからだ。
なのにお前自身は全くそう思っておらんだろう。不幸なことだ
ユウェロイは思わず息を呑んだ。それは、誰にも明かしたことがないいや、今の今までユウェロイ自身でさえ、明確には認識していない事実だったからだ。
お前は強く善良だ。そんな者が誠意を持って頼み事をすれば、まともなものなら誰も断らぬ。にも関わらず、わざわざ高圧的に命じて反発を招く
ずいと一歩踏み込むOlに、ユウェロイは後退る。長身なユウェロイよりも若干背が低いはずの男が、やけに大きく感じられた。
お前が、お前自身を信じられておらんからだ
肩書に頼り、一方的に命令する。あるいは威圧し、武力で言うことを聞かせる。
それはここに至るまで、ユウェロイがOlに対しても行ってきたことだ。
しかしそれは相手が言うことを聞くのが当然だと思っているからではなく、むしろその真逆。肩書を持たない自分自身に相手が従うと思っていないからこその行動だった。
女としての魅力を感じないと言われ、お前はなんと思った?
Olの指先がユウェロイの胸元を指し示す。
怒りはあっただろう。だがそれ以上に納得してしまったのではないか?
それはまるで心臓を鷲掴みにされたかのような感覚だった。
ユウェロイの身体から、力が抜ける。そして壁に背を預けたまま、ずるずると床に座り込んだ。Olの言う通りだ。ユウェロイは、それを心の何処かで真っ当な評価であると思ってしまっていた。
全く、愚かなことだ
正しくその通りだ、とユウェロイは思う。虚勢は全て見破られ、生命は相手の手に握られている。どのような事を要求されても、もはや断ることはできない。
お前は強く、正しく、そして美しい。真っ当に頼まれれば俺とてどんな願いも拒めぬだろうに
だが、続いたのはユウェロイが思ったのは真逆の言葉だった。
こ、断っただろうが!
真っ当にと言っただろう。それに、お前が言ったのは好きにしていいだ。頼み事をしたわけではない
それはそうかとユウェロイは納得するが、それはつまり改めて頼めという要請でもある。そう簡単に口にできたら苦労はしない、とユウェロイは内心毒づいた。
自信を持て、ユウェロイ。お前は十分美しい。それに、別に媚びへつらえと言っているわけではないのだ。ただ単純に対等な立場から、頼めばいい
それを見透かしたように、Olはそう口にする。流石にそこまでお膳立てされてなお意地を張る程の余裕は、精神的にも肉体的にも残されていなかった。呼吸も既に随分と苦しい。
わかった私を抱いて、くれ
心得た
全身を包んでいた甲冑を消し、消え入るような声色で呟くように言うユウェロイの手を、Olは恭しく取って引き寄せる。
そして、腰を抱いて頬に手を添えながら、その唇に口づけた。
それはこちらの台詞だ
途端、Olはユウェロイに殴り飛ばされてたたらを踏んだ。
まぐわいに接吻など必要ないだろう!
それはそうだが息苦しさは抜けたか?
そう言われて初めて、ユウェロイは呼吸が多少楽になっていることに気がついた。
息を保つ術は自分にしかかけられぬと言っただろう。口移しに俺の肺腑で生まれた新鮮な空気を送っただけだ。不要だったか?
不要なはずがない。目に見えない毒素が溜まっていき、いつ死ぬとも限らない環境に身を置きたいはずがなかった。
どうやらお前には荒療治が必要なようだな
ヒリヒリと痛む頬を擦りながら、Olはユウェロイを軽く睨む。
今から、俺はお前が頼んだことしかしない。良いか。命ずるのではなく、対等の立場で頼んだことだけだ
な何だと!?
別にそのまま死にたいのであれば、好きにしていいが
素気なく言い放ち腕を組むOlに、彼が本気であることをユウェロイは悟る。
ぐっわかった。私を、抱いてくれ
とは言え先程も言った言葉だ。二度目ともなればそこまでの抵抗もなく、ユウェロイはそれを口にする。
構わんが、具体的にどうして欲しいのだ?
だがそんな事を言い出すOlに、危うくもう一度拳を振るうところだった。
具体的にだと!? どういうことだ!?
そうだな。まずは前戯をした方がよかろう。そのままでは痛みを伴う
それはつまり、前戯をしてくれと頼まなければならない、ということだった。そんな屈辱的なことができるか、とユウェロイは内心吐き捨てる。
いらん。さっさと終わらせろ終わらせて、くれ
ふむ、そうか?
命令ではなく頼むと心の中でつぶやきながらユウェロイがいうと、そんな葛藤などどこ吹く風でOlは頷く。
そして、既に硬く膨れ上がったものを取り出してみせた。
なな、何だそれは!?
どうした。男の性器を見るのは初めてか?
それはそうだがいや、違う、そういう問題じゃない!
それは、ユウェロイの知識にあるものよりも明らかに巨大だった。
そんなものが入るわけないだろう!
だから、前戯を行わなければ痛いと言っているだろう
そういう問題じゃない、とユウェロイは首を振る。股間からもう一本腕が生えているのではないかと思うほどの太さと長さ。あんな物を入れれば身体が裂けてしまうとしか思えなかった。
ならば、頼めばいいだろう
完全に腰の引けたユウェロイに対し、Olは何でもないことのように言う。
頼む? 何をだ?
痛くしないようにとだ。言っただろう。お前が望むのであればそれを叶えてやると
そんなこと不可能だろう、とユウェロイは思う。だが、どのみちあれを入れなければ死ぬしかないのだ。槍で腹を裂かれるようなものと我慢するしかない。武人として、その程度の怪我には耐えたことがある。
事が終われば我が槍でそれ以上の苦痛を与えてやる、と誓いつつ、ユウェロイは頷く。
わかったなるべく、痛くしないでくれ
心得た。では、ここに横になれ
Olは羽織っていたローブを脱ぐと、それを床の上に広げた。ローブには物理的な衝撃を防ぐ魔術がかかっているため、下に敷けばちょうどよいクッションにもなるのだ。
ローブの上に身を横たえたユウェロイの服を脱がし、彼女の肌に触れる。途端にユウェロイは身体を震わせたが、これは純粋な嫌悪感によるものだろう。
声を我慢する必要はないぞ。どうせ外には伝わらん
だがあえてOlはそう伝えた。
ふん、無用な心配だ。汚らわしい男に触れられて快楽を感じるわけがない
言葉とは裏腹に、声を出すまいと言う意識を発生させるためだ。